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第二十五話

今回は有里奈パートからの…、ではお楽しみ下さい。

もうじき期末テストが始まるとある日、有里奈は生徒会室でのんびりと過ごしていた。勿論生徒会室なので、やるべき雑務はこなしている。でもその日はしずと2人きりで、副会長の山崎も2年のほかの役員の子達もおらず、なのでやはりその空気は緩んだものとなっていた。そして書類仕事が一段落したとき、傍らの会計であるしずがなにやらスマホを弄っていた。


「しず、何やってるの?」


「ああ、ごめんごめん、ちょっとLINEでやり取りをね」


しずはスマホの画面を見ながら、声だけ返答を返す。有里奈はふとやり取りの相手が気になって、スマホの画面を覗き込もうと立ち上がる。するとしずはその画面を見せて、やり取りの内容を有里奈に見せてあげる。


「あれ?ヒロとLINEしてるの?」


「そうそう、幼馴染君、LINE送ったらちゃんと返してくれるから、たまにやり取りしてるんだ」


有里奈はスマホの画面を覗き込みと、そのやり取り自体は他愛もないもので、浩也はテキストでそれに応対している。


「えー、いいなぁ。私なんて最近ヒロの声すら聞いてないよー」


有里奈と浩也は学年が違う為、やはり余り接点を持てない。有里奈が浩也のバイト先に行くくらいしか会えないのだ。朝、偶然同じ電車になったとしても、周囲に海生高校の生徒がいれば、基本話しかけないし、学校内ではまず話さないし、そもそも出会わない。有里奈は弁当持参派なので、昼休みは生徒会室でしずといる事が殆どで、学食とかで出くわす機会がない。


「まあ有里奈スマホ持ってないもんね。今時の女子高生でスマホも持ってないなんて、ある意味アンタ天然記念物ものよ」


「うーっ、昔は持ってたんだけどね・・・」


有里奈はそう言って、微妙な表情となる。ちなみに有里奈がスマホを持っていた事を知らないしずは驚いた表情になって、有里奈に聞く。


「えっ、そうなの?何で止めちゃったの?」


「うーん、まあ持ってたときに色々あってね。ちょっと持つのが怖くなっちゃったんだ」


有里奈は中学時代にスマホを持っていた。有里奈の両親は共働きという事もあり、中学に入って直ぐという、どちらかと言うと早い時期からスマホを持たされていた。ただスマホを持っていた時期に、有里奈を好きという男子から頻繁に連絡が入るようになり、結局その男子にはキチンと断りを入れたのだが、その後も連絡が止まらないばかりか、有里奈の余り知らないような男子からも連絡が来るようになる。後々で判ったのだが、振られた男子の誰かが、振られた腹いせに有里奈の携帯番号やLINEIDを拡散したのだった。それ以降、有里奈は携帯電話を持つのが怖くなり、そのタイミングで解約してしまった。そんな事情を掻い摘んでしずに教えると、しずは苦い表情になる。


「なにそれした奴、最悪。個人情報をさらすなんて犯罪じゃない。それにその情報で有里奈に連絡してくる奴らも最悪。そりゃ、スマホ持ちたくなくなりもするか」


「うん、そうなの。私もまだ携帯持ちたてで、結構気軽に連絡先教えちゃったのも悪かったんだけど、着信拒否とかブロックとかしてもきりがなくて。でも今はもう何でもないんだけどね」


有里奈は自分を気遣ってくれるしずにやさしい表情を見せる。するとしずは有里奈に言う。


「まあでも今度は気遣えば良いんじゃない?山崎がアレな時は危ないかもだけど、今はすっかり落ち着いてるしね。場合によっては、教えなければ良いだけだし」


「えー流石に生徒会同士で教えないのって、良いのかな?でも教えるのはまだちょっと怖いけど」


「大丈夫よ。私も知らないし、教えてないし。事情もあるわけだし、生徒会も秋には終わるでしょ。まあ無理にとは言わないけど、持ってたら幼馴染君とやり取りする機会が増えるかもよ」


しずはそう言って後押しはする。ただ事情を聞いただけに無理強いはするつもりはない。最後は有里奈の判断だと思っている。すると有里奈は少しだけ悩んだ後、決心する。


「うん、私、スマホ持つ事にする。連絡先を家族とか、ヒロとかしずとかだけにすれば良いよね」


「うん、最初はそれで良いんじゃないかな。有里奈が信用できそうとか仲良くなりたいとか思うような人を少しずつ増やしていけば良いんだから」


しずはうんうんと頷きながら、有里奈の肩をポンッと叩く。有里奈はそれに嬉しそうな顔をした後、しずにとあるお願いをする。


「ありがとう、しず。それでちょっとしずにお願いがあるんだけど・・・」


しずはそのお願いを聞いて、はいはいとスマホを操作し始めた。



有里奈としずがそんな会話をしていた週の週末、浩也はマンションの入り口で有里奈を待っていた。そのマンションは浩也の家から徒歩で2分もかからない場所にある分譲マンションで、エントランスのオートロックの扉の前に立っている。インターフォンで有里奈の家に連絡した時には有里奈は用意が終わってたらしく、直ぐに下に行くと返事があり、程なくして有里奈が現れる。


「ヒロ、お待たせ。今日は付き合ってもらってごめんね」


「いや、別に暇だったからそれは良いんだが、しず先輩からLINEがあったときは驚いたぞ」


有里奈がしずにお願いしたのは、この日の約束を取り付ける事だった。有里奈は浩也に今日、スマホを買いに行くのに付き合ってもらう為に、しずに連絡をお願いしたのだ。浩也は有里奈がまたスマホを持つ事に少しばかりびっくりした。浩也は当然、有里奈がスマホを止めた理由も知っていたので、どういう心境の変化なのかと思ったのだ。


「うん、しずと話をしてもう私も高3だし、しっかり管理できるかなって思って」


有里奈の本心は、しずと浩也のLINEのやり取りを見て、純粋に羨ましかったというのが大きいのだが、流石に浩也には言えないので、当たり障りの無い回答をする。浩也はふーんと不審がる事もせず、それに頷く。


「そうか、まあこの間の副会長も落ち着いたって言ってたし、まあそれはそれで良いのか。取り合えず最初は身内だけと連絡先を交換してリハビリだな。今のスマホは有里奈が持ってたときと比べて、機能も凄いからな」


「うん、そうするつもり。でも私機械音痴だから、上手く扱えるかな?」


有里奈はそう言って、少しだけ不安げな表情を見せる。浩也はそれを見て、のんびりと答える。


「まあその辺は前に持っていたから、大丈夫じゃないか?アプリとかで何かやりたいことがあれば別だろうけど」


「うーん、とりあえず友達とLINEとかやりたいかな。ゲームとかはやらないと思う」


「機種は1番新しいのでいいだろう。まあ、取り敢えず行くか」


そう言って浩也は歩き出す。有里奈も嬉しそうにして、浩也の隣に並んで歩く。


「ふふふっ、こうして並んで歩くのってなんか久しぶりだね」


「んっ、そうか?この間迎えに行った帰りも並んで歩いただろ?ああ、でもあれももう数週間前か」


「そうそう、なんかここ最近は会うのは夜ばかりだから、こうして昼間から歩くのってなんか新鮮かも」


「ああ、そう言えばそうかもな。昼間から出かけるのっていつ以来だ?ああ、春休みに一緒に映画を観に行って以来か」


そう言って浩也も結構間が空いたのかなどと思い始める。これまでもなんだかんだ、月一くらいでは1日一緒に過ごす機会はあった。浩也がバイトを始めた事で週末も空きが少なくなり、機会が減ったのは否めなかった。


「そう、最近ヒロもバイトもあって忙しそうだし。私も来年受験だから、模試とか予備校とか予定が入っちゃうし」


「まあ受験生は大変だな。志望校とか決まってるのか?」


「うーん、まだ正直迷ってるところ。家から通えるところが前提で、推薦の話ももらえそうだから、もしかしたら、そっちにするかもしれないし」


有里奈はそう言って少し悩ましげな表情を作る。浩也はそれを見て少し茶化す。


「おお、流石は生徒会長様、引く手あまたですな」


「もう、そんなやな言い方しないでよ。これでも頑張っているんだから」


「ハハハッ、知ってる、知ってる。なんせうちのクラスにも有里奈信者がいるからな。もはや聖人扱いだぞ」


「ううっ、でも本当、たまにそういう人がいるから困るの。なんだろ。私も普通の女の子なんだけど」


実際に有里奈信者は存在する。流石にマンガとかではないので、ファンクラブまでは存在しないが、熱烈なファンがはいる。確かに有里奈はおっとりして優しいのだが、その一面だけで他の有里奈の性格を知ろうとしないのはいただけない。


「それも知ってる、知ってる。暗いところが苦手なちょっとビビりなところとか、甘いものに目がなくて、気付いたら必ずお菓子一袋あけちゃうところとか、あー後、カナヅチでプールや海では浮き輪必須なところとかな」


「もうっ、なんでそんな変なところばっかり言うのっ、ヒロの意地悪っ」


そう言って有里奈は顔を赤くしてむくれる。浩也はああ、そう言えばこうやってすぐむくれるのも、普通の女の子らしい魅力だななどと思っている。有里奈がもう少し男子慣れしたなら、こういう有里奈をちゃんと大事にしてくれる奴も現れるんだから、そういう相手が有里奈を大事にしてくれたら俺はお役御免だなと、浩也は幼馴染を見て、少しだけ寂しい気持ちにもなった。


2人は程なくして西条駅の駅前に到着する。今日はスマホを買うだけなので、浩也のスマホと同じキャリアの携帯ショップで申し込みをする予定だった。2人は早速店に入ると並べられているスマホを眺め始める。


ちなみに浩也の使っている機種は最新のものより一つ前の世代のもので、最新のものは、やや大きいものと一回り小さいサイズのものがある。浩也は2つを見比べながら、有里奈に感想を聞こうとしたところで声がかかる。


「あれっ、浩也君、えっ、有里奈先輩もなんでここにいるの?」


声をかけてきたのは、なぜか小さい子を抱えた陽子だった。


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