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第十九話

明日も投稿は出来そうです。理緒デートに例のあの人が出て来ますが、まだまだ本格的な絡みは先ですね。ちなみに理緒デートは次回で終わり、その後閑話を挟む予定です。理緒が浩也を好きになるきっかけのお話です。

暗い建物の中、足元だけが僅かに進行方向を示している。恐らく浩也達より先に入った組だろう。野太い男の声で「うぁっ」だの「まじヤベえっ」だのの声と甲高い女子の声でやたら「キャーキャー」いうのが木霊している。浩也は余りこの手のものに恐怖心はない。元々霊感とかがある家系でもない為、むしろ好奇心が湧く方だ。去年の夏休みには、中学時代の友人達と、勿論男子だけだったが、地元で有名な心霊スポットに、夜、探検しに行くというツアーをしたが、あれもその雰囲気を味わいにいくようなもので、現地に行ってもやはり恐怖心は湧かなかった。


「あのー、理緒さんや。もしかしてこういうの駄目?」


浩也は自分の左手を両手で抱え込んで離さない、理緒を見てそう言う。


「へ、平気だからっ。ちょっ、ちょっと寒いからくっ付いているだけだからっ」


理緒はそこで無駄な強がりを見せる。明らかに涙目で小動物さながらにしがみ付いている理緒に、浩也は苦笑しながら、取りあえずは好きにさせる。浩也としては、しがみ付かれた左手に感じられる、理緒の柔らかな感触が少し困ってしまうのだが、無理に引き離すと恐慌をきたしかねない。仕方がないので、そのままにさせているが、一応高校2年の男子としては悩ましい問題である。


「はぁ、畏まりました。寒いだけ、寒いだけですよねって、うわぁっ」


浩也はそこで首筋に冷たいものが当った事で、思わず声を上げる。古典な手だかいきなりやられると流石にびっくりする。ただ当のやられた浩也より、しがみ付く理緒のほうが、恐慌をきたす。


「ひゃ、なに、浩也、どうしの、やだ、キャーッ」


浩也は先ほどの幸せな感触が理緒の全力の抱きつきにかわったことで、痛みへとかわる。


「いたっ、痛い、ちょっとまった、理緒、力を緩めろーっ」


浩也は痛みに思わず叫び声をあげるが、恐慌をきたした理緒にはその声が届かない。


「やだ、駄目。浩也、離れちゃ駄目っ」


理緒はより一層浩也の腕に抱きつく力を込める。浩也は流石にこれ以上は腕が折れるとばかりに、強引にその手を引き抜く。


「ああっ」


理緒の恐怖に慄く声が漏れると、浩也はそのまま理緒を抱きしめる。


「どうどうっ、落ち着け。所詮、全部作り物だから」


浩也は理緒が落ち着くように優しく抱きしめながら、声をかける。理緒はふと我に返ると、なぜか浩也に抱きしめられている事に気付き、そのぬくもりに不思議と安心感を覚える。と同時に嬉しさと恥ずかしさでさっきまでとは違う意味で動揺する。


「ひっ浩也、抱きついてる、抱きついてるよっ」


浩也はそれを見て、漸くまともになったかと思い、そっと抱きつく手を離す。


「あっ」


理緒は離れてしまった事に思わず、残念な面持ちで吐息を漏らすが、浩也はそれは気にせず、落ち着いたであろう理緒の手を握りなおして、優しく言葉をかける。


「漸くまともになったか、腕が折れるかと思った。苦手なのに連れてきたのは悪かったが、それならそうと最初から言ってくれ。とは言え、もう入っちゃったからには、最後まで行かないとな。大丈夫、俺が理緒を守ってやるから、手を離さずついて来い」


「う、うん。ごめん、ありがとう」


浩也はふと笑みを零すと、理緒の頭を軽く撫でる。


「気にすんな。誰にだって苦手なものくらいあるだろう。それに今日は彼氏だからな。少しは良いところ見せないとな」


理緒はそこが比較的暗がりで、良かったと思った。恐らく明るいところにいたら、今自分の顔が茹でダコ状態だというのがばれるところだった。理緒は外に出る前に茹でダコ状態を何とかしないとと思いつつ、明るい声を出す。


「なっならお願いね。彼氏君、私を守ってね」


「はいはい、賜りましたお嬢様」


そう言って、浩也と理緒は暗い建物の中を手を取り進み始めた。


結局、そのホラーハウスは非常に優れたもので、理緒の赤くなった顔もすぐ青ざめる事になる。何より単純な造形物だけのものであれば、その恐怖は耐え切れたと思うが、何より効果的な場所で、人が脅しにかかってくる。音や物以外に脅されれば、流石に驚く。結局、理緒のメンタルは長いこと続かず、且つ効果的に脅された事で、既にボロボロだった。浩也的には、そろそろ脅しにきそうだななどと穿った楽しみ方をしていたので、勿論脅されればびっくりするのだが、それで恐怖心が煽られることはなかった。とは言え、今、ベンチの隣に座る理緒は、明るい場所にも関わらず、未だ浩也の右手をがっちりホールドしている。浩也はそれに苦笑して、理緒に声をかける。


「理緒、そろそろその手を離してくれ。ちょっと飲み物でも買ってくるから」


「うっ、すぐ帰ってくる?」


「ほらそこの売店で買ってくるだけだから、姿も見えるだろ。お前は幼児か」


「ふん、浩也の意地悪。ふーっ、よしっ。良いわよ、行って来て」


理緒は意を決したように気合を入れなおし、何とか浩也の手を離す。


「別に気合をいれることもないだれろうに、で、理緒は何を飲む?」


「コーラ」


「はいよ、了解。じゃあ、行って来るわ」


浩也は少し呆れ顔で、一声かけて売店へと向かう。売店は比較的混んでおり、浩也が並んでいる列の最後尾に取り付いたところを眺めつつ、理緒は少し、ボーッとする。


『今日の私はかなり大胆だ』


かなり浩也に甘えている。かなり浩也が甘やかしてくれる。ずーと手を繋いでいるし、その手に抱きついたり、さっきは自分を落ち着かせる為とはいえ、抱きしめられもした。あっ、髪も優しく撫でられたっけ。そう思い出すと少しその頬が赤くなる気がするのがわかる。正直、嬉しすぎて、楽しすぎて、仕方がない。でもそれが今日一日だけだというのが、堪らなく切なくなる。理緒は少しだけ胸の奥に痛みを感じながら、そんな事を考えていると、不意に目の前にいたカップルから声をかけられる。


「あー、ベンチの反対側座ってもいい?」


声をかけてきたのは男子の方で、イケメンといって差し支えない甘いマスクの男子だった。年上だろうか、でもそう歳は離れていない気がする。背は浩也より少し低いくらいだろうか、グレー調のニットのジャケットにスキニーの黒いパンツで頭にはお洒落な帽子を被っている。一見モデルにもなれそうだなーなどと理緒は思っていた。


「あの?」


「ああっ、すいません。どうぞ、反対側なら大丈夫ですっ」


理緒は慌てて問題ない旨を伝えると、そのカップルは男子だけ腰を下ろす。


「じゃあ和輝、私トイレに行って来るね」


「んっ、じゃあ俺はここで待ってるよ」


女子の方は、そう言って、その場を立ち去ってしまう。女子の方も男子に負けず劣らずの美人でその姿も少し大人びた印象で、この2人の場合、何となく遊園地デートが似合わないなぁなどと、理緒は考えていた。そしてあんまり、そっちばかり気にするのも失礼だなと思い、理緒は売店の方に目を向けると、不意にさっきの男子から声がかかる。


「ねえ君は、友達と遊びに来たの?」


「ふぇっ、わっ私ですか?」


「ああ、ごめんごめん。急に話し掛けちゃって。びっくりさせたかな。連れが戻ってくるまで暇だからついね」


「ああいえ、えーと今日は彼氏とデートです。今売店で飲み物を買いに行っていて」


理緒は驚いてしまった事につい恥ずかしさを覚つつも、少し警戒心もあってか、彼氏とデートと言ってしまう。


『うんでも、嘘ではないよね』


そんな理緒の内面を当然目の前の男子は気付く事もなく、普通に相槌を打ってくる。


「へー、それはその彼氏は羨ましいね。君みたいなかわいい女子と一緒にいられるんだから」


恐らく彼みたいな所謂イケメンにそうやって褒められれば、思わず顔を赤らめる女子もいるのだろう。ただ理緒のように浩也は勿論、藤田朋樹のようなイケメンに慣れていると、逆に警戒心しか湧いてこない。


「はあ、ありがとうございます。それを言うなら、お2人なんかはお似合いのカップルだと思いますけど」


と先程見た少し大人びた美女を思い浮かべる。


「ああ、僕らはただの友達で、付き合ってはいないよ。今日は偶々お互い暇で、割引チケットもあるから遊びに来ただけだし」


「へー、そうなんですね。お2人とも素敵なので、てっきりお付き合いしているのだとばかり思いました」


理緒は正直、彼らが付き合っているとか付き合っていないとかどうでも良かったが、理緒に絡まれても面倒だなと思い、あえて2人の関係を前面に押す。理緒はそれこそ中学に入ってから現在に至るまで、様々な男子に色々な形で告白なり、誘いなりをされてきた。そういう意味で男子の口説こうとする気配には敏感だ。まあ目の前の男子が、本気でどうこうしようという気がないのはわかるが、予防線を張っておいて損はない。


「いや、彼女には一応彼氏がいるんだよ。まあ最近上手くいっていない的な事は言っていたけどね。だから今日は、気分転換と、相談を兼ねてといったところでね」


「へーなら、別れた後がチャンスなんじゃないですか?」


「ハハハッ、ないない。彼女はタイプじゃないし、相手も僕のことはタイプじゃないよ。だからお互い上手く友達付き合いが出来る」


「へー、なんか大人なんですね」


「そんな事ないよ。むしろ僕の好みと言えばっ」


「おーい、理緒」


その男子は理緒の合いの手に気を良くして、いよいよ理緒に絡もうかというところで、浩也が理緒の元へと戻ってくる。理緒は内心ほっとして、満面の笑みで浩也を出迎える。


「浩也、ありがとう。お店結構混んでたね」


「ん?ああ、小さい子がアイスどれにするか迷っててな。周りの人もつい微笑ましくて、それで時間食ってた。それより知り合い?」


そう言って、浩也は反対側に座る男子に目を向ける。なにやら理緒と話をしていたみたいなので、少し気になったのだ。


「ううん、今日初めて会った人。彼女さんが今トイレに行っている間に、少しだけ話の相手をしていたの」


「ふーん」


と浩也が返事をして、話しかけたほうが良いのかどうか迷っているところで、相手のツレの女子が戻ってくる。


「和輝、お待たせーって、どうしたの?」


その女子は何やら不満気な表情の自分のツレに少し訝しげな表情を見せる。しかしその彼は、すぐに表情を戻すと、理緒に向かって笑顔を見せて言う。


「さっきは話相手してくれてありがとう。またどこかで会ったらよろしくね」


そうだけ言うと、その女子を連れだってその場を離れていく。浩也は何故だか隣の女子にごめんねとばかりに目配せをされたが、何がなんだかチンプンカンプンだ。


「理緒、なんだありゃ?」


理緒は思わず苦笑いをし、浩也にわかる事実を一つ教えてあげる。


「ようは浩也が彼氏で私を守ったって事よ」


理緒はそう言って、再び浩也の手を握りしめるのだった。


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