６７１手目　みんなでわいわい、将棋でデカスロン４

　佐伯（さえき）くんたちも戻ってきた。

　私の前に座る。

　五見（いつみ）くんは、

「おつかれさまでした。どうでしたか？」

　と尋ねた。

　佐伯くんは、

「ボクシングには勝てたけど、試合には負けちゃった感じ」

　と答えた。

　並びは、くららん→サーヤ→駒込（こまごめ）くんと、不破（ふわ）さん→佐伯くん→ヨッシー。

　まず、初手でくららんのボクシング。

　不破さん、一発ＫＯ。

　そのあと佐伯くんが、意趣返しでボクシング。

　さすがに連戦はきつかったらしく、くららんが判定負け。

　だけど、スーパー歩夢くんは、アスリート２枚看板。

　サーヤが体力勝負をやりくりして、最後は駒込くんとバトンタッチ。

　純粋に将棋をやって、最後は負けた、と。

　佐伯くんは、

「あのバイオレンスな構成に対して、桜川（さくらがわ）４８がどうするか、見てみたい」

　とコメントした。

　そうこうしているうちに、準備がととのった。

　葉山（はやめ）さんのアナウンス。

《それでは、１番手の選手、スタンバイしてください》

　桜川４８からは、箕辺（みのべ）さんが、スーパー歩夢くんからは、くららんが登場。

　それぞれ、準決勝と同じ。

　振り駒で、桜川４８の先手。

《準備はよろしいですか？　……では、始めッ！》

　よろしくお願いします、のあと、箕辺さんは即座に、

「ボウリング」

　と宣言した。

　レーンが登場する。

　そろそろ慣れてきたのか、すぐに投球フォームへ入った。

　ゴロゴロゴロ　ガラガラガラン

　２本残った。

　五見くんは、

「疲れが出てますね」

　と評価した。

　たしかに、そうかも。腕の振りが甘かったような。

　とはいえ、４回動かせるのだから、まだまだ効果的。

　箕辺さんは、気持ちを切り替えて、

「２六歩、２五歩、２四歩、２三歩成」

　と指した。

　王道。角に当てる。

　くららんのターン。

「ボウリング」

　ピンが再び立った。

　くららん、力強い投球。

　ゴロゴロゴロ　ガラガラガラン

　１本残った。

　こっちも、飛車を抜く筋はなくなった。

　箕辺さん、安堵の表情。

「ダンス」

　え？　くららんがダンス勝負？

　あ、８四歩、８五歩、８六歩、８七歩成のあと、８八との狙い？

　ダンシングロボット登場。

《ソレデハイッテミヨ～♪ Let's dance♪》

　激しい音楽が始まった。

　リズムが速い。

　くららんはぎこちなく踊りつつも、スピード負けしていなかった。

　箕辺さんは、合わせるのに苦労している。

《採点デース》

　蔵持　６４

　箕辺　６２

　僅差ッ！　後手は追加ターンを獲得。

　角を逃がせるけど、それはボウリングが無効になるから、さすがにやらないだろう。

「５四歩、５五歩、５六歩、５七歩成。追加ターンで、５二飛」

　え、そういう……あれ？

　観客席が色めき立った。

　これ、めちゃくちゃ厳しいのでは？

　放置したら、５八と→同ほにゃらら→５八をストラックアウトで打ち抜いて、勝ちになる。

　箕辺さんも困惑。

「ちょ、そんなのあるの？」

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「ふ、フラフープ！」

　時間稼ぎに出た。

　箕辺さんは、空から落ちてきた輪っかを手に、長考。

　観客席では、五見くんが、

「シック・ボーで、初手に戻すことも考えられます……が、じぶんのボウリングとストラックアウトも無効にしないといけなくなるので、迷いどころですね」

　と解説した。

　うむむ、箕辺さん、どうする？

　３０秒経過。

　フラフープは失効して、１０秒将棋に。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「６八金ッ！」

　強気に出た。

　くららんは、同と、とはせずに、６七とでいったん王手。

　これも渋い。

　事前に考えてきた作戦っぽかった。

　５八歩はストラックアウトを挑まれるので、箕辺さんは４八玉。

　２七のスペースを利用する方向へ。

　６八と、同銀。

　佐伯くんは、

「後手が飛車を浮いたら、ダーツ勝負できます」

　と言った。

　なるほど、後手の飛車は、あまり移動できないのか。

　と思った瞬間、くららんのほうから、

「ダーツ」

　と宣言が入った。

　パネルが現れる。

　ここで王様移動？

　くららんは、すごくシンプルなフォームで、何度が投げるマネをした。

　力任せの投擲。

　ストン

　角を狙って外れたパターン？

　葛城くんは、

「めちゃくちゃ勝負に出てますねぇ。７九に当たってたら、終わってましたよぉ」

　と驚いていた。

　スーパー歩夢くんは、どうやら攻撃に全振りのようだ。

　箕辺さん、険しい表情。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「７九銀ッ！」

「５六桂」

　先手、角を取るヒマがない。

　３八玉、６八桂成で、箕辺さんは、

「夏希（なつき）先輩、お願いしますッ！」

　と叫んで、交代した。

　雰囲気からして、予定の交代ではないっぽい。

　策が思い浮かばなかったのだろう。

　塚（つか）さんは颯爽と登場して、盤を見つめた。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「ダンス」

　ダンス対決に持ち込んだ。

　今度の音楽は、バレエみたいなゆったりとした音楽。

　塚さんは、タップダンスの速度をゆるめて、軽やかに舞った。

　今回は、さすがにくららんの粗（あら）が目立った。

《採点デース》

　８８

　５７

　圧勝。

「２二と、４五角」

　あッ！　後手、いきなりピンチになった。

　くららん、シック・ボーを宣言。

《賭ケヲドウゾ》

「大」

　カラカラカラ　……１１

　塚さん、まいったな、という表情。

《手ヲモドシマース》

　くららんは、６八桂成と指しなおした。

　先手は、ダンスの権利を失っただけになってしまった。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「２二と」

　塚さんは、もういちど角を取った。

　くららんは、ビーチフラッグスを宣言。

　砂場が現れて、ふたりとも位置につく。

　パーン

　これもくららんの勝ち。

　さすがの踏み込み。

　くららんは、膝の砂を払いながら、

「角をもらって、７九成桂」

　と押し込んだ。

　塚さん、当然にシック・ボーで返す。

《賭ケヲドウゾ》

「小」

　カラカラカラ　……７

　おお、意趣返し。

　盤面が戻った。

「もういちど２二とです」

　くららんは頭を掻く。

「７九成桂」

「同角」

　くららんが同玉として、塚さんの３一と。

　くららんは、ここで迷った。

　手が広くて、特殊ルールの組み合わせまでは、考えていられない状況だ。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「ど、同金」

「５三歩」

　……あ、取ったら王手飛車。

　くららん、ちょっと困ってるかも。

　先手も有力になってきた。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

　パシリ

　間接王手。

　後手はストラックアウトを残している。

　今度は、塚さんが困ったような表情。

　こぶしを口もとに当てた。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

　２七玉と上がった。

　くららんは、すかさず２二飛。

　こ、これは……５三歩を逆用されてしまった。

　五見くんは、

「４八玉と逃げる手も、あったような……」

　と疑問を呈した。

　いやあ、どうだろう。そっちに逃げるのも危なかったと思う。

　１八玉、２八飛成、同銀、２六歩。

　くららん、これはイケる、という雰囲気。

　塚さんも粘ってるけど、きつそう。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「暗算」

　おっと、そこを使いますか。

　スクリーンに問題が表示された。

【問題】

縦の長さが横の長さより 3 cm 長い長方形がある。

この長方形の面積は 154 cm²である。

この長方形の 縦の長さと横の長さ をそれぞれ求めなさい。

　ん？　意外と簡単では？

　ところが、塚さんは、問題をあまり見ていなかった。

　もしかして、３分を盤面の対策に使うつもり？

　それはちょっと疑問手のような。くららんは３年生で、棋力が落ちてる可能性があるから、目隠し将棋は有効だと思う。現局面は複雑だ。

　ピッ

　３分が経過して、１０秒将棋になった。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「５九飛」

　反撃に出た。

　これも厳しい。先手もストラックアウトがあるから、６九金が安全にならない。

　五見くんは、

「これ、後手はほとんど瀕死では？」

　と指摘した。

　そ、そうかも。８八玉と６八玉は詰みだし。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「６九金ッ！」

　うわッ、ストラックアウト勝負を受けた。

　パネルが登場する。

　観客席では、うしろのほうで高崎さんの、

「蔵持先輩、この勝負はうまいですよ。下段は、リリースの高さと合わないですからね。しかも、右利きは、ボールが右にいきやすいです」

　と、いかにもアスリートらしい分析。

　塚さんも難しいと感じているのか、投げるのに時間がかかった。

　ガコン

　あぁあああああ、失敗。

　塚さんは、その美貌を崩す。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

　塚さんは、仕方なく５八金。

　６八銀と指されたあと、二の矢を投じた。

「ダーツ」

　塚さんは、準決勝と同じように、華麗なフォームで投げた。

　ストン

　一気に遠ざかった。

　くららん、真顔に。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

　パシリ

　？　……あッ、同玉はストラックアウト狙いか。

　シーソーゲームだ。形勢判断がいったりきたりする。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

　２二玉に５九金。

　次に４二飛が厳しい。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「３二銀」

　先受け。

　このままだと、相入玉？

　くららんは、前のめりになった。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「これだッ！　２五飛ッ！」

　……あッ、うまい。

　どう逃げてもストラックアウトになる。

　ならない１二玉は、香車の利きだ。

　塚さんは、その無表情のなかに、わずかな表情を作った。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「２三歩」

「ストラックアウト」

　パネルが飛び出す。

　くららん、やや緊張気味──でもない。

　軽く肩を回して、投球フォームに入った。

　スパン

　終了ぉ。

　観客席から拍手が起こった。

　スーパー歩夢くんチームは、壇上にあがってわいわい。

　サーヤは、

「さすが冬馬（とうま）、かっこいい～」

　とはしゃいでいた。

　葉山さんのアナウンス。

《それでは、レポーターの黒木（くろき）さん、どうぞ》

　箒（ほうき）にまたがった黒木さんが、空から降りてきた。

　魔法のステッキをマイクに変えて、駒込（こまごめ）くんに取材。

「優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「勝ち上がれた秘訣は、ありましたか？」

「うーん、そうですね、運が良かったかな、と思います。僕は３戦とも出てないんですが、そのあいだに競技を分析できたのも、有利に働いたかもしれません。中飛車戦法は、準決勝の途中で、鞘谷（さやたに）先輩と議論してて気づいたので」

　なるほど、背後でもいろいろ努力していたわけか。

「最終競技に向けて、意気込みなどを」

「優勝を狙える位置になったので、次もがんばります」

「ありがとうございました。放送席へもどします」

《黒木さん、ありがとうございました。それでは、いよいよ大詰め、最終競技ですッ！　全チームに優勝の可能性があるので、がんばっていこうッ！》