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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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感染(4)乾杯

 洗面器に張った水から、目を背け、逃げ腰になる。

「新型感染症ですね。すぐに入院してもらいます」

 医者はそう告げ、看護師が淡々と「こちらに」と誘導する。そして、医者は新型感染症患者発生を、保健所に通報した。

 猫や犬に噛まれたり引っかかれたりしたら、すぐに病院へ。そうは言っても遅れて重症化する例はあり、すぐに来てくれるのはありがたい。だが、最近のペットブームのせいか件数が多く、更にこの猫騒動で、驚くほどこの手の患者が多い。

 それでも無事に治るのならともかく、新型感染症は、眠り続けるようになったら、あとは徐々に衰弱していくだけだ。とうとう、今朝、死者が出たと連絡があった。

 その発生の連絡は霊能師協会へも回され、浄霊の効果があるかどうか、試される事になった。

 

 スマホをしまいながら、直に言う。

「無気力、嫌水性あたりまでの症状なら効果があったらしい」

「ああ、それはなによりだねえ」

 ホッとしたように、直が肩の力を抜く。

 もうすぐ冬休み、クリスマスだ。それで浮かれた空気がある反面、猫の恐怖も話題の中心だった。

「ねえ、クリスマスパーティとかするの」

 急に話しかけて来たのは、見た事はあるが、誰だ、この女子。

「どうだろう。三田さんは」

 三田さんか。

「うん。やりたいなと思って。それで、町田君と御崎君はどうかなあ、と」

「部でやるかもしれないからなあ、ありがたいけど」

 直がやんわりと断る。

「大勢の方が楽しいでしょ。一緒にやらない?」

 大勢が楽しいと誰が決めた?

「ううん、相談してみないと……」

 あくまでニコニコと直は婉曲に断っている。

 と、近くで声がした。

「危ないよ」

「大丈夫よ、家猫で、こんな子猫だもん。おいで、おいで――きゃっ」

 声の方へ急ぐと、2年生か3年生の女子が4人いて、1人を取り囲んでいた。近くの茂みがガサガサ鳴り、チリリンという音が小さくなっていく。

 囲まれた女子は、ひっかき傷のできた手をオロオロと見つめている。

「見せて下さい」

 強引でも知らん。手首を掴んで引き寄せると、じっくりと観察する。

「ちょっと――!」

「新型だな。今の猫は?」

「え、こんな小さい子猫よ。赤い首輪で、鈴が付いてて」

「家猫でしょ」

「家猫でも、家を出てウロウロする猫は多いですよ。現に、ここに来たんでしょう?

 直、協会に連絡してくれ。

 浄霊するから新型感染症にはならないが、普通の感染症にはなります。流水でしっかり洗ってから保健室でアルコール消毒をして、絆創膏を貼って、すぐに病院へ行って下さい」

 言いながら、さっさと浄力を当てる。

「連絡したよ、怜。すぐに人を寄こすって」

「よし、行くか」

 茂みの向こうを覗く。いないようだ。校外に出たらしい。

「こんな近くに出るとはねえ」

「ついてるのか、ついてないのか」

 ぼやきながら、校門から外に出る。今からお弁当タイムだというのに、面倒臭い。

 直はアオをポケットから出して、空に放った。

「子猫って言ってたな」

「見つからない3匹の1匹だね」

「飼い主は大丈夫だろうな」

 言いながら探し歩いていると、アオが戻って来た。

「チッ!」

「こっちだね」

 アオの先導で、進む。

 と、妖気とも怨念とも言い難い気配がした。

 が、目の前にいるのは、なんとも可愛い子猫だ。

「ギャップが酷いねえ……」

 2人して、思わず呻く。

「にゃあん」

「生憎だが、その手には乗らない」

 内心のダメージを隠して言うと、子猫はそれが通じたのか、急に眼を吊り上げ、毛を逆立てて、シャーッと威嚇してきた。

 直は札を用意した。

 飛び掛かって来るのに、札を投げつけ、拘束する。

「ギャアアッ!ギャアアアアアッ!」

「諦めろ」

 浄力を浴びせる。

 と、大人しくなって、体に貼りつくリボン状の札に、夢中でじゃれつき始めた。

「にゃああ、にゃああ」

「可愛いなあ」

 やっぱり、猫派だ。


 その後聞いた話では、その子猫に噛まれたり引っかかれたりした新型感染症患者は、その時点で快方へ向かったらしい。

 それに前後して残りも見つかり、無事に全員、新型感染症からは脱却した。ただ、1人は間に合わず死亡し、1人は指を切断し、2人は肝障害と指の痺れという後遺症を患った。

「久馬さん、詐欺に引っかかって老後の貯えを取られたらしいな。子供達との折り合いも悪かったようだし。

 でも、猫は昔からかわいがってたそうだ」

「それで八つ当たりの道具にするなんて」

 猫好きの風上にも置けん。

「詐欺事件がなければ、とか思うとな」

「結局一緒だと思うよ。何にでもとにかく文句をつける人だったらしいから。家族が離れて、寂しかったんだろうな、多分。だから、警察の落ち度とかじゃないよ」

 兄はなぜだか苦笑して、

「それよりも、怜に噛みついたりしなくて良かったよ。

 運んでいいか」

と、皿をテーブルに運んでくれた。

 今日は、チキンソテー小悪魔風、タルタルイカサーモン、クリームチーズボール3種、シチューパイ、バジルとトマトのパスタ、それとクリスマスケーキだ。

 チキンソテー小悪魔風は、鶏もも肉の厚さを均等にするように開き、フライパンに入れ、皿で押し付けるようにしてカリッと焼いたものだ。チキンの開いた形が悪魔を思わせるとしてこの名前が付いたという説があるらしい。クリームチーズボールは、クリームチーズに、青のり、黒コショウ、ナッツを混ぜて各々丸めたものだ。

 ワインが合うのだが、我が家では未成年者と警察官なので、ソーダにグレープフルーツを絞ったもので乾杯だ。

「お疲れ様」

「乾杯」

 家族は、いいな、やっぱり。





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