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第二十四話

藤田朋樹のお付き合い後日談です。ちなみに大根役者をセリフで表現って、難しいですね、

朋樹が春香に告白しただろう翌日、浩也はいつも通り教師がくる10分前には教室につくと、荷物をおいて周囲を見渡す。このクラスの朝の人の集まりは決して悪くない。あらかた席には生徒が座っていたり、友人同士で談笑していたりする。運動部のメンバーは朝練もある為、教室にはおり、浩也のような帰宅部は比較的遅い到着だったりする。そして当然、浩也のお目当ての人物も席に座っており、浩也はその人物に近づいて声をかける。


「おう、朋樹。昨日の首尾はどうだった」


「お、おうっ、まあな、取り合えず上手くいったよ」


お目当ての人物は勿論、親友の朋樹だ。聞く内容も決まっており、朋樹も質問されるだろうと予測していたのか、浩也の曖昧な質問に対しても意味を履き違える事もなく、はにかんだ笑顔でそう答える。まあ昨日の陽子の話では、あらかた段取りは組まれていたのだ。春香に全くその気がないのならまだしも、そんな事もないわけで、失敗する方がおかしい。だから浩也もその返事を聞いて驚きもせずにニヤリと笑みを浮かべる。


「そうかー。うーん、そうか、そうか」


「くっ、何だよ。何が言いたいんだっ」


なにやらもったいぶった言い方をする浩也に朋樹は警戒心をあらわにする。流石に朋樹も長い付き合いである。浩也の今の表情が、悪巧みをしている事くらいわかっていた。すると浩也は朋樹の耳元に顔を寄せ、小声で提案をする。


「なあ朋樹、このことのお披露目はいつにする?今が良いか?それとも昼休みが良いか?ほら、友人としては友人の吉事をより多くの人に広めたいじゃないか。いやなに、これは悪意じゃないぞ、勿論善意だ」


「ふーっ、広めるのは致し方ないとして、その手段は?」


朋樹は何とか動揺を堪えると、その手段に言及する。もはや賽は投げられたのだ。こうなっては浩也は止まらない。ならせめて穏便な手段で話が広がる事を望みたいと朋樹は切に願った。そこで浩也は少し考えた後、3つの提案をする。


「一つ、この場で大声で朋樹に彼女が出来たと驚く。二つ、朋樹が壇上に上がり、記者会見っぽく会見を開く。三つ、人間広告塔を使い喧伝する。ちなみに俺としては一か二をお勧めしたいな」


「何故だ?三なら勝手に噂が広まるだけだろ?大体広告塔って誰だ?」


「理緒と孝太」


「却下だ」


朋樹は人物名を挙げると即断で却下する。流石は朋樹だ。両人物の特徴を良く捉えている。もし仮に三にした場合、話が誇張されるのが、目に見えているのだ。噂が広がりすぎて、事態の収拾ができなくなる恐れすらある。浩也はさて、朋樹の決断がどうなるかと、考え込む朋樹をじっと見守る。


「くっ、なら昼休みに一で頼む。その場さえ乗り切れば、何とかなるだろ。あーっ、面倒くせーっ」


「まあそれもモテる男の定めだ。それに春香も心配するだろ、彼氏がモテまくるのはな」


「ちっ、その通りなだけに何も言えねぇ」


「まあ陽子にも朋樹の公開処刑っぷりは伝えてやるから、それではるはるにも伝わるだろ。安心して処刑されるんだな」


浩也のこの上ない楽しそうな笑みに、朋樹は本当に苦いものを食べたかのように、渋い表情をするのだった。


そして早速昼休み。浩也としては公開処刑の場で人の多い学食を希望したが、残念な事に朋樹は教室での会話にこだわり、ロケーションは教室となった。浩也としては学食内のどよめきを堪能したかったのだが、致し方ない。


そして購買にて2人でパンを買い、モシャモシャとパンを齧りながら自然な会話から始める。ちなみに朋樹には残念な事に教室内には理緒と孝太がいた事を付け加えておく。


「そう言えば、最近なにか変わったことはないか?」


会話の流れの中で近況を聞くかのように、浩也が話を切り出す。朋樹はついに来たかと神妙な顔付きで一旦はとぼける。


「んっ、最近って昨日、今日の話か?」


「ああ、なんか朋樹の雰囲気が違うような気がしてな。なんかこう、心に余裕が出来たというか、少し男前になったというか。カッコ良さが増した的な?」


「そうか?特段意識しているような事はないが」


「ほほうっ、そうか、親友であるこの俺に隠し事か?」


とぼける朋樹に対して、浩也は慌てずゆっくりと真綿で首を絞めにかかる。朋樹は朋樹で心に余裕などあるはずもなく、次第に顔を引きつらせていく。


「や、やだなー。俺が浩也に隠し事なんかするわけがないだろう」


「そうか、俺の気のせいか。それにしても今年は()()ら陽気が続いているな。俺の()()ら始めているバイトもお陰さまで順調だし」


「くっ、そうだな春から過ごしやすいな」


「そうだよな。こんな陽気なら()()いや川沿いで日向ぼっこでもしたいもんだ。ああでも間違って()()いや川沿いで足を踏み外して落ちでもしたら、みんなを悲しませるもんなー」


「おっ、おう。そうだな。悲しむよな」


今度は春香の名前と苗字を揶揄して、浩也は攻め立てる。すると朋樹はついに観念したのか、浩也に話しを切り出す。


「あーそうだ、浩也には伝えたい事があるんだった。俺、今度女子と付き合う事になったから」


「ええーっ、朋樹が女子とつきあうだってーっ、まっマジかーっ」


いささか大根がすぎる役者っぷりで、浩也は大仰に驚いてみせる。するとクラス内にいた生徒が一斉に2人の会話を注視する。特に女子の注視っぷりは半端なかった。浩也はそこであえてより多くの情報を開示しようと、驚いた表情で質問を投げかける。


「おっおい、朋樹、相手は誰なんだーっ」


「中学の時の同級生でお前も知っている奴だ」


「ええーっ、中学の同級生で俺の知っている奴だってっ、この学校の生徒なのかっ」


朋樹も浩也の思惑を知ってか、あえて遠回しに答えを告げる。それに対し、浩也が知っている中学の同級生という事で、なぜが理緒に女子の視線が集中する。理緒は先ほどまで完全に外野で、浩也がなにやら面白そうな事をしているのを見ていたが、いきなり自分に注目が集まった事で大慌てで「私じゃないっ」と否定の言葉を述べている。完全に流れ弾が当った格好だ。


「いやこの学校の奴じゃない。藤女の生徒だ」


「藤女の生徒だってー、もったいぶらずに教えてくれ、相手は誰なんだっ」


「川添春香、お前も知ってるだろ?サッカー部のマネージャーだった」


「ああ、川添春香かーっ。ああ、中学の時からお前ら仲良かったもんなーっ」


「まあな、昨日告白してOK貰った。ふーっ、浩也に報告できて良かったよ」


朋樹はそこで漸く安堵の吐息を漏らす。後は野となれ山となれである。浩也はその表情を見て、フッと笑みを零し朋樹を祝福する。


「ああ、俺も嬉しいよ。おめでとう、朋樹。結婚式には呼んでくれっ」


「気が早いっ、まだ手も繋いでねーわっ」


「はははっ、いやー、朋樹がいち早く大人の階段を登るのかー。羨ましい、いやー妬ましい」


そうして漸く大根芝居が終わった事を受けて、二人は普段の掛け合いに戻ると、そこにまず流れ弾があたった理緒が2人に駆け寄ってくる。


「ちょっと、ちょっと、何?今の話?川添春香って、あの春香?」


「ああ、あの春香だ。昨日から付き合う事になった」


「えーっ、うそ、おめでとー。春香良い子だから大事にしなくっちゃ駄目よっ」


朋樹の肯定の言葉を聞いた後、理緒は直ぐに満面の笑みになり、素直に祝福の言葉を言う。朋樹もあまりに素直に祝福された事でテレた笑みを浮かべる。すると今度は孝太が朋樹の元にやって来る。


「うおー、朋樹、漸く付き合い始めたかー。これでおおっぴらにイケメン売却済みを喧伝できるな」


「はぁ、まあ程ほどにしてくれ。俺も女子とは初めて付き合うから、上手くやれるかわかんないしな」


「まあそこは大丈夫だろ。春香ならのんびりした奴だし、朋樹にも合うと思うぞ」


すると孝太と浩也の発言を聞いて、理緒が怪訝な顔を見せる。


「あれ?中川君ってこの事知ってたの?それに浩也も春香って、そんなに仲良かったっけ?」


そんな理緒の突っ込みに、孝太がボロを出す。


「いやーっ、そう言えばこの前そんな話を聞いたような、聞いてないような、なっ」


「いや、なって言われても」


そんな孝太の強引な振りに、ただ今絶賛疲労困憊の朋樹は口籠る。すると浩也は、しれっと追撃を躱そうとする。


「俺は男同士の会話だと、たまに名前で呼んだりするな。ああ、今のは朋樹につられただけだが」


そう平然と言ってのける浩也を怪しむ様に理緒は見る。確かにありそうな話だし、浩也と春香は元々サッカー部で一緒だったのだ。でも女の勘が警鐘を鳴らす。


「ねえ浩也、春香と最近会ったのっていつ?」


「ん?いつだったかな?もう随分会ってないような」


「ダウト!浩也が春香に会うなんていったら、卒業以来でしょう?ならそう答えればいいのに、惚けるなんて誤魔化そうとしているに決まってるわ。中川君もグルなんでしょっ、アンタ達洗いざらい吐きなさい!」


「くっ、妙なところで勘のいい奴め」


浩也は余り長期戦になるとこちらが不利になると判断し、悪態を吐く。逆に青い顔をしたのは、朋樹だ。きっかけは集団デートであり、陽子には理緒に悪いからと内緒を条件に春香を交えての集団デートだった。なので簡単にゲロった浩也を見て思わず声を上げる。


「あっ、浩也馬鹿っ」


「おや?これはもしかして藤田君も一枚噛んでる?」


「あっ、いやそのなんて言うか・・・」


朋樹はしまったとばかりに、言い淀む。


「ふふふっ、これはどうやら面白い話が聞けそうね」


理緒はそう言って不敵に笑みを浮かべる。


『あーこれは面倒くさい奴だ」


浩也は内心で溜息を吐く。そうしてその後、昼休みの終わるまでの間、3人は理緒への説明に紛糾するのであった。なお、この理緒の追及が朋樹の彼女に対する追及の邪魔になった事で、その後理緒は女子達に平謝りするハメとなった。




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