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第三十二話

今回の新キャラは只の友人枠ですね。孝太程は弄れない。

7月7日の日曜日、浩也は理緒との約束の通り、女子バスケ部の応援に市立体育館に来ていた。会場には同地区の女子バスケ部の面々が大勢おり、その中に男子1人で来ているのは、数人くらいしかおらず、多分彼らは誰かの彼氏なのだろうと思い、浩也は少し気後れする。せめて朋樹でもいればと思ったが、こればかりは仕方がないと、溜息をつく。ちなみに孝太も部活である野球部の初戦である。流石にクリーンナップを担う男は誘えず、結局1人、体育館に来る羽目になってしまった。


ちなみに体育館は西ヶ浜駅から海生高校とは反対側で、バスで10分といった所にあり、浩也は建物の2階部分にある観戦ができる場所に向かうと、理緒率いる海生高校のバスケ部を探そうと、最前列へと移動する。館内は空調が効いており、学校の体育館のようなうだるような暑さではない。本当に汗だくの中の観戦じゃなかった事に、浩也はほっとする。


「あれっ、高城じゃねーか」


不意に声をかけられて、浩也はビクッとして、声のした方へ振り返る。そこにいたのは、浩也と同じクラスの高崎幹夫だった。高崎は孝太と仲が良く、浩也もそこ繋がりでしゃべる機会のある友人だ。ただ確か浩也と同じ帰宅部で、バスケ部とは繋がりが無かったはずだが。


「あれっ、高崎?お前何してるの?」


「いや、それは俺のセリフなんだが。ああ、井上の応援か?」


高崎は合点がいったといわんばかりの表情を見せ、うんうんと頷く。浩也も今更、否定するのも面倒くさいと思い、素直にそれに同意する。


「ああ、応援に来いって強制されてな。断ると後がうるさい」


「ははっ、相変わらず仲が良いな」


「まあ腐れ縁だからな、仕方がない。それより高崎はどうしたんだ?お前も理緒の応援か?」


高崎は少しテレたような表情をして、それを否定する。


「いや、俺、女子バスケ部の田中詩織と付き合ってんだ」


「田中さん?」


名前を聞いても相手が誰だか思い浮かばない浩也は、首を傾げる。すると高崎は会場に目を向け説明する。


「ああ、1組の女子だから浩也は知らないか。ほら、あそこで井上としゃべっている女子がいるだろう。そうそう、あのポニーテールの子」


浩也は高崎の指のさすほうを見て、理緒がいるのを確認すると、理緒と笑い合ってるポニーテールの女子を見つけて、ああ、と納得する。


「ああ、あの子か。前に俺のバイト先に理緒と来たよ。確かに彼氏がいて、今度店に遊びに行くっていっていた」


「ああ、それ聞いた。とは言え、さすがに高城のいるところははずいから、逃げてたんだ」


そう言って高崎は申し訳無さそうに、苦笑いをする。すると浩也は営業スマイルを見せて、高崎に言う。


「ならもう、おバレになってしまったので、当店にご来店するのは、問題ありませんね。彼女ともどもご来店お待ちしております」


「お、おうっ。っていうかそれからかう気満々だろ」


「ハハハッ、彼女持ちなんだ。それぐらい甘んじて受け入れろ」


浩也はそう言って、営業スマイルから地のいたずら好きの笑顔を見せる。


「くっ、だから嫌だったんだ。孝太の二の舞になりそうで」


高崎はそう言って、孝太のがっくり項垂れる姿が思わず脳裏をよぎる。まあ事情も知っているので、同情はしないが、自分がそうなるとなると話は別で、思わず顔を引きつらせる。しかし、浩也もそれは孝太の弄りやすさがあっての事だと思っているので、高崎をそこまで弄ろうとはしない。


「まあ事情はわかった。取り合えずこの女子空間に同志がいたことを喜ぼう。高崎も試合、応援するんだろ?」


浩也が執拗に弄る姿勢を見せなかったことに、高崎は安堵すると、会場を見て同じ感想を零す。


「ああ、それな。俺もここまで女子ばっかだとは思ってなくて、正直、高城を見つけた時に、心底ほっとしたよ。あのまま1人でいたら、怒られるの覚悟で、帰ったかもしれん」


「判る。俺なんかしかもただの友達の応援だからな、気後れ感が半端無いぞ。高崎がいてくれて助かったよ」


今も高崎としゃべっている近くで、後輩の女子だろうが会場の先輩達に黄色い声で応援合戦を繰り広げている。ただ時々、浩也達のほうが気になるのか、視線も感じるので尚更、居辛かった。


「高城って、本当に井上と付き合っていないのか?俺も女バスの彼女持ち繋がりで、結構、聞かれるけど、傍から見ると付き合っているようにしか見えないぞ」


それに対して浩也は渋い表情を見せて、高崎に説明する。


「理緒の奴、昔から俺を隠れ蓑にしてるんだよ。あいつやたらモテるだろ?俺を彼氏っぽく見せかけて、告白される数を減らしてるんだ。まあ俺も彼女がいるわけじゃないし、そのあても無いから、したいようにさせてるけど。だから、付き合ってないぞ」


「確かに井上はモテるもんな。詩織、ああ、俺の彼女の話だと、それでも月一ペースで誰かに告白されてるって話だし。もう折角だから、井上と付き合ったらどうなんだ?」


「ないない、そもそも理緒の奴、男と付き合う気ないって言ってるしな。それに流石に理緒とは釣り合わんだろ。俺はモテないし」


そう断言する浩也に対し、高崎は不思議そうな顔をする。浩也がモテないっていうのが信じられないのだ。2組でいえば、藤田朋樹は断然のイケメンだが、浩也もその双璧をなすほどイケメンなのだ。まあ朋樹に比べれば、性格は浩也のほうが取っ付き難いのは確かだが、男子同士だとこんなもんだろうと思わなくも無い。だから思わず聞いてしまう。


「なあ、高城って本当にモテないのか?」


「ん?モテないぞ。告白もされた事もないし、バレンタインも身内とあと、理緒が義理チョコくれるな。コンビニで買った、板チョコとかきのこの里とか。そんなもんだ。中学の時なんて、サッカー部で一年からレギュラーだったのにチヤホヤされた事も無いもんな。な、モテないだろ?」


「お、おうっ」


妙にサバサバとモテない自慢をする浩也に、高崎も思わず口ごもる。実際は身内の中に、学校屈指の人気を誇る有里奈がおり、理緒も友達擬装を貫く為にあえて市販のチョコを渡しているが、中2の頃から欠かした事はない。勿論そんな事を知らない高崎は不審がる。絶対におかしいのだ。今もこうして浩也と話している合間にも、周囲の女子達にチラチラ見られる視線を感じるのだが、その視線の先はどう客観的に見ても浩也に集中している気がする。とは言え、浩也が嘘を言っているようにも全然見えないので、高崎はただただ1人、首を捻るのだった。


「そんな事より、高崎達はいつから付き合ってるんだ?」


「ああ、俺ら中学が一緒で、去年の冬から付き合ってる。中学の時のクラス会の帰りに俺から告白したんだ」


「おおっ、すげえな。俺なんて告白しようと思った事も無いぞ」


浩也は感心したようにそう言うと、高崎の肩をバンバンと叩く。


「うわっ、いてーよ。まあその前から一緒に遊びに行ったりもしてたから、脈もあると思ってな。勿論、俺は最初からその気だったし」


「いやー、朋樹といい、高崎といい、俺からしたら勇者だな」


浩也は本心でそう思う。自分が女子に告白する姿が全く想像出来ないのだ。


「そ、そうか?好きな人が出来て一緒にいたいと思ったら、そう思うんじゃないのか」


「なら俺は今そこまで好きな相手がいないって事だな」


浩也はそう言って納得をする。大体俺はモテないから告白しても振られるだけだしななどと思っている。


その後、暫くそんなやり取りをしていた2人のもとに、理緒と詩織の2人がやって来る。


「浩也、よしよし、約束どおり来たね。感心、感心っ」


理緒は浩也に近づくなり、嬉しそうに言ってくる。浩也はそれに対し、やれやれといった表情を見せる。


「勿論でございますよ、お嬢様。本日は精一杯お嬢様を応援させていただきます」


「フフフッ、ならカッコいいところ見せなきゃね。今回の相手は、余り強くないところだから、ミスらないように気をつけないと」


「試合が始まる前から、あんま気負うなよ。別に良いとこ見せようとしなくても良い。いつも通り、一生懸命やれば、おのずと結果はついてくるだろ。それだけ練習頑張ってるのは知ってるから、まあ、楽しんで来い」


浩也は理緒が少し張り切り過ぎのような気がして、そう言って、リラックスさせるような事を言う。すると理緒はいつもの表情に戻って、ニヤリとからかってくる。


「フフッ、なんか浩也、コーチみたい。でもそうね、折角なんだから楽しまないと」


「そうそう、楽しんでこい」


「おーっ」


理緒と浩也にとってそれは普段通りの行動である。ただ周囲の女子達はあからさまに残念な表情をしている者もいるくらい、2人は仲良さ気に会話を交わしている。


そしてそんな2人のやり取りを傍目で見ていた高崎は、隣にいる彼女の詩織に先ほどの疑問をぶつける。


「なあ、詩織、あの2人、本当に付き合ってないように見えるか?」


「ふふっ、どうかなー?そういう事が判れば、幹夫ももっとモテるようになるかもよ」


「ええーっ?それってどういう意味?さっぱり判らん」


実は詩織は理緒の心情をそれとなく察していたりする。先日浩也のバイト先に行った際の理緒の行動を見て、何となくそう思ったのだ。他の2人は気づいていない。あの子達は、むしろ浩也に気を取られてたからだ。多分理緒は高城君の事が好きなんだろう。彼といる時の理緒は普段よりも可愛らしく、ずっと、女の子らしくしている。生憎、高城君はずっと近くにいたから、それが当たり前で気付けないでいるみたいだが。ちなみに詩織はそれに気付けない幹夫に対して、少し不満気な表情になる。


「幹夫もまだまだって事よ。もっと頑張らないと、愛想尽かしちゃうかもよっ」


「ええーっ、ホントどういう事-っ?」


そう言って慌てふためく幹夫を見て、詩織は、ニッコリと微笑むのであった。


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