第二十話
これで理緒デート編は終了。次回は理緒の閑話をはさむ予定です。本編はGW明けに更新かと。
その後2人は夕暮れ近くなるまで、アトラクションを乗り倒す。浩也にしてみれば、男子と変わらないペースで乗り物を乗り続けてもあっけらかんとしている理緒をついつい連れまわし、理緒は理緒でやはり日頃の鬱憤がたまっていたのだろうか、本当に楽しそうに乗り物で絶叫を上げていた。結局、あれだけビビッていた『神風』その後、二回も乗りに行き、お互いゲラゲラと笑いあった。
遊園地の閉園は夜の9時までで、ラストには花火もあがるとあったが、浩也は流石にそこから家に帰るまでのことを考えると流石にそれは見れないと考えていて、そろそろ帰ろうかと理緒に言う。
「理緒、そろそろ帰ろうか。流石に閉園まではいないだろ?」
「うーん、ならさ、最後にアレ乗ろうよ、デートの締めっぽくない?」
理緒が指差した場所には大きな観覧車がゆっくりと回っている。今はまだ日が落ちきっているわけではないので、丁度夕焼けを見るのは、眺めが良いかもなと浩也も思い、それに同意する。
「今なら良い時間かもな。なら、あれが締めだな。ん?そもそも締めで良いのか?」
「んーもう、細かい事気にしなくて良いの。ほら行くわよっ」
理緒はなにやらくだらない事で引っかかり始めた浩也の手を引いて、ぐいぐいと観覧車に向かっていく。
「あっ、おい、ったく、自分で変な事言ったくせに」
浩也は少し不満気な表情を見せるが、それに余り執着せずに理緒の隣へと並んで歩く。程なくして2人は観覧車の列までたどり着くと、その最後尾に並ぶ。
「おっ、思ったより空いてるな」
「そうね、これならすぐ順番きそうね」
列は思ったより並んでなく、浩也達の前の人たちは10組程度しか人はいない。ただそこに並んでいるのはほぼカップルで、一組だけ子供を連れた親子だが、後は全て若い男女のカップルだけだった。浩也は何気なくその列の人たちを眺めながら、理緒に言う。
「なんか、並んでるのカップルばっかだな。あー、今日は俺達もカップルか」
「そうよ、どっからどう見てもカップルじゃない」
理緒はそう言って、ニヤリとしながら繋いだ手を持ち上げる。そう言えば、今日は結構ずっとこうして手を握っている気がする。勿論離して歩く瞬間もあるのだが、気がついたら、浩也は手を握られていた。
「ああ、そうだな。見た目にはそう見えるか。この人達の中にも、俺らみたいな変な事している奴もいるのかね」
ぱっと見はどのカップルも仲良さそうにしか見えない。中には年齢が合っていないカップルもいるが、歳の差カップルも今ではそう珍しくもない。とは言え、高校生の自分では凄い年上も、凄い年下も当然ながら余り興味はない。ただどのカップル(場合によっては夫婦なのかも知れないが)も自分達のような本当は友達なのにカップルの振りをしているようには見えなかった。
「変な事とは失礼ね。今日は本当にカップルでしょ。少なくとも今日の私は浩也の彼女気分だわ」
理緒はそう言って、腰に手を当て踏ん反りかえる。まあ偉そうにされる理由もないのだが、と浩也は思うが、口にはせず、順番が来たため、ゴンドラへと乗り込む。
「ほら、順番だ。そう言えば、こういうのって、向かい合って座るのか?並んで座るのか?」
「わっ、もう浩也立ち止まらないでよ。取り敢えずさっさと乗って」
2人は慌ててゴンドラに乗り込みと、向かい合わずに、並んでゴンドラに座る。浩也が前や後ろのゴンドラを見てみると、前は向かい合って、後ろは浩也達と同じく隣り合って座っており、どうやら人それぞれで正解はないらしい。
「なんだ、どっちでも良いのか。悩んで損した」
「浩也って変なところで躓くよね。そんなのどっちだって良いのに。多分だけど相手の表情が見たい人達は、向かい合って、相手に触れ合いたい人達は、隣り合って座ってるんじゃないって、私達は流れだからねっ」
「はいはい、まあどっちでも良いけどな」
浩也は余り関心がないかのように、そっと外を眺める。丁度、時間が良いようで、日が沈みかけた赤い夕焼けが窓の外に広がり、優しく理緒と浩也を照らしている。浩也はその夕焼けを見てほっと力を緩めた笑顔になる。
「それにしても今日は一日遊び倒したなぁ。こんなに遊び倒したのは、随分久しぶりだよ」
理緒は浩也のその優しい笑顔に少し見蕩れながらも、同じ感想を漏らす。
「うん、ホント目一杯遊んだよね。凄く楽しかったっ」
「ははっ、それはお互い様だけどな。まあ、理緒とだからこんなに楽しかったんだろう」
浩也は、ここまで乗り物を乗り倒せたのは、理緒だからだと思いそういうと、何故だか理緒が慌てふためく。
「ふぇっ、え、どういう事?私だからって」
浩也は何故慌てふためいたのか不思議に思いつつも、正直な本音を伝える。
「理緒以外の女子だったら、ここまで乗り物を乗り倒せなかったろう?」
「あっ、あーっ、そうだよね。そう、浩也はそう言う奴だった」
「ん?なんか変な事言ったか?」
「いいえ、何でもありませんー。あっ、そうだ。浩也に一つ聞きたい事があったんだ」
理緒は一瞬不満気な表情を見せた後、直ぐに気を取り直して、浩也に質問する。
「浩也って、3年生になったら、文系?理系?」
「なんだいきなり話が変わったな。理系、文系?それなら多分文系だな」
「えっ、そうなの?浩也、理数系得意じゃなかったっけ?」
理緒は自分の予想が外れたのに驚いて聞き返す。
「ああ、得意科目はな。ただやりたい事は違うから、受けるのは文系だな」
「浩也何かやりたい事あるの?」
「ああ、あーでもこれまだ誰にも言ってないから、まだどうなるかもわかんないし、取り敢えず内緒」
浩也は少し困ったような顔をし、はぐらかす。しかし話を振った相手が理緒という事に、半ば諦めた気分になる。このまま黙っているはずがないのだ。
「浩也、今日の私は浩也の何かな?」
「うっ、い、いや」
「もう一度聞くわよ。今日の私は浩也の何?」
「くっ、彼女です」
「はい、良く出来ました。では質問です。浩也は彼女に隠し事をするような彼氏ですか?」
「いや、ちょっと待て、それとこれとは話が別・・・」
「質問を繰り返します。浩也は彼女に隠し事をするような彼氏ですか?ちなみに返答次第では、今日のことを周囲のみんなに洗いざらい話させていただきます。ええ、洗いざらい、こうして手を繋いでいることも、ホラーハウスで抱きしめられた事も、ええ、洗いざらい」
「なっ、理緒、お前、そんなことしたら、どんな噂が立つかわかったもんじゃ・・・」
「ええ、それはもう色んな噂が立つ事でしょう。あーでも、まあ私的には、それでも良いけど。別に彼氏作る気無いし、聞かれたら浩也のある事ない事話せば良いし」
「ちっ、あーしまった。つい話すんじゃ無かった。まあいいよ、まだ自信もないし、色々考えているところだから、内緒だぞ。理緒にしか話さないんだからな」
浩也はやはりこうなったと、半ば諦めの表情で理緒に内緒であることを要求する。理緒は少し申し訳ない気分になり、ちょっと弱気になる。
「えっと、そんなに言いたくないんだったら良いよ。知りたいけど無理やりは嫌だし」
浩也はそれに対し、優しい微笑みを浮かべて、首を横に振る。
「まあそんな気にするな。今言ったようにどうなるかわからないからな。俺のやりたい事は、将来自分の店を持ちたいんだ」
「ふぇ、お店?」
「ああ、今のバイト先って、俺の従姉夫婦が始めた店で俺もオープニングから色々手伝いをしてて、その時に自分の店を持ちたいなって漠然と思っててな。まあ家の両親の家系はみんなサラリーマンだから、店を持つなんて親族ではその従姉夫婦くらいだから、まだ正直どうなるかわからないんだけど」
「お店ってイタリア料理の?」
理緒は浩也が思った以上にちゃんとやりたい事を考えているのに、戸惑いながらも、ふと疑問に思った事を聞いてみる。
「いや、何の店かは決めてない。取り合えずは大学で経営学部があるところに入ろうかと思っているけど」
「経営学部?」
「ああ、経済学部は結構どこの大学もあるんだけど、経営学部はそんなに多くないんだよな。まあ、そこに入って経営を学びつつ、何の店をやりたいかをじっくり考えて、場合によっては海外留学とかもして」
「ええっ、海外留学?」
「それも同じでいけたらな。まあイタリア料理も興味はあるから、そっち系で修業って線もあるし、まあその辺はまだまだ先の話だ。今は、直近だと受験だな。行きたいところへ行けるだけの学力は維持しておかないと」
浩也がそこまで話をしたところで、ゴンドラの扉が開き、浩也は理緒の手をとって外へ出る。そして2人はそのまま出口を目指して、のんびりと歩き始める。
理緒はさっきまでの浩也の話を聞いて、浩也を少しだけ遠い存在に感じる。いや今この瞬間の話ではなく、もう少し先の決して遠くない未来。勿論、それまでに理緒はチャレンジしなければいけない。今こうして並んで歩いているように、今日のような魔法の一日ではなく、この先ずっと一緒にいられるようにする為のチャレンジを。もしせずに、自分が知らぬ間に浩也が誰かと共に歩くと決めてしまったらどうだろう。それは、多分、一生後悔をする。だからその選択はない。チャレンジして振られたら、多分、物凄く悲しい。でもその後の後悔はきっとない。痛みを乗り越え、新しい人生を歩いていけるのだ。
『今、告白したらどうなるんだろう?』
理緒はそっと浩也の表情を盗み見る。いつも通り整った顔立ちに今は、優しげな雰囲気を纏っている。うぬぼれではなく、自分といる事で見せてくれた表情だ。でも、まだ自信はない。自信が持てるはずがないのだ。だから今は我慢する。
「ねえ浩也、受ける大学決めたら教えてよ。私もそこ受けるから」
「ん?良いけど記念受験か?」
「むーっ、文系なら私成績良いもん、駄目なのは理数系。どうせなら同じ大学の方が楽しいじゃん」
「なら理緒の学力で届かない学校を受験しよう。能力の違いを思い知らせてやる」
「くっ、ちょっと私より成績良いからって、調子乗らないでよっ。だいたい浩也って・・・」
そうやって2人はいつもの雰囲気にもどる。それも理緒にとっては捨てがたい大切な瞬間なのだ。




