654手目 走って読んで、詰め将棋マラソン4
《さあ、第4チェックポイントを前にして、裏見選手が爆走。マジシャンズとスーパー歩夢くんを引き離しました。しかーし、81Boysとはまだ差がある。トップの3人娘は、もうすぐ最終チェックポイントだ》
葉山さんの実況が進むなか、箕辺くんたちの背中が見えてきた。
うしろから松平が、
「よし、ルール確認はできた。次は解くぞ」
と、私に連絡があった。
親指を立てて、了解、と返す。
道は林に入った。
鬱蒼としてるわけじゃなくて、木々のあいだから田園風景が見える。
舗装されていないから、足首を痛めないようにしないと。
第4チェックッポイントは、大きな池のすぐそばにあった。
あと50メートル、というところで、81Boysが先にチェックイン。
私たちもゲートへ殺到した。
松平はキックボードを降りながら、
「しめた。春日川たちも出てないぞ」
と指摘した。
私は、
「リカバリーできるのは、3分差まで。それ以上はキツイと思って」
と言って、ゲートに入った。
【詰将棋(読者用):ネコネコ鮮協力詰?手(もじゃのやさん)】
あとは待つのみ。足踏みして待機。
……………………
……………………
…………………
………………さすがに瞬殺は無理か。
ガチャン
ぐッ、3人娘?
「よしッ! ラストだッ!」
「たっちゃんがんばれぇ」
「アハッ、もしかしてトップになった?」
ちがう、81Boysだッ!
さっき入ったばっかりなのに。
《おおおおっと、ここで81Boysが首位に躍り出た。詰将棋パートで逆転だぁ!》
《他のチーム、ちょっと苦しいか……》
いや、むしろチャンス。
高崎さんより、箕辺くんのほうが追いやすい。
ここで出たら、首位の自信がある。
……………………
……………………
…………………
………………ガチャン
「くっそぉ、追うぜッ!」
「起死回生ってなもんだ」
「1分差です。このペースならいけます」
だぁ、3人娘も解いた。
Hurry, hurry!!
今から1、2分以内なら、追いつけるかも。
すぐにでも、走り出したい。
平常心、平常心。
ガチャン
「裏見、ダッシュ!」
うおぉおおおおおおおッ! ナイスッ!
81Boysとは2分37秒差、3人娘とは1分41秒差。
壁のタイマーで、正確に測ってあった。
ラストスパート。望外のチャンス。
《剣ちゃんずも出走しました。これは熾烈な争いになった》
《優勝候補は、3チームに絞られた感じですね……》
《あ、でも、マジシャンズとスーパー歩夢くんも出ましたよ。歩夢くんは、鞘谷選手とバトンタッチしてます》
ぐあぁあああ、あっちはラスト全力疾走作戦か。
サーヤも体育会系だから──いや、だいじょうぶ。サーヤとの差は、1分くらいあった。インターハイレベルの走りでない限り、追いつかれることはない。それよりも、高崎さんを追う。
そんなに離れていないはずなんだけど……木が多くなってきて、見えない。
池に沿って走ったあと、そのまま林を出た。
目の前に青空が広がる。
スタート地点だったスタジアムが、地平線にそびえていた。
爽快な風景。
と同時に、視界が高崎さんと箕辺くんを捉えた。
目測、私と高崎さんが50秒差、箕辺くんと1分10秒差。
《先頭は、まもなく残り1キロ。箕辺選手、逃げ切れるか。猛然と追う高崎選手と、裏見選手。さらにそのうしろから、鞘谷選手が爆走しています》
現時点で、私は1キロ3分30秒から3分40秒ペース。
男子高校生の1000メートル平均くらいだけど、箕辺くんはペースダウン。
1分10秒差はいける。
2位浮上の目途が立った。
問題は高崎さん。彼女も速い……けど、丸々10キロを、30分ペースで走れるわけがない。そんなの日本記録だ。こっちも狙える。
私は、しゃにむに走った。
前のふたりもがんばる──箕辺くんが脱落し始めた。
高崎さんが先に抜いて、20秒遅れで私も抜いた。
そのままスタジアムへ飛び込む。
シューズのスパイクが、トラックの感触を踏み締めた。
《残り400メートル! 最後はスタジアムのトラックを一周ですッ!》
うらぁああああああああッ! 追いつけぇええええッ!
《裏見選手、迫るッ! 高崎選手、踏ん張る! 残り100メートル!》
私は息が切れる寸前まで、地面を蹴った。
ゴールテープの直前で、高崎さんに並んだ。
パーン
ゴール音。
私はペースダウンしながら、トラックを直進した。
高崎さんもゆっくりになって、私の後方へ消えた。
《ほぼ同時でしたが、どうでしょうかッ!?》
《カメラ判定です……》
スクリーンに、私たちの映像が映った。
私が追いついて、並んで走って、コマ送りに──あぁあああああッ!
《レースを制したのは、高崎選手ッ!》
1センチくらい差があった。
私はその場で立ち止まり、がっくりと膝を落とした。
そこへ、松平がキックボードで近づいてきた。
「おつかれさん。最後、惜しかったな」
「ハァ、ハァ……ごめん……」
「いや、こっちこそ悪かった。4問目を解いてりゃなあ」
受験勉強で体がなまっていなければ、余裕だったのに。
そこから、箕辺くん、サーヤと続いてゴールした。
サーヤは、逆転まであと100メートルくらいに迫ってたけど、最後は箕辺くんが意地を見せた。
私が額の汗をぬぐうと、ロボットがやってきた。
「ドウゾ、スイブンホキュウヲ」
ペットボトルを渡された。
どうもどうも。
ひとくち飲む──マズぅ。
エナジードリンクの、薬っぽいところを煮詰めたような味がする。
最後にへろへろの獅子戸くんがゴールして、全チーム到着。
順位が確定した。
【マラソン順位】
1位 レッツゴー3人娘がゆく
2位 剣ちゃんず
3位 81Boys
4位 スーパー歩夢くん
5位 マジシャンズチェックメイト
6位 桜川48
7位 チーム駒北
8位 千駄ヶ谷棋面組
《では、詰将棋を加点して、ポイント順に並べます……》
表示が切り替わった。
【配点順位】
レッツゴー3人娘がゆく
140ポイント(1位+4問正解○○○×○)
剣ちゃんず
110ポイント(2位+4問正解○○○×○)
81Boys
100ポイント(3位+5問正解○○○○○)
スーパー歩夢くん
60ポイント(4位+3問正解○○××○)
マジシャンズチェックメイト
40ポイント(5位+3問正解○×○×○)
千駄ヶ谷棋面組
40ポイント(4問正解○○○×○)
桜川48
30ポイント(3問正解○×○×○)
チーム駒北
20ポイント(2問正解○×○××)
総括も始まった。
葉山さんは、
《解説の飛瀬さん、全体的にいかがでしたか?》
と尋ねた。
《そうですね……適材適所のチームが強かった、という印象です……3人娘は、マラソンを高崎選手、詰将棋を林家選手と春日川選手で担当できたのが、勝因かな、と……剣ちゃんずは、松平選手と裏見選手をスイッチできたのが、大きかったと思います……81Boysとマジシャンズは、マラソンを途中交代できていれば、というところもありましたが、これは仕方がありません……》
《最後、チーム駒北が、8位から7位へ上がりました。このあたりの攻防は、いかがでしたか?》
《チーム駒北も、津山選手から五見選手へのバトンタッチで、2キロを全力疾走してましたね……》
その五見くんは、人工芝のうえに倒れ込んでいた。
がんばったで賞。
葉山さんは、
《千駄ヶ谷は最下位でしたが、40点入ってます。すべて詰将棋です》
とコメントした。
すると、リーダーのつじーんは、
「僕たちのチームは、最初から詰将棋に集中する作戦でした。男3人なので、交代しながら走っても良かったんですけど、6位くらいが席の山かな、と思ったので。疲れるのは獅子戸くんが担当しました。素早く解けた問題はありませんでしたが、結果には満足してます」
と説明した。
なるほど、そういう作戦もあったか。
不破さんは、
「チッ、よく考えりゃ、6位以下はマラソン関係ねーんだよなあ」
と舌打ちした。
とりあえず、私たちの出だしは上々。
好発進できた。
《それでは、次の競技に移ります……と、そのまえにCM……》
第5問 ネコネコ鮮協力詰?手
https://tsumeshogi.com/problems/gawgo_0uks




