第18話 王女を探して(6)
テーブルに突っ伏した状態のアナスタリナ。
「どうなさいました?」
使用人が声をかけるが、答える気配はない。
「大丈夫ですか?」
と心配そうにアナスタリナの身体を揺さぶって声をかける使用人。
数回揺さぶったり声をかけてもアナスタリナの反応がないのを確認した使用人は、片方の口角を上げる。
「おーい」
使用人に呼ばれ、奥から出て来た先ほどの体格の良い男が「へーい。お呼びで」と部屋に入って来た。使用人が顎でアナスタリナの方を指し、男に合図を送ると、男はアナスタリナをひょいと持ち上げ肩に担ぎ、そのまま部屋を後にする。エルトルーシオはその行方を確認すべく身を高くしようとした。とそこへ、先ほどアナスタリナに付き添われてこの屋敷に帰ってきた、屋敷の主人と思しき男が入れ替わりに部屋に入ってきた。
「ご主人様。いつも通り女は地下の牢に運ばせました」
男の言葉に屋敷の主人は「よし」と頷く。
アナスタリナを担いで地下にやって来た男は、いくつもあるうちのひとつの牢の鍵を開け。扉を開ける。アナスタリナが気を失っていると思い、男は彼女を床に放り投げるように降ろした。
バサリと音を立ててアナスタリナは倒れ込んだ。固い石の床が冷たさと痛みを運んでくる。
しかしアナスタリナは表情ひとつ変えずに、男が鍵をかけて去っていくのを待っていた。足音が小さくなり、外の扉が閉まる音を聞き、彼女はそっと目を開き様子をうかがう。
同じ牢には4人の女性がおり、壁際で怯えた様子。互いに寄り添うように座っている。
みな身なりの良い、若い女性ばかりだ。
アナスタリナはゆっくりと上体を起こした。
するとひとりの女性が声をかける。
「大丈夫?」
見ると落ち着いた、柔らかい雰囲気の女性であった。
「ええ」
「あなたもここの主人を助けて眠らされたの?」
彼女の問いにアナスタリナはうなずく。
「ここにいる人はみんなそう」
彼女は他の女性たちを見ながらそう続けた。
アナスタリナは、まずはこの女性と打ち解けて話を聞こうと考え、名乗ることにした。
「私はアナ」
しかし警戒して、フルネームを明かすことはしない。
「エレナよ」
それからエレナは自分がここに来た経緯を話した。アナスタリナとほぼ同じ経緯であった。
真剣に話を聞くアナスタリナの姿に警戒心が薄れたのか、はじめは遠巻きに様子を窺っていた他の女性達も次第に話に加わり、輪が少しずつ広がっていく。
その中の金髪の優雅な振る舞いの女性の話に、アナスタリナは興味を抱く。
1人で町外れの丘を散歩しているときに、女に道を尋ねられ、案内すると「礼をしたいから」と屋敷に招待されたらしい。
男だけでなく女も関わっているのかと、新しい情報も得ることができた。
そうこうしているうちに女性達は少し感情的になりはじめ、声を荒らげたり泣きだす者も出て来た。
「落ち着いて」「大丈夫よ」と声をかけ、背中をさすったりなだめたりするアナスタリナ。
突然こんなところに閉じ込められて悔しいやら心細いやらで、感情をぶつけたくなる気持ちも解ると気の毒に思っていた。
「おい! 何をしてる!」
突然響いた男声に、牢の中に緊張が走る。
「みんな心細いのよ。こんな所に閉じ込められて」
エレナが答えた。
「ふん。まあいい。それよりお前! ちょっと来い」
男はそう言うと、金色の美しい髪をした1人の女性の腕を掴み、引き寄せる。先ほど女に連れられて来たと話した女性だ。
女性は悲鳴に近い声を上げ抵抗するも、力では及ばず。
「ちょっと、何をするのよ!」
アナスタリナは立ち上がり、男の方に一歩踏み出す。
「おうおう、威勢がいい嬢ちゃんだ。次はお前にしてやろう。だが、まずはこいつだ」
そう言って金髪の女性を牢から出し、また鍵を閉める。
「どこへ連れて行く気?」
強い声音でアナスタリナが問う。
「さあな。ご主人様のお気持ち次第だな」
そう言うと男はケケケといやらしい笑いを漏らした。
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