第二十九話
イベント振りと孝太の恋バナ?。いやただのいじられネタかな。夏休み編はやる事多くなりそうです。
期末テストも終わり、学校内は夏休みに向けて少し浮かれた雰囲気が流れ始める。あるものは彼氏、彼女を作ろうと躍起になり、夏の間でみんなで集まるようなイベント事が企画されるのもこの時期にはよくある事だった。浩也の元にもご他聞に漏れず、そのご案内はあり、同じLINEを受け取った理緒と朋樹が浩也の元にやって来る。
「おう浩也、クラス会の案内来たか?」
「ああ、いま見たところ。どうやら一斉送信らしいな、ほら理緒もこっち来た」
そう言って浩也はスマホ画面を開きながら、理緒の方へと顔を向ける。
「あっ、浩也と藤田君。クラス会の案内来た?」
「ああ、今朋樹とその話をしていたところ。日程は7月15日、ん?海の日か?」
「んー、そうだな。海の日だな。前にやってから半年振りくらいか。浩也は来れそうなのか?」
「バイト次第ではあるけど多分大丈夫だろ。その代わりその前の土日は連続で通しになりそうだけどな」
浩也が土日通しの日は由貴が完全休養となる。由貴の旦那の雄二は、平日に元々いたお店の料理人がHELPで来てくれる日だけ休みを取っているが、土日は書き入れ時となる為当然休めない。先日から隔週の水曜日が定休日となったのは、雄二の体調を気にしてというのもあるが、それ以上に、夫婦の時間が取れない由貴が癇癪を起こした事が原因だったりする。
「あー、浩也、7日の日は忘れないでよねっ」
「はいはい、そっちもちゃんと予定確保済み」
「ん、7日なんかあるのか?」
そんな理緒と浩也の会話を聞いて、朋樹が不思議そうな顔をする。浩也は朋樹なら別に勘ぐられる事もないと思い、素直に答える。
「ああ、女バスの応援。大会初日で応援に来いと強要されています。あっ、朋樹お前も暇なら行くか?」
朋樹はそれを苦笑いになりながら、首を横に振る。
「あーすまん、その日は春香と会う約束になってて」
「そりゃそうよ。なんてったって今年は七夕で日曜日だもん。どっかの誰かと違って、彼女持ちは忙しいのよ」
なぜか全く関係のない理緒が自慢げに胸を張る。それを聞いて、朋樹は頭をかく。
「んーまあ、間違ってはいない。すまんな、井上。大会頑張れよ」
「うん、ありがとう。そっちこそ頑張ってね」
すると蚊帳の外だった浩也は面白く無さそうに、朋樹に突っ込みを入れる。
「朋樹は一体、何を頑張るんだか。まあそれは良いや。で、お前らはクラス会に行くのか?」
「うーん、時間も夕方からになってるから、多分大丈夫。まあ試合次第だけどね」
「俺も同じだな。部活帰りによる感じになると思う」
「じゃあ俺は、朋樹達がくるまで、はるはるをからかい倒しているかな」
「だから、はるはる言うなっ。それクラスでも定着したら、春香泣くぞっ」
浩也はそれを聞いて、クラスで広めようと心に誓う。まあ嫌よ嫌よも好きのうちだ。まあ本当に泣いたら、土下座まであるが、そんな不埒な企みを当然朋樹は察知して、理緒に言う。
「おい、井上、浩也が暴走するようなら、夏休み、浩也を連れまわしても良いぞ」
すると理緒はニヤーッと悪い顔をする。
「んー、じゃあ夏休みに浩也に何をしてもらおうかなーっ。えーと、海でしょ、山でしょ、プールでしょ」
「おいこら、何で俺が朋樹の言う事を聞かなきゃならんのだ。却下、却下だーっ」
浩也は慌てて理緒の暴走を食い止めようとする。今度は朋樹がニヤニヤしながら、浩也に言う。
「まあ、天罰だな。人の彼女をおもちゃにしようとした罰だ。井上理緒という台風に晒されてしまえっ」
「くっ、俺のいたずら心はそんな事には屈しないっ。必ずクラス中にはるはるを広めてやるっ」
途中まで2人の会話に乗っていた理緒だが、余りの馬鹿らしさに、そっとその場をフェードアウトする。その後、浩也と朋樹は休み時間終了のチャイムが鳴るまで、不毛な争いを続けるのだった。
そんな事があった日の放課後、浩也はいつも通りバイトに勤しんでいた。夏も直前、学校では試験も終わったという事もあり、カップルに友達同士にと客の入りも盛況だった。そうなれば勿論、ウェイター役の浩也もオーダーに給仕に後片付けにと慌しく行動する。そんな時に見知った顔がお店に遊びに来る。
「あれ、孝太。1人で来るなんて珍しいな?」
「おー浩也。ここで待ち合わせなんだ。伊藤真由、わかるだろ?」
どうやら孝太は幼馴染とデートらしい。浩也はそれを聞いてニヤニヤと孝太を見る。
「孝太、どういう風の吹き回しだ?伊藤さんとは罵倒し合う仲だろうに」
「あー、なんだかいろんな期待をさせているようだが、一切、そういう色っぽいものじゃないぞ。賭けに負けて奢らされるだけだ」
「賭け?」
「ああ、この前朋樹がはるはると付き合う事になっただろ。俺はそれを意気揚々と伊藤に報告しに行ったわけだ。そしたらあいつ、逆切れしやがって、別に朋樹に彼氏ができたからって、アンタがもてるわけじゃないって言われて、つい俺も対抗心が芽生えて、彼女の1人や2人、直ぐに見せてやるっって言ってな」
「おー、孝太、お前勇者だな。当てでもあったのか?」
「めぐみちゃんに一日で良いからって頼み込んだんだけどな・・・」
「あー、断られたと。まあめぐみは悪くないな。そんな理由なら余計に付き合い難い」
「くっ」
そう苦悶する孝太を尻目に、浩也はアホな奴と憐れみの表情を浮かべる。取り敢えずがっくり項垂れる孝太を邪魔だからと席に案内し、浩也は優しく慰める。
「孝太、そういうのをなんて言うか知ってるか?」
「なんて言うんだ」
「自業自得、身から出た錆、えーと後何があったかな、ああ因果応報かな。まあ結論、諦めろ」
「ぐふっ」
浩也にしてみれば、切腹をする罪人に介錯をした気分で、苦しまずにとどめを刺してあげて、良い事をしたと笑みになる。そんなやり取りをしているところに、入り口のベルがカランコロンと音を立て、店の中を覗きこむ女子が現れる。
「あー高城君、こんにちわ」
「ああ、伊藤さん、いらっしゃい。こちらにお相手の敗北者がおりますよ」
「そう、こいつ調子に乗って、見栄張るもんだからこんな目に遭うのよ。ホント馬鹿よねっ」
もはや死に体の孝太は、顔を引きつらせる事しかできない。浩也はああ、死人に鞭を打つとはこういう事かと得心する。それでも孝太は絞り出すように、伊藤に何とか噛み付く。
「うるせーっ、本当はめぐみちゃんが来てくれるはずだったんだっ。彼女が来れば、お前なんか目玉が飛び出るくらい、びっくりさせられたんだ」
「あーはいはい、そんなバーチャルな存在、この地球上にいるわけないでしょ。私がこうして相手してあげてるだけ、感謝しなさいよ。このゴミくず」
相変わらず伊藤の鞭は容赦なく、孝太は思考停止におちいる。
「ああ、めぐみはちゃんと存在するよ。まあ孝太の彼女ではないけどね。誰にでも気さくに話す良い子だよ」
浩也は流石に鞭を打たれすぎて、最早肉塊と成り果てた孝太を不憫に思い、少しだけフォローを入れる。すると予想以上に焦った声で、伊藤が浩也に詰め寄る。
「ええっ、そのめぐみって子本当にいるの?この馬鹿の妄想じゃなく、この前デートしたって言うのも本当に?」
「あ、ああっ、厳密には俺と朋樹、孝太と朋樹の彼女と俺の元同級生とその子の3対3で遊んだだけだけどね。でも、そう言えば、めぐみとは仲よさ気ではあったけど」
浩也は余りの剣幕に、思わずのけぞりながら、そう説明する。すると伊藤はちょっとだけ悔しげな、それでいて不満気ななんとも言えない表情を見せる。
『おや?』
浩也は何となくその表情にある意味を感じて、今度は伊藤にキチンと説明する。
「ただ心配はしなくても良いよ。めぐみは基本人当たりが良くてコミュニケーション能力の高い、誰とでも仲良くできる子だから。俺もなんだか初対面なのに、名前呼びにさせられたし、今回の事も孝太に頼まれたのに、キチンと断ったらしいから。まあ圧倒的に見栄を張った孝太が悪いな」
伊藤は浩也の説明に少しだけ安堵した表情を見せるが、急に頬を赤らめて、孝太を睨んで憎まれ口を叩く。
「高城君のいう事だから、めぐみって子がいるのは認めてあげるけど、見栄を張って彼女とか、仲が良いとかいったことは有り得ない。その子もホント良い迷惑よねっ。まあ今回のことは奢られてあげるから、覚悟してなさいよっ」
それを聞いて、浩也は孝太にニヤリとしながら、綺麗な接客を見せる。
「それではお客様、ご注文は何になさいますか?ああ、お連れのお客様の分もご一緒に承りますよ」
孝太はそれを見て、屈辱の表情と共に、見栄を張るのは止めようと心に誓う。伊藤はというと、孝太そっちのけで、機嫌よさそうにメニューを眺めるのだった。




