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第二十七話

昨日は更新出来ず、朝投稿となります。文章のストックがないので、しばらくは更新出来ないときがあるかもです。

浩也は突然そんなことを言う有里奈に対し、少し戸惑った表情を見せる。別に手を繋ぐ事自体は嫌でも何でもないのだが、どういう心境の変化なのかと訝しがる。


「お、おおう」


「なにそれ、別にヘンな事じゃないでしょ。ちょっと、思いついただけじゃない」


そんな微妙な浩也の反応に、有里奈は思わず拗ねた顔をする。


「いや、まあ、いっか。それより今日はこの後どうするんだ?真っ直ぐ家に帰るか?それとも家によってくか?」


浩也は余りこの事を掘り下げても、有里奈の機嫌を損ねるだけだと思い、話を変える。今はまだ夕方前でそんなに遅い時間でもない。有里奈が家に来れば、浩也の母親も喜ぶ事は間違いないので、そう言って誘ってみる。


「あ、うん。じゃあ浩也のお家に寄らせてもらおうかな。スマホの使い方も教えてもらいたいし。ならなんかお菓子とか買ってこうか」


「ああ、じゃあ、鶴屋のイチゴ大福を買いに行こう。久しぶりに食べてみたい」


「フフフッ、あそこのイチゴ大福美味しいもんね。あっ、家の分も買っていこうかしら」


有里奈はそう言って、嬉しそうな表情を見せる。浩也もそれにつられて笑顔になる。


「なら和美さん達も、家に誘ったらどうだ。まあ家は両親とも今日は家にいるから、偶には良いだろ。お袋には連絡入れておくし」


「うん、じゃあお母さんにも連絡してみる。早速スマホを使ってみよっ」


こうしてその日の夜は、浩也の家族と有里奈の家族が一同集まって、楽しい食事会となる。これは有里奈と浩也の家族にはよくある事だ。それだけお互いの家族が仲が良い。親父達は酒を片手に何やら仕事の話っぽい事を言い合っているし、母親達は、昔話に花を咲かせる。子供達はと言うと、のんびりスマホを弄りながら、じゃれ合っている。だからこそ、浩也が中々、有里奈を身内枠から切り離せないのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


学校は2年生になって二度目のテスト期間を迎える。これを乗り切れば夏休みという事もあり、クラス内の空気は試験一色で勉強に躍起になっているが、浩也は相変わらず平常運転で、朋樹とだべっていたりする。


そんな中、理緒は少し焦っていた。勿論、他の生徒同様、表向きは勉強をしているが、一向に頭には入ってこずに、頭の中は浩也が陽子を呼び捨てにしている事実にいまだ動揺をしてたのだ。理緒は先日の浩也とのデートでいわば、有頂天だった。それは楽しく、幸せなひと時で、理緒の初恋にとって大切な時間だった。だからこそ浩也が他の女子との距離を縮めた事に焦りがでる。陽子自体は理緒も良く知っている。中3の頃の同級生で学級委員長だった女子だ。性格も良い意味でサバサバとしていて、好感が持てる。想像しても浩也と甘い雰囲気になるとは思えないが、自分が苦労して勝ち取った名前で呼んで貰える事をあっさりとクリアした事実は看過出来ない。


『あーもう、何でこんな事で悩まなきゃいけないのっ』


理由はわかっている。浩也にとってまだ私は特別ではない。だから他の女子との関係も気にする権利はない。しかも運の悪い事に、朋樹が彼女を作ってしまった。それ自体は喜ばしい事なのだが、それにより女子の目が確実に浩也へと注がれ始めている。勿論、自分より近い女子などそうはいないが、また陽子みたいに壁を軽々越える存在が出ないとも限らないのだ。


そんな事がここ最近の理緒の頭をぐるぐると駆け巡る。だからだろう、それは期末テストの結果という形で、モロに影響が出ることとなる。


2日間の期末テストが終わり、その結果がその日返された。浩也の点は中間テストと同様、そこそこ良く、一安心する。周囲を見渡すが、朋樹も相変わらずのようで、周囲の男子と穏やかに談笑している。孝太もまあ大丈夫そうだ。そして理緒はと目線が向けると何やら暗い顔で落ち込んでる姿が見えた。


『ん?珍しいなぁ』


理緒はテストの結果が悪くても、普段なら落ち込んだりせず、むしろ周囲に冗談めかして嘆いてみたり、開き直って笑いにしたりするタイプだ。結果が悪いのは確かだろうが、少し落ち込みすぎな気がした。


『そう言えば、最近、あんま絡んでこないしなぁ』


テスト前は、勉強をしていて絡んでこない事も多い為、一概には言えないが、それにしても、ここ最近、静かな気がする。そう言えば、朋樹が彼女を作ったって言ったあたりからか?浩也は思い出しながら考える。


『朋樹が彼女出来たのでショックでって訳じゃないよな?普通におめでとうって言ってたし』


中学の時、朋樹と理緒が噂になった話も思い出したが、あまりその線はピンとこない。ただ理緒の落ち込んでる理由は他に思い至らない。


『まあ、放課後聞いてみるか』


現在の授業が終われば、放課後だ。多少バイトの入りが遅くなるが、なんだか放っても置けないかと思い、浩也は、そっと理緒の様子を伺っていた。


「おーい、理緒、ちょっと待てっ」


授業が終わり、浩也は荷物をまとめて帰ろうとする理緒に声をかける。理緒は浩也の声にビクッと反応すると、いつもの元気はなく、やや突っかかるような口調で言う。


「何、もう帰ろうと思ってるんだけど」


浩也はそんな理緒の態度を気にする素振りをみせず、ニヤリとする。


「これは姫様、ご機嫌斜めですか、って言うか、部活は?」


「それどころじゃ無くなった」


浩也はそれであたりをつける。試験明けの運動部の生徒が部活も行かずに帰るなんて、特殊な事情なのだ。


「理緒、お前明日は暇か?」


「喧嘩売ってんの?暇な訳ないじゃないっ」


理緒が部活にもいかずに帰る理由に当たりをつけた筈の浩也が、そんな事を言ってくるのに無性に腹が立って、理緒は思わず喧嘩腰になる。しかし浩也はそんな理緒の様子も何処吹く風で、気にした様子もなく、理緒を宥めにかかる。


「まあまあ、そう殺気立つな。ようはさっきの数学、追試だったんだろ?だから明日、勉強教えてやるよ」


「へっ、だって浩也、バイトでしょう?」


「それが今週から隔週で木曜日が定休日になったんだ。追試金曜日だろ?なら明日勉強すれば、間に合うだろ?」


浩也はそんなふうにのんびり説明して、優しげな笑顔を見せる。ただこのところうじうじ悩んでいた理緒は、中々素直になれない。


「折角の休みだったら、女子と遊びに行けば良いじゃない。私の勉強なんか付き合わないで」


「お前が何拗ねているかわからんが、俺が何処の女子と遊びに行くんだ?俺がモテないのは知っているだろう?」


浩也は何やら不貞腐れた理緒に、自虐も含めて言う。


「嘘っ、だって浩也、陽子とか、バイト先に遊びにきた子とか話してるじゃん」


「はあ?陽子?それにバイト先に遊びにきた子って、そもそも陽子は学校違うから、平日わざわざ遊ばんし、バイト先に遊びって、客じゃん。何でそんな子と遊ばなきゃならないんだ?」


そう言って、浩也は呆れた表情を見せる。理緒は言ってから、内心言い過ぎたと思ってしかめ面になる。これじゃヤキモチやいているようにしか見えない。それでもまだ素直になれない理緒は、言葉が止まらない。


「だって最近、浩也が女子としゃべるようになったって、中川君も言ってたし、私なんかの勉強に付き合うのなんて詰まらないでしょっ」


「まあ、孝太が何言ったか知らんが、俺から積極的に話しかけるのは理緒だけだぞ?それにお前、数学苦手だろ?1人で勉強して追試大丈夫なのか?」


「うっ、大丈夫じゃないけど」


理緒はそこで思わず言葉を詰まらす。そもそも大丈夫だったら追試なんかにはならない。元々、今回の悩みがなくても、数学自体は赤点ギリギリだ。今回のテストはそれ以外の教科も成績を落としたが、赤点云々の心配があるのは数学だけだった。


「ならここは素直に好意を受け取れ」


浩也はそう言って、俯いた理緒の表情を覗き見る。そもそもこいつは何にそんな拗ねてるんだと思ってはいるが、まあなんか理緒なりに悩んでいるのだろうと深くは突っ込まない。それでも、悩みをわざわざ聞かなくても、出来る手助けくらいはしてやっても良いだけの付き合いだ。だから浩也は、手を伸ばす。


「なんで浩也はそんな優しくしてくれるの?」


理緒は思わずそう聞いてしまう。今の理緒はただの友達だ。浩也にとってそれだけの存在なはずだ。だからそんなに優しくしてもらえるはずがないのだ。


「はあ?一日とはいえ彼氏にもなったんだぞ?優しくするのなんて当たり前じゃん。ああ、そう言う意味では元彼だな」


浩也はそう言って、ニヤリと笑う。理緒はそれを聞いて、思わず胸が温かくなる。ああ、浩也にとって私はちょっとだけ特別なんだと、何となく実感する。


「そうね、元彼ね、フフフッ、そうね、元彼だもんね」


「ようやく笑ったな。大体、理緒に暗い顔は似合わん。アホなくらい元気な方が理緒っぽいだろ」


「ふん、追試になったら、誰だって暗くなるんだから。でもありがとう。元気でた」


すっかり心の軽くなった理緒は、いつもの調子で、朗らかな笑顔を見せる。浩也はそれを見て、理緒の頭をポンポンと叩く。


「で、どうするんだ?明日、高城浩也先生の特別授業を受けるのか?」


「そこまで言うんだったら、しょうがないから、受けてあげる。ちゃんと合格できるようにしなかったら、夏休みの補講にも付き合ってもらうんだからっ」


「いや、頑張るのは理緒だろう」


浩也はそう言って、すっかり調子の戻った理緒に呆れた表情を見せるのだった。


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