第十三話
すいません、なんと今回の投稿は少し字数が多くなりました。本当は2話分にしようかとも思いましたが、なかなか良い切れ目がなく。なので少し長いですが、お付き合い下さい。
朋樹たちと遊びに行った週の半ばの昼休み時間、浩也は1人食堂で昼食をとっていた。朋樹や孝太は部活絡みで昼休みは別行動。理緒はクラスメイトと弁当を食べており、珍しく単独行動だった。浩也は無難にカレーを選び、スマホ片手にカレーを平らげる。食堂のカレーは可もなく不可もなくといった代物で、特段食べたいものがない時に食べるのに都合が良い。
そんな食事中にそういえば、と浩也は親友の事を思い浮かべる。結局朋樹はあの後、春香には告白出来なかったようだ。良い雰囲気で家路にはついたものの、その途中で立ち止まるような場所がなく、結局機会を逃してしまったらしい。ただ次の約束は取り付けているらしく、次こそはと息巻いていた。浩也にして見れば、どうせOK貰えるんだから、さっさと告白すりゃいいのにと思ってしまうが当事者には色々考える事があるらしい。
そんな取り留めのない事を考えながら昼食を終えると見計らったかのように、浩也のスマホにしずからLINEがはいる。
『幼馴染くん、ちょっとお願いがあるんだけど』
浩也は何のことかと思い、すぐに返信をする。
『どうしました?有里奈に何かありました?』
『そんな大したことじゃないんだけど、有里奈が男子に呼び出された』
浩也は返ってきた返信を見て、少し考える。スマホを持たない有里奈に何かあったときの為に、この前しずとはLINEのIDを交換していた。しずからは時折、他愛もないLINEが入る事もあったが、今回のようにお願いが入ったのは初めてだった。とは言え、男子の呼び出し程度で、浩也がわざわざ見張りに行くのも、どうかとも思い、その旨返信をする。
『様子を見に行けって事ですか?別に呼び出されるくらいはたまにはある事だと思いますが』
『それだけなら問題無いけど、副会長が追いかけて出て行った』
浩也は軽く目を見張る。何しに?と軽く画面上に突っこみを入れるが、浩也が返信を返す前にしずからのLINEが届く。
『彼の行動は私には理解不能。でも厄介事に有里奈が巻き込まれるのは可哀想。ちなみに私は今、別件で動けない』
浩也はその文面を見て、軽く溜息をつき、しずに返信を返す。
『判りました。どこに行ったかだけ教えて下さい。様子だけは見に行きます』
その後、浩也はしずからの返信を見て場所を確認した後、食堂を出て行った。
その頃、有里奈は困っていた。昼休みに他のクラスの男子から呼び出され、その場所に来たまでは良かった。まあそれ自体あんまり良くはないのだが、対応できない事ではないので、いつも通り、対応するつもりだった。
有里奈を呼び出した男子は2年の時に同じクラスだった男子で、3年になり別のクラスになっていた。2年の同じクラスでは席が隣であったり、文化祭でクラス打ち上げの際に多少話しをしたりと知人くらいの付き合いはあった男子で、3年になった今もすれ違えば、挨拶を交わすくらいはする相手だった。正直、呼び出されるとは思っていなかったが、無碍にするほどでもないので、こうして呼び出しに応じたのだったが。
「それで君は会長に何の用なんだ?」
「それお前になんか関係があるのか?外野は黙ってろよ」
そう困っているのは他でもない、副会長の山崎が突然、2人の会話に割り込んできたのが原因だ。そもそも今この場所にいるのはしず以外には話していない。流石に教室を出る際に隠れるようにとはいかないので、普通にこの場所まで来たのだが、何故彼がここに現れたのかが理解できなかった。
「何を言う。僕は生徒会副会長だ。生徒会長のトラブルの際は、それをフォローする義務がある。君みたいな不逞な輩が会長の周りをうろついていたら、それを排除するのは当たり前だろう」
「ちっ、頭おかしいんじゃないか?このストーカー野郎、榎本も困ってるじゃねーか」
元クラスメートの男子は切れ気味に副会長の山崎を睨みつける。有里奈も事態に収拾をつけるべく、何とか言葉を紡ごうとする。
「山崎君、別にトラブルとかじゃないし、困ってもいないから」
「流石は榎本さん、心お優しい。でも心配はご無用です。自分は生徒会副会長としての職責を果たしているだけですので」
山崎は有里奈が自分を心配してくれてると思い込んでいるのか、嬉しそうに言葉を返し、悠然と元クラスメートに対峙する。逆に元クラスメートはそんなおかしな副会長に一層の怒気を見せ、拳を震わせる。有里奈は自分がしゃべった言葉がどう理解されて喜ばれたのかも判らない。なのでそんな2人の間でオロオロするしか出来ない。
「榎本、取り合えずこんなアホはほっといて、俺の話を聞いて欲しい。俺は去年、同じクラスになって以来、お前の事が好きだ。お前が俺の事をどう思ってるかは判らないけど、俺の気持ちだけは知っていて欲しい」
業を煮やした元クラスメートは副会長を無視するかのように、有里奈に告白を始める。有里奈としては答えは決まっているので、その返事を返そうとしたところで、またも副会長が割り込んでくる。
「君は人の話を聞いていないな。会長は嫌がっているだろう。そうやって無用の感情を押し付けて、そう言うのを不逞の輩というんだ」
「だからお前には関係ないっ、勝手にシャシャリ出るなら、黙らせてやろうかっ」
元クラスメートは横槍を入れた副会長の胸倉を掴むとその首を締め上げる。
「くっ、暴力に訴える気か。ならこっちも出るところにでるぞっ」
「ちょっと、駄目、やめてっ」
締め上げられた山崎はもがきながらも言葉を零し、有里奈も間に入ろうとする。するとそこに間の抜けた声が響き渡る。
「あれー榎本先輩じゃないですか。なんだかお取り込み中ですか?」
そこにはややわざとらしく通りがかりを演出した浩也が立っていた。
実は浩也が現場に到着したのは、声をかけるより少し前だった。正直何事もなければ、声を掛けずに立ち去るつもりだったのだが、事は揉める方向に進んでいった為、止むを得ず声を発してしまった。ただ有里奈は浩也の声と理解して少し安堵の表情を浮かべる。一方、組み合っていた男子2人は第三者の登場に一瞬怯み、一旦その場を離れる。浩也はその2人の動きを見て、ばつの悪そうな顔をわざとして、有里奈に話しかける。
「すいません、なんだかお取り込み中だったみたいですね。ご迷惑だったでしょうか?」
「ううん、そんなことない。声をかけてくれて助かったよ。ひろ、んっと、高城君はこんなところでどうしたの?」
「自分は腹ごなしにふらふら歩いていただけですよ。今日は友人達とタイミングが合わなかったもので、一人寂しく昼食だったんです。あれ、そこにいるのは副会長さんじゃないですか。先日は店に来ていただいてありがとうございます」
浩也は有里奈の反応を気にする事なく、普通に返事を返すと、あえて今気付いたかのように副会長に話かける。
「きっ貴様は、あの時のっ、貴様の所為で僕はあの時っ」
山崎は明らかに敵意剥き出しの視線で浩也を睨みつける。しかし浩也はそれを無視して、もう1人の男子へと話しかける。
「えーと、初めましてですよね。自分は2年2組の高城です。すいません、榎本先輩とお話し中でしたよね」
「い、いや、俺もそこの馬鹿のお陰で熱くなってたから、話しかけられて助かった。榎本とは知り合いか?」
元クラスメートの男子も少し冷静になったのか、浩也が普通の対応をしたことで、普通に返事を返す。
「はい、自分の従姉が榎本先輩とは幼馴染で、自分も会えば挨拶くらいはさせて貰っています」
浩也のしれっとついた嘘で、一瞬有里奈は複雑そうな表情を浮かべるが、それも一瞬で、すぐにその元クラスメートに向き直ると、先ほどの告白の返事を口に出す。
「ごめんなさい、山崎君のお陰で変なことになっちゃって。えーと、告白してくれた事自体は嬉しいけど、今は誰とも付き合う気はないの。別に友達として接してくれる分には全然平気なんだけど、彼氏となると私ちょっとまだ男子が苦手で、そこを乗り越えないとなかなかお付き合いすることなんて考えられないというか、なのでごめんなさい」
「あーやっぱり駄目か。うん、そんな気はしてたんだ。でも伝えるだけ伝えときたくて。まあすぐ諦めて他の女子というわけにはいかないから、好きなままでいちゃうけど、変な真似はしないからまた友達付き合いはしてくれないか」
「うん、勿論。ありがとう」
有里奈はそう言って、ホッとしたように笑顔を見せる。しかし山崎はそんな有里奈の表情に不満顔を見せ、横槍を入れる。
「どうせ振られるなら、会長の手を煩わせるな。全く自己満足も甚だしい」
「なんだと、このっ」
当然その横槍にいきり立つ元クラスメートに、浩也が間に入る。
「まあまあ、落ち着いて。ところで副会長、先日自分の従姉から聞いた話では、副会長は女子のプライベートに首を突っこむような男じゃないと聞いてたのですが、従姉の勘違いですかね?なら従姉にはその旨訂正しておかなければいけないのですが。ああ、ご存知だと思いますが、榎本先輩と従姉は非常に仲が良いですから、榎本先輩に対しても色々助言しちゃうと思うんですよね」
「なっ、貴様、いつ僕が会長のプライベートに首を突っこんだ、誹謗中傷は止めたまえ」
「えぇー、今この瞬間、榎本先輩のプライベートだと思うのですが、これって生徒会の活動でしたか?」
浩也はまたもあえてわざとらしく大げさに驚いてみせる。内心、この人突っこみどころ満載だろ、と思ってたりする。するとそれを聞いて有里奈が反応を見せる。
「えっ、も勿論違うよ。全然生徒会なんて関係ないよっ」
浩也もそれを聞いて、再度、山崎に質問を投げかける。
「えーと、榎本先輩はこう言ってますが?」
しかし山崎はそれを聞いても怯む事はなく、さも当然のように返答する。
「ふん、学校に来ればわれわれ生徒会メンバーは公人も同然だ。例え休み時間とは言え、それは公務に当てられる時間である。ならば、公人たる生徒会長を守るのは当然だろう」
余りに斜め上の回答に、元クラスメートの男子も有里奈すらも絶句する。しかし浩也はそこまで言い切る副生徒会長に思わず感心してしまう。ここまで自己正当化するその発想にである。ただし穴だらけなのだが。
「そうですか、今は学校の中なので公人たる生徒会長にはプライベートの時間などないという事ですか」
「そうだ、だから僕が生徒会長を守るのに何の問題もない」
浩也は余裕の笑みさえ浮かびはじめた山崎の顔を見ながら、あえて悩ましい表情を浮かべる。有里奈は不安そうな表情を浮かべて、浩也に助けを求める視線を送っている。元クラスメートは怒気を思い出したかのように、顔を赤らめ副会長を睨んでいる。有里奈の表情もその元クラスメートの感情も理解できる。自分が当事者だったら間違いなく殴っているだろう。ただ浩也は第三者としてこの場にいるので、冷静に言葉を返す。
「うーん、悩ましいですね。榎本先輩は今はプライベートの時間だとおっしゃってますし、副会長の公人というお話も一理あるような気もしますし」
浩也はあえて山崎側への理解も示す。有里奈の心配そうな顔がより一層ひどく歪んでくる。まあそんなに心配しなくても何とかするつもりでいるので、浩也にしてみれば、その顔は心外だった。
「えーとちなみに生徒会の指導をおこなっている先生はどなたですか?」
浩也は心配そうな顔をしている有里奈に対し、そんな質問をしてみる。
「えっ、えっと、3年の学年主任の榊原先生だけど」
榊原は生徒指導に熱心で、真面目な熱血漢だ。曲がった事が嫌いな性格でもある。浩也は1年の時に彼の授業を受けた事もあり、良く知っている。実際は生徒会の担当をしているのも聞くまでもなく知っていたが、とぼけてみせる。
「ああ、榊原先生ですか。なら、榊原先生にご判断いただきましょう。流石に自分では、先輩方のご意見を判断できません。生徒会指導をされてる榊原先生であれば、正しいご判断をされると思いますので」
「なっ!い、いや待て。こんな事で先生の手を煩わせるのは、申し訳ない」
浩也の提案に泡を食ったように、山崎は拒否反応を示す。しかし、ここにきて元クラスメイトも浩也の思惑に気付いたようで、浩也に加勢の言葉をかける。
「いーじゃないか、生徒会副会長。榎本と意見の相違があるなら、正しく判断してくれる人物に判断を仰ぐのは当然だろ。それともあれか、正しく判断されたら困る事でもあるのか?」
山崎は浩也と元クラスメートの男子を忌々しげに睨むと、唇を震わせる。するとそこで、昼休みが終了するチャイムの音が響き渡る。
「自分は授業があるから、これで失礼する。くれぐれも先生に無用な手を煩わせる事がないようにっ」
チャイムの音を聞いた途端、九死に一生を得たかのように、尊大な口調で山崎は踵を返して、その場を後にした。余りの変わり身にあっけに取られた元クラスメートの男子は、呆れたように言う。
「なんだ、ありゃ?榎本も大変だな、ありゃ危ないぞ?っと、それとえーと高城だっけ、なんか巻き込んで悪かったな。一応礼も言っておく」
浩也はこの元クラスメートの男子には、含むところもなく、少し可哀想とまで思っていたので、笑顔でそれに応じる。
「こちらこそ、なんだか掻きまわしたみたいで、申し訳ありませんでした」
「いいよ、本当に助かった。榎本、変な告白になっちゃったけど、俺はすっきりした。今日の事は忘れてくれて良いから、これからも友達としてよろしくな」
その男子は少し気恥ずかしそうな表情でそう言うとその場を後にする。有里奈はその男子がいなくなるまで見送った後、浩也の制服の袖を掴み、大きく深呼吸をする。
「ひろ、ありがとう。来てくれて本当に良かった。あのまま喧嘩になっちゃったらと思うと本当に怖かった」
「ならしず先輩に感謝だな。しず先輩から連絡が来なければ、来る事もなかったから」
浩也はそう言って、有里奈の頭をポンポンと撫でてやる。有里奈は少しだけ嬉しそうにするが、すぐに不安げな顔になる。
「でも山崎君、どうしようか。なんかどんどん変な方向にエスカレートしていってる気がする」
「うーん、確かに。そもそもあの人、有里奈とどうなりたいんだろうな?普通に考えたら、嫌がられたり嫌われたりするような事してるだろう?その割にやけに自信満々だったりするじゃないか。ぶっちゃけ何をしたいのか、さっぱりわからん」
浩也はここまでの山崎の行動に全く共感できない。大まかに言えば、独占欲なのだろうが、何が彼をそこまで執着させるのかが理解できないのだ。少なくても生徒会会長と副会長という関係性で、そこまで主張できる思い込みに共感は出来ないが感心はしてしまう。
「私はこれまで生徒会長と副会長だけの関係で話をしてただけなんだけど」
「まあその辺はしず先輩も交えて話す必要はあるかもな。っと、もう授業始まってるぞ。教室に戻ろう」
「うん」
浩也は出来れば、不安げな有里奈を元気づけてやりたいと思ったが、理解できない相手に上手い対応法も思いつかず、少しだけ歯がゆい気持ちがした。
誤字・脱字のご指摘いただいている方、本当に感謝しております。見直しはしてますが、中々自分では見抜けず。引き続きありましたらご協力、よろしくお願いします。




