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第二十三話

今回は恋愛感に関するお話。陽子はまだ恋愛に目覚めておらず、これからどうしようか、悩む存在です。

「と言う訳で俺は今、陽子に愚痴られている訳か」


「そうそう、もー、春香ったら往生際が悪いんだからっ」


そう言って陽子は憤然とした表情で、春香に文句を言う。浩也はそれを聞いて、なんだか可笑しくなる。


「はははっ、やっぱり陽子は損な役回りだったな。まあ、ある意味キューピッドか。ようは最初からお互いその気だったっていう事だろ?朋樹にもついに彼女が出来たか」


「フフフッ、まあそうね。学年一のイケメンだった朋樹君を射止めちゃうんだから、春香もやるわよね。でも男子と付き合うなんて、私なんか想像も出来ないけどなぁ」


陽子もつられるように笑顔を見せるが、少しだけ考え込むように、アンニュイな雰囲気を醸し出す。浩也はそれを見て、率直な感想を漏らす。


「陽子ならその気になれば、彼氏の1人や2人見つけることもできるだろ?まあ女子高だからそうそう出会いもないかもだけど、そう言えば、藤高と仲良いんだろ?」


「へー、浩也君良く知ってるね。確かに藤高の子とよく合コンなんて話聞くけど。私は知らない男子といきなり遊びに行くとかハードル高いし、あんまり興味がないわね。そう言えば、めぐのお兄さんが藤高でちょっと有名人なんて話聞いたなぁ」


藤高とは陽子達が通う藤宮女子高等学校と双璧をなす、地域で偏差値の一番高い男子校だ。正式名称は藤ヶ丘男子高等学校。ちなみに浩也達が通う海生高校はその二つより少し偏差値は落ちるが、共学では地域で一番の偏差値を誇る。なので、男子校、女子高が嫌で海生高校を受ける生徒は意外に多い。その反面、同じ男子校、女子校と同性しかいない高校同士は意外にも仲が良く、生徒会や文化祭などでも意外に交流があったりする。


「あー、めぐみはお兄ちゃんがいるって言ってたっけ。ちなみになんで有名人なんだ?」


「なんでも凄くカッコいいらしいのよ。なんかモデルみたいって話。でもめぐはあんまりお兄さんの事話したがらないんだけど」


「ブラコン的な意味でか?大好きなおにいちゃんを取らないで的な?」


「ハハハッ、ないない。めぐそんなキャラじゃないわよ。理由はわからないけど、話したがらないなら、深くは突っ込めないしね。それにそこまで興味もないし」


浩也も別にそこまでの興味はない。まあ朋樹みたいな奴だろうと勝手に想像だけしておく。やはりモテる奴はモテるのだ。とは言え、浩也は陽子が男子に興味を示さない事にむしろ興味を覚える。なんか理緒といい、陽子といい、随分と勿体無い話だ。


「まあ俺もイケメンにそこまで興味はないけどな。むしろあると言ったら、朋樹との仲まで疑われかねん。とは言え、陽子はならどんな奴なら彼氏にしてもいいって思うんだ?」


「えー、私?うーん、どうなんだろ?」


そこで陽子は考え込む。そもそも恋愛を意識した事がないのだ。例えば今、陽子にとって一番仲の良い男子というと目の前にいる浩也だ。じゃあ浩也と付き合いたいかというと、正直わからない。浩也に好きだと言われて付き合いたいと言われれば、考えるかも知れないが、自分からどうこうしようとまでは思わない。仮に、浩也が理緒と付き合い始めたと聞いても、なんか笑顔で祝福できるような気がするのだ。まして他の男子と、と言うと全く想像がつかない。


「強いてあげるとすると浩也君かなぁ」


「へっ?」


浩也は思わず変な声を漏らす。


『何だって?陽子の好みが俺?』


浩也は訳が判らず、陽子が次にいう言葉を待つ。陽子は陽子で自分の考えに没頭しているのか、自身の意味深な発言に全く気付いた素振りを見せない。


「うーん、今私が一番仲のいい男子って、浩也君でしょ?まあ別に付き合いたいとか、好きって感情があふれ出てるわけでもないから、恋愛感情かって言われると微妙なんだけど、一緒にいて楽しいとかで言うなら彼氏にしてもいいのかなって思う感じかしら?」


浩也は自身への微妙な評価から思わず安堵するも、あまりに微妙な言い回しになんとも言えない表情になる。


「なんか喜んでいいのか判らない評価のされっぷりだな。すげー消去法的な」


「だって私付き合ったことも、男子が気になった事もないもの。だからどう言う基準で選んで良いかなんてわからないのよ。しかもお姉ちゃんを見てるとね。うちのお姉ちゃん大恋愛の末の結婚で、子供出来て直ぐ離婚しちゃったから。それでいて人には、恋愛はいいよだなんて言うんだよ。まったく、本当、良くわからないわ」


どうやら陽子の恋愛感が微妙になった原因は姉の影響もあるらしい、浩也は思わず苦笑いをする。


「まあ恋愛に関する考え方は人それぞれか。一瞬陽子に告白されたかと思って、ビックリしたよ」


「へっ?えーっ、いやそんなつもりはないのよ、本当よっ」


「いや、そこまで否定されると、それはそれで傷つくんだが」


陽子は自分の発言を思い返して、慌てて否定するが、それはそれでと浩也は苦笑いを継続する。


「あっ、いや、そのごめんなさい。ちょっと自分の考えに没頭しちゃって。でも付き合うなら浩也君でってそれを言うと告白みたいになっちゃうし」


動揺が収まらない陽子は、引き続き妙な事を口走る。ただそんな陽子を見て、浩也は思わず吹き出してしまう。


「くっ、あははっ、いやいいって。陽子が真面目なのはわかったから。まあ陽子に嫌われていないってのは伝わったからそれで良いよ」


「ううーっ、もう、そういう浩也君はどうなのっ?どんな娘なら付き合ってもいいって思うのっ?」


自分の動揺を笑われた陽子は思わず顔を赤くしながら、今度は浩也に問い詰める。すると浩也は浩也で思案顔になる。


「付き合う?彼女?うーん」


そういえばと浩也は考え込む。浩也は余り女子と付き合いたいと考えた事がない。例えば有里奈や理緒、目の前にいる陽子など、仲良くする女子はいるのだが、身内枠であったり、女子と思って接してなかったり、からかいがいのある奴だと思っていたりといまいち色っぽい想像をする事が出来ないでいた。それらの女子は好きか嫌いかで言えば、好きなのだろうが、二人っきりでイチャイチャしたいとかで言えば、想像できない。勿論、浩也も健全な男子高校生なのだから、そういう方面に興味がないわけではないが、身近な女子に対しては正直ピンとはこなかった。


「えー、浩也君?そこまで悩む事?」


陽子は急に黙り込んでしまった浩也の顔を覗き込むと、少し呆れを含んだ声を出す。自分の事を棚に上げてだが、流石に悩みすぎだろう。


「いや、さっぱり想像がつかない。そもそも付き合うって何だ?」


「えー、そこから?そうね、例えば、デートしたりとか、手を繋いで歩いたりとか、後・・・チューしたりとか?」


陽子は最後の言葉のところで、顔を真っ赤にさせ、妙に小声になる。しかしさっきまでの陽子と同様に、今度は浩也が考えに没頭しており、そんな陽子のテレに気付かない。ちなみに浩也はそう言えば、有里奈や理緒とは手を繋いだり、デートしたりはあるなぁなどと思っている。ただ流石にチューはないか。


「んー、チューか。流石にそれは付き合わないとないか。ああ、ちゃんと好きあってないと駄目か」


「ふぇっ、そっそれはそうだよっ。ファーストキスは好きな人としないとっ」


「ファーストキスかーっ。そういえば小さい頃にされた覚えがあるが、それはノーカンか?その頃だと好きとかじゃないもんな」


「ええーっ、浩也君、小さい頃って、誰とキスしたの?」


そこで陽子が妙な食いつきを見せる。浩也は有里奈や由貴姉、そして酒乱だった養護教員の二ノ宮先生を思い浮かべるが、その中で話して一番無難な人選を説明する。


「家の従姉の友人で酒乱の人がいてな、その人に抱き枕にされた後、キス攻撃をすげえされた。ああ、あれは今思えばいい思い出か?」


「なんか想像してたのより斜め上の回答なんだけど。なにその酒乱って」


陽子はやはり色恋が想像しにくい展開にガックリと肩を落とす。


「はははっ、すまんな。期待に添えなくて。まあ俺も恋愛は良くわからん。せめて誰か好きとでも言ってくれれば、真剣に考えるかもしれんが、この17年間、告白された事は一度もないからな。まあ縁がないと思って諦めるさ」


これが浩也の正直な感想だった。例えば大事だという感情なら有里奈には感じる。一緒にいて楽しいとか好感が持てるとかなら、理緒や陽子にも感じる。ただ自分だけのものにしたいという感情まではわかない。将来彼女達がもしも万が一、浩也を好きだという感情を持ってくれたなら、付き合うという未来もあるのかも知れないが、まあそこまでは妄想が過ぎるというものだ。


「まあ私達って結局、恋愛には縁遠いのかもね。このまま一生彼氏なしなんてのも、それはそれで悔しいけど」


陽子は変なところで悔しがったりしているが、浩也はそれを笑い飛ばす。


「陽子は素のキャラ出したら間違いなく、モテると思うぞ。孝太も可愛いって言ってたしな」


「ふんっ、あれは可愛いんじゃなくて、楽しいでしょ。浩也君のいじめっ子っ」


「いじめっ子って、それも可愛いなぁ」


「ううー、もうやめてーっ」


陽子は再び顔を赤くして、テレまくる。これはこれで陽子を掘り下げないと見られない光景なのだが、浩也は意識せずに見られる事に気付いていなかった。


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