673手目 ラストはガチンコ、将棋団体戦2
そっちか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
1九龍。
私は香車を拾った。
桂馬が、あんまり活きなくなってきたかも。
春日川さんは、9三角成の王手を先に決めた。
6二玉、4六金。
いやあ、参った。
先手は持ち駒も多いし、先手持ちの気分。
どうする? 単純に考えるなら、同飛。金が落ちている。
玉頭にプレッシャーをかけるなら、8四香。
後者は、どれくらい厳しいかがわからなかった。
8七香成、同玉、6九龍でも、上が広いからだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は4六飛で、金を取った。
「5四桂」
……あッ! 王手飛車ッ!
一瞬あせった。
けど、わりと強引なことに気づいた。
4四香でかわせる。
とはいえ、角と飛車の交換にはなる。
飛車の打たれ場所を判断する必要が──
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
30秒じゃ無理ぃ。5四同歩。
以下、3五角、4四香、4六角、同香、4四桂と進んだ。
うーん、29秒ずつ考えてきた結果、まだこっちは困ってないと思う。
この桂馬を相手にするとマズいから、いったん攻めを考える。
6五桂か、単に4八歩成じゃないかなあ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は4八歩成として──首をかしげた。
先手から大攻勢が来そうな予感。
そして、これは当たった。
5二桂成、同金、3一飛、6一金に、7一銀と王手してきた。
私の6三玉に、6六香。
2二角を消しつつの攻め、か。
受け間違えると即死しそう。
5八との攻め合いは、ギリギリ間に合いそうになかった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7四歩ッ!」
王様のふところを広げる。
「8二馬」
私は7三銀打で固めた。
さっきの7四歩は、これが狙い。
4枚の囲いでがんばる。
春日川さんは、この盤面を予定していなかったらしく、手が止まった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「2九歩」
あ、ゆるめた。
「同龍」
「4四金」
ぐッ、攻めるまえの調整だったか。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
8二銀、同銀不成、5一桂と受ける。
耐えられるかなあ。
先手は3三飛成と、執拗に攻めてきた。
4三歩、5五歩。
もはや総動員状態。
先手からも息切れを感じる。
ギリギリの攻防になった。
「6二桂」
とにかく受ける。
5四歩、同桂、5三歩、6二金寄、5二銀。
うおおお、とにかく耐える。
同金上、同歩成、同金、5四金。
微妙。まだ助かったとはいえない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
同玉に3四龍。
うーん……こういうかたちになったら、切れてるとしたもんだけど。
4四桂で合駒する。
4五金、6三玉、5六桂。
攻めの引き出しが多すぎる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5三銀ッ!」
私は受けに徹した。
6四香、同銀、同桂、同玉。
春日川さんは、5五銀と重ねてきた。
6三玉、5四金、6二玉、5三歩。
これは取れ……ない。取ったら3二龍が王手になる。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
4二金。
さすがに止まったのでは……4四銀は続かないだろうし……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3九歩」
よしッ! 止まったッ!
とはいったものの、今度は私が忙しくなった。
慎重に反撃しないといけない。私の王様は狭い。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5六角ッ!」
ここが急所のはず──って、6六歩でよかったッ!
3一龍と入られてしまった。
いかん、引きずってはいかん。
ここで一回、4一金打と受けまして……1一龍に2一歩。
よし、これで龍の脅威は去った。
と思いきや、春日川さんは6四銀とすりこんできた。
金駒一枚渡すと、詰んでしまう。
かといって、受けるのに適した駒もない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
3九龍。
2一龍なら、6九龍で終わり。
飛車は渡しても詰まない。
両者、正念場に。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
6八金。
ぎりぎりで受けてくる。
私も自陣に手を入れて、6三歩。
「7三香」
また踏み込んできた。
6四歩、7二香成、同玉、7三銀打、6一玉。
春日川さんは、白杖を握り締め、ニヤリと笑った。
「8一と」
ぐッ……マズ……い……逃げ場が……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は6六桂と置いた。
これは……5三金と、逃げ道を作る手もあったような……。
いや、それは一手一手か。
春日川さんは10秒ほど考えて、8八玉。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7九龍ッ!」
9七玉なら、簡単な詰み。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
同玉。
さすがに引っかからなかった。
私は、7八銀からバラバラにする順を読んだ。
けど、足りない。
7八香は? ……8八玉でダメだ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「な、7七香」
折衷案っぽい手を指してしまった。
春日川さんは、15秒まで読んで、同桂としかけた。
駒を持ち上げたところで、手を引っ込めた。
「……」
私も異変に気付く──同桂だと、詰むのでは?
4四に桂馬がいる。これがかなり大きい。
もし同桂、7八銀、同金、同桂成、同玉なら、6七角成、同玉、8九角だ。
(※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)
これは詰む。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同金ッ!」
春日川さんは、詰みを回避……した?
待って、これ、他にも詰み筋があるっぽくない?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6八銀ッ!」
私は、読み切れないままに打った。
詰み……詰まない? ギリギリだと思う。
春日川さんは、ここで迷いが生じた。
ノータイム指しで時間攻めにするのか、詰みチェックをするのか。
この岐路に十数秒使った。
「同玉」
5九角を読む──これは詰まないっぽい。
7九玉と絶妙な位置に引かれて、6八銀は足りない。
かといって、私は駒を渡してしまったから、もう受けが効かない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は5八とと寄った。
春日川さんは、今度こそノータイムで、7九玉。
時間攻めに決めたらしい。
私は6八銀、8八玉、7七銀不成の順を読んでいた。
(※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)
同桂は詰む。
同玉は? 6八角、8八玉のあと、金しかない。
金駒がもう1枚……いや、2枚はないと。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6八銀ッ!」
ノータイムで8八玉。
ちょっと待って。
金駒……自陣で入手もできないし……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
私は7七銀不成、同玉で、問題の局面まできた。
金駒は拾えない。これはもう確定だ。
2枚どころの話じゃなくて、1枚も拾えない。
……………………
……………………
…………………
………………あ、そっかッ!
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6八角」
「8八玉」
「7九角成ッ!」
落ちてなければ、作る。
同玉は頭金の詰み。
「7七玉」
私は、もう一枚の角を裏返した。
連続捨て。
さっきまで、こっちのほうを見落としていた。
4四に桂馬があるから、逃げられない。
ノータイム指しをしていた春日川さんも、しまったという表情。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
8六玉に、7六馬の押し売り。
春日川さんは、白杖で両手を支えて、うなだれた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「負けました」
「ありがとうございました」
うらっしゃあああッ! ……と、団体戦だった。
他はどうなった?
私があたりを見ると、松平が親指を立てて、ニヤリと笑った。
ポーンさんも、腰に手をあてて、えっへんという顔。
勝った。
葉山さんのアナウンス。
《全局終了しましたッ! 1回戦の結果発表ですッ!》
【中間順位】
1位 桜川48 402ポイント →
2位 81Boys 370ポイント →
3位 スーパー歩夢くん 305ポイント →
3位 マジシャンズチェックメイト 305ポイント ↑2
5位 レッツゴー3人娘がゆく 304ポイント ↓1
6位 剣ちゃんず 284ポイント ↑1
7位 千駄ヶ谷棋面組 246ポイント ↓1
8位 チーム駒北 207ポイント →
場所:第2回将棋大運動会 将棋団体戦の部 1回戦
先手:春日川 琴音
後手:裏見 香子
戦型:後手四間飛車
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角
▲4八銀 △4二飛 ▲6八玉 △9四歩 ▲9六歩 △3二銀
▲5六歩 △6二玉 ▲5八金右 △7二銀 ▲7八玉 △4三銀
▲5七銀 △5二金左 ▲3六歩 △7一玉 ▲1六歩 △8二玉
▲3七桂 △6四歩 ▲4五桂 △同 歩 ▲3三角成 △同 桂
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △4一飛 ▲3五歩 △4二金
▲3四歩 △3五角 ▲2三飛成 △3二金 ▲3三龍 △5七角成
▲同 金 △3三金 ▲同歩成 △3八飛 ▲5八金引 △4六歩
▲同 歩 △3三飛成 ▲6六角 △3八龍 ▲9五歩 △5二銀
▲9四歩 △9二歩 ▲9三桂 △5四桂 ▲5七角 △4六桂
▲4八金 △2八龍 ▲2九歩 △同 龍 ▲8一桂成 △同 玉
▲9三歩成 △同 歩 ▲9二歩 △7一玉 ▲9一歩成 △4七歩
▲3七金 △1九龍 ▲9三角成 △6二玉 ▲4六金 △同 飛
▲5四桂 △同 歩 ▲3五角 △4四香 ▲4六角 △同 香
▲4四桂 △4八歩成 ▲5二桂成 △同 金 ▲3一飛 △6一金
▲7一銀 △6三玉 ▲6六香 △7四歩 ▲8二馬 △7三銀打
▲2九歩 △同 龍 ▲4四金 △8二銀 ▲同銀不成 △5一桂
▲3三飛成 △4三歩 ▲5五歩 △6二桂 ▲5四歩 △同 桂
▲5三歩 △6二金寄 ▲5二銀 △同金上 ▲同歩成 △同 金
▲5四金 △同 玉 ▲3四龍 △4四桂 ▲4五金 △6三玉
▲5六桂 △5三銀 ▲6四香 △同 銀 ▲同 桂 △同 玉
▲5五銀 △6三玉 ▲5四金 △6二玉 ▲5三歩 △4二金
▲3九歩 △5六角 ▲3一龍 △4一金打 ▲1一龍 △2一歩
▲6四銀 △3九龍 ▲6八金 △6三歩 ▲7三香 △6四歩
▲7二香成 △同 玉 ▲7三銀打 △6一玉 ▲8一と △6六桂
▲8八玉 △7九龍 ▲同 玉 △7七香 ▲同 金 △6八銀
▲同 玉 △5八と ▲7九玉 △6八銀 ▲8八玉 △7七銀不成
▲同 玉 △6八角 ▲8八玉 △7九角成 ▲7七玉 △6七角成
▲8六玉 △7六馬
まで170手で後手の勝ち




