674手目 ラストはガチンコ、将棋団体戦3
……ああッ! 桜川48が勝ってるッ!
松平は、
「マジか、優勝の芽がなくなった」
と嘆息した。
ガーン、せっかくがんばったのに。
と思いきや、ポーンさんは、
「Ne, ne, 点差が縮まってますわッ!」
と叫んだ。
【中間順位】
1位 桜川48 402ポイント
2位 81Boys 370ポイント
3位 スーパー歩夢くん 305ポイント
3位 マジシャンズチェックメイト 305ポイント
5位 レッツゴー3人娘がゆく 304ポイント
6位 剣ちゃんず 284ポイント
7位 千駄ヶ谷棋面組 246ポイント
8位 チーム駒北 207ポイント
あ、ほんとだ。
3連勝のボーナスで、10点縮まったみたい。
命拾いした……けど、条件は、かなり厳しいことに。
松平は、
「118点差だから、全勝を2回ならイケる……か。マジシャンズにも勝ってもらわないといけないから、他力だな」
と、あまり余裕のなさそうな表情。
ほらほら、もっと気合い入れていく。
ここで、葉山さんからアナウンスがあった。
《さあ、準決勝ですッ! 並び直してください》
相談した結果、順番を変えるほうがいい、ということに。
じゃんけんしていたのを、見られたかもしれない。
これを逆用して、今回はじゃんけんせずに、口頭で決める。
すると、順番を変えなかったようにみえる──かもしれない。
《それでは、スタンバ~イ》
松平→私→ポーンさんで並んだ。
結果、松平が塚さん、私が内木さん、ポーンさんが箕辺さんに当たった。
いいとも悪いともいえない。
中学生チーム相手だから、過去の対戦成績が、ほとんどなかった。
《振り駒をお願いします》
松平が振って、剣ちゃんずの偶数先。
《準備はよろしいですか? ……では、対局開始ッ!》
よろしくお願いします、の挨拶から、私の7六歩。
8四歩、6六歩、8五歩、7七角、3四歩、6八飛。
初戦と同じでいく。
内木さんは、いきなり29秒考えた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
1四歩。
んー、急戦っぽい?
1六歩、6二銀、7八銀、4二玉、3八銀、5二金右。
ちょっと怪しい動き。
4八玉、5四歩、3九玉、3二玉、6七銀、5三銀。
私は5八金左と上がって、内木さんは手を止めた。
ここが岐路、かな。
急戦なら7四歩。
とはいえ、一回負けたら終わりの団体戦で、急戦にするかどうか。
春日川さんのときとは、事情が異なる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3三角」
持久戦模様。
私は5六銀で牽制した。
4四歩、4六歩、4三金、3六歩、2二玉、3七桂。
ん? 無造作に入ろうとし過ぎでは?
私の疑念をよそに、内木さんは1二香。
いやいやいや、そんなに簡単に入れないでしょ。
っていうか、入らせない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4五歩ッ!」
即開戦。
内木さんは、それでも1一玉と引いた。
追撃ぃ。
「2五桂」
「2二角」
そのかたちで頑張るの?
これを穴熊とは、もう言わないような。
私はかえって迷った。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4四歩」
桂馬を跳ねてるから、踏み込むしかない。
内木さんは内木さんで、受け切るしかなくなった。
急戦よりも緊迫した局面に。
同金、1五歩、同歩、6五歩、5五歩、1三歩。
私のほうは、角筋を2段階で止められている。
飛車も働いていないから、攻め手は限られていた。
なんとか繋げる。
同桂、1五香、2五桂、1三歩、同香、同香成、同角、1四香。
角と王様の串刺し。
角香交換は保証された。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1二飛ッ!」
そう来るか。
角と飛車と王様の串刺しで、贅沢な団子になった。
けど、すぐには取らない。
「5五銀」
まずは角筋をひらく。
同金、同角。
内木さんは、ここで手が止まった。
がっつり受けるか、軽く受けるか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
2二銀。
これはチャンス。
「1五金」
1筋を支えます。
角筋も懸念点だったけど、端攻めが続かなさそうなのも気になっていた。
内木さんは、後者に配慮しなかった感じがする。
じっさい、あッ、という表情になった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
4四銀打。
ちぐはぐになってきた。
ここで打つなら、さっき打っとけばよかったはず。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
7七角、1七桂成、1三香成、同銀。
私は満を持して、6四歩。
ノッてきた。
同歩に、思い切って同飛。
同銀、4四角で、攻めの継続に成功した。
内木さんは2二銀。
「1三歩ッ!」
徹底的に叩く。
29秒で同飛、ノータイムで1四歩。
内木さんは、反撃の順を探しているはず。
この段階で時間攻めに処す。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ
反撃してきた。
この手には、かなりの躊躇がみられた。
それもそのはずで、4六角が飛車銀両取りになるからだ。
その路線に進める。
2九銀打、1二飛、4六角。
内木さんは、いやあ、という表情。
アイドルらしからぬ仕草で、腕組みをし、盤を覗き込んだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
パシリ
切ってきた。
慎重に考える。
内木さんの狙いは、4二香だろう。
角を串刺しにして、攻めを継続するつもりだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
同銀。
内木さんは4三香と、ひとつまえに置いた。
趣味の問題ではなさそう……だけど、狙いがイマイチ見えない。
6一飛……は、5一歩でお手伝い感があるか。
6四の銀は角で拾えるから、飛車で取る必要もない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2二角成」
同飛に6四角と取る。
ここで4四香打なんじゃないかしら。
(※図は裏見さんの脳内イメージです。)
これが先手玉に迫っていて、迫力がある。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
パシリ
外れた。受けた。
30秒以内に、私は考えなおさないといけなくなった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
3三銀。
飛車を攻める。
内木さんの4三香は、このときの逃げ道準備だった?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
8八角。
うーん、違うのか。
2二銀成、同角成で、ストレートな飛車銀交換。
私は8二飛と下ろしかけて、ふと手が止まった。
あれ? ……4二香の受けが、詰めろになってるのでは?
(※図は裏見さんの脳内イメージです。)
……いや、なってないッ!
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「8二飛ッ!」
内木さんは4二香。
「同角成ッ!」
内木さん、あッ、という表情。
同金なら6一飛、4一歩、4二飛成と、二段飛車で勝勢。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3七銀ッ!」
ぐッ、2八銀打までの詰めろか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
こちらから2八銀打で、詰めろを消す。
内木さんは、先手陣を凝視していた。
攻めた以上、後手に受けはない。
4九香成を本命で読む。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4七桂」
逃げ道封鎖?
4九香成、同玉以下は、5九が広かった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
同金、同香成、3七銀、同成香。
4二の香車は消した──けど、後手の金銀の枚数が、めんどくさいことになった。
一手あれば、4一馬で勝ちなのに。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
2八銀打、4七金。
いかん、玉が狭い。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「9八飛ッ!」
飛車の横利きで阻止。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ
露骨過ぎィ! でもキツイ!
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3七銀ッ!」
同金に8八飛と切って、同馬、3三馬と連続で捨てた。
内木さんは、えッ、となった。さすがに読んでいなかったのだろう。
こうなったら捨て身だ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「ど、同馬」
2二銀、同馬、同飛成、同玉、5五角。
金を抜く。
「あ、そういう……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3三角ッ!」
3七角、4七歩。
これは詰めろじゃない。
「2五桂ッ!」
お願い、届いて。
4八銀、同金。
「裏見先輩、覚悟ッ! 6九飛ッ!」
き……厳しい。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は4九香と打った。
4八歩成、同角、2八銀、同銀、2九飛。
あ~ッ……ダメだ。詰んだ。
私は脱力して、3八玉と上がった。
2八飛成、4七玉、3八銀、4六玉、5五金。
「ま、負けました」
場所:第2回将棋大運動会 将棋団体戦の部 準決勝
先手:裏見 香子
後手:内木 檸檬
戦型:先手四間飛車
▲7六歩 △8四歩 ▲6六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6八飛 △1四歩 ▲1六歩 △6二銀 ▲7八銀 △4二玉
▲3八銀 △5二金右 ▲4八玉 △5四歩 ▲3九玉 △3二玉
▲6七銀 △5三銀 ▲5八金左 △3三角 ▲5六銀 △4四歩
▲4六歩 △4三金 ▲3六歩 △2二玉 ▲3七桂 △1二香
▲4五歩 △1一玉 ▲2五桂 △2二角 ▲4四歩 △同 金
▲1五歩 △同 歩 ▲6五歩 △5五歩 ▲1三歩 △同 桂
▲1五香 △2五桂 ▲1三歩 △同 香 ▲同香成 △同 角
▲1四香 △1二飛 ▲5五銀 △同 金 ▲同 角 △2二銀
▲1五金 △4四銀打 ▲7七角 △1七桂成 ▲1三香成 △同 銀
▲6四歩 △同 歩 ▲同 飛 △同 銀 ▲4四角 △2二銀
▲1三歩 △同 飛 ▲1四歩 △1九飛 ▲2九銀打 △1二飛
▲4六角 △2九飛成 ▲同 銀 △4三香 ▲2二角成 △同 飛
▲6四角 △1二歩 ▲3三銀 △8八角 ▲2二銀成 △同角成
▲8二飛 △4二香 ▲同角成 △3七銀 ▲2八銀打 △4七桂
▲同 金 △同香成 ▲3七銀 △同成香 ▲2八銀打 △4七金
▲9八飛 △8八銀 ▲3七銀 △同 金 ▲8八飛 △同 馬
▲3三馬 △同 馬 ▲2二銀 △同 馬 ▲同飛成 △同 玉
▲5五角 △3三角 ▲3七角 △4七歩 ▲2五桂 △4八銀
▲同 金 △6九飛 ▲4九香 △4八歩成 ▲同 角 △2八銀
▲同 銀 △2九飛 ▲3八玉 △2八飛成 ▲4七玉 △3八銀
▲4六玉 △5五金
まで128手で内木の勝ち




