616手目 食べ歩き
※ここからは、林家さん視点です。
というわけで、林家笑魅でがす。
お祭りといえば、やっぱあっしでしょ。
琴音ちゃんといおりん。いつものメンバーでやってきました。
にぎやかですねえ。
屋台も多いし、出し物もいっぱい。
あっしはちょっとおめかしして、黄色い明るめの浴衣にしました。
琴音ちゃんは青い浴衣、いおりんはジャージ。
こいつマジでTPOの概念ないな。
あっしが内心呆れるなか、いおりんは、フランクフルトを食べながら、
「祭りといえば、買い食いだよなあ。全部食うぜ」
とご満悦。
「へっへっへ、だんな、そいつはむずかしいですぜ」
「あ? なんでだ?」
「りんご飴が鬼門でがす」
あれ、食べるのにクッソ時間かかる。
いおりんもさすがに納得、かと思いきや。
「キモンってなんだ? 新しいフレーバーか?」
「あのさあ、もう裏口入学確定だから、反省して」
一方、琴音ちゃんは買い食いができないんですよね。食べながら歩くと危ないから。こういうところでバリアフリーじゃないの、よくないと思う。
「どっか移動して座りますか?」
琴音ちゃんは白杖であたりをさぐりながら、
「だいじょうぶです。かき氷を食べたくはありますが」
と答えました。
かき氷、難易度高いな、これ。
山盛りだから崩れやすいんですよね。
視覚障がい者には厳しいかも。
「あっしが買って分けましょうか。何味がいいです?」
「何味、とは?」
琴音ちゃん、いおりん化しないで。
「かき氷の味ですよ、味」
「? かき氷の味は、一種類しかないのでは? 新商品ですか?」
えぇ……からかわれてる?
困惑するよこで、いおりんは爆笑。
「なんだ、知らないのか、かき氷のシロップは、全部同じ味なんだぜ」
「それはいおりんがバカ舌だからでしょ」
「ウソだと思うなら調べてみ」
な、なんだか不安になってきた。
スマホで検索──え? マジなの?
色のちがいと香りで、そう感じるだけ? 味はいっしょ?
「い、いおりんに物を教えられた……林家笑魅、一生の不覚……」
「ポテチマスターのオレさまが、バカ舌なわけないだろ」
たし蟹。
コンビニのオリジナルポテチ、全部当ててたからな、こいつ。
あっしは、
「琴音ちゃんは、どこでその情報を仕入れたんでげすか?」
と質問。
「いえ、こどもの頃から食べていますが、どれも同じ味だったので」
ん……そうか、琴音ちゃんは色がわからないから、騙されないんですね。
うーん、なんか複雑な心境。
とかなんとか言ってるうちに、かき氷屋を発見。
「じゃあ、どれでもいいですか? 香りはちがうみたいですが?」
琴音ちゃんは、
「そうですね……イチゴがいいです」
と回答。
じゃあ、注文しますね。
女子高校生らしく頼むぜい。
「おやじ、イチゴくれ」
「あいよ~」
機械でガガガと削って、赤いシロップかけて、練乳かけて、終わり。
「練乳もっとサービスして」
「しょうがないな~」
へっへっへ、これが女子高生の特権ってやつですよ。
300円払って、いただきまーす。
と、そのまえに琴音ちゃんにあげる。
「あーんしてください」
琴音ちゃん、あーん。
そのまま放り込む。
「……ありがとうございます」
「オレにもくれ~」
「じぶんで買うよろし」
「おやじ、コーラ」
あっしもキンキンのうちに食べます。
と言いたいところなんですが、だいたい最後、溶けちゃうんだな、これが。
ストローで砂糖水を吸うハメになる。
琴音ちゃんとちまちま食べているよこで、いおりんは爆喰い。
速攻で空に。
「よーし、次はやきそばな」
「アスリートなのに、栄養管理って概念がないんですかね」
「オレが食べたら全部栄養になるの」
それっぽいこと言うのやめろ。
あ、やきそば屋が見えてきました──おっと、あのお姿は。
「ポーン主将じゃ、あ~りませんか~」
2年生のみなさん、ぞろぞろおそろいです。
とりあえず上下関係を尊重する。
「ポーン主将、今日もごきげんがよろしいようで」
「あら、Frauハヤシヤ、よいところへいらっしゃいましたわ」
もうイヤな予感がする。
主将は、金魚すくいの金魚をゆびさして、
「これは動物虐待だと思いますのよ」
とのたまった。
「先輩、あっちにおいしい綿飴がありやすぜ」
「ごまかさないでくださいまし。きちんと意見をおっしゃってください」
くッ、どうしたものか。
とりあえず、いおりんに振ろう。
この場を破壊してくれるはず。
「いおりんは、どう思いますか?」
「なにが?」
「金魚すくいは動物虐待だと思いますか?」
「ちがうんじゃね?」
おっと、いきなり先輩の意見をつぶしていくか。
「その心は?」
「だって金魚は魚じゃん」
ちゃんと生物の授業聞いて。
佐伯先輩も、
「魚は脊椎動物だよ」
とマジリプ。
いおりんは頭をかきかき。
「マジっすか? 佐伯先輩の手品じゃないですよね?」
宇宙の法則を変えられるマジックはヤバいだろ。
ポーン主将は、
「というわけで、やはり動物虐待だと思います」
とのこと。
うーん、琴音ちゃんに振るか。
「琴音ちゃんは、どう思いますか?」
「そうですね……動物をオモチャにしている側面は、否めないのでは」
なるほど、そっちが多数派か。
じゃあ、あっしもそっちにつこう。
笑魅、主体性ないもん。
「いや、じつはあっしもそう思ってたんですよ。さすがはポーン主将」
「オホホホ、意見が一致いたしましたわね。では抗議にまいりましょう」
いかーん、そういうのはニッポン社会ではいかーん。
閉鎖的な島国では、おとなしくしておいたほうがいいですよ。
「先輩、あっちにおいしいチョコバナナがありやすぜ」
「さあ、Frauen、いっしょに抗議いたしましょう」
待ってくださいってば。
どう引き留めたものか迷っていると、いきなり会話にわりこまれました。
「こんばんみ~」
肩から立ち売り箱をかけた、女のひと──猫山愛さんじゃないですか。
猫山さんは、いつものメイド服を着ていました。
「ニャハ、これこれは、常連メンバーですね。こんばんみ」
こんばんみ。
ここは猫山さんを利用しましょう。
「猫山さん、おいしそうなもの売ってますね」
「八一特製パンケーキですよ。おひとついかがですか?」
パンケーキから、どうにか話題をふくらませたい。
ベーキングパウダーのように。
まずは、いおりんを出動させる。
「いおりん、全種類食べるんでしたよね? 買いません?」
「んー、そうだな。猫山さん、焼き立てのあります?」
「これが一番最後でしたかね」
いいぞいいぞ。
この調子で、さっきの話題を消す。
いおりんはお金を払いながら、
「金魚すくいって、動物虐待なんですかね?」
と質問。
むーしーかーえーすーなーッ!
猫山さんは、ニャハハと笑って、
「人間さんは、じぶんたちが生態系の頂点だと思ってますからねぇ。なげかわしい」
という反応。
いおりんも笑って、
「ですよね。動物に優劣とかないですよ」
と返しました。
すると、猫山さんはきょとんとしました。
「いえいえ、動物に優劣はありますよ」
ん? 雲行き変わったな。
いおりんもおどろいて、
「え、マジっすか?」
と怪訝そう。
「生態系の頂点は、猫と決まってます。底辺は犬ですね」
えぇ……思想が強すぎるだろ。
いおりんは、
「それは賛成できないです。うち、犬がいるんで」
と対抗。
「ニャハハハ、高崎さんも、いつかはわかりますよ。猫族こそ神であることが」
そう言って、猫山さんは去っていきました。
いおりんは開口一番、
「キマってんな、猫山さん」
という評価。同意。
まあ、なんか理由があるんでしょうけどね。
犬に噛まれたとか。
ひとまず今のぐだぐだで、2年生はいなくなってました。
先輩のだれかが、うまいことやったんでしょう。
葛城先輩あたりですかね。
「さーて、いつもので締めますか。死者の肖像とかけて、パリピと解きます」
「「その心は?」」
「遺影」
「不謹慎なやつは置いていこうぜ」
「はい」




