第三十五話
またまた、出来上がりホヤホヤ投稿です。つ、次こそは、頑張ります。
海の日の当日、何故か浩也はバイトに精を出していた。今日はクラス会なので、本来であれば、シフトを調整して休みにしてた筈なのだが、急遽、海の家のバイトのオーナーと顔合わせをする事になり、なら折角だから、働いていけと言われ、渋々バイトに出る事になる。当然、言い出しっぺは、由貴姉だ。
なお顔合わせは、浩也含め、全部で4人。陽子は親御さんの了解を経ての参加。なんでもお姉さんの後押しもあって、話がすんなりまとまったらしい。それにめぐみ。めぐみは今のバイトもあるので、有里奈と同様、土日要員。雄二経由で確認してもらったところ、海の家の土日は、半端無く忙しいらしく、女子が2人も増えるのは、大歓迎とのことだった。そして事前にOKをもらっていた有里奈含め、今店の4人席に座ってもらっている。
「榎本先輩は浩也君と陽子ちゃんの先輩なんですか?」
「あー、私のことは有里奈でいいよ。陽子ちゃんもそう呼んでるし。それと陽子ちゃんとは中学の時の先輩、後輩だけど、ヒロとは幼馴染なの」
初対面であるめぐみと有里奈は、自己紹介をした後、簡単にお互いのことを説明する。ちなみにめぐみには予め幼馴染だと言うことを説明するのを浩也は了承している。陽子も知っているので、バイト先で隠すのも面倒だからだ。
「へー、ヒロっていい方、なんだか可愛いですね。仲良さそう」
「ふぇ、そ、そうかなぁ。昔からそう呼んでたから、あまり意識したことないけど」
そして相変わらず距離の詰め方が上手いめぐみは、サラッとそう言って距離を縮める。有里奈は有里奈で、思わず頬を赤らめ動揺すると、陽子がそれに助け舟を出す。
「めぐー。突然、そうやって人を動揺させるような事、言わないの。有里奈先輩、すいません、この子、距離の詰め方が独特で」
「えへへ、有里奈先輩、ごめんなさい。あっ、私の事もめぐでもめぐみでもどっちでもいいので、そう呼んでください」
そう言って、テレたような笑顔を見せる。陽子がフォローを入れるまでが、予定だったのだろう、有里奈もそれを見て微笑みながら、言葉を返す。
「ううん、大丈夫。よろしくね、めぐちゃん」
「はいっ」
そんな様子を陽子も微笑ましく見ながら、2人に話しかける。
「でも2人が接客したら、この海の家、男性客で大変なことになっちゃうんじゃないかしら」
「何、他人事みたいに言ってるの?陽子ちゃんだって、そのメンバーの1人になるのよ」
「へっ?私?私なんて、別に影響ないでしょ?」
陽子はそう言って不思議そうな顔をめぐみに向ける。するとめぐみはやれやれといった表情をして、陽子を窘める。
「陽子ちゃん、いつもいってるでしょ。陽子ちゃんは可愛いのっ。別に自信過剰になる必要はないけど、もっと自覚した方がいいよ」
すると有里奈もそれに追い打ちをかける。
「うん、確かに陽子ちゃん、自覚なさすぎかも。今日だって、いつもの眼鏡じゃなくコンタクトだけど、それもすごく似合ってる。眼鏡姿も素敵だけどね」
すると陽子は、可愛い云々は脇に置き、素直に褒められた事を喜ぶ。
「有里奈先輩ありがとうございます。先輩みたいな美人に褒められると素直に嬉しいです。コンタクトって、あまりしないから、ちょっと不安だったんです」
「そうだ、どうして今日、コンタクトなの?」
ふと疑問に思っためぐみから、質問の声が上がる。普段、学校でも眼鏡だし、遊びに行く時も滅多にコンタクトにしない。陽子は少し困ったようなテレたような表情になって言う。
「お姉ちゃんに『バイトの面談なら、良く見せないと』って言われて、半ば強制的に。そのあと浩也君に会うならなおさらって」
「ヒロ?」
そこで浩也の名前が出たことに、有里奈が思わず反応する。
「ああ、お姉ちゃん、なんだか私が浩也君の事好きだって勘違いしているみたいで、違うって言ってるのに」
頬を赤らめながらテレたように言う陽子を見て、有里奈は少しだけモヤッとする。そんな気も知らないめぐみは、そのまま陽子を茶化す。
「そっかー。今日の陽子ちゃんは、浩也君の為にお洒落してきたんだね。ふふふっ、かっわいーっ」
「も、もう、そんなんじゃないって、いってるでしょ。大体、浩也君の側には有里奈さんみたいな美人がいるんだから、私なんて相手にされるわけないでしょ」
「ふぇ、わっ私?そんな私なんかより、陽子ちゃんの方がずっと可愛いよっ」
突然話を振られて動揺する有里奈は、そんな事を言う。それに対して、陽子は勿論、めぐみまでもがジト目を送る。
「有里奈先輩、これまで何人の男子を振ってきたんですか。私の知る限り、二桁は軽く超えてるんですけど」
「そうですね、陽子ちゃんもそうですけど、無自覚はそれだけで罪ですよ。陽子ちゃんも可愛いですけど、有里奈先輩は、別次元ですから。下手なアイドルよりよっぽど可愛いです」
「ははは、別次元って」
有里奈は2人に責め立てられて、思わず乾いた声を漏らす。別に有里奈は無自覚ではない。これまで散々、告白されたのだ。それで自分の容姿が評価されているとは思っている。ただそこにあまり重きを置いていない。有里奈が自分らしさを大切にしていれば、浩也はきっと褒めてくれるからだ。むしろだからこそ、自分らしさを持っている陽子は、可愛いし眩しく見える。自分とは違った魅力のある女子なのだから。
「おーい、雄二さんの叔父さん、海の家のオーナーがきたぞ」
そして3人のかしましい会話を遮るように、浩也が声をかける。有里奈はこの時、誰よりも無自覚で罪作りな幼馴染に、思わずジト目を送るのだった。
そんな有里奈のジト目に気が付きもせず、浩也は、自己紹介とメンバーの紹介をする。
「初めまして。自分がここでバイトしている高城浩也です。雄二さんの奥さんが従姉で、今回、海の家では、平日含め働かせて頂きます。それで彼女が自分と一緒に平日含め働かせてもらう、北見陽子、それとそっちの2人が土日のみの榎本有里奈と椎名めぐみです」
「「「よろしくお願いします!」」」
浩也の紹介の後、3人が声を揃えて挨拶をしたのを聞いて、オーナーは優しげに微笑む。ロマンスグレーの髪をオールバックにまとめ、アロハシャツに白のハーフパンツといういでたちで、いかにも浜茶屋のオーナーという風貌だった。
「おう、こりゃ別嬪さん揃いだね。これだと店が繁盛して仕方がなくなるよ。ああ、儂は今回海の家を出す浜茶屋シーサイドのオーナーの山中源治じゃ。基本、店はバイトに任すから、儂はあまり顔を出さんがの。変なトラブルさえ無ければ、特段問題はない。よろしく頼むよ」
「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします。それと他にもバイトの方はいるんでしょうか?」
浩也そう言って質問をする。店の規模がわからないので、念の為の確認だ。
「ああ、大学生の男子が3人おるよ。其奴らは平日込みで働いてもらう。地元の商店街の倅っこでの。もう何回か手伝ってもらっているから、あてにするといい」
「わかりました。他に女子はいないのですか?」
「其奴らに彼女の1人でも連れて来いっていったんだけどの、誰一人連れてきやしない。まったく不甲斐ない。じゃから、そういった意味でも今回は助かったよ」
そう言って源治は、ホッとした表情を見せる。どうやら平日最大5名の土日7名。調理もあるから、なかなか大変そうだった。その後、簡単なやり取りをした後、細かい事は浩也経由で伝達する事になり、源治は立ち去っていく。
源治を外まで見送って戻ってきた浩也がホッと吐息を漏らす。
「ふう、なんだかちょっと緊張したな」
「そうね、優しそうな人だけど、なんかちょっとオーラがあるというか」
浩也の思わず漏れ出た声に、陽子が反応する。すると有里奈もめぐみも同意するように頷く。
「でもちょっとなんか、由貴ちゃんの旦那さんにも似てるよね」
「ははっ、確かに。口数は少ないんだけど、なんかズッシリくる感じがな」
有里奈の言う感想に浩也は、雄二が歳をとったらあんなにふうになるのかと思い、なんとなくしっくりくる。まあアロハは確実に着ないだろうが。浩也がそんな事を考えていると、そこに由貴がやってくる。
「顔合わせ、終わったみたいね。浩也、あんたこの後、用があるんでしょ?」
「ああ、俺と陽子はクラス会。って、陽子は初めてか。俺の中学時代の同級生で北見陽子、有里奈の後輩でもある。こっちはその友達の椎名めぐみ。それでこっちは、俺の従姉で有里奈の幼馴染でもある、山中由貴」
「ふふふ、いつも浩也がお世話になってます。ああ、今度は有里奈もか。よろしくねっ」
「あっ、よろしくお願いします。こちらこそ浩也君にはお世話になってて」
「私も浩也君にはお世話になってますっ」
陽子とめぐみはさっきの緊張を引きずっているのか、やや硬い表情で挨拶をする。すると由貴はその緊張をほぐすように、ニッコリと話しかける。
「あらあら、そんな遠慮はいらないわよ。大体浩也が女子をお世話するわけないんだし、ねえ、有里奈?」
「クスクスッ、もう由貴ちゃん、一応建前ってあるでしょ。確かにヒロが女子を甲斐甲斐しく世話する姿は想像できないけど」
話を振られた有里奈もそう言って、クスクス笑い出す。そんな二人をしらけた目で見た後、陽子とめぐみを味方につけようとする。
「この2人はこんな感じだから、緊張するだけ無駄だぞ。大体、話を必要以上に膨らますからな」
「あら、膨らませるネタがあるって事でしょ?問題ないじゃない」
「くっ」
由貴の的確なツッコミに浩也が言葉を詰まらせると、有里奈が陽子とめぐみに解説をする。
「昔から浩也は由貴ちゃんに口で勝てた事ないの。負けるなら、逆らわなければ良いのに」
「うるせーっ、余計なお世話だっ」
浩也がそう言って、不満げな表情を見せると、陽子やめぐみも含めて、皆、大笑いするのだった。




