第7話 寝つけぬ夜
紫苑は祖父母の家で疲れた身体を休めようと布団に入るが、妙に静かすぎてなかなか寝つけずに寝返りを打つばかりだった。
このまま右へ左へと身体を向け直しても、目は冴えてくるばかり。
それでは、と紫苑はスマホの中のお気に入りの曲を聴こうと考えた。
スマホのリストから『Meet You Again』を選んだその時だった。
稲光が窓の外を照らし、雷鳴が響き渡る。
驚きビクッとする紫苑。
窓には水滴が叩きつける音がいくつも重なり、紫苑の部屋の静寂を破る。
紫苑はそれでもイヤホンをつけて再生の合図をスマホに送った。
すると厳かにはじまった音楽は心地良く紫苑の耳をなでる。
窓ガラスを騒がしく揺らす嵐も、そのうち気にならなくなっていった。
* * *
♪♪♪
時間の狭間駆け抜け
夢と現追いかけ
幻か現実か
その目に映す真実
逢うべくして出逢った
信じる愛つらぬき
運命か宿命か
こころ映せ想いを
♪♪♪
* * *
音楽を聴きながら、紫苑はいつの間にか眠りについていた。
しばらくするとどこかから優しい声が聞こえてくる。
「さあ、早く!」
「え?」
「こっちよ」
「どっちだ?」
「ついてきて」
聞き覚えのある台詞に問いかけた。
「キミは誰?」
しかし返事はなく。
「どこへ行くと言うんだ」
続けて問うてみても、やはり答えは返ってこなかった。
紫苑はその場にたたずんで、動こうとはしなかった。
なぜなら、その言葉の意味を知りたかったから。
寝る前に感じていたもやもやを解消したかったから。
動かなければ返事があるかと、そう思った。
しかし。
突然の雷鳴に身をかがめる。
すると。
「さあ、早く!」
また先ほどと同じ台詞が聞こえてくる。
「え?」
「こっちよ」
「どっちだ?」
「ついてきて」
頭の中にこだまするように聞こえる少女の声。
もしかしてその声の言う通りにすれば、そこに答えがあるのかと、紫苑は駆け出した。
なにがなんだか解らないままであったが、いつのまにか降りだした雨の中、その声に導かれるようにひたすら走った。
いったいどこまで走ればいいのだろう。
紫苑はそう思いながらもその声に従った。
しかし紫苑がいくら運動神経のいい男子高校生でも、流石に疲れはでてくるし、途中何度かくじけそうになったけれども、「大丈夫」「もう少しだから」「頑張って」とどこからか聞こえた優しげな声に励まされているように足を進める。
紫苑は力を振り絞って、まだ続く大雨の中、泥道を歩んで行った。
「うっ」
雨の中、ぬかるんだ道なき道を走っていたが、紫苑は足を取られて転んでしまう。
しかし立ち上がっては進み、進んでは転び……と繰り返しながらただひたすらに走った。
それから少し経ってようやく一軒の家の前にたどり着いた。
と同時に稲妻が駆け巡り雷鳴が響き渡る。
驚きとともに「うわっ」と発して、飛び起きた。
周りを見ると、祖父母宅の2階の部屋である。
「え、夢か」
夢にしてはあまりにもリアルだった。
本当はその場にいたのではないかと思うほどに。
紫苑は起き上がって気晴らしに2階の部屋から窓の外をのぞいてみた。
眠りにつく前には、確かに雷とともに激しい雨が降っていたはず。
だがそこには祖父母の家に着いたときと同じく、雨の降った形跡はなかった。
窓ガラスに打ちつけていた雫のあとさえも。
どういうことか、どこからが夢だったのか、紫苑は不思議でならなかった。
* * *
祖父母の家に来てからというもの、紫苑は毎日この夢を見るようになった。
この家に来る途中の不思議な出来事と関係があるのか。
この夢になにか意味があるのか。
紫苑はこの謎を解明したいと思った。
そう思ったのだが、手立てはなく、そのまま数日が経っていった。
もやもやが募るある日、紫苑は気晴らしにでもと、祖父母の家の近所を散策してみようと思い、出かけることにする。
お読み下さりありがとうございました。
次話「第7話 出逢い(1)」もよろしくお願いします!




