表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/1046

蠱毒(4)我が家へ


 水に打たれ、火にあぶられ、煙に燻され、経文を浴びせ掛けられる。自分の為とわかっていても、なかなか辛いものがある。清めの水は夏だというのにしびれるほど冷たく、護摩壇の炎は水膨れができそうなほどに熱く、香の煙は咳と涙が止まらない。それらでいい加減ボーッとなったところに正座で長時間お経を聞かされるのだ。わかっていても、辛いものは辛い。

 それら一連の儀式からようやく解放されて、やっと、ホッと息がつけた。

 すぐに津山先生達に保護され、神殺しの印が付いていたので、祟り避けの儀式を行って、殺した神を再度祀り上げたのである。心の底から面倒臭い。

 それもこれも、この、蠱毒を仕掛けたバカのせいだ。会ったら、文句を言わずにはおれない。

 それに、巻き込まれて亡くなった長井さん達霊能者の事を思えば、殴ってしまいそうだ。

 のんびりと、僕、兄、直、津山先生は、食料調達にかかっていた。

「蠱毒をしかけた沢尻は、捕まえたで」

 池で釣り糸を垂れながら、事件の顛末を聞いていたのだ。突然僕が消えて、兄や直ならずとも、相当慌てたらしい。それでも、すぐに何があったかを突き止め、結界の位置を特定し、綻びやすそうな所を探し、どうにか内部と水鏡という手段で繋いだそうだ。

 そして他の流派とも連携して犯人を特定、捜索、確保したという。

「無事で良かった。けど、怖い思いさせてもうたなあ」

 津山先生は申し訳なさそうに言った。

「いえ、僕の不注意です。こちらこそ、お騒がせしました。

 それより、あの手毬はどういう物なんですか」

 糸に、ピクッとアタリが来て、すぐに、ググッと引き込まれる本当たりになる。そこをすかさずフッキングし、リールを巻いて、手前に寄せてきてタモですくう。38センチのマスだった。

「これみたいなもんや。たまたま食いついた人間を結界に送る、その仕掛けや。

 悔しいけど、沢尻の作った仕掛けは上手なもんやったし、誘いも上手かったっちゅう事やな」

 そう言われると、リリースしてやりたくなってきた。

「この池見たら、真水やと思うやろ、普通は。海が近いわけでもあらへんし、薄いいうても塩水が湧くなんか、この辺で他にはあらへんからな」

「はい」

 この池は薄い塩分濃度の塩水が湧き出してできたものらしい。清さんに聞いていた。

「スズキの泳いどるんが海か汽水域やと知っとったら、とりあえずは、あれぇ、思う。思ったら、調べたらええ。

 一緒や。色々知っといたら、おかしいもんにも危ない事にも対処できる。怜はもっと、知らなあかんな。結界やら色んな術やら。京香の尻叩いとくけど、いつでも、ここ来たらええで。怜は、ここの子ぉやからな」

「ありがとうございます」

 津山先生は好々爺然として笑い、「おっ」と真剣な様子でやり取りをして、70センチのスズキを釣り上げた。

「フッフッフッ。わしの勝ちやな」

 子供みたいに、ニカッと笑う。

「それにしても、司君も直君も、大したもんやな。神さん殺して別もんになりかけとったんを、水鏡越しに呼びかけて、呼び止めたんやからなあ。絆が深うないとでけへんし、恐れとか疑念があってもでけへん」

「おそれいります」

 兄は言って、かかった魚を釣り上げた。63センチのスズキだった。

「自慢の、兄と相棒なんです。本当に感謝してます」

 言うと、

「怜だって同じだよ。あと、これとそれを取り換えてくれたら、もっと感謝する」

と、直はリリースサイズのマスを釣り上げ、笑ってみせた。


 何か所か観光をして、また釣り大会をする約束をし、僕らはJR京都駅に来た。お土産も買い足さないといけない。乾燥湯葉と鯖寿司は買った。兄の職場への葛餅と、心霊研究部への水羊羹、自分家用におたべ。

 次に駅弁だ。たくさんあって、悩ましい。

 京香さんは、地ビールコーナーに直行した。

「ブレないねえ」

「全くだな」

 僕、直、兄は、それを見て清々しさすら感じていた。

「兄ちゃんも今晩飲む?今日は呼び出しもないんでしょ?あっちで食べた湯葉巻き揚げ作ろうかな。えびを巻いたのとか、ああ、あんかけもいいな」

「怜も今日はゆっくりしたらどうだ。夕飯は、外食でも出前でも総菜でもいいから」

「せっかくニジマスもらったし、ベーコン巻いてスモークしたら、お酒にも合いそうだよ」

 それに、電話でしか知らない声が混ざる。

「旨そうだなあ」

「え、あ、蜂谷――?」

 兄と直が、身を固くした。

「へえ。ますます面白い事になってるなあ、怜君。しばらく飽きそうにないわ」

 僕を見て、ニヤニヤと笑う。こっちは全く面白くない。

「何の用だ」

「ああ、お兄さん。そんなに警戒しないで下さいよ。ちょっと、顔を見に寄っただけだから。直君も」

「信用できるか」

「あれえ、悲しいなあ。そんなに信用ないかなあ」

 ニヤニヤと返すのがまた腹が立つ。

「あると思いますか」

「うん、ないね」

 自覚あるんじゃないか。

「沢尻のヤツも、えらく大掛かりな事をやったもんだよ。余計な事をしてくれて、ばかが。

 でも、まあ、坊やを巻き込んで面白くしてくれたのでチャラか」

「面白くないし、坊やじゃないです」

「神さん殺し、興奮した?」

「!」

「おお、こわ。退散、退散。

 あ、今度俺にもごちそうしてよ。じゃあねえ」

 ヒラヒラと後ろ手に手を振って、緊張感の欠片もない様子で離れて行く。

「あれが、蜂谷か」

 兄が、厳しい目で呟く。

「蜂谷が、余計な事をしてくれてって言ってたの、あれ、何だろうね」

 直も、難しい顔で考え込む。

 わからん。わからんものは、わからん。

「もう、今はいいや。京都旅行もこれで終わりなんだから、忘れよう」

 言っていると、京香さんが重そうな小さい箱を嬉しそうに下げて戻って来た。

「あ、御崎さん。京都ブルワーズはお勧めですよ、ふふふ」

 いつも通りで、ある意味ホッとする。

「牛すじのトロトロ煮込みとか、唐揚げとか、チキン南蛮とか」

「はいはい」

「でも夏はダイエットもしないといけないわね」

 面倒臭いな、もう! 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ