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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第48局 懐かしのメンバー集まれ!(2015年8月8日土曜)
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594手目 披露宴

 駒込こまごめがやって来たのは、約束の時間よりも10分だけ遅かった。

 先に食べてなくて、よかったぜ。

 甘田かんだが、どうせ遅刻だ、と言って、少し待っていた甲斐があった。

 全員、テーブルにつく。

 木原きはらとみっちーが、部屋の奥側に座る。

 オレたちは、それをぐるっと囲んだ。

 オレの左どなりは駒込、右どなりが甘田。

 スタッフのひとが、配膳を始めた。

 まずは、食前の飲み物。

 ノンアルコールのシャンパンが運ばれてきた。

 それと、小さな皿に乗った……んー、なんだ、これは?

 クッキー(?)でできた小さな器に、白いなにかが盛りつけられていた。

 貝かな……ドレッシングオイルが、かけられているみたいだ。

 花びらもついてる。食用ギク? あれは刺身か。

 ジロジロ観察していると、千駄せんだが立ち上がった。

「それでは、はなはだ僭越ではありますが、ご指名を頂戴しましたので、乾杯の音頭を取らせていただきます。自己紹介とかは、もういいよね? というわけで、皆さま、乾杯のご唱和をお願いします。おふたりの前途と、ご両家のますますの繁栄をお祈りしまして、乾杯!」

 かんぱーい。

 ぐびぐびぐび──ぷはぁ、生き返る。道中、くっそ暑かったからな。

 それじゃ、このよくわからないものを食べるぜ。

 もぐもぐ──うまいッ! ホタテか。おかわりが欲しい。ダメ?

 次に、白い皿が運ばれてきた。

 これは知ってる。オードブルってやつだろ。

 メインは海老で、それに……この黒いのは、なんだろ。

 魚の卵? ……あ、キャビアか。

 いろいろなハーブが添えられている。種類はわからない。

 一個一個がちっちゃいから、気をつけて食べる。

 レモンかかってるっぽい。ちょっと酸っぱい。

 ふだんは、牛丼をかきこむとか、ハンバーガーにかぶりつくとか、そういう食べ方。ナイフとフォークは、肩が凝る。箸で食べたい。

 なーんて思ってたら、駒込が、

「お箸ください」

 と言ってくれた。ナイス。

 会話もだんだん盛り上がってくる。

 もともと友だちだしな。

 お次は、スープ。

 緑色……ほうれん草?

 スプーンですくって、飲む。

「……なんだこれ?」

 ほうれん草っぽくない。

 なんというか、けっこう薄味だった。

 オレのつぶやきに対して、甘田は、

「豆じゃない?」

 と言った。

「お、そうなのか、よくわかったな」

「メニューカードに書いてあるよ」

 甘田はそう言って、目の前にあるカードをゆびさした。

 くッ、オレとしたことが。

 とりあえず食べるぜ。

 スープが終わると、魚料理。

 これがメインディッシュか?

 白身魚で、半身より小さい。

 皮がなくて、その代わりに茶色いものが塗られていた。

 謎料理。

 カードを見る──プロヴァンス風スズキのタプナード焼き

 プロヴァンスって、なんだ? 料理人の名前?

 タプナードもわかんねえ。

 とりあえず、食べる。問題は味だよ、味。

 オリーブオイルの香り。そのあとに、表面のサクッとした食感。

 ふーむ……おいしい、が、塗ってあるものの正体がわからない。

 食べ終わると、シャーベットが出た。

 こういう会食は、がっつり食べる流れじゃ、ないわな。

 スプーンですくって、ぺろり。オレンジ味。

 オレは、

「そういや、藤井ふじい佐川さがわがいないな」

 と言った。

 みっちーは、

「藤井は地元に残ってるから、別のパーティーに呼んだ。佐川は用事で来れない」

 と答えた。

 オレは、

「佐川は仕方がないとして、藤井はこのメンツに会いたかったんじゃね? スネ夫の同校おなこうなんだし」

 と言って、スネ夫のほうを見た。

 スネ夫は、

「どうだろうね。彼は将棋部だったけど、駒北こまきた以外のメンバーとは、そんなに絡んでなくない?」

 と答えた。

 たしかに、あいつと大会以外でつるんだこと、あんまないな──ん?

 スタッフのひとが入ってきた。手に皿を持っている。

 目のまえへ置かれたそれには、小ぶりなステーキが乗っていた。

 駒込は、

「まだあったの? 今デザート食べたのに?」

 と言った。

 姫野ひめのは、

「フレンチのコースで、シャーベットは口直しです。デザートではありません」

 と教えてくれた。

 ほほーん、なんか得した気分だ。

 最後の一個だな、と思って食べたら、もう一個。うれしいよな。

 しかも肉だぜ、肉。

 いただきまーす。

 小さいから、ちょっとずつ……いや、パクリといく。

 半分に切って、頬張る。

 お、めちゃうま。

 こういう上等なやつで焼き肉したら、うまいかもなあ。

 あ、白米といっしょに食う味じゃ、ないか。

 みんな食べ終わったところで、木原が、

「それでは、デザートで~す」

 と言って、店員さんを呼んだ。

 ホールケーキが、ワゴンに乗せられて出てくる。

 やっぱこれだよ、これ、披露宴と言えば。

 全員、起立。

 木原とみっちーは、ケーキナイフを持って並んだ。

 スタッフのひとが音頭をとった。

「それでは、新郎新婦様によります、ケーキ入刀です。お願いいたします」

 入刀ぉ~、パチパチパチ。

 木原とみっちーがひとくちずつ食べて、それからみんなでわけた。

 イチゴケーキだね。シンプル。

 コーヒーも出た。

 オレは立食しながら、木原と雑談。

「それにしても、同窓の結婚1号が、木原とはねえ」

「そんなに意外だった?」

「どうだろうな、意外っていうか、なんていうか……」

 よくよく考えてみたら、だれが結婚しそうかなんて、考えたことなかった。

 今のは失言だ。

 オレは話題を変えた。いろいろな思い出話にふける。

 高校1年生のとき、木原が将棋部に来たこと。

 あのときは、完全に初心者だったなあ。

 団体戦のこと、個人戦のこと。

 3年生のとき、なんだかんだで、県大会に出られたこと。

 昔話のよこで、駒込はカバンから、タブレットを取り出した。

 テーブルのうえに置く。

 周りの視線を気にせずに、画面へ向かってダブルピースをした。

「いえーい、藤堂とうどう、見てるぅ?」

 オレは、

「なにしてんの?」

 とたずねた。

「将棋部の連中に、パーティーの映像を送ってるの」

 意味がわからん。

「なんでそんなことするの?」

 駒込によれば、日程が将棋部の合宿と、かぶっていたらしい。欠席させてくれ、と頼んだら、疑われたので証拠を送っている、と。どうなんだ、それ。申命館しんめいかんって、厳しいんだな。ふつうは一発オッケーだろ。

 木原はそれを聞いて、

「ぐすん、歩美あゆみちゃんが将棋じゃなくて、こっちを選んでくれるなんて」

 と涙ぐんだ。

 駒込は、

「私は常識人よ」

 と答えた。

 どうだろう。来る来ないで、賭けが成立するような。

 ま、半分は冗談だ。

 オレは、

「トウドウって、だれだ? おまえのカレか?」

 とたずねた。

「なに言ってんの、将棋部の先輩」

「だろうな。おまえにカレいるわけないし」

 駒込は、わかってないわね、と返した。

「私を惚れさせる男がいないのよ」

「はいはい」

「そもそも、まどかちゃんに言われたくないんだけど」

 やめろ、その口撃はオレに効く。

 オレは、

「じゃあさ、どういうやつがタイプなの?」

 とたずねた。

 駒込はあごに手をそえて、無表情に考え込んだ。

「……出会ったときに、わかるんじゃない?」

「あのなあ、好みのタイプの推しとか、いないの?」

「いないわね」

 ここで、木原が割り込んできた。

「歩美ちゃんはね、年下のカレシがいいと思うよ」

 オレは、

「どこをどう分析したら、年下になるんだよ」

 と反論した。

「歩美ちゃんは、お姉さんキャラだから、引っ張って欲しい年下がいいはずッ!」

 こいつに引っ張られたら、どこに連れてかれるか、わかんないだろ。

 人生、迷子になりそう。

 オレは、話題を変えることにした。

「ところでさ、木原とみっちーが付き合うようになった経緯、教えてくれよ」

 木原は照れながら、いろいろ教えてくれた。

 みっちーと、初めて会ったときのことから。

 これがびっくり、将棋の大会かと思ったら、ゲーセンなんだと*。

 おどろいたね。

 こうしてオレたちは、ふたりのノロケ話を聞きながら、時間を過ごした。

 帰るときには、引き出物もくれた。クッキー。

 二次会はファミレスへ移動。

 さすがに将棋はしない。雑談にふける。

 高校生のときにはいられなかった、夜更けまで、高校生の気分で。

*相振り飛車

https://book1.adouzi.eu.org/n2821cb/55

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