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第三十四話

明日の朝投稿にしようかと思いましたが、書き上がったので、上げちゃいます。一歩進んで、一歩下がる、進んでないじゃんって言う突っ込みを入れたくなるお話です。

浩也と理緒は、その後駅で他の面々と別れた後、予定通りケーキを食べに行こうと、駅ビルの上にあるカフェへと向かう。最初は浩也のバイト先に向かおうかとも思ったが、たまに違う店も味わってみたいと考え、理緒に聞いた評判の店へ向かう。


日曜日のしかも七夕ということもあり、建物も店も賑わいを見せている。七夕なので、時折、着物姿の女子もおり、賑やかさの中に華やかさも垣間見れる。そんな人垣の中、浩也達は、30分待ちの列の最後尾に並ぶと、ホッと息をつく。


「思った以上に混んでるな、やっぱ駅ビルだと立地が良いのかな?」


『カフェ ジラソーレ』は週末はそこそこの賑わいを見せるが、流石に30分待ちになる事は無い。場所的には駅から少し歩く為、そこまで混むことは無かった。


「この店だと今日は空いてる方よ。並ぶ日は一時間待ちなんて日もあるみたいだから」


「うぇっ、やはり立地には敵わないか、なんか悔しいなぁ」


「そうね、美味しさだと浩也のバイト先も負けてないから、やっぱ立地の差は大きいのかな。でもここも美味しいのよ。でもデザートオンリーだから、浩也のバイト先とは客層が違うんじゃない?」


そう言って、理緒は考えた表情を見せるが、浩也は理緒を見ておやっと思う。試合をこなした後だからだろうか、2人になってからの理緒は少しのんびりしている気がする。浩也は気遣わしげな顔になって、理緒を覗き込む。


「結構、疲れている?まあ試合も勝ったし、悪い気はして無さそうだけど」


「ああ、うん。疲れたけど、気分は凄く良いよ。浩也が側にいるからかな、気を張らなくていいから、のんびり出来る」


確かにのんびりした表情で浩也に微笑む。浩也はまあ大丈夫かと思いつつ、少し安堵する。正直、そうやって穏やかな表情を見せる理緒は、普段にない雰囲気で逆に浩也は落ち着かない。とは言え、疲れている相手を忙しなくさせるのも本意ではないので、当たり障りのない会話を選ぶ。


「そう言えば、今度のクラス会の前も試合か?」


「ううん、残念ながら試合は前の日。浩也、その日はバイトでしょ?」


「残念ながらな。とは言え、どっちにしろ応援はご遠慮したいけど」


すると理緒はそれに対して不満を表明する。


「えーっ、なんで?暇な日だったら良いじゃん」


「今日の会場で悟った。あの場に行けるのは彼氏だけだ。ただの友達がわざわざ行くのは怪しい」


「なら問題無いじゃん。もう既に怪しまれているし」


浩也はその発言に渋い表情を見せる。自らなんで傷口を広げる必要がある?浩也はそう思い、文句を言う。


「それで困らないのは、理緒だけだろ。俺に彼女が出来なかったら、どうすんだ?」


「へ?浩也、彼女欲しいの?」


理緒は浩也が彼女など微塵も欲しいと思っていないかのように、聞いてくる。確かに、理緒の考えている通りだが、それを素直に肯定するのも癪なので、軽く含みを持たす。


「可能性の問題だ。機会と相手があれば、考えなくもない。絶対に欲しいわけじゃないが、いてもいいとは思う・・・気がする」


「何よそれ。別に欲しい訳じゃないじゃない。大体、浩也がどうしても彼女が欲しいって言うなら、私がなってあげるわよ」


「ん?そんな投げやりに言われても、お願いしますとは言いづらいんだが」


するとそんなやり取りの最中に、店の店員が呼びにくる。


「次のお客様、お席へご案内いたします」


「あっ、はい」


浩也は店員に促され立ち上がると、理緒もその後ろからついていく。ただその時の理緒の心境は、酷く混乱していた。


『あれっ?私今なんて言った!?』


疲れて考えずに発言した言葉が、こともあろうか、付き合おうなどと言ってなかっただろうか。浩也の反応は冗談と捉えたようだが、疲れてボーっとしていたせいか、その表情も反応もなんだか曖昧だった。


「さーて、何を食べるかな?って理緒、ヘンな顔してどうした?」


席についてメニューを広げたところで、反対側に座る理緒を見ると、なにやらなんともいえない表情をしている。理緒は理緒で、やっぱり浩也かとがっくり肩を落とす。


「何でもありません。やっぱり浩也は浩也だねって思っただけ。このアホっ」


「いや、何で罵倒されたか、さっぱりわからんのだが。で、ここの店のお勧めは何だ?」


浩也は何やら機嫌を損ねるような事をしたらしいのだが、さっぱり身に覚えがないので、それはスルーする。拗らせても良いことが無いのは、過去に散々経験済みだ。理緒は理緒で、惜しいような、ほっとしたような曖昧な気持ちでいたが、今が勝負の時と言う訳でもないので、ここは素直に応じる。


「うーん、私はこのタルトにしようかなっ。ケーキ系は外れないと思うよ。前はそのモンブランを食べたけど、すっごい美味しかった」


「なら俺はそのモンブランにしよう」


そう言って、浩也は店員を呼ぶと、二人の注文をする。ちなみに飲み物は浩也はアイスコーヒーで理緒はアイスティーにする。店員がオーダーを取って離れた後、浩也は自分のウエストポーチから梱包された袋を取り出して、理緒に見せる。


「お、そうだ。今の内に渡しておくよ。誕生日おめでとうございます、お嬢様」


「えっ、プレゼント用意してくれたの?」


「勿論でございます。お嬢様、お気に召すかは判りませんが、お納め下さい」


浩也はやや芝居がかった口調で、それを理緒に渡す。理緒はこうして付き合ってくれるだけで、充分誕生日プレゼントだと思っていたので、予想外の出来事に嬉しくなる。


「開けていい?」


「どうぞ、どうぞ」


浩也がそう言うと、理緒は丁寧に袋を開けて、中のプレゼントを取り出す。そこに入っていたのは、赤いリストバンドだった。理緒はそれを見て破顔して、早速それを手につけてみる。


「浩也、ありがとうっ、ちょー嬉しい。これってユニホームに合わせてくれたんでしょ。ちゃんと考えて選んでくれたのが、凄い嬉しい」


「ああ、ユニホームが赤なのは知ってたからな。それなら、試合でも練習でも使ってもらえるだろ?」


「フフフッ、じゃあこれを浩也だと思って、ごしごし汗を拭くね」


「いや、それ嬉しくないから、喜んだら変態だから。まあ喜んでくれて良かったよ」


浩也は純粋に喜んでくれる理緒の顔を見て、少しほっとする。流石に彼女ではないので、高価な装飾品というわけにはいかないし、服とかだと好みもある。どうせあげるなら実用的なものと、そう高価なものでもないものでと考えた時に思いついたのが、リストバンドだった。


「なら今度は浩也にお礼をしないとね。そういえば浩也って誕生日いつなの?」


理緒は上機嫌に微笑みながら、貰ってばかりだと悪いと思って、そう聞いてみる。そう言えば、浩也の誕生日を聞いたことがなかったのだ。


「ん、俺の誕生日はもう過ぎてるぞ。5月3日。ゴールデンウィーク真っ只中で、大体いつも終わってから聞かれるな」


「確かに。そういえば私も聞いた事なかったもん。流石に一ヶ月以上過ぎてたら、タイミングはずしすぎだよね。クリスマスもまだ先だし」


「まあ、そんな気にしなくて良いぞ。別にお返しが欲しくてあげたわけじゃないし。そんなに高いもんでもないしな」


浩也はそう言って、真剣に悩む理緒を見やって、サバサバとした表情を見せる。ただ理緒としては、貰ってばかりじゃ申し訳ないし、それ以上に自分が選んだものを浩也にあげたかった。


「駄目よ。貰ってばかりなんて。ちゃんと私が選んだもので、浩也を喜ばせてあげたいの。私だけ喜ばせられたら、悔しいじゃない」


「何だその無駄な負けん気は。まあなら、今度服を買いに行く時でも、付き合ってくれよ。別に金は自分で払うけど、たまには人に選んでもらうのも良いからな」


浩也はそう言って、手元にあったお冷を飲む。浩也の服の趣味は実用性最重視なので、特段お洒落に気を使ったものはない。なまじ外見が良いので、かえってそれが映えるのだが、本人はその自覚がないので、自分に服のセンスはないと思っていた。この間の理緒とのデートで、その服装がお洒落だったのは認識しているので、外れはないと思っている。


「なら、私が浩也がモテるようにコーデしてあげる。あっ、その時小物を選んで買ってあげる。私のプレゼントはそれにするから。フフフッ、なんか楽しみになってきた。男子のコーデなんて初めてだから、ちょっと研究しなくちゃね」


「おいおい、程ほどにしろよ。別に高いもの買いたいわけじゃないんだからな」


なにやら張り切りだした理緒を尻目に、浩也はややたじろいだ声を出す。


「勿論よ、そんな高いもの買うわけないじゃない。学生なんだから。そこは安心して良いわ」


そう言って理緒は胸を張る。浩也はすっかり元気になった理緒の姿に、やっぱりこの理緒の方が、理緒らしくて良いなとぼんやりと考えていた。


結局その日は、ケーキを食べて更にご機嫌になった理緒といつものように楽しく過ごした後、理緒を家の近くまで送って、家路につく。試合は14:00からだったので、カフェによっての帰宅で、何だかんだ時間は夕方になっていた。理緒の家は浩也の家とは駅の反対側なので、歩いて帰ると大体20分くらいの道のりで、浩也はぼんやりとしながら歩いていた。


『理緒の奴、あんな事言うから、ちょっと意識しちゃったじゃねーか』


浩也が考えていたのは、冗談交じりにいった理緒の台詞だった。


『浩也がどうしても彼女が欲しいって言うなら、私がなってあげるわよ』


別にそれが本気だとは思わない。ただまあそうなったらそうなったで良いのかもしれないとも浩也は思ってしまった。かと言って、どうしてもそうなりたいかというと、そこまでは思えない。結局は自分の気持ちがわからないのだ。彼氏、彼女、付き合う、付き合わない、好き、嫌い、恋人、友達、色々な関係や感情があり、結局はどれかに当てはまるのかもしれないが、いくら考えても答えは出ない気がした。


『まあ所詮、冗談だし、気にしても無駄か』


浩也は気兼ねなく、考える事を放棄する。どの道、自分はモテないのだから考えても無駄だ、結局はいつもと同じ結論に至る浩也だった。







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