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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
65/686

53手目 高校生男子の部B3回戦 太田vs葛城

※ここからは、葛城かつらぎくん視点です。

挿絵(By みてみん)


 【第3ラウンド】

  三匹が指す vs 盤上товарищ

  駒桜市幹事会 vs 長距離通学組合@将棋

  アキラカ vs あたってくだけろ

  瀬戸内将棋愛好会 vs 準レギュラー友の会

  桂香3番線 vs 集え!B級将棋指し!


「よーし、順調だな」

 たっちゃんは成績表をみながら、小さくガッツポーズ。

「お兄ちゃんたち、すごいね」

 ボクのそばで、ひとりの女の子が笑った。

 この子が、たっちゃんの妹、箕辺(みのべ)(かおる)ちゃんだよぉ。

 たっちゃんと同じで、ちょっとツンツン頭だねぇ。ボーイッシュ。

「そうでもないさ……ふたば、佐伯(さえき)、このまま優勝を狙うぞ」

「はぁい」

 自力みたいだし、チェスクロくらいは持って帰りたいねぇ。

 あれって、高いんだよぉ。

「とか言いつつ、私たちのほうも、十分優勝の可能性があるんだけどね」

 薫ちゃんは、自慢げに胸を張った。

「マジか?」

「マジマジ。結構、ガチなチーム作ったもん。レモン先輩と鶴子(つるこ)先輩」

「お祭りだから、あんまりガチなチームだと、目を付けられるぞ」

「お兄ちゃんってば、そういうクソマジメなとこ、治したほうがいいよ。彼女ができたら、絶対に困るから。妹からの忠告」

 たっちゃん、反論せず……あやしいなぁ。

 やっぱり、彼女がいるんじゃないかなぁ……先週の日曜も、練習将棋に誘ったら、断られちゃったし……ほんとに付き合いが悪くなってるよぉ……。

「そうそう、あっちでスイーツ売ってたから、なにかおごってよ」

 薫ちゃんは、たっちゃんの腕を引っ張って、その場から連れ去った。

 仲のいい兄妹だねぇ。ボクは姉2人で末っ子だから、ちょっとうらやましいよぉ。

「……あッ」

 佐伯くんが、いきなり声をあげた。手品のタネでも思いついたのかなぁ?

「どうしたのぉ?」

「箕辺くんに、お金返してなかった」

「お金? お昼ご飯の代金?」

 佐伯くんは、首をよこに振った。

「このまえ、アタリーに行ったとき、電車代借りちゃったんだよね」

 え? アタリーに……? そんな話、全然聞いてないよぉ。

「たっちゃんと、ふたりで行ったのぉ?」

「全部で8人だったかな。箕辺くん、捨神(すてがみ)くん、ポーンさん、大場(おおば)さん、来島(くるしま)さん、飛瀬(とびせ)さん、僕と、Y県の知らない中学生……うん、8人だね」

 え? ……えぇ? な、なんでボクだけハブられてるのぉ?

「ボ、ボクは誘われてないよぉ」

「そうなの? てっきり、用事があって来なかったんだと思ってたよ」

 そうなの? じゃないでしょぉ! どういうことなのぉ!

「あ、そう言えば、チケットが8枚しかないって言ってたね」

 8枚しかなくても、おかしいでしょぉ!

 なんで知らない中学生が呼ばれてて、ボクが呼ばれないのぉ!

「8人でなにして遊んだのぉ?」

 返答次第では、怒るよぉ。

「8人だと身動きがとれないから、男女ペアで遊んだよ」

「男女ペア? それじゃまるで……あッ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「たっちゃんは、だれと遊んだのかなぁ?」

「箕辺くんは、来島さんと遊んでたよ」

「ふぅん」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 やっと分かったよぉ。

 

 たっちゃんの彼女が、だれなのか。

 たっちゃんとボクの友情を壊そうとしてる泥棒ネコさんが、だれなのか。

 

 分かったよぉ。遊子(ゆうこ)ちゃんだったんだねぇ。


《これより、午後の部をおこないます。選手は着席してください》

 たっちゃんが、慌ててもどってきた。

「よし、はりきって……おい、ふたば、どうした? 顔色が悪いぞ?」

「……なんでもないよぉ」

「そうか……気分が悪くなったら、言えよ。体が一番大事だからな」

 えへへぇ、やっぱりたっちゃんは優しいねぇ。

 ボクはすこしだけ機嫌をなおして、対局テーブルにむかった。

 着席して、駒を並べる。1番席がたっちゃん、2番席がボク、3番席が佐伯くん。

 相手は、太田(おおた)くんだねぇ。城南(じょうなん)の2年生だったかなぁ。

 パシパシと駒を並べながら、ボクの考えは、さっきのところへもどった。憂鬱。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「……し」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「もしもーし?」

「ふえ?」

 ボクが顔をあげると、太田くんが怪訝そうにこっちをみていた。

「対局、始まってるよ」

 え? もう? ……振り駒にすら気づかなかったよぉ。

「ごめんねぇ、ぼうっとしてたよぉ」

 盤面をみると、太田くんが7六歩と指したところだった。

「ボクが後手かなぁ?」

「そうだよ」

 意識がすっとんでたねぇ。危ないよぉ。3四歩。

 将棋に集中しようねぇ。

 2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、7八金、3二金、2四歩、同歩、同飛。


挿絵(By みてみん)


 横歩っぽいねぇ……8六歩。

 ボクは飛車先を突いて、チェスクロを押した。ちらりと、たっちゃんのほうをみる。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 やっぱり、赦せないよぉ。なんでボクだけ、ハブられてるのかなぁ。

 8六同歩、同飛、3四飛、3三角、5八玉、5二玉。

 たっちゃんやつっくんとは、これまで何度もアタリーへ行ってるのに……こんなの始めてだよぉ。たっちゃん、彼女ができて、友だちのことは、どうでもよくなったのかなぁ……。

「9六歩、と」

「そんなのありえないよぉ!」

「うわッ!?」

 たっちゃんが、友だちのこと忘れるわけないんだよぉ。

 これは絶対、遊子ちゃんのしわざだよぉ。

「あ、あの……9六歩が、どうかした?」

 指すから話しかけないでねぇ。7六飛ぃ。


挿絵(By みてみん)


「あ、相横歩?」

 相横歩だろうが、片横歩だろうが、どうでもいいよぉ。

 ボクはねぇ、ひさしぶりにメラメラしてるんだよぉ。分かるぅ、この怒りの炎?

 3三角成、同桂、8四飛、8二歩、3八金、7四歩。

 だいたいねぇ、遊子ちゃんとか、どっから出てきたのぉ? いきなり高校の将棋界にあらわれて……あ、もしかして最初から、たっちゃんを狙ってたのかなぁ? 将棋は、たっちゃんに近づくための、口実だった可能性があるねぇ……そんなに強くないし……あれかなぁ、将棋を教えて欲しいって近づいて、放課後ふたりきりとかいう作戦だったのかなぁ。

「うーん、分からん」

「分かんなくないよぉ! 絶対にそうだよぉ!」

「うわあッ!?」

 これはもう確定だねぇ。将棋指しの風上にもおけないよぉ。

「す、すんません……って、なんで俺、謝ってるんだ……7七桂」

 3六歩、4八銀、3七歩成、同銀、4五桂、4六銀、7五角。


挿絵(By みてみん)


 たっちゃんと遊子ちゃん、どっちが告白したのかなぁ……遊子ちゃんだよねぇ、きっと。押し売りしたんだよぉ、そうに違いないよぉ。いつも眠たそうなフリして、わりとやるもんだねぇ。二重人格かなぁ、それとも、普段はネコかぶってるのかなぁ。多分、後者だねぇ。男の娘の勘で分かるよぉ。

 そもそもねぇ、遊子ちゃんには、最初会ったときからイヤな予感がしてたんだよぉ。どうみても、普通の女の子じゃないもん。ピ○チュウフード付き改造制服なんか着ちゃってさぁ、センスないよぉ。どこをどうしたら、たっちゃんがOKするのかなぁ。もしかして、色仕掛けかなぁ。おっぱい触らせてあげるとか言ったのかなぁ。

「8五飛、かな」

「いやらしすぎるよぉ!」

「俺の手にイチイチ突っ込まないでください! お願いします!」

「もうバシっと決着をつけるしかないよぉ!」

 こんなふうにねぇ!

 

挿絵(By みてみん)


「ひ、飛車切り……?」

 なにを言ってるのかなぁ、ピ○チュウフードを切るんだよぉ。

 校則違反だからねぇ。チョキチョキ取っちゃうよぉ。

「あ、うーん……そうか……取れないのか……」

「取れるよぉ!」

「取ったら詰むでしょ、これ!」

 ボクと遊子ちゃんの仲が詰もうが詰むまいが、どうでもいいよぉ。絶交ぉ。

 7五飛、3六飛、3七歩、7五歩、3六歩。


挿絵(By みてみん)


 今日だって、遊子ちゃんは応援に来てないよねぇ。彼氏が大会に出てるのに、ありえないからぁ。きっと、ほかに男を囲ってて、たっちゃんはキープにするつもりなんだねぇ。最低なやり方だよぉ。たっちゃんの性格につけ込んでるねぇ。

 こうなったら、幼なじみのボクが、たっちゃんを救出するしかないよぉ。

「それにしても、葛城(かつらぎ)くん、今日はどうしたの? 興奮してない?」

 さっきから、うるさいよぉ! ボクは考えごとしてるんだよぉ!

 

 3七歩!

 同桂

 同桂成!

 同金

 2八飛!

 3八角

 4五桂!


「ご退場いただくか……2九歩」

「退場するのは彼女のほうだよぉおおお!」

「彼女ってだれだよッ!?」


 4 九 銀

 

挿絵(By みてみん)


「……あッ」

 まずは、あの泥棒ネコの本性を暴かないといけないねぇ。

 まあ、一発で分かるけどねぇ。6九玉、3七桂成。

「まだ時間使い切ってないのに……負けました」

「ありがとうございましたぁ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? いつのまにか、将棋が終わってたよぉ?

 

 なんでぇ?

場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生男子の部Bクラス 3回戦

先手:太田 道夫

後手:葛城 ふたば

戦型:相横歩取り


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲5八玉 △5二玉

▲9六歩 △7六飛 ▲3三角成 △同 桂 ▲8四飛 △8二歩

▲3八金 △7四歩 ▲7七桂 △3六歩 ▲4八銀 △3七歩成

▲同 銀 △4五桂 ▲4六銀 △7五角 ▲8五飛 △4六飛

▲7五飛 △3六飛 ▲3七歩 △7五歩 ▲3六歩 △3七歩

▲同 桂 △同桂成 ▲同 金 △2八飛 ▲3八角 △4五桂

▲2九歩 △4九銀 ▲6九玉 △3七桂成


まで52手で葛城の勝ち

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