表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第46局 決勝トーナメント・準決勝(2015年8月4日火曜)
584/686

572手目 静かな立ち上がり

※ここからは、梨元なしもとさん視点です。

 カウボーイハットを叩いてみれば、西部開拓時代の音がする。

 ジェーン梨元さまだぁ。

 女子準決勝、萩尾はぎおvs早乙女さおとめは、私が担当するよ。

 よろしくぅ。

 もうひとりの解説者は、H島のおはなちゃん。

「お花ちゃん、よろしくぅ」

「よろしくお願いしまぁす」

 ここは、勘とノリでいくペア。

 どうせ耕平こうへいあたりは、大真面目に解説してるんでしょ。

 私たちはそういうの、ノーセンキュー。

 で、司会は~!

夜ノよるの伊吹いぶきです。よろしくお願いします」

 パチパチパチ。

 伊吹ちゃんはマイクを片手に、あいさつ。

「それでは、解説のおふたかたに、お話をうかがっていきましょう。まずは、おふたりの予選の感想など、お聞きしたいと思います」

 ばっちこーい。

 この質問、イヤがるひとも多い。だけど、私はどうでもいいタイプ。

 負け局もPRポイントなのだ。

「プレーオフに行けなかったのは、ダメダメだったけど、全体的にみれば、グッドエンドかなあ」

「それはなぜですか?」

「手ごたえは、けっこうあったんだよね。もう一回やったら、決勝トーナメント出られる自信がある」

「なるほど、桐野きりのさんは、いかがですか?」

「楽しかったでぇす」

 そうそう、それが一番。

 伊吹ちゃんは、記憶に残った対局も訊いてきた。

 私は、勝った中から、いくつかピックアップした。

 お花ちゃんは、全部って答えた。

 それが終わると、伊吹ちゃんは忙しいみたいで、べつの大盤へ移動した。

 えーと、これ、私たちだけでテキトウに進めちゃって、いいんだよね?

 私は戦型予想の話題を振ってみた。

 お花ちゃんは、

「戦型予想はぁ、よくわかりませぇん」

 と答えた。

 たしかに、これは当てにくい。

 もえも早乙女ちゃんも、居飛車の範囲内なら、オールラウンダー。

真沙子まさこちゃんの予想は、なんですかぁ?」

「まあ相居飛車っしょ」

「それはそうなのですぅ」

 ただなあ、萌は、なんか用意してる気がする。

 用意と言っても、研究を用意している、って意味じゃない。

 たぶん、対・早乙女の、秘策があると思う。

 早乙女ちゃん、特殊能力持ちなんでしょ。盤面の評価値がわかるらしい。ほんとにそんな能力があるとして、だけど。ウソかもしれないからね。頭のなかはのぞけないから、評価値が見えてるかどうかなんて、確認のしようがない。

 だけど、ほんとだとしたら? これは脅威。

 どうやって対策する? 私は思いつかない。

 ちなみに、私が予選で勝ったときも、無策だった。

 なんで勝てたのかは、未だによくわからない。

「お花ちゃん、勝敗予想は、どう?」

「どっちも勝って欲しいのですぅ」

 地元応援じゃないのか。

 お花ちゃんらしい。

「真沙子ちゃんは、どっちに勝って欲しいとか、あるんですかぁ?」

「ないよ」

 さあ、ずっこけてないで、どんどんいこう。

 私はモニタで、予選の成績を確認した。

「早乙女ちゃん、予選では萌に負けてるんだよね」

「そこはあんまり関係ないと思うのですぅ」

 たしかに──あ、振り駒だ。

 結果は、萌の後手。

 ここで後手引いたんだ。どうなるかなあ。

 私は、

「アマだと、あんまり影響ないんだよね。でも、このふたりクラスになってくると、どうかな。ふたりとも純粋居飛車党。最近は、後手で死んでる戦法も多いからね」

 とコメントした。

 開始まで1分を切ったから、あとは待機。

《……対局開始です》


 7六歩、3四歩、2六歩、4四歩、4八銀、8四歩、4六歩。


【先手:早乙女さおとめ素子もとこ(H島) 後手:萩尾萌(Y口)】

挿絵(By みてみん)


 はい、始まった。解説、解説。

「萌は角筋を止めたね。横歩も角換わりも拒否、と」

「ここからどうなるんですかぁ?」

「もう力戦でしょ」

「真沙子ちゃん、エスコートよろしくお願いしまぁす」

 はいさ。

 3二金、4七銀、8五歩、7八銀、5四歩、5八金右。

 先手は左美濃を見せる。ただ、そうはならないはず。

 6二銀、6八玉、4二銀、5六銀。


挿絵(By みてみん)


 私は腰のホルダーから、モデルガンをとりだす。

 銃口で、カウボーイハットのつばを持ち上げた。

「……銀上がり、早くない」

「この銀、早いとか遅いとか、あるんですかぁ?」

「棋理と関係なく、心理戦はだいじじゃない?」

「素子ちゃんはぁ、そういうの考えないタイプなのでぇ」

 なるほど、ストレートな決め打ちタイプなわけね。

 だったら、迷うだけムダか。どうせ最後は合流するし。

 5三銀右、3六歩、4三銀、9六歩、7四歩、2五歩。

 後手は雁木を明示した。

 お花ちゃんは、

「先手も雁木ですかぁ?」

 とたずねた。

「そうなんじゃないかな」

「ふたりとも雁木のときは、どっちがガンガンいくんですかぁ?」

 雁木でガンガンね。

 うん、あれは、まだB級戦法だった時代の話だから。

「これ、後手が右玉に移行すると思う」

「あ、そうなんですかぁ?」

「だから、攻めるなら、先手からの可能性が高い」

 3三角、3七桂、7三桂、7九玉、9四歩、4八飛。


挿絵(By みてみん)


 ここで、伊吹ちゃんが大盤に復帰。

 伊吹ちゃんは、パッと盤面を確認してから、

「後手は、右玉になりそうですね。先手は右四間ですか?」

 とたずねてきた。

「うーん、右四間ねえ。どうかなあ。うまくいくかたちに見えないけど」

 突破はムリだよね、少なくとも。

 そもそもさ、これだけ定跡が整備された時代に、右四間はキツい。

 アマだから通用する、っていうレベルですらない。

 6二金、7七角、8三飛、1六歩、6四歩、6六歩。

 先手も雁木にするかな?

 1四歩、2八飛、5二玉、8八玉、8一飛、6七金。


挿絵(By みてみん)


 まじかあ。ジェーン梨元、予想が外れる。

 伊吹ちゃんは、

「先手、左高美濃ですね。これはどうなんでしょうか?」

 と、マイクを向けてきた。

「ま……あるんじゃないかな」

「桐野さんは、いかがですか?」

「先手、このままだと攻められないと思うのですぅ」

 だよね、ちょっと反動がきつそう。

 角をどうするのかも、よくわからない。

 5九に引いても、3七の桂馬が邪魔。

 早乙女ちゃん、構想をミスった?

 4二角、5九角。

 この手を見て、私は、

「あれ、引くんだ……」

 とつぶやいた。

 もちろんマイクに拾われる。

 伊吹ちゃんは、

「引くとおかしいですか?」

 と質問した。

「角を活用するなら、これしかないんだけど……うーん……桂馬をさばく順が、あるんだろうね。でなきゃ、変なところで渋滞するだけだから」

「なるほど……あ、私、ちょっと移動します」

 どうぞどうぞ。

 残った私とお花ちゃんで、検討。

「……後手もむずかしいね」

「これ、9二香~9一飛で、攻めちゃダメなんですかぁ?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「できるけど、なんか方針が一貫してなくない?」

「チョウチョさんのように舞い、ハチさんのように刺すのですぅ」

 んー、否定できないところがつらい。

 方針転換しちゃいけない、ってわけじゃ、ないもんね。

 私は無難に、3三桂を提案しておいた。

 これは当たった。

 3三桂、2九飛、6三玉、4七銀。


挿絵(By みてみん)


 銀バックした。

「4筋から攻めるのは、諦めたっぽいね。ってことは、2筋か」

「2四歩、同歩、同飛、2三歩、2九飛のあと、どうするんですかぁ?」

「わかんない。とりあえず、もうちょっと組む必要がありそう」

 後手としては、千日手上等。

 先手が動くには、3七の桂馬が邪魔。

 早乙女ちゃんは、これをなんとかする組み立てを、考えているはず。

 7二金、5六歩。

 萌は、8三金と上がった。


挿絵(By みてみん)


 こ、これは……まるで、決闘のために一歩前に出た、保安官シェリフのような動き。

 かっこいい金出。

 早乙女ちゃんの手も止まった。

「決闘だね。放置なら、8四金と出るつもり」

「ふええ……怖いのですぅ」

 とはいえ、どれくらいプレッシャーになってるのか、よくわからない。

 早乙女ちゃんは1分使って、5八金と上がった。

 これで堅くなるわけか。

 萌もすぐには8四金としないで、6二銀。

 ここで早乙女ちゃんが仕掛けた。


挿絵(By みてみん)


 私たちは、すぐに大盤を動かす。

 同歩、同飛、2三歩、2九飛と、一番単純なコースを示した。

「このあと、先手は手がそんなにないんだよね。8四金に6八角?」

「8筋を圧迫されるから、7七銀と受けたいのですぅ」

「そっちのほうが安全か」

 私は腕組みをして、盤面をぐるりと見た。

 んー、動きにくい。後手も、5三角くらいしか、ない。


 パシリ


 あ、進んだ。

 2四同歩、同飛。

 ここで萌は、30秒ほど読みなおした。

 3三の桂馬にゆびを伸ばす。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 盛り上がってまいりました。

 私は、4二の角から2四の飛車までをなぞって、

「桂馬は、この瞬間は取れない」

 と説明した。

 お花ちゃんも、

「2九飛、3七桂成、同角は、確定なのですぅ」

 と読み切った。

 問題は、そのあと。

 これで後手がいいなら、2四歩はうっかりだった。

 でも、桂交換で、先手が困っている感じもしない。

「先手は、3七の桂馬が邪魔だったからね。むしろ交換は歓迎」

「角もいい位置にきまぁす」

 その通り。同角のかたちが、自然な展開になっている。

 つまり、この手は派手だけど、損得としては、先手にも利がある。

 もちろん、萌がこの展開を、計算に入れていないはずがない。

「さっきの小考は、この先だと思う。だから、な~んかあるよ。個人的には、8四金と圧迫していくか、あるいは9五歩で即開戦」


 パシリ


 早乙女ちゃん、小考終了。飛車を2九へ引いた。

 3七桂成、同角。

 萌が選んだのは──


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 え? 消極策?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ