表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/82

第十五話

一応、ヘイト溜めまくった副会長ですが、今回で無事着地したと思ってます。因みに今回も長くなり、5000文字越えなので、お付き合い下さい。

「ねえ山崎君、やっぱり備品見つからない?」


有里奈と山崎は図書館奥の備品が置かれている場所で榊原に頼まれていた備品を探していた。そのスペースには明かりはあるので、暗さなどは気にならないが、既に図書委員のメンバーは帰り、担当の先生も鍵を預けて職員室へと戻ってしまった。時間は先ほど18時を回り、ぼちぼち有里奈も帰りのことが心配になり始めたので、何度目かになる質問を山崎に投げかける。探しているもの自体は有里奈も判っているので、その場所を隈なく探しているが、それらしいものは見つからない。そのスペース自体はものが多く、且つ乱雑にしまわれている為、探しにくいという事もあるが、そろそろ諦めるべきかとも考えていた。


「はい会長。まだ見つかりませんね。本当にここにしまってあるんでしょうか?」


「うーん、もしないならないで、明日榊原先生に報告を上げましょう。そろそろ良い時間だし、切り上げようか?」


「あっ、いや、まだこのスペースは探しきれてません。もう少し探していきましょう」


そろそろ切り上げようと声をかけた有里奈に対し、山崎は声を張り上げ、探す素振りを継続する。


「う、うん、じゃあそこを探したらお終いにしよ。余り遅いと家族にも心配かけちゃうから」


有里奈は一生懸命探す山崎に強く言えず、もう少しだけ付き合う事にする。それ程広くない空間に男子と2人きりという状況に、本当であればさっさと切り上げたいところだが、仕事であれば仕方がないと、何とか不安に蓋をする。そうして有里奈は再び探しものに没頭し始めた時である。


「ところで会長、少しお伺いしたい事があるんですが、よろしいですか?」


黙々と備品を探していた山崎が、探す姿勢を崩さないまま、声だけかけてくる。ここまで特段会話のなかったところで、突然声をかけられて、有里奈は思わずびっくりした声を漏らす。


「ひゃっ、あ、ごめんなさい。え、えーと、どうしたの?」


「すいません、突然声をかけてしまって、驚かせましたか?お伺いしたいというのは、昼間の事でして」


そこで山崎は探している姿勢を一旦止め、かがんだ状態で有里奈のほうへと振り向く。表情は特段怒っているでも、いらだっている風でもない。有里奈は少しだけ警戒をしつつ、話の続きを促す。


「お昼の事?」


「ええ、昼に会長が男子生徒と密会に及ぶなんて、危ないのではないかと危惧しまして」


「ふぇっ、密会?密会って、その学校の中で友達とあっただけだよ?」


突然、密会などというなにやらいかがわしい雰囲気のする単語を言われ、有里奈は慌ててその言葉を否定する。実際に元クラスメートと少し話をしただけだ。しかも学校でかつ昼休みという限られた時間でである。


「いえ、男女が人気のないところで会っていたとなれば、それは密会です。もし何かあったとしたらどうするんですか」


「ええっ、だって学校だよ?しかも元クラスメートの友達だよ?」


「昼の話では彼は生徒会長に対して、恋慕していたそうじゃないですか?やけになってなどありそうなものです」


副会長は自分の意見を頑なに押し通そうとしているのか、やや語気を強める。


「それにしたって、私は自分の判断でそうしたんだし、会うこともしずには伝えていたし、山崎君が気にする事じゃないと思うんだけど」


そんな発言に珍しく有里奈も反発してしまう。そもそもそんなことを山崎に言われる筋合いの話ではないのだ。


「いえ、関係はあります。同じ生徒会の生徒会長と生徒副会長というパートナーです。会長の事を心配するのは当然でしょう」


「パートナー?」


有里奈は思わずそう零す。生徒会の会長と副会長で確かに仕事上は仲間だが、公私混同が過ぎるのではないか。


「ええ、パートナーです。生徒会という組織の中で共に業務を遂行するのです。ならパートナーと言って差し支えないでしょう。それにその職務に影響を及ぼすような人物が会長と密会したとなれば、注意すべきだと判断しています」


「山崎君、あなたの言っている事は生徒会のメンバーであれば、プライベートを侵害しても良いって聞こえるわ。しかも私だけでしょう?しずや他のメンバーに同様のことを言っているの聞いたことないもの」


有里奈は諭すような声音で山崎に話す。生徒会には3年の有里奈、山崎、しずの他に2年で書記と庶務の子達がいる。活動自体は3年が主体となって行っている為、2年のメンバーはそう多くは参加していないが、メンバーはメンバーである。勿論、しずもだ。山崎の発言はまるで他のメンバーを無視しているかのような発言だった。しかし山崎は特段焦る事もなく、鷹揚に自分の主張を言う。


「当たり前じゃないですか?会長、副会長と他のメンバーが同じ立場だとでも言うのですか?彼らはあくまで我々のサポートです。主たる会長、副会長とは関係性が違います」


「えっ!?」


有里奈はあっけに取られて言葉が出せない。有里奈はこれまでどのメンバーも分け隔てなく接してきたし、同じ学生同士、上下などあるはずもないと思っている。勿論、学年が違い先輩、後輩という序列はあったとしても、関係性の違いなどは気にした事すらなかった。


「なので僕が会長を特別に心配するのは当然だと思うのですが。勿論学校では僕が一番近しい存在なのですから」


山崎は少し恍惚とした表情を浮かべ、満足気にそう話す。有里奈は流石に許容できず、深く溜息をつく。自分の中に芽吹く怯えの感情を何とか抑え込む為にだ。


「山崎君の意見はわかりました。残念ながら、私の意見とは明らかに違うようです。明日、榊原先生に相談します。勿論、山崎君も同席してください。そこでお互いの意見の相違を先生交えて話し合いましょう」


有里奈は決然とそう言い放つ。怯えは駄目だ。あからさまな拒否もいけない。ただ相手の感情を逆撫でしないよう、慎重に言葉は選ぶ。しかし有里奈のその努力は無駄になる。


「ふんっ、その必要がありますか?今この瞬間、僕と会長の2人きりじゃないですか。どちらかが、相手の意見を許容すれば、それですむ話だと思いますが?」


そこで先ほどまで屈んでいた山崎は立ち上がる。悠然と、しかし相手を見下ろすように。その瞬間、有里奈の表情に怯えが走り、少し後ずさる。有里奈は一瞬出口を見るが、その途中には山崎がいて、逃げ道がない事に気がつく。そんな時、その部屋に通じる図書室の扉がガタンッと大きな音を立てた。



浩也は敢えて扉の音が響くように扉を開ける。浩也の思惑通り、扉は大きな音をたてて、その音は周囲に響き渡る。


「すいませーん、榎本先輩はいらっしゃいますかーっ」


そしてこちらも声が響くように、大きく声を張り上げる。これで中に声が聞こえただろう。浩也はしずに聞いていた、受付奥の扉に目をやり、その前に立って扉を引く。扉は特段内側から鍵もかけられておらず、苦もせずに中に入ると、浩也を睨みつける副会長の奥に、有里奈がいたことで少し安堵をする。


「あーすいません。早瀬先輩から頼まれて、様子を見に来たんですが」


「くっ、貴様、何でここに、何で貴様がっ」


山崎の気持ちは『またコイツがなんでくる』との思いで渦巻く。


「ああ、今話しましたが早瀬先輩に頼まれてきたんですが?」


浩也は激高する山崎に緊張感のない声で、言葉を返す。ただ、そんな言葉は山崎には届いていないのか、山崎は言葉を荒げる。


「ふざけるなっ、いま僕と会長は大事な話をしているんだ。貴様みたいなポッとでのただの知り合いが、しゃしゃり出て良い訳があるかっ」


「はあ、でももう良い時間ですし、生徒会といえども、そろそろ帰らないといけない時間じゃないですか?話は明日にでも出来るでしょう?」


浩也はどうやら山崎に敵視されているのは理解できたのだが、何を敵視されているのかがわからない。なので、取り敢えず、正論をかざして反論してみる。


「会長の事はパートナーである副会長の僕がついているんだ。心配は無用だ。会長の事をろくに知らない奴がでしゃばるなっ」


浩也はそこで山崎の奥にいる有里奈の表情を見る。浩也が来た事による安堵と共に、山崎に対する怯えを感じる。浩也は少し苛立ちを覚え、前に立ちはだかる山崎を押しのけ、有里奈の側へと歩み寄り、柔らかな笑みを浮かべる。すると有里奈の表情からも怯えが消えるのを感じられた。


「きっ、貴様っ」


押しのけられた山崎は、一瞬怯んだものの、後ろ向きになった浩也の肩を掴み有里奈のそばから引き離そうとするが、浩也はその手を掴み、振り向いて山崎と対峙する。


「えーと、ようは副会長は榎本先輩と俺の関係がただの知り合いだからでしゃばるなと言っているという理解で良いですか?」


浩也は掴む手の力を緩めず、それでいて相手を諭すような声音で話し始める。なんだか大事なオモチャを取り上げられた駄々っ子みたいだな、と浩也は感じていた。


「当然だ、僕は会長のパートナーだ。副会長なんだっ」


腕を掴まれた状態の為か、やや怯んだ口調で山崎はそう答える。


「はぁ、なら俺には権利がありますね。俺と有里奈は幼馴染ですから。それも有里奈の母親である和美さんから、有里奈のことを気にかけてくれって言われているくらいには親しい関係ですし」


「なっ、お前、会長を有里奈って、いや幼馴染だと、嘘だっ、嘘を吐くなっ」


「んー、まあいきなり言われてもそうなりますよねー。なら和美さん、ああ、すいません、有里奈の母親に聞くのが一番早いですかね」


浩也はそう言うと胸からスマホを取り出して、有里奈の母親である和美に連絡をしだす。有里奈が浩也に幼馴染と言われた事で、笑みがこぼれているのに対して、山崎は、話の流れについていけず、ただ唖然としている。すると程なくして和美に連絡がつくと、浩也はそのままスピーカーの機能で全員に声が聞こえるようにする。


「ああ、和美さん突然すいません」


「あらひろ君、お久しぶり。突然電話がきたからびっくりしちゃった」


「すいません、お仕事中でしたか?」


「ううん、今職場を出たところ。ところでどうしたの?」


電話口の女性はメリハリの効いたはきはきとした口調で、それでいて話している浩也との間に親しみを感じられた。浩也は有里奈にちょっと目配せをして、有里奈へと話を振る。


「ああ、今有里奈と一緒にいまして、ちょっと変わりますね」


「ああお母さん、私、有里奈だけど」


「あら有里奈、ひろ君と一緒にいたの?」


「うん、生徒会の仕事でちょっと遅くなったから、ヒロが迎えに来てくれたの。だから一応遅くなる事だけ、お母さんに伝えておこうと思って」


有里奈は機転を利かせて話を引き継ぐ。そんな有里奈を見ながら、山崎は電話口の女性が本当に有里奈の母親であることにも驚いたが、それ以上に有里奈が親しげにヒロと呼んでいることにショックを受ける。


「ひろ君と一緒なら別に遅くなっても良いわよ。ゆっくりしてらっしゃい」


「もう、普通にこれから帰ります。夕飯は作れないから何か買ってきてね」


「はいはい、それじゃ、ひろ君にもよろしくねー」


和美はそう言うと、通話を終了させる。浩也は手に持っていたスマホを胸にしまうと、再び山崎に言う。


「これで理解していただきましたか?ちなみに有里奈と俺の母親が学生時代からの親友でして、近所に住んでいる事もあってそれこそ物心つく前から一緒にいるんですよ。和美さんからも有里奈のことは任されてますので、あんまり遅くなるようだと、俺も困るんですよ。今日のところはお開きにしていただけるとありがたいんですが」


「僕は生徒会のパートナーで」


山崎は勢いなく、辛うじて言葉を零すが、浩也はそれにかぶせるように言葉を放つ。


「俺は有里奈の身内のようなものです。学校の役割とは言え、度が過ぎているなら許容は出来ないです」


すると有里奈もそこでハッキリと意思表示をする。


「山崎君、生徒会長として言わせて貰います。会長と副会長は生徒会の仲間ではありますが、パートナーではありません。私には私のプライベートがあります。ヒロの事もそうだけど、勝手に私の事を決め付けるのは止めて下さい」


「パートナーではないと?」


山崎はすがるような目で有里奈を見やる。有里奈はそれに対し淡々と返答する。


「パートナーではありません。少なくとも特別な対象ではありませんし、私はあなたのものでもないです」


「くっ」


山崎は言葉にならない声を漏らし苦しげな表情を見せると、トボトボとその場を立ち去っていく。図書室から浩也と有里奈の2人以外の人の気配が消えたところで、有里奈は背を向けて立っていた浩也の背中に額を押し付け、大きく溜息をつく。


「ヒロがきてくれて、良かった。幼馴染って言ってくれて、嬉しかった。ありがとう、ヒロ」


浩也は背中に心地良い重さを感じながら、天井を見上げやさしく微笑む。


「まあ幼馴染なのは事実だし、和美さんに気にしてくれって言われてるのも本当だしな。まあ良いんじゃないか?」


「ふふふっ、ありがとうヒロ、あっ、しずってもしかして生徒会室にまだいるの?」


安堵して急に頭が回りだしたのか、有里奈は思い出したかのように慌てだす。


「ははっ、確実に待ってるな。しかも憔悴した副会長が先に戻ってるだろうから、いろいろ泡食ってそうだ」


「はわわっ、ちょっ、ヒロ、早く生徒会室に戻ろっ、しずに怒られるーっ」


慌てふためく有里奈を見ながら、浩也はそれに付き合い、いそいそと生徒会室に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ