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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第45局 プレーオフ(2015年8月4日火曜)
565/686

553手目 プレーオフ

【女子の結果】

挿絵(By みてみん)

※青:決勝トーナメント進出確定 黄:プレーオフ


【男子の結果】

挿絵(By みてみん)

※青:決勝トーナメント進出確定 黄:プレーオフ


※※ここからは、石鉄いしづちくん視点です。

 鏡のなかの僕……よし。

 ネクタイもまっすぐ、制服にしわもなし。

 いよいよプレーオフです。自室でヨーグルトとスムージーだけ食べました。

 眠気対策です。

 何回かリハーサルしているので、体調に問題はないはず。

 部屋を出て、廊下へ。

 みなさん、外出したんでしょうか。しんと静まり返っています。

 みかんちゃんの見送りも、今回はなし。

 さみしいですが、事前に断ってあります。

 エレベーターで20階へ上がって、また無人の廊下。

 とちゅうでほかの選手に会うかな、と思いましたが──あ、やっぱり会いましたね。

 磯前いそざき先輩の姿がありました。壁面ガラスから、H島市内を眺めています。

「おつかれさまです」

 僕があいさつすると、磯前先輩はふりむいて、帽子を外しました。

「おっと、控え室で待ってようと思ってたんだけどね。ちょっと外が見たくなった」

早乙女さおとめさんと大谷おおたに先輩の対局が、先ですか?」

「そう、その敗者とあたし……無視してうしろを通り過ぎてくれて、よかったんだよ」

「そっちのほうが緊張しちゃうかな、と思いまして……」

 磯前先輩は、かるくほほえみました。

鳴門なるとも知り合いだから、どっちを応援とはいかないけど、いい将棋を」

「磯前先輩も、いい将棋を指してください」

 豪華な両びらきのとびらを開けて、入室──大谷先輩が席について、瞑想中でした。

 僕はホワイトボードで番号を確認して、対局テーブルへ。

 スタッフのひともまばらで、がらんとしています。

 心持ち、室温も下がった感触。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………鳴門先輩が来ました。

 先輩は午前と同じラフなかっこうで、首にヘッドセットをつけていました。

 ちょっとステップを踏むような感じで、僕の前に着席。

 1分ほどして、早乙女さんも入室。

 女子のプレーオフも、準備完了。開始時刻まで、のこり3分。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………


 13:28 13:29 13:30


《これより、第10回日日にちにち杯、プレーオフをおこないます。振り駒をお願いします》

 ゆずり合いのあと、鳴門先輩が振ることに。

「……歩が2枚、僕の後手」

 先手を引きました。

 あとは待つだけです。

 十数秒の待ち時間が、とても長く感じられました。

《対局準備はよろしいでしょうか? ……では、始めてください》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 鳴門先輩は、一礼しながらチェスクロを押しました。

 僕は目を閉じて、数秒間深呼吸──7六歩。

 8四歩、2六歩、3二金、7八金、8五歩、7七角。


【先手:石鉄いしづちれつ(E愛県) 後手:鳴門なると駿しゅん(T島県)】

挿絵(By みてみん)


 角換わりになりました。

 小細工なしですよ。

 3四歩、6八銀、4四歩。


挿絵(By みてみん)


 あれ……腰掛け銀を拒否?

 がっぷり四つかと思いきや、外されました。

 研究手順ですか?

 僕は鳴門先輩の表情を確認──なんとも言えないです。

 先輩、ポーカーフェイスがうまいんですよね。

 僕のほうが顔に出ていると思います。

「……4八銀です」

 4二銀、1六歩、1四歩、4六歩、5四歩、9六歩、9四歩。

 端も見合いに。


挿絵(By みてみん)


 後手は雁木ですよね。

 だとすれば、先攻を狙っていると思います。

 後手雁木なら先攻、というわけではないですが、そういう雰囲気を感じます。

 4七銀、6二銀、2五歩、3三角、3六歩、7四歩、3七桂。

 そろそろ方針を決定しないといけません。

 5二金、6六歩、6四歩、2九飛、7三桂。

 僕は6七銀と立ちました。


挿絵(By みてみん)


 鳴門先輩は、

「なるほどね」

 と言って、ペットボトルを開封。

 ひとくち飲んで、ヘッドセットの位置を調整。

 4三銀。

 相雁木に。

 ここからは、間合いを計るターン。

 4八金、6三銀、6八角、6二金。

 鳴門先輩は、雁木の一部を崩しました。

 おたがいに居玉。

 先手はそろそろ飽和しているのですが、攻めるチャンスがありません。3五歩、同歩、4五歩、同歩、同桂、2二角、2四歩、同歩、同飛、2三歩、2六飛と攻めても、3四銀の露骨な桂取りで困ります。


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)


 居玉の解消くらいしか、やることがありません。

 まだ悪くなってないですよね?

 思ったより緊張してるかも。がんばれ、僕。

 6九玉と寄ったところで、鳴門先輩が長考。

 攻めてきそうですか?

 6五歩と7五歩、どちらもありそうです。

 僕の直感では、やや6五歩寄り。

 6五歩、同歩、4五歩と角道を開ければ、しばらく攻めは続きます。

 ただ、完全に攻め切れますか? ちょっと疑問ですよね。

 例えば6五歩、同歩、4五歩、7七角、同角成、同桂、4六歩、同銀、6六歩、同銀と銀を吊り上げてから、2二角。


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)


 これが一見きついんですが、7一角があるので、互角だと思います。

 以下、8一飛、6二角成、同玉、5六金と支えれば、後手は2二角が不発。

 6筋の傷が大きいので、角金交換でも十分に戦えます。

 後手としては、8六歩くらいで……ん、待ってください。6六歩の前に8六歩だと、どうなりますか? 6五歩、同歩、4五歩、7七角、同角成、同桂、4六歩、同銀で、この瞬間に6六歩ではなく8六歩だと? 同歩、同飛、8七歩、8一飛で、7一角の余地がなくなります。

 でも、手番はこちらに渡りましたから、いいんでしょうか?

 そうですよね、こっちが手番だから、先に6六角と先着しちゃえばいいんです。

 杞憂でしたね。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ほんとにそうですか?

 イヤな筋が浮かびました。

 8六歩、同歩に同飛とせず、そこで6六歩だと?


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)


 同銀、2二角の瞬間、7一角はできます……が、8六飛と飛び出して、8七歩、7六飛とスライドされると、2枚換えコースに。これは先手不利です。

 僕は読みなおしました。けっこう一直線に読んだので、回避策はあるはず。

 僕は4五歩に対して、7七角と上がらない順を考えました。

 9七香と上がって、9九角成と空振りさせるのは、どうですか?

 振り飛車っぽい対策ですが、このかたちなら成立すると思います。

 あ、鳴門先輩が動きました。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 ……思いっ切り外れました。

 チェスクロを押す音を聴きながら、僕は若干困惑。

 7五歩ですか……同歩、6五歩、同歩なら、より迫力がある、ってことですよね。

 でも、これは取らなくても、よくないですか?

 手抜けるような……いえ、ちゃんと読んだほうが、いいです。

 7五歩を手抜くなら、5八玉です。

 王様を右側に移動しつつ、飛車の横利きを左へ伸ばします。

 これで7筋は潰れませんから、7六歩に同銀。

 ここで4五歩なら、同歩と強く取って、6六角、7七桂、8六歩、同歩、同飛に、8七金と出ます。


挿絵(By みてみん)


 (※図は石鉄くんの脳内イメージです。)


 以下、8一飛、8六歩で、後手は角が宙ぶらりんです。

 先手がいいとは言いませんが、この展開は歓迎します。

 4筋に傷があって、後手はまとめづらいので。

 ただ、これはちょっと勝手読みかな、という気がします。

 5八玉に6五歩と重ねて、同歩、4五歩のほうが、ありえるような。

 そこで7七角だと、ひとつまえの読み筋に近くなります。

 違うのは、7五歩と5八玉の交換が入っている点。

 これがどう影響するのか──残り時間は、先手が24分、後手が20分。

 さっきの長考で、後手はけっこう減ってるんですよね。

 ここは合わせたほうがいいですか?

 4分差は大きいので、いったん5八玉と上がっておくのも、アリです。

「……5八玉」

 鳴門先輩はノータイムで6五歩。

 これは予想通り、かつ、5八玉の様子見で、正解だったパターン。

 7六歩の取り込みは、考えなくてよくなりました。

 それじゃあ、ここから長考しましょう。

 プレーオフを制するのは、この僕です!

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