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第十八話

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理緒とのデート2話目。少し文字数が少ないですが、仲良しな2人を楽しみ下さい。


ちなみに明日の更新はお休みになります。

そして10時半を過ぎる頃、2人は漸く入場口の前にへとたどり着く。


「じゃあ理緒、中に入るか。ちなみに何から回ってく?いきなりメインディッシュのジェットコースターに行くか?それとももう少し優しげな乗り物からにするか?」


「何でアトラクション乗り倒す気満々なのよ。でもやっぱ人も多いから、乗りたい奴から回ったほうが良くない?」


既に乗り物を乗り倒す気満々の浩也に対し、少し冷めた目で理緒は言う。しかし浩也はそれをあえて無視して言う。


「なら決まりだな、国内最大級の「神風」からにしよう。今からなら30分待ちくらいでいけるらしいぞ」


「う、うん。いいけど。それそんなに凄いの?」


浩也はスマホで遊園地のサイトを検索し、待ち時間を確認した後、そう理緒に言うと、理緒からちょっと怖気づいたような声が上がる。


「なに、作られた当時は国内最大だったらしいが、今は最大級だ。俺は乗ったことはないが、朋樹が昔、乗ってトラウマになったとは言っていたな。まあ中学の時の話だし、高校生の俺らなら大丈夫だろう」


「浩也、もう少し穏やかな奴から慣らそうか、ほらっ、いきなりメインディッシュじゃ後の楽しみ無くなっちゃうしっ」


完全にしり込みしだした理緒を尻目に、浩也は意気揚々とした笑顔を見せる。理緒が見た中では今日一番の笑顔だ。ただし理緒が好きな奴じゃない。


「諦めろ、楽しかったら2,3回乗っても良いしな。ほら行くぞっ」


浩也はおもむろに理緒の手を握ると握り方を恋人繋ぎにし、歩きだす。


「浩也、手っ、手っ」


いきなり手を握られた理緒は、慌てて浩也に声をかける。浩也は握った手を見て、不思議そうな顔をする。


「ん?手がどうした?」


「えっ、だって、どうして繋いでるの?」


「ああ、だって今日彼氏だろ?手ぐらい繋がなきゃ、それっぽく見えないんじゃないか?それともやりすぎか?」


浩也にしてみれば、自分で言ったくせになに言っているんだと思うくらいである。理緒も「ああ」とちょっと忘れてた事もあり、恥ずかしそうに言葉を零す。浩也はそれを見て、ああこれはやりすぎたのかと思い手を離そうとする。


「あっ、駄目。離しちゃ、恋人、そう恋人っぽくしなくちゃね。うんうん、じゃあ、行こう!」


すると理緒は慌てて、手を握り返すと浩也を引っ張って歩きだす。そうだ、今日浩也は彼氏だ。浩也も私を彼女だと思ってくれている、理緒はそう思うと堪らなく嬉しく、堪らなく切なくなる。


勇気のない理緒は今の浩也との関係を手放せない。もし理緒が浩也の事を異性として好きだと言えば、その先は全く未知の世界だ。良い方向にも悪い方向にも可能性は広がっている。だから今日一日は上手くいった時の夢の世界だった。あるかも知れない、訪れないかも知れない可能性の一日。だから楽しまなければいけない。夢が現実になる魔法の一日なのだから。


理緒は手を繋ぎながら、彼氏の浩也を見る。彼は私がそんなことを思っているなんて、知らないだろう。でも今はそれで良い。この魔法の一日で、自分はまだまだ片思いでいられるから。そのとき理緒が浩也に見せた笑顔は、同性が見れば間違いなく恋をしているとわかる、魅力的な笑顔だった。


遊園地の中に入り、2人は予定通り国内最大級のジェットコースター「神風」列へと並ぶ。「神風」は今では国内最大ではなくなってしまったが、それでも国内有数である事には違い無く、既に列も30分待ちと表示されている程人気のあるアトラクションだった。なんと言ってもその最大の売りは、高さと2つの大きな円を描くコース設計だ。既に走っているジェットコースターの乗客からは当然の如く、絶叫が木霊し並んでいる乗客の緊張感を煽りまくる。


そしてここに普段の勝気な性格が、すっかりその緊張感に飲まれてしまっている理緒がいた。


「ねえ、浩也、私好きな食べ物は一番最後に食べるタイプなんだけど」


「そうなのか。ショートケーキのイチゴは最後に食べるのか?あれはクリームと一緒に最初に食べないと酸っぱくて食べられないだろう?」


浩也は理緒が気後れしているのに気付いていて、あえてそれを無視する。こういうのはいくら心の準備をしたところで、気持ちが前向きになるものではない。むしろ、さっさと味わってしまうに限るのだ。


「ねえ、本当に怖くない?なんかあの叫び声を聞くたびに騙されている気がするんだけど」


「気のせいだ。あれは声を出す事でストレスを発散しているんだ」


「でもさ、浩也」


「だー、理緒もう諦めろ。ほらみろ、あと五分もすれば順番だ。ここまで来て列を離れたらアホだろ。昔の人は良いことを言った。『案ずるより産むが易し』だ」


理緒があーだこーだ言っているうちに列は少しずつ進み、気がつけば浩也達に順番が回ってくる。しかも今回運が良い?事に最前列に乗り込む事が出来た。理緒はその事実に顔を青ざめさせ浩也と繋いでいる手に力を込める。


「浩也、手を離したら駄目だからね、絶対だよ、絶対離さないでね」


「あー、はいはい、これまでずっと繋いでるだろ?ちゃんと繋いでるから肩の力を抜け。それと落ちる時は両手を上に上げるんだぞ。それがマナーだ?」


「えーっ、バー握ってちゃ駄目なの?離して上にあげなきゃ駄目なの?」


「ああ、駄目だ。上に手を上げてその時に叫ぶのがマナーだほら登っていくぞ」


ジェットコースターは、乗客が乗り込んだあと、ゆっくりとレールを上に登って行く。さっきサイトでチェックした感じでは、このスタートで登りきったところが、一番高いところで、周囲を一望できるお勧めポイントになっている。浩也は目をつぶって縮こまる理緒に優しく声をかける。


「ほら、理緒周りを見てみろ、すげー見晴らしが良いぞ」


浩也の声に反応し、理緒が恐る恐る目を開け、周囲を見渡す。幸い、理緒は高所恐怖症ではなかったのか、その光景に思わず感嘆の声を上げる。


「ふわー、浩也凄い、凄いよ。あー、人もあんなに小さく見える」


「おっと、そろそろ天辺だ。ほら理緒、両手を挙げろ、来るぞ、うぉーおーっ」


「えっ、いや、うそ、きゃっきゃーぁぁぁ」


降下するやジェットコースターは勢い良く下り始める。周囲の景色は物凄い勢いで、流れその視界はぐるぐると回りだす。最初理緒は、絶叫を繰り返していたが、中盤の頃に差し掛かるとその声は嬉々としたものにかわり、恐怖より楽しみが勝ったようになった。


「きゃー、浩也、すごい、速いーっ。きゃー、あははっ」


正直浩也は、理緒が高所恐怖症でない時点で、余り心配をしていなかった。運動部で反射神経も動体視力も鍛えられている理緒である。体育会系女子が、この程度でビビるとは思っていなかった。気がつけば、ジェットコースターは速度を緩め、ゴールへと向かっていったが、隣に座る理緒は満面の笑みでご満悦であった。


「あははっ、浩也、ちょー楽しいっ。凄かったねー」


「はははっ、理緒最初と最後で、態度変わりすぎ。乗る前すげえビビってたくせに」


「ふふふっ、でも乗ってみたらちょー楽しかった。時間があったらもう一回乗ろっ」


「はいはい、まだまだデートは始まったばかりだからな。どんどん楽しもうぜ!」


浩也もそんな楽しむ理緒に答え、笑みを返して、理緒の手を引きながら、他のアトラクションへと引っ張っていった。


結局理緒はその後も絶好調だった。アトラクションに怖がる事もなく、むしろ積極的に浩也を引っ張るくらいまで楽しんでいた。とは言え、流石に昼を過ぎたところで、お互いそろそろ休憩を入れようかという事になり、中央の広場に横にあるフードコーナーに足を運び、それぞれハンバーガーと、サンドイッチ、ポテトと飲み物を買ってきて、テーブルを囲む。


「あー楽しかったねー。久しぶりに大声を叫びまくった気がする」


理緒はサンドイッチを頬張りながら、浩也に話しかける。浩也もハンバーガーを食べながら、のんびりと答える。


「はははっ、確かに。カラオケでもここまで絶叫はしないからな」


「部活でも声は出すけど、絶叫はしないもんね。カラオケは良い声出す事の方が大事だし」


「そうそう、俺なんか帰宅部だしバイト先で大声も出さないしな。とは言え、結構激しいアトラクションばかり攻めたから、このあと何処いくか」


浩也はそう言って、食事を勧めながらもスマホの遊園地サイトで情報収集をする。締めにもう一度『神風」に乗るのは良いとして、他に少しのんびり楽しめる系としては、とスマホの画面をスクロールする。するとちょっと面白いアトラクションが見つかる。ああ、もう時期夏だしな、こういうのもあるのかと1人納得する。理緒はスマホの画面を見て黙り込んだ浩也に文句を言う。


「ちょっと、浩也、いきなり黙んないでよ。なんか面白いアトラクションでもあった?」


「ああ、すまんすまん。でも良いのがあった、この後はこれにしよう」


そこで浩也はニヤリとして、理緒に画面を見せる。そこにはオドロオドロしい雰囲気をした『夏季限定、絶叫ホラーハウス!!』の文字が躍っていた。


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