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二角の恋愛・ヒューマンドラマ

氷のシロクマ令嬢は微笑む

作者: 二角ゆう
掲載日:2025/12/19

数ある中から作品を選んでいただきありがとうございます!

 ここは人間族と獣人族の境にある国。


  学園では、貴族と獣人貴族が同じ机に身を寄せ合うことになった。


 ざわめきの中、視線だけが妙に静かにリアへと集まる。


 太陽の光に煌めく白銀の長髪を風になびかせながら、わずかに尖った純白の耳を覗かせるリア。


 背筋を伸ばした優美な姿は誰もが見惚れる。


 その視線が賞賛なのか、品定めなのか、リアにはもう分からなかった。


 獣人族最強と言われるヒグマ族の長の一人娘。


 リアの笑顔は誰も見たことがない。


 学園にいる時は人に寄せた姿をしている。


 本来の姿はヒグマ。


 黄金色に輝く瞳はヒグマ族の中でも直系の力のあるものにしか出現しない。


 そんなリアはヒグマ族から「早く伴侶を持て」とプレッシャーをかけられ逃げるように学園へとやってきた。


 リアは珍しいアルビノのヒグマ。

 身体は美しい純白。

 アルビノの中でも極端にメラニン色素が少ないのだ。


 その美麗な容貌に惹かれた貴族たちからも何度もお誘いをもらった。


 嫌気がさす。


 甘い香水と権力の匂いが、息をするたびに肺に溜まっていく。


 周りには見た目か権力しか眼中にない人ばっかりだった。


 目の前にも一人。


「リア、そろそろ婚約しよう」


 褐色の肌に盛り上がった筋肉。ウェーブのかかった短い髪に整った顔立ちは漢らしく女学生からも人気がある。


 ヒグマ族の傍系の中でも稀な蜂蜜色の瞳。


 両親以外の親戚筋の皆はラグドが伴侶になると思っている。


 リアは心の中で罵る。


 利己主義な叔父一家が大嫌いだった。


 ねっとりと絡みつく不快な視線は蛇を思わせる。


「ふん、お断りよ」


 満足いかない顔のラグド。


「あんまり自分を追い詰めんなよ。最後には俺の元に来る」


 強めた声には、確信と一緒に、微かな焦りが混じっていた。


(叔父さんそっくりの嫌な性格)


 リアは叔父一家を思い出して寒気がした。


 そしてラグドと別れたあとも考えごとが頭を巡り、注意力が散漫になる。


「……ッ!?」



 一瞬意識が飛んだ。


 固い金属の塊が横から当たってきた。


 何も考えられず、宙に投げ出される。


 なぜかその金属に介抱された。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 頭がしっかりしてくるとリアはその金属を観察する。


「痛た……全身鎧?」


「へへっ私服です」


 顔にも鎧がついているので、お面をつけた人と話している気分だ。


 私服で鎧とは変わっているなと思っていたら、学年でも変人と有名な“鎧のアルノー”だった。


 鎧のおかげで、一般生徒より二回り以上大きく見える。


 だが、騎士科ではなく一般科で商業専攻をしている。


「あなたは……大丈夫そうね」


「はい、あのいきなりですみませんがお付き合い願えませんか?」



     *    *    *



 何かと思えばうさぎ小屋だった。


 リアと同じ白色のうさぎ。


「これはユキウサギと言いまして──」


 頼んでもいないのにユキウサギの説明を始めるアルノー。


 お互いの腹の中の探り合いよりずっとマシだと、リアは心を落ち着けた。


「リアさん、ラグドさんのこと、めちゃくちゃ嫌いでしょう?」

「はいっ?」

「思ったことが勝手に口から出てしまい、すみません」


 複数の金属がぶつかり合う固い音が重なる。照れているのか手を頭の後ろに回している。


「えぇ、ラグドのことは嫌いですわ。

 それからアルノーさん、顔だけでも鎧取ったら? 私は鎧人形と話しているわけではないでしょう?」


 変に空気の漏れる笑い声がしたと思えば、鎧の大きな手は兜を取る。


 それでも黒い前髪が邪魔で顔は見えない。


 アルノーの家門はヴィラハム。

 三百年前の戦功によって公爵家となった。


 現在のヴィラハムはあまりぱっとした話を聞かない。


 それに前髪の中の顔も気になる。


 リアはアルノーに興味が湧いた。


「ねぇ、お互い腫れ物みたいな存在でしょう?」

「いえ、僕は影みたいな存在ですが」


「どっちでもいいわ! 告白ゲームしない?」

「いいですよ、暇ですし」


 ルールは簡単。

 本来はお酒を用意し、お互いの秘密を聞き合う。言えない秘密に対しては代わりにお酒を飲むのだ。


 だが、ここは学園。


 じゃんけんで勝ったほうが質問できる。

 答えられない質問が来たら、別のことを暴露する。


 まずはアルノーの番。


「リアさんはなんで学園に来ているんですか?」


 リアはヒグマ族の伴侶の見付け方からラグドが最有力の候補なことも付け加えた。


「リアさんも大変ですね」


 “他人事です”と言っているような淡白な相槌にリアの胸はちりっと熱くなる。


 また、アルノーの番だった。


「じゃあ、リアさんはどんな人がいいんですか?」


 これには困った。


「ヒグマ族は強くなくちゃいけないの。だから生まれ変わったらそんなものが関係ない種族になりたいわ。

 これじゃあ答えになっていないかしら?」


「答えになっていないですね。現世の話をしていますし」


 リアの胸にはしっかりと怒りの炎が着いた。


「損得関係なく話せる性格の人だといいわね」

「そりゃあ無理ですよ。損得は切り離して生きていけません。それよりも公平に物事をみることが出来て、歩み寄る努力をしてくれる相手のほうが良くないですか?」


 ちょっと苛ついたが、一方、納得もしていた。


「それもそうね」


 ⋯⋯次もアルノーの番だった。


 一度も勝てないリアは顔を伏せがちにしょんぼりした。


「僕ばっかりだと狡いですよね。リアさん、次どうぞ」


 順番を譲られたのは釈然としなかったが、ようやくリアの質問する番が回ってきた。


「なぜ騎士科を専攻していないの?」


 ちょっと意地悪かなと思ったが、リア自身も気になっていた。


 アルノーの先ほどの小気味よい返しが止まった。


 リアが二呼吸する間、心臓がざわついた。


「騎士科は禁止されているからです」

「えっ? どうして!?」


「それにはお答えできません。代わりに鎧を着ている意味をお答えします。

 これは他人を傷つけないためです」


 リアは頭を抱えた。


 自分が傷つかないように鎧を着ていると思っていたのに、正反対の答えが返ってきた。


 それに騎士科の禁止に頭を捻る。



     *    *    *



 庭園まで戻ってくるとラグドが走ってきた。


 思考よりも先に腕に衝撃が来た。

 ラグドに腕を掴まれたのだ。


「痛っ」


「今日、長を含む大事な話し合いがある。俺たちの婚約をそこで話そう」

「誰がそんなもの……」


 リアは腕に力を入れるがラグドの手は振りほどけない。


 一瞬、視界に入ったアルノーを見て、考える前に言葉が出た。


「私はそこにいるアルノーと婚約しますの。あなたとは婚約しないわ」


 自分でも驚いた。

 無責任な提案をしたことをアルノーへ謝りたい気持ちが膨れ上がる。


「いいですよ。リアさんは素敵だと思います」


 ラグドを前にしても調子の変わらないアルノーにラグドは面白くなさそうな顔をする。


 リアはお世辞かもしれない“素敵”という言葉を反芻していた。


 余裕の笑みのラグドは胸を張ってアルノーの前に立った。


「それはそれは貧弱な人間様、どうぞヒグマ族の中心地・牙冠がかんの大広間までお越しください」


 仰々しくお辞儀をするラグドはそのまま歩いていく。


(どうすることもできないわ。このまま付いて行くしか……)


 リアは不安な表情をアルノーに向けた。


「可愛い顔が台無しですよ。ご心配なく」


 嘘でもアルノーの言葉に勇気をもらった。



     *    *    *



 牙冠の大広間──。


 ヒグマ族の直系から傍系まで少なくとも四十人以上集まっていた。


 輪の中心に集まるのは獣人の姿のリアの家族とラグドと家族。


 輪の外側の方はヒグマたち。

 三メートルにもなる大きな姿だ。


 リアが鎧姿のアルノーを婚約者だと説明した。


 アルノーがヴィラハム公爵家だと説明した時、リアの父が不自然に身を硬くした。

 そして真剣な顔で深く頷いている。


「それでリアはこの青年と婚約しようとしているのか」

 叔父─ラグドの父はからかうような声に他のヒグマたちも耳を傾ける。


 ラグドは父の声に反応し拳を握りしめた。

 ここで負ければ、リアだけでなく、自分の価値まで失う。


「はい、そうです」

 リアの不機嫌は隠しきれない。

 眉間に皺が寄ったままだ。


「知っての通り、ヒグマ族は力第一。軟弱者に長の一人娘の婚約者は務まらない」


 叔父の言葉にリアの心は焦れる。


(お父様から了承さえ取れれば)


 リアの父も口を開いたが、一歩遅かった。


「ラグドと決闘してもらおう。強さこそヒグマ族の正義だ」と叔父。


「待ちなさい!」

 張り上げたリアの父の声は他の者たちの歓声にかき消された。


「分かりました。鎧を取って決闘いたしましょう。ルールは?」

 静寂をもたらしたのはアルノーだった。


 叔父とラグドは口の片端をくいっと上げた。


「素手での決闘。

負けを宣言するか、相手が倒れるか、だ」


 大広間の真ん中で決闘の準備がなされた。


 大きな金属音を立てて外れる鎧。


 人間だとは思えないほど、全身の筋肉が盛り上がっている。


 アルノーと目が合った。

 大きな目を見開いてリアは間抜けな顔になっていた気がした。


「さっきうさぎ小屋で、騎士科は禁止されていることを言いましたよね。これからその意味を見せますよ」


(その意味⋯⋯?)


 リアがその答えを見つける前に決闘が始まった。


 ヒグマになったラグドと鎧を脱いだ人間のアルノー。


 身長差は一メートルを超える。


 鋭い手の爪に当たらないようにガードをするアルノーは大きく身体を傾ける。


 ラグドの拳は空振りし、近くに落ちていた岩に当たる。粉が散り、いとも容易く粉砕する。


 壊れた岩を見て、リアはアルノーの姿を重ねると悪寒が全身に走った。


(ラグドの攻撃が当てればアルノーは岩と同じ目に合うわ!)


 アルノーの全身から赤い湯気のような光が立ち上り始めた。


 風が空気を切る。


 ラグドは宙に投げ出され地面を滑っていく。近くの岩にラグドは背中ごと身体を埋めた。同時に瓦礫の音が聞こえる。


 アルノーの拳がラグドの頬を叩いたのだ。


「私たちヴィラハムの血筋は戦闘に特化していましてね。でも、性格は温厚な人が多いんです」


 アルノーは近くの瓦礫の中から頭くらいの大きさの岩を拾い上げる。

 拳でその岩の塊をラグドの方へ飛ばす。


 土煙が立ち込める。

 すぐ後に瓦礫の轟音。

 かすかに土の匂いが鼻腔をくすぐる。


 岩が当たったのかラグドの濁声がすぐに聞こえた。その声にヒグマたちは青ざめ始める。


「おそらく騎士科には僕と互角に戦える人はいないでしょう。たとえ剛剣の教師だったとしても。だから王家は爵位授与をして、力の制限を誓約させ続けるのです」


「調子に乗りやがって、この人間ごときが!」


 ラグドが黄色の揺らめく光を纏う。

 追い詰められた獣のように、目だけが不安定に揺れていた。


 それをかき消すように、すぐに紫の光に変わる。


 リアはそれを見て叫んだ。


「ラグド、アルノーを殺す気なの!?」


 猛獣と言われるヒグマ族でも最大の力を出す時の予兆である。


 この状態のヒグマ族に勝てる種族はいない。


 血のような濃い紅の瞳に変わった。


 立ち上がっていた巨大なラグドは地面を揺らしながら前足を下ろす。力を溜めると前へと勢いよく飛び出した。


 猛獣と同じく四本の足で走ってくる。

 そのスピードは六十キロメートル。

 ラグドの走りに地震のように地鳴りしながら揺れている。


「アルノー逃げて!」

リアは震える拳を握りながら声を振り絞った。


 アルノーは拳をゆっくり引くと、構えた。


 すぐにラグドとアルノーの距離は無くなった。

 ラグドの猛獣の咆哮が辺りにビリビリと響く。


 その咆哮は風となりアルノーの前髪を大きく揺らした。


 前髪からのぞかせる若葉のような黄緑色の瞳は黄色を帯びている。


 あまりの端正な顔立ちとその瞳にリアは釘付けになる。


 アルノーの前腕筋だけでなく上腕二頭筋・三頭筋、僧帽筋は弾けそうなほど隆起した。


 ラグドの拳は普通の人間に避けることは出来ない。なのにアルノーの頬の横をすり抜けていく。

 手応えのない感触にラグドは目を見開く。


 そのままラグドの顔はアルノーの拳で大きく歪んだ。それはスローモーションのよう。


 三メートルを超えるヒグマの巨体がアルノーの目の前で一瞬止まった。


 鈍い重低音が鼓膜を一度揺らす。


 ラグドの巨体は大広間の石壁に当たった。爆発したような破砕音の後、壁はいとも簡単に軋轢すると幾つもの破片が四方に飛び散った。

 そして砂煙が辺り一帯に広まる。ラグドの姿は煙で見えなくなった。


「ラグドォ!?」

 叔父の狼狽えた声。

 そしてふらつく足を引きずりながらラグドの下へと足を運び始めた。




 愕然としたリアは棒のように立っている。

 軽快に戻ってきたアルノーはリアの方に首を傾げた。


「へへっ、どうですか?」


 リアはアルノーの胸に手を回した。


 アルノーは自分の胸の中に入ってきたリアを見て、固まった。

 すぐに顔を真っ赤にさせて目を白黒させる。


「へっ? リアさん!?」


「心配したわ」


 そこへリアの父がやってきた。


「ヒグマ族の長のヤシムです。やはりあのヴィラハム家の方でしたか。三百年前に起きた人間と獣人との戦いを収めていただき本当にありがとうございます」


「いえ、ご先祖様の功績ですから。僕はリアさんが好きなだけです」


「す、すき……えっ本当に?」


 両手で頬を隠すリアは顔を火照らせた。

 頭から湯気が出そうなほど赤くなっている。


「もう、本当に鈍感なんですから。偶然を装った甲斐がありました」


(偶然を装った…?)


 あの鎧との衝突事故のことだろうか。

 生身の人間なら全治一ヶ月の怪我では済まないと思う。


「それで、いつアルノーの家にご挨拶に行ったら良いかしら?」


「おっ意外にもリアさん肉食ですね」


「もう、アルノー!」


 そう言いながらリアは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「へへっ、冗談です。僕も肉食になりますよ。これからヴィラハム家に一緒に行きますか?」

「アルノー、もっ、もちろんよ!」


 アルノーは緩んだ顔でリアの手を引いた。


(アルノーって意外と綺麗な顔立ちなのね)


 胸の高鳴りにリアの手には力が入った。




 二人の後ろからリアの父と母が慌てて付いてきた。


(おわり)

ちなみにリアがじゃんけんに勝てなかったのは“パー”しか出さないからです(笑)

『だってヒグマたるものいつ何時戦いが起こるか分からないでしょう?一番動かしやすいパーが最強よ』だそうです。


お読みいただきありがとうございました!

誤字脱字があれば、ぜひご連絡お願いします!


[追記]

いつも情熱的に応援してくださるシロクマシロウ子様への感謝の気持ちを込めて

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― 新着の感想 ―
このお話読んだ気になってましたが、まだでした♪ 今回クマ祭り後夜祭に出していただいたおかげで読むことができました(*^^*)♪ とても良いお話でした\(^o^)/ ラグドとアルノーのバトルと、最後にリ…
某所での『鮭のお話』を(勝手に)探していたら、なんと幸運なことにこちらの作品へと辿り着きました。 シロクマシロウ子様から着想を得た御作とはΣ(゜Д゜) ちょっぴり気が強い、でも芯のあるヒロイン素敵。 …
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