６２５手目　女子の部１回戦　馬下〔市立〕ｖｓポーン〔藤花〕

　オーッホッホッホ、個人戦ですわ。

　対戦相手は、Frauコマサゲですのね。

「容赦いたしませんでしてよ」

「あの……どういうことですか？　私、なにかしましたか？」

　そういうシラフなお返事は、やめてくださいまし。

「もっとウィットに富んだお言葉をお願いします」

「そういうのは苦手で……」

「……」

「……」

「準備はいいですかぁ？　……では、始めてくださぁい」

　Dann los.

「よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします」

　わたくしの後手です。ポチっと。

　７六歩、３四歩、２六歩、８四歩。

　横歩へ誘導します。

　２五歩、８五歩、７八金、３二金、２四歩、同歩、同飛。

【先手：馬下（こまさげ）よもぎ（駒桜（こまざくら）市立（いちりつ））　後手：エリザベート・ポーン（藤花（ふじはな））】

　どんどんいきませう。

　８六歩、同歩、同飛、３四飛、３三角、５八玉、５二玉。

　王様は定位置で。

　３六歩。

「わたくしも取りますわ。７六飛」

　Frauコマサゲ、この手にすこし考えました。

　７七角。

　ふつうです。

「交換致しましょう。７四飛」

　同飛、同歩、２四歩、２二歩、８三飛。

　さあ、過激になってまいりました。

　７二銀で止めて、８五飛成に４二銀。

　Sturmangriffですわ。

「今日のポーン先輩、攻め将棋ですね……３八銀」

「そうでもありましてよ。お返しの２八飛」

　Frauコマサゲ、長考。

　角交換からの４六角を考えていると思います。

　それには７三角、２八角、同角成で、馬さんと龍さんの対決にします。

「……３三角成」

　同桂、４六角、７三角、２八角、同角成。

　Frauコマサゲはさらに３０秒ほど考えて、２一飛と打ち込んできました。

　Hmm……なんだか、見たことのある局面になりました。

　完全にidentischかどうかは、自信がありませんが。

　取り合いは確定……でもないですわね。

　３一歩や３一金と受ける手、７三桂と跳ねる手もあります。

　７三桂は７四龍、５五角の攻め合い。

　あまり迫力がないですかしら？

　８四歩と打たれるくらいで、先手の攻めも続きます。

「……１九馬」

　Frauコマサゲは、黙って１一飛成。

　ここで３一歩と受けます。すこしばかりヒヨリました。

　３七桂、７三角、８四歩。

　と金を間に合わせないようにするしかありません。

　８二歩と受けるのは、４六香があります。

　３七角成ができなくなってしまいます。

　ということは、受けずに攻め、ですわ。

「３七角成ですッ！」

　８三歩成、同銀、同龍──攻め切れません。

　３七同銀としてくれないと、この攻めは力がないです。

「……８二香」

　７四龍、７三馬。

　ブレッブレですわ。

　攻めたり守ったりです。

　Frauコマサゲは、龍にさわって……手を引っ込めました。

「失礼しました」

　今の動作、気になります。

　７三龍で、馬を取ろうとしていたような。

　考えてみましょう。

　７三龍、同馬……２一銀から、こじ開けるのでしょうか？

　たしかに金は逃げられません。

　となれば……４五桂と跳ねて……３二銀成、同歩、２三歩成、同歩。

　先手の龍は動きやすくなりそうです。

　（※図はポーンさんの脳内イメージです。）

　しかし、馬が強いので、だいじょうぶそうです。

　あ、でも、７四歩と打たれたら──

　パシリ

　ぜ、全然違う局面になりました。

　これは……なんでしょうか、逃げたというのはわかります。

　しかし、狙いは？

　わたくしは１分ほど考えました。

　けっきょく、よくわかりませんでした。

　ただそこにあるだけのような、そうでもないような。

　狙いがあるとしたら、７四歩と打つくらいでしょうか。

　あまり痛くないような、そうでもないような。

　時間を使わせる作戦かもしれないので、攻めを考えましょう。

　……………………

　……………………

　…………………

　………………Hmm、これもよくわからず。

　８九香成～７九成香としたいのですが、そのあとが続きません。

　でも、攻めないのは変です。

　……………………

　……………………

　…………………

　………………両方組み合わせますか？

　８九香成～７九成香として、そのあと７四歩とごめんなさいします。

　（※図はポーンさんの脳内イメージです。）

　これで悪くないように思います。

　それでは、８九香成と取りまして──予想通り、２一銀と打たれました。

　７九成香、同金、７四歩。

　Frauコマサゲも熟慮。３分使って、３二銀成。

　同歩、２三歩成、同歩、４一金。

　むちゃんこストレートにきました。

　受けないと終わってしまいます。

「５一金ですわ」

「４二金です」

　同玉……４六香とされました。

　これは４三香成ではなく、３四銀のダブルパンチの予定とみました。

　もういちど受けませう。

　わたくしは４五桂打としました。

　Frauコマサゲは……それでも３四銀。

　だんだんわかってきました。

　４三銀成ではなく、３三銀成が狙いですわね。

　同玉、４五香では、桂馬をタダで渡したことになります。

　でしたら、ちょっと冒険ですが、もういちど受けましょう。

　わたくしは、スーッと馬を出ました。

　Frauコマサゲ、また長考。

　残り時間は、わたくしが１０分、Frauコマサゲが７分。

　だんだん差がついてきました。

　残り５分まで考えて、６六香。

　ふつうです。

　７五銀と打ちまして……また長考。

　残り４分で……He?

　６五龍？　……わたくし、見落としましたかしら。

　７八龍、５七桂成、同玉、５六銀の予定だったのですが。

　それで後手良しという判断だったので、ドキリとします。

　ここは念入りに読むに限りますわ。

　同馬がerste Intuitionですが、間違っているのかもしれません。

　同馬、同香、５七桂成、同玉……Was ist das?

　５四飛で、銀が抜けますことよ？

　（※図はポーンさんの脳内イメージです。）

　かんちがいですかしら？　……いえ、銀は抜けます。

　でも、お話がうますぎるような。

　わたくしは１分ほど考えて、かんちがいではないことを確認しました。

「龍をいただきます」

　６五馬、同香、５七桂成、同玉。

　わたくしは５四飛と打って、Frauコマサゲのお顔をちらり。

　……………………

　……………………

　…………………

　………………驚いていませんわね。

　しかも、すぐに５六歩。

　も、もしかして、読み筋というやつですか？

　とりあえず、銀を取ります。

　３四飛、６三香成。

　これが詰めろであることに、賭けているオーラがあるのですよね。

　４一金打で、丁寧に受けます。

　７一角のwieder詰めろ。

　受けるのはeinfachですが……視線を敵陣へ。

　６五桂と打っても、詰みません。

　となれば受け……てばかりでは、どうにもなりませんわね。

　６五桂、６八玉、５七銀、５九玉の瞬間、７七桂成とできる余裕があればいいのですが。

　……………………

　……………………

　…………………

　………………Hm、つまりは時間稼ぎができればいいのです。

「６二歩」

　これで一手儲けます。

　Frauコマサゲは、表情が変わったようにみえました。

　またまた長考──同成香。

　詰めろではなくなったので、６五桂。

　４八玉、５七銀、５九玉、７七桂成、５八金、６七成桂。

　ここでFrauコマサゲの手がとまりました。

　これ、けっこう厳しくありませんこと？

　同金、同成桂のとき、銀しかないから受けが利きません。

　Frauコマサゲ、長考。

　ピッ

　１分将棋に。

　ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ！

「負けました」

　He?

「Da, danke schön」

　いきなり終わってしまいましたことよ。

　どなたか説明してくださいまし。

　Frauコマサゲは、

「すみません、６五龍のあと、６二歩が錯覚でした。６五同馬、同香、５七桂成、同玉、５四飛、５六歩、３四飛、６三香成、６五桂、４八玉、５七銀、５九玉、４一金打、７一角、５二金左の予定でした」

　と言いました。

【検討図】

　Dann……これは、どちらがよいのでしょうか？

　わたくしは、

「同成香、同玉、５五桂くらいで、後手が怖いですわ」

　と、率直に言いました。

「はい、なので龍馬交換でいいと思ったのですが、完全に読み違いでした」

　読み違えの理由は、６二歩に同成香、７七桂成、５八金、同銀成、同玉、３六飛、３七歩のあと、５一成香のタイミングがあるから、とのことでした。

　しかし、３六飛ではなく、７六銀で後手勝ちのように思います。

　わたくしは、

「６五龍ではなく、７八龍を読んでいました」

　と言いました。

「そうですね……そうしたほうが、良かったです」

【検討図】

　いろいろ話してみたところ、これでも後手が良いようです。

　５七桂成として、同玉、５六銀、６八玉に４五桂。

【検討図】

　続いて同香、同銀とバックして、４三銀成、同玉、５一龍のあと、５六桂、６九玉、５七銀とむりやり押し入って、潰せます。

　ちなみに、この手を見つけたのは、わたくしですのよ。えっへん。

　というわけで、感想戦も終了です。

「Danke schön」

「ありがとうございました」

　藤花のブースにもどると、みなさん先に集まっていらっしゃいました。

「Frauハヤシヤ、Frauタカサキ、いかがでしたか？」

「勝ったでがす～」

「もちろん勝ちましたよ」

　オーッホッホッホ、これで藤花は３勝１シード。

　２回戦へ、Los geht's、ですわ。