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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第52局 盆踊るひとびと(2015年8月15日土曜)
628/686

616手目 食べ歩き

※ここからは、林家はやしやさん視点です。

 というわけで、林家はやしや笑魅えみでがす。

 お祭りといえば、やっぱあっしでしょ。

 琴音ちゃんといおりん。いつものメンバーでやってきました。

 にぎやかですねえ。

 屋台も多いし、出し物もいっぱい。

 あっしはちょっとおめかしして、黄色い明るめの浴衣にしました。

 琴音ことねちゃんは青い浴衣、いおりんはジャージ。

 こいつマジでTPOの概念ないな。

 あっしが内心呆れるなか、いおりんは、フランクフルトを食べながら、

「祭りといえば、買い食いだよなあ。全部食うぜ」

 とご満悦。

「へっへっへ、だんな、そいつはむずかしいですぜ」

「あ? なんでだ?」

「りんご飴が鬼門でがす」

 あれ、食べるのにクッソ時間かかる。

 いおりんもさすがに納得、かと思いきや。

「キモンってなんだ? 新しいフレーバーか?」

「あのさあ、もう裏口入学確定だから、反省して」

 一方、琴音ちゃんは買い食いができないんですよね。食べながら歩くと危ないから。こういうところでバリアフリーじゃないの、よくないと思う。

「どっか移動して座りますか?」

 琴音ちゃんは白杖であたりをさぐりながら、

「だいじょうぶです。かき氷を食べたくはありますが」

 と答えました。

 かき氷、難易度高いな、これ。

 山盛りだから崩れやすいんですよね。

 視覚障がい者には厳しいかも。

「あっしが買って分けましょうか。何味がいいです?」

「何味、とは?」

 琴音ちゃん、いおりん化しないで。

「かき氷の味ですよ、味」

「? かき氷の味は、一種類しかないのでは? 新商品ですか?」

 えぇ……からかわれてる?

 困惑するよこで、いおりんは爆笑。

「なんだ、知らないのか、かき氷のシロップは、全部同じ味なんだぜ」

「それはいおりんがバカ舌だからでしょ」

「ウソだと思うなら調べてみ」

 な、なんだか不安になってきた。

 スマホで検索──え? マジなの?

 色のちがいと香りで、そう感じるだけ? 味はいっしょ?

「い、いおりんに物を教えられた……林家笑魅、一生の不覚……」

「ポテチマスターのオレさまが、バカ舌なわけないだろ」

 たしかに

 コンビニのオリジナルポテチ、全部当ててたからな、こいつ。

 あっしは、

「琴音ちゃんは、どこでその情報を仕入れたんでげすか?」

 と質問。

「いえ、こどもの頃から食べていますが、どれも同じ味だったので」

 ん……そうか、琴音ちゃんは色がわからないから、騙されないんですね。

 うーん、なんか複雑な心境。

 とかなんとか言ってるうちに、かき氷屋を発見。

「じゃあ、どれでもいいですか? 香りはちがうみたいですが?」

 琴音ちゃんは、

「そうですね……イチゴがいいです」

 と回答。

 じゃあ、注文しますね。

 女子高校生らしく頼むぜい。

「おやじ、イチゴくれ」

「あいよ~」

 機械でガガガと削って、赤いシロップかけて、練乳かけて、終わり。

「練乳もっとサービスして」

「しょうがないな~」

 へっへっへ、これが女子高生の特権ってやつですよ。

 300円払って、いただきまーす。

 と、そのまえに琴音ちゃんにあげる。

「あーんしてください」

 琴音ちゃん、あーん。

 そのまま放り込む。

「……ありがとうございます」

「オレにもくれ~」

「じぶんで買うよろし」

「おやじ、コーラ」

 あっしもキンキンのうちに食べます。

 と言いたいところなんですが、だいたい最後、溶けちゃうんだな、これが。

 ストローで砂糖水を吸うハメになる。

 琴音ちゃんとちまちま食べているよこで、いおりんは爆喰い。

 速攻でからに。

「よーし、次はやきそばな」

「アスリートなのに、栄養管理って概念がないんですかね」

「オレが食べたら全部栄養になるの」

 それっぽいこと言うのやめろ。

 あ、やきそば屋が見えてきました──おっと、あのお姿は。

「ポーン主将じゃ、あ~りませんか~」

 2年生のみなさん、ぞろぞろおそろいです。

 とりあえず上下関係を尊重する。

「ポーン主将、今日もごきげんがよろしいようで」

「あら、Frauハヤシヤ、よいところへいらっしゃいましたわ」

 もうイヤな予感がする。

 主将は、金魚すくいの金魚をゆびさして、

「これは動物虐待だと思いますのよ」

 とのたまった。

「先輩、あっちにおいしい綿飴わたあめがありやすぜ」

「ごまかさないでくださいまし。きちんと意見をおっしゃってください」

 くッ、どうしたものか。

 とりあえず、いおりんに振ろう。

 この場を破壊してくれるはず。

「いおりんは、どう思いますか?」

「なにが?」

「金魚すくいは動物虐待だと思いますか?」

「ちがうんじゃね?」

 おっと、いきなり先輩の意見をつぶしていくか。

「その心は?」

「だって金魚は魚じゃん」

 ちゃんと生物の授業聞いて。

 佐伯さえき先輩も、

「魚は脊椎せきつい動物だよ」

 とマジリプ。

 いおりんは頭をかきかき。

「マジっすか? 佐伯先輩の手品じゃないですよね?」

 宇宙の法則を変えられるマジックはヤバいだろ。

 ポーン主将は、

「というわけで、やはり動物虐待だと思います」

 とのこと。

 うーん、琴音ちゃんに振るか。

「琴音ちゃんは、どう思いますか?」

「そうですね……動物をオモチャにしている側面は、否めないのでは」

 なるほど、そっちが多数派か。

 じゃあ、あっしもそっちにつこう。

 笑魅、主体性ないもん。

「いや、じつはあっしもそう思ってたんですよ。さすがはポーン主将」

「オホホホ、意見が一致いたしましたわね。では抗議にまいりましょう」

 いかーん、そういうのはニッポン社会ではいかーん。

 閉鎖的な島国では、おとなしくしておいたほうがいいですよ。

「先輩、あっちにおいしいチョコバナナがありやすぜ」

「さあ、Frauen、いっしょに抗議いたしましょう」

 待ってくださいってば。

 どう引き留めたものか迷っていると、いきなり会話にわりこまれました。

「こんばんみ~」

 肩から立ち売り箱をかけた、女のひと──猫山ねこやまあいさんじゃないですか。

 猫山さんは、いつものメイド服を着ていました。

「ニャハ、これこれは、常連メンバーですね。こんばんみ」

 こんばんみ。

 ここは猫山さんを利用しましょう。

「猫山さん、おいしそうなもの売ってますね」

八一やいち特製パンケーキですよ。おひとついかがですか?」

 パンケーキから、どうにか話題をふくらませたい。

 ベーキングパウダーのように。

 まずは、いおりんを出動させる。

「いおりん、全種類食べるんでしたよね? 買いません?」

「んー、そうだな。猫山さん、焼き立てのあります?」

「これが一番最後でしたかね」

 いいぞいいぞ。

 この調子で、さっきの話題を消す。

 いおりんはお金を払いながら、

「金魚すくいって、動物虐待なんですかね?」

 と質問。

 むーしーかーえーすーなーッ!

 猫山さんは、ニャハハと笑って、

「人間さんは、じぶんたちが生態系の頂点だと思ってますからねぇ。なげかわしい」

 という反応。

 いおりんも笑って、

「ですよね。動物に優劣とかないですよ」

 と返しました。

 すると、猫山さんはきょとんとしました。

「いえいえ、動物に優劣はありますよ」

 ん? 雲行き変わったな。

 いおりんもおどろいて、

「え、マジっすか?」

 と怪訝そう。

「生態系の頂点は、猫と決まってます。底辺は犬ですね」

 えぇ……思想が強すぎるだろ。

 いおりんは、

「それは賛成できないです。うち、犬がいるんで」

 と対抗。

「ニャハハハ、高崎たかさきさんも、いつかはわかりますよ。猫族こそ神であることが」

 そう言って、猫山さんは去っていきました。

 いおりんは開口一番、

「キマってんな、猫山さん」

 という評価。同意。

 まあ、なんか理由があるんでしょうけどね。

 犬に噛まれたとか。

 ひとまず今のぐだぐだで、2年生はいなくなってました。

 先輩のだれかが、うまいことやったんでしょう。

 葛城かつらぎ先輩あたりですかね。

「さーて、いつもので締めますか。死者の肖像とかけて、パリピと解きます」

「「その心は?」」

遺影イエーイ

「不謹慎なやつは置いていこうぜ」

「はい」

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