第十二話
ジャンル別現実世界〔恋愛〕3日連続1位!
まだ序盤ですが楽しみにしていただき、ありがとうございます!
今回は最後に不穏な空気だけ出してみました。今後どう絡ませるかは色々ありますが、取り合えず空気感だけ。
結局その日の遊びは、駅まで辿りついたところでお開きとなる。孝太は徒歩で、めぐみは浩也達とは反対側のホームなので、西ヶ浜駅の改札で別れ、浩也、朋樹、春香、陽子の4人は西条駅の改札まで一緒で、そこでそれぞれ帰途に就くこととなる。
「じゃあ、俺は方向一緒だから、春香を送って帰るよ」
と朋樹は浩也にそう言って、春香を見る。浩也は朋樹の思惑がわかるので、陽子に声をかける。
「なら俺は陽子を送っていくよ。まだ夕方で明るいとは言え、女子1人帰すのは申し訳ないからな」
「ふふふっ、浩也君、えらく紳士じゃない。でもそういう事なら、家の近くまで送ってもらおうかしら。春香はどうするの?」
陽子はそう言って、友人の顔を見やる。春香も特段異存はないようで、少し顔を赤らめながら、その申し出を了承する。
「陽子がそうするなら、私もそうして貰おうかな。朋樹君、よろしくね」
「おう、任せろ。なら浩也に陽子、今日は楽しかった。また遊ぼうぜ」
「うん、こっちこそ、誘ってくれてありがとう。またね」
朋樹はそう言って、春香を連れ立って駅の南口へと向かっていった。浩也と陽子はそれを眺めて、二人が見えなくなったところで、自分達も行動を始める。
「なら俺達も帰るか。そういえば陽子の家って、どっち口だ?」
「私の家は、北口。浩也君は?」
「ああ、俺も北口だ。あれ、でも小学校は違うだろ?陽子は二小か?」
「そうそう、浩也君は一小なんだ。家は小学校、学区ギリギリで中学は良かったんだけど、小学校は遠かったんだよね」
「ははっ、俺は小学校も中学も近かったからな。そこは恵まれてたかも。なら西条公園あたりまで送っていけば良いか?」
「うん、ありがとう。そこから家までは歩いて2、3分だから、その辺で良いよ」
そこで浩也と陽子は並んで歩きながら、公園付近を目指す。西条公園は、そこそこの規模を誇る公園で、テニスコートや、ランニングコースなども併設されている。浩也も休みの日に暇な時は走りにきたりするので、良く知った場所だった。
「でも今日は本当に楽しかった。まあ浩也君には相当いじめられたけどね」
「そういう意味では楽しませて貰ったよ。まさか委員長がここまで、テレるとは思わなかったしな」
「ほんと、私も意外だったわ。今、女子高だし、男子に対する免疫が落ちちゃったのかしら。でも浩也君もなんだか少し、とっつき易い感じになったよね」
陽子は自分自身のテレッ振りに思わず苦笑しながらも、隣にいる浩也も少し柔らかくなった気がしてた。中学の時の浩也なら、ここまで陽子の事を構わなかった気もする。
「自分ではその辺、良くわからんな。まあバイト始めてから、営業スマイルには自信が持てるようになったけど。でも今日は特段、猫は被ってないしな。純粋に陽子が可愛かっただけだろ」
「もう、私、可愛くないから。可愛いって、春香やめぐみみたいな子の事を言うのよ。それより浩也君バイトしてるの?」
陽子は再三可愛いといわれても、やはり自分の頬が赤くなるのを感じるが、今はそれを無視して、話をそらす。浩也も余りいじめすぎてもへそを曲げかねないので、その話に乗ってあげる。
「ああ、イタリアンレストランでウェイターな。西ヶ浜の駅を海生高校のほうに行ったところ直ぐのお店な。俺の従姉夫婦が3月にオープンさせて、そこでバイトさせて貰ってる。ケーキも料理も評判の店で、従姉の旦那さんが見た目厳ついのに、凄く美味しい奴作るんだよ。俺も最近、少しだけど料理教えて貰ってたりするんだぜ」
「へー、ケーキおいしいんだ。今度遊びに行こうかしら?でも学校帰りだと寄れないし、浩也君、土日はいるの?」
陽子の通う藤女は最寄の駅が西ヶ浜駅ではないので、店に来るなら途中下車の必要がある。そうすると学校帰りで寄るには結構な大回りとなる為、行くなら土日に遊びがてらという事になるのだろう。
「土日は基本、どっちかは店に出てるよ。予めどっちに来るか行ってくれれば、あわせる事も出来るしな」
「うん、なら今度春香と一緒に遊びに行くわ。あっ、でもこのままで行くと、朋樹君も一緒に行く事になるかもだけど」
「ああ、確かにな。今頃、何か進展があるかもしれないしな。そうすると、陽子はお邪魔かも知れないぞ」
「うーん、それはちょっと悩ましいかも。ならその場合、めぐみと行くわ」
「陽子も彼氏作って、彼氏とくれば良いじゃんか。誰か良い奴いないのか?」
「女子高に出会いなんて、ほんとないんだから。今回は相手が判っていたから、こうやって遊びにも来たけど、全く知らない相手と遊びに行くっていうのもハードル高いし。めぐみみたく、知らない相手でも仲良くなっちゃうコミュ力があれば、別だけど」
「まあそこは俺も同意かな。今回は朋樹の付き合いで参加したようなもんだし。あっ、そういえば朋樹が女子の中に俺を指名したって奴がいるって言ってたけど、それって陽子か?」
浩也は会話の中で、そう言えば朋樹がそんなことを言っていたことを思い出す。めぐみは初めて会ったので、除外だろう。
「指名って、言うほどのものじゃないけど、クラス会に来てなかったから久しぶりに会いたい的な話はしたけど」
陽子はそう言って、少しだけはにかんだ表情で、口を尖らせる。
「この度はご指名いただき、ありがとうございます。って言うか、陽子なら別に誘ってくれれば、遊びくらいならいつでも付き合うぞ。知らない仲って訳じゃないんだから」
浩也はそう言って、屈託のない表情を見せる。陽子もそれを聞いて、嬉しそうに言う。
「なら、また付き合ってもらうわ。その時はよろしくね」
その後、公園につくまで、2人は他愛のない話に花を咲かせるのであった。
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「ただいまー」
浩也達が家路に向かっている頃、一足先に別れためぐみは家へと辿り着いていた。めぐみの住んでいるところは、西ヶ浜駅より都心よりの2つ先の駅で、藤女のある駅でもある。家は駅からも近い為、真っ直ぐ帰ってくれば、歩いて5分程度で家に着く。家は高層のマンションで、部屋は高層階の10F、一番上の兄は大学進学と共に家をでて1人暮らしをしており、今は両親と一つ上の兄でと4人で暮らしている。
「めぐみ、随分と早い帰りだな。てっきり夕飯はいらないんだと思ってたぞ」
リビングのドアを開けると、ソファの上に寝転がってスマホを弄っている、一つ上の兄から声がかかる。
「そう?普通に遊んだだけだから、こんなもんでしょ」
「ああ、藤女の友達か?あそこの女子はくそ真面目な奴が多いからな」
一つ上の兄は少しだけ小馬鹿にしたような口調で、めぐみに言う。めぐみはその言葉に口を少し尖らせて、反論する。
「別にそれが普通だし。そもそも和兄の周りの女子みたいな不真面目な方がおかしいし」
「ふん、言ってろ。まあ藤女にも何人か知ってる女はいるからな。お前の交友関係くらい、直ぐに察しはつくさ。ああ、今つるんでいる女子は結構可愛いとは聞いたな。今度、写真見せろよ」
兄は端正な顔とは裏腹に、口元を不敵に歪ませる。めぐみの兄は2人いる。1人は3つ年上で今は大学に行って1人暮らしを始めてしまいいないが、めぐみが大好きな長男の光輝である。光輝は今日会った朋樹のように、明るく爽やかで女性にもモテたが、決して不誠実にならず、真面目で頼れる兄だった。めぐみにも優しく、めぐみも慕っていた。対して、一つ上の兄である和輝は優秀である兄の光輝と比較される事に苛立ちを覚え、歪んでしまった。見た目は光輝同様に端正な顔立ちなので、女子にも人気があるが、その傍ら複数の女子に手を出し、浮名を流すようになっている。めぐみの中学時代の友人にも和輝の取り巻きになった女子もいて、妹として居た堪れない状況に陥る事も少なくなかった。そんな兄からの言葉にめぐみは心底いやそうな顔で言う。
「絶対に嫌。大体今日の友達はみんな彼氏いるし。少なくても和兄よりその彼氏達の方がカッコいいし。人の交友関係で勝手な事しないでくれるっ」
「へぇー、俺よりカッコいい彼氏持ちとかって、面白いじゃん。余計会ってみたくなったかも」
「ほんと、最低。なんか有ったら光兄に言うから。関わらないでっ」
めぐみはそう言って、リビングのドアをバタンッと閉めると、自分の部屋に入り鍵を閉める。少し余計な事を言ってしまったかもしれない。和輝が元々めぐみの友人にアンテナを張っているのは知っていた。むしろだからこそ、めぐみは藤女に入り、女子高という隔離されたところで、兄に興味をもたれないように注意してきた。これが光輝だったら、喜んで紹介しただろう。でも和輝は駄目だ。自ら毒蛇に供物を捧げるようなものだ。幸い今日の2人は朋樹と浩也がいる。あの2人なら和輝と比べて劣るところはなく、共に性格も和輝とは比べるべくもない。本当はめぐみもどちらかにアプローチしたいくらいの男子である。
「大丈夫、陽子ちゃんとはるはるは私が守る」
めぐみは少し後ろ暗い表情になりながらも、2人を守るべく、決意を新たにするのだった。
一方リビングでは既にスマホで藤女の女子に連絡をつけ、めぐみの友人の画像を送らせるように話をつけていた。
「おっ、きたきた。へー、なかなか可愛いじゃん。めぐみにしては上出来だな」
送られてきた画像にはめぐみのほかに陽子と春香が写っている。その三人の画像を見て、和輝は口元をニヤリと歪ませた。




