表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/82

第十七話

ここ最近は5000文字越えだったので、少し少なめで新展開のデート編です。お楽しみに!

その日西条駅の改札で浩也は理緒を待っていた。時間は午前9時。日曜の朝にしては早く、駅もまだそれ程人通りも多くない。その日の場所と時間の指定は理緒のほうからあり、浩也はこれからどこに向かって何をするのかを知らない。理緒からは時間と場所の指定と共に、デートなんだからお洒落をして来なさいよと言われたが、どこで何をするのかも判らない状況では、どんな服装が正解なのかも判らない為、結局は普段どおりの私服姿で待っている。


幸いまだ時間が早いという事もあり、知り合い等には出会っていない。今は浩也1人なので、出会っても構わないのだが、理緒と一緒の時に知り合いに会うと面倒な事になりそうなので、出来れば知り合いに会わなければいいな、などと考えている時に、突然浩也の視界が真っ暗になる。


「だーれーだ?」


「うわっ」


浩也は思わず飛びのいて振り返るとそこには得意げな表情をした理緒がいた。


「ちょっと、ちょっと、もう少し落ち着いたリアクションはないわけ?」


「アホか、突然耳元で声かけられて、ゾワッとしたわ!、鳥肌立ったわ!」


理緒のからかい半分の突っこみに、浩也は全力で突っ込み返す。するとちょっと不満気な表情になった理緒が言う。


「失礼ね、鳥肌はないんじゃない。仮にもかわいい理緒様の『誰だ』よ。ファン垂涎ものよ」


「それは相手が理緒だと判った上での反応だろう。誰かわからん状況で今のは、明らかに恐怖でしかない」


浩也はそんな無茶振りをする理緒を見て脱力をする。完全に油断していたのだ。しかも冷たい手でヒヤッとまでしたのだ。殴り飛ばさなかっただけでも自分を褒めてやりたい。


「もーう、まあ良いわ。それより浩也、今日はよろしくね」


「ああ、それより今日はどこで何をするんだ?」


「ふふーん、今日はデートだから、デートと言えば、遊園地でしょ」


「遊園地?」


浩也は思わず聞き返す。思ったよりも本格的なデートらしい。まあこの時間から動き出すのだから、近場じゃないんだろうなあくらいは思っていたが。


「そう、うちのお父さんが割引チケット貰ってきたんだ。だからそこに行こうと思って。駄目だった?」


理緒はそう言ってその割引チケットを見せびらかすと、浩也に少し不安げな表情で聞いてくる。


「いいや、良いんじゃないか、遊園地。割引チケットあるなら行かなきゃ勿体ないだろう。行こうぜ、遊園地」


浩也も別に遊園地がいやとかではなく、想定外だっただけで、特段不満があるわけではなかった。


「あー良かった。なんか浩也、びっくりしてるんだもん、駄目なんじゃないかと思った」


「ああ悪い、悪い。単に予想外だっただけだから」


理緒はほっとした表情を見せた後、今度は少しいたずらっ子のような笑みを見せる。


「それと今日はもう一つお願いがあるんだけど」


「お願い?」


「そう、今日浩也には私の一日彼氏に任命します」


「はぁ?」


浩也は意味が判らず、気の抜けた返事を零す。すると理緒は少しムキになって、繰り返す。


「だーかーらー、浩也は今日のデートで一日だけの彼氏って事っ」


「はあ?何で俺が彼氏なんだ、理緒の?」


浩也は理解が追いつかないながらに、何とか質問を紡ぎだす。何だその一日彼氏って?何の意味があるんだ?浩也の頭の中では疑問符だらけである。


「いやー、私って相変わらず色んな人に告白されるでしょ。でも正直男女のお付き合いって、いまいちピンと来なくて。特に男子と付き合いたいとも思わないから、それでいっかって思ってたんだけど、付き合った事がないからそう思うのかもとも思ってね。だからお試しで彼氏彼女っぽい事をして気分を味わおうという事で、浩也を一日彼氏に任命したのです」


理緒はそう言って、ニヤリとした表情で浩也の事を見る。もはやお願いではなく、半強制だ。浩也はひとまず話の流れは理解する。


「つまり男子と付き合ったことがないから、付き合った気分を味わえば心境に変化があるかもって事か?別に俺じゃなくてもよくね?」


「えーっ、むしろ浩也じゃなきゃ駄目なんだけど。余り仲良くない人とデートするとか無理だし、私の事を好きな人と行ったら、その後収拾つかなそうだし。それに今日は私へのご褒美でしょ、浩也からの」


理緒がそう言って不満気な表情を見せるのを見て、浩也はまあ仕方がないかと、納得してしまう。浩也以外とましてや自分を好きな人とデートなど勘違いされる事請け合いで、面倒事しか思い浮かばない。最後のご褒美というのには納得いかないが。


「はあ、まあ判りました。お嬢様のご要望とあれば、お受けしますよ。とは言え、俺も女子と付き合ったことないから、その辺は適当になるけどな」


「ならよろしくね、浩也っ!では改めて出発進行―!」

理緒はそう言って右手を掲げると、満面の笑みで歩きだすのだった。



そして2人が向かったのは、都心に程近い比較的有名な遊園地だった。国内最大級とかいうジェットコースターや国内最高峰の展望を誇る観覧車とかやたら国内一を謳い文句にする遊園地で、比較的老舗でもある。ただその国内一も必ずその当時という断り文句がつくのだが、それでも日曜日、天候もよかった為、それなりに混雑が予想される場所だった。


早速電車に乗り込んだ2人は運よく椅子に座る事ができ、並んで座りながら着くまでの道中、会話に花を咲かせる。


「浩也、今日ちょっと格好良いじゃん。ちゃんとお洒落してきたの?」


隣に座る理緒は終始上機嫌で、自然と笑みが零れている。浩也は自分の格好を見渡した後、理緒の言葉に首を振る。


「そうか?いつもとかわらんけど。どこに行くかも判らなかったから、どんな格好をすれば良いのかもわからん。結局動きやすい格好で、脱ぎ着がしやすいものにしただけだが」


浩也の格好は先週も着ていたダンガリーの白いシャツに、今日はカーキのパンツである。足元のスニーカーも、背中にしょってるウエストポーチも先週と同じもので、清潔感とシルエットだけ気にした格好だ。


「ふーん、そうなの?普段着なんて見慣れてないからかな。少しだけ大人っぽく見えるかも」


対する理緒の格好はと言うと、こちらはお洒落をしていますと言わんばかりの格好で、膝下丈の花柄のワンピースの上にジージャンを羽織り、足元はブーツである。普段は余り意識をしないが、軽く化粧をしているのか、口元のリップが可愛らしい理緒の顔に良く似合っていた。実際に、電車の中にいる大学生くらいの若い男子が、『やべ、まじかわいい』と零しているのを耳にしたくらいだ。


「それを言うなら理緒のほうだろ。普段のクラスにいる時と違って、すげーかわいく見えるよ。そのリップも似合ってると思うぞ」


「ふぇ!?な、何よ、突然っ。わ、私だって休みの日くらい、お洒落するわよ」


理緒は浩也に突然かわいいと言われた事に思わずテレて、しどろもどろになる。浩也の悪い癖は素で相手を褒めることだ。お世辞を言わないからその褒め言葉が本心であるので、ダイレクトに心に響くのである。しかし浩也はそんな理緒の動揺に気付かず、話を続ける。


「そうだよなー。女子ってお洒落するもんなー。何であんな服が必要なのか、意味わかんないし。男なんてそういった意味では楽で、服もそんなに必要無いし、逆にお洒落しすぎるとヘタしたら、浮いちゃうもんな」


理緒は自分がかわいいと言われ、テレていた事に気付かれなかったのに安堵しつつ、浩也の話にのる事にする。


「ああ、それわかる。最近女子ってみんなお洒落に気を使うから、少しくらい個性的な格好しても受け入れられるけど、男子って、個性って言われるには、イケメン限定みたいな所あるもんね。イケてない人がお洒落な格好してもキモいって言われるだけだし」


確かにイケメンは何をしても許される的な風潮がある。実は世間には浩也も十分イケメンと思われているのだが、本人にその気がないのと、藤田朋樹のようなあからさまなイケメンがいる為、最初から敵わないと諦めているのだ。だから確かに朋樹だったら、大抵の物を着こなしそうだと思いつつ、その反面としてもう1人の友人を思い浮かべる。


「んー、そう言う意味では孝太あたりにチャレンジして貰いたいだけどな。イケメンじゃなくてもキャラ的に受け入れられる気がするし」


「あははっ、中川君にはパンクな奴にチャレンジして貰いたい。パンク系、坊主の人いるし」


孝太にしてみれば、完全に流れ弾である。しかも本人が知らないところで。だから浩也はそんな孝太の気持ちを代弁すべく、敢えて孝太がしゃべるような口調で、理緒に抗議する。そう、これはあくまで孝太を思ってだ。他意はない。


「あー、お前、それは孝太をディスってるだろ。『俺は坊主頭でも見ろ、前髪が、ほらここに前髪があるだろっ』」


「ひー止めてっ、その口真似、中川君にそっくりっ。止めてお腹痛いっ」


浩也は、その理緒のリアクションに満足を覚える。孝太、お前の仇はとってやったぞ、別にウケを取りに行ったわけじゃないからな、と心の中で言い訳する。


そんな2人を同じ電車の中にいる周囲の大人達がとても眩しそうに、そして微笑ましく見ていることに、浩也と理緒は気付かないまま、その道中を楽しんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ