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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第44局 日日杯4日目(2015年8月4日火曜)
550/686

538手目 トレース

※ここからは、我孫子あびこくん視点です。女子第17局開始時点にもどります。

 いや~、ようやくここまでこぎつけやんした。

 我孫子あびこでやんす。

 最終局は、難波なんば姐さんとごいっしょ。

「我孫子、どこ観る?」

「姐さんにお任せするでやんす」

「ん~……みかんはん」

「そこでやんすか?」

 難波姐さん、眼光をギラリ。

「なに? 昼飯はなんでもええって言うたのに、メックだと拒否るタイプなん?」

「ゆ、許してくんだまし……でも、なんで温田おんだ姐さんを?」

「前局の将棋が、ちょいと気になる」

 おっと、まだフォローしてなかったでやんす。

 これは事前に予習したほうが──あ、時間がないでやんす。

《間もなく開始です。ご準備ください》

 よろしゅう。


 ピポ


 7六歩、3四歩、2六歩、4四歩、4八銀、9四歩、6八玉、9五歩。


【先手:つるぎ桃子ももこ(O山県) 後手:温田みかん(E愛県)】

挿絵(By みてみん)


 難波姐さん、眉間にしわをよせよせ。

「さっきと出だしがいっしょとちゃう?」

 そうなんでやんすか?

 やっぱり予習しておいたほうが、良さそうでやんす。

 予備のタブレットで、こそこそ──あ、ほんとでやんす。

 調べてるあいだに指された手も、ほぼ一致してるというオチに。

 5六歩、3二銀、5八金右、4三銀、7八玉、4二飛。


挿絵(By みてみん)


 あっしは扇子をパチリ。

「飛車振りが遅かっただけで、局面は一致してるでやんす」

「せやね」

 どっちも研究手順っぽくて、不気味でやんす。

 その証拠に、ここからの指し手もマッハ。

 7七角、6二玉、8八玉、5二金左、5七銀。

 藤井システムの最新形でやんすか?

 7二玉、6六歩、6四歩、6七金、7四歩、9八香。

 先手は穴熊へ。

「さっきの対局は、温田勝ちでやんしたが、途中の形勢はどうだったでやんすか?」

「先手がじわじわ悪くなった、っちゅー印象」

 つまりは研究勝ち、と。

 温田姐さん、自信のある手つき。

 7三桂、9九玉、5四銀、2五歩、3三角、8八銀。


挿絵(By みてみん)


 難波姐さんは、

磯前いそざきvs温田を確認したあと、ソフトで検討……は、できんよね、この大会」

 とひとりごと。

「電子機器は持ち込み禁止でやんすし、そもそも検討する時間がないでやんす」

「棋譜は確認できるんやったっけ?」

 どうでやんしたかね。

 会場の仕組みは、よくわかってないでやんす。

 難波姐さんはヘッドセットで、

「スタッフはーん」

 と声掛け。

《はい》

「これ、対局者は休憩時間に、ほかの棋譜を確認できるんでっしゃろか?」

《できます。会場内に専用のタブレットがありますので……ただ、お使いになられている選手は、ほとんどいないようですが》

 そりゃそうでやんす。

 連戦のなか、棋譜鑑賞をする余裕は、ないでやんすからね。

 あっしが選手なら、次の対局相手の棋譜を調べるという、ピンポイント活用。

 剣さんも、これだったと思うでやんす。

「どこで分岐すると思うでやんすか?」

「んー、むずかしい質問やね。みかんはんのほうが研究してそうやから、みかんはんからは手を変えやすいと思うんやけど……」

「剣さんに、なにか準備があれば?」

 難波姐さんは、目を閉じてうなりやんした。

「準備っちゅーても、時間なかったで」

 たしかに、ここは経緯を見守るしかないでやんすか。

 6二金直、3六歩、4五歩、7八金、8二銀。


挿絵(By みてみん)


 さあ、例の変なかたちになったでやんす。

 囲いは金無双でやんすが、相振りじゃないところが特徴。

 おそらくは地下鉄飛車を見せているでやんすね。

「……ん? 手が止まったでやんすか?」

 難波姐さんは、過去の棋譜を確認。

「さっきはここで3五歩、同歩、2四歩」

「攻めるなら、そこでやんす。ほかに手もなさそうでやんすが……」

 とはいえ、ここで考えるということは、変化するつもりざんしょ。

 解説らしく、あれこれ議論。

「歩で開戦しないなら、3八飛は、どうでやんす?」

「4四角一発で受からん?」

「そこから5九角、1四歩、3七角と覗くでやんす」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 難波姐さんは、あんまりノリ気でないようす。

「6三金直で、攻めがないんとちゃう?」

「そこから6八銀で固めるでやんす」

「攻めるチャンスがあるのに、スルーして組み替え……ね」

 あっしは扇子をひらいて、もう一回パチリ。

「前局では、攻めて負けてるでやんす。だったら回避が王道だと思うでやんす」

「せやけどね、磯前vs温田も、開戦の時点では、先手悪い気せーへんで」

 アマの印象より、結果を大事にしたいでやんすね。

 さすがにこの場では言わないでやんすが。


 パシリ


 あ、指したでやんす。


挿絵(By みてみん)


 同歩のあと、3五歩以外でやんしょか?

 温田姐さんも、しばし小考。

 ふつうに同歩。

 3五歩、同歩、6五歩、同桂、3三角成、同桂、2四飛。

「あれ? また合流したでやんすよ?」

「せやね。みかんはんのほうから手を変えろ、っちゅーことやろか」

「さっき勝ったのに、変えるとは思えないでやんすが……」

「このあとに先手の好手があるでえ、っていうプレッシャーはあるんとちゃう」

 どうでやんすかねえ。

 そもそも、後手は変えられるでやんすか?

 前局は5七桂成、同金、4六歩で、これ以外は難しいという印象。

 4六歩を先にしても、同歩、5七桂成なら同じでやんす。

 ただし、先手から4六同銀、6九角、6八金寄みたいな変化はアリ。


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 どっちがいいかは、悩ましいでやんす。

 と、そんな議論をしていたら、温田姐さんは5七桂成。

「やっぱりそうでやんすよねえ」

「勝ったほうは変えんでええ、と」

 同金、4六歩。

 剣さんは、ここで長考。

「なんか手がありそうでやんすか? 前局は4六同歩でやんしたが」

 難波姐さんは、眉間にしわを寄せて、腕組み。

「ここはあるんとちゃう? 2一飛成なんか、どう?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


 たしかに、これはありそうでやんす。

 あっしは扇子をパタパタ。

「4一歩は二歩だから打てない。これが狙いでやんすね。かといって4七歩成、8一角、7三玉、8五桂、8四玉、5四角成、同歩、7一銀は、後手崩壊。ようするに、8四歩と軽く受けるくらいでやんす。一例として、8四歩、4六歩、4八角、6七金寄、4六飛。これが前局と似ているようで、部分的に似ていないでやんす」

 あっしは、タブレットで2つの局面を比較。


【先手:磯前 後手:温田】

挿絵(By みてみん)


【先手:剣 後手:温田】

挿絵(By みてみん)


 難波姐さんは、

「8四歩と4一歩の入れ替えが、デカいかどうかやね。どない?」

 と、こちらへ丸投げ。

「8四歩のあと、どこかで4一歩と打つ展開なら、けっきょく似たような展開かもしれないでやんす。2一飛成、8四歩、4六歩、4八角、6七金寄、4六飛に、1一龍が入るようなら、そこで4一歩はありえるでやんす」

「打たんで5九角成は?」

「それもあるでやんすね。7七角で消せそうでやんすが」

 難波姐さん、頭をぼりぼり。

「香車が手に入るから、2一飛成のほうが、ええんかね」

 磯前姐さんが、なんで4六同歩を選択したのか、そこを知りたいでやんすね。

 さすがにこの比較はしてると思うでやんす。

 あっしらが、ああだこうだと議論していると、駒音が。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 剣さん、2一飛成を選択。

 なんともまあ、解説泣かせな展開に。

 こういうところで、サクッと解説出来たら、あっしの株も上がるんでやんすが。

 タブレット越しに、視聴者の視線を感じるでやんす。

 とりあえず、温田姐さんが長考してるんで、がんばって読むでやんす。

「ほぼ8四歩でやんすから、問題は先手がなにをしてくるか、でやんす。温田姐さんも、そこを考えているはず。難波姐さんが言ってた1一龍以外にも、3四歩があって、前局は後者」

「せやね。かたちはちょい違うけど、3四歩は、本譜の進行でも有力。本譜の場合は4一歩が入っとらんから、4五桂に4四桂が、わりと厳しいやろ」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「でやんす。4三金、5二桂成、同金、6一角は終わってそうでやんすから、6三金上でやんすね。そこで5二桂成なら、同金じゃなくて、5七桂成と攻め合いたいでやんす」

 ただこれは、先手がいい感じ。

 だとすると、3四歩に4五桂じゃなく、5九角成。

 つまり、前局の対応が最善。

「ふたつの対局を比べるのも、おもしろいでやんす」

「うちらも勉強になるわ。みかんはんが相当研究して来たっちゅーのも、よくわかるし」


 パシリ


 さあ、8四歩。

 剣さんは4六歩で、手をもどしたでやんす。

 4八角の一手。

 そこで入れ替わるように、剣さんが即指し。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 あ、変化したでやんす。

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