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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第43局 日日杯3日目(2015年8月3日月曜)
509/686

497手目 姉への対抗心

※ここからは、二階堂にかいどう亜紀あきさん視点です。女子第13局開始時点にもどります。

 はあ……冴えないなあ。

 ここまで3勝9敗。圧倒的な負け越し。

 唯一の救いは、お姉ちゃんも3勝9敗ってことくらい。

 レベルの低いマウンティングされないように、がんばろう。

 次はK知の夢子ゆめこちゃん。ここは勝ちたい。

 わたしは席について待った。

「お姉ちゃん、夢子ちゃんに勝ってるしなあ。さすがにここ落とすと痛いよね」

「もしもーし」

「それにしても夢子ちゃんまだかな?」

「もしもーし」

 ん? ひとの気配がする。

 わたしは前を見た。

 目に前髪がすこしばかりかかった少女がいた。

「うわッ! 夢子ちゃん、急に現れないでよッ!」

「さ、さっきからいるんですが……振り駒はどうしますか?」

 ふーむ、ここは譲っておこう。

「夢子ちゃんが振っていいよ」

「ではお言葉に甘えて」

 夢子ちゃんは細い指で歩を集めて、軽くまぜた。

「ぽいっと……歩が5枚で、私の先手です」

 後手か。どうしよっかな。初手7六歩だけは決めてある。

 まあ先手がどう動くかわかんないから、あんまり考えても意味ないか。

「それにしても夢子ちゃん、指が真っ白だね」

 夢子ちゃんは右手を持ち上げて、

「そうですか? あまり外に出ないからかもしれません」

 と言った。

 夢子ちゃんはボードゲームしかやらないインドア派だもんね。

 プールとかも行ってなさそう。

 わたしはけっこう日焼けしてる。

《……対局準備はよろしいでしょうか?》

 あ、始まる。

《では、始めてください》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーす」

 わたしがチェスクロを押して、対局開始。

 7六歩、8四歩、6八銀、3四歩、7七銀、6二銀、2六歩。


挿絵(By みてみん)


 矢倉ね。了解。

 お姉ちゃんとちがってわたしは居飛車党だし、夢子ちゃんも居飛車党だからこれは予想していた。ただ夢子ちゃん、見た目(?)に反して将棋はけっこうトリッキーというか技巧派だからなあ。用心用心。

 4二銀、2五歩、3三銀、4八銀、3二金、7八金、4一玉。

 2筋が早い。先攻する気?

 3六歩、5二金、6九玉、6四歩、3七銀、6三銀、4六銀。


挿絵(By みてみん)


 うーん、どう見ても次は3五歩だよね。

 角を動かすタイミングがなくなってしまった。反省。

 3五歩、同歩まではいいとして、そのあと潰れないよね?

 これで潰れるならプロで大流行してるはずだし、それはないはず。

「……しばらく付き合う。4四歩」

「3五歩です」

 同歩、同銀、4三金右、5六歩、9四歩、9六歩。

 激しくなりそうでならない展開。

 先手もここからいきなり全面攻撃はできないか。

 もうすこし辛抱しよう。チャンスが来るはず。

 とりあえず5四銀と出た。

 夢子ちゃんは7九角。

 4六角までされちゃうと、めんどうだ。

「4五歩」


挿絵(By みてみん)


 さすがにちょっと動く。

 3一角から活用する順を見ないと……ムリっぽい?

 いいかげんに3四歩と押さえるほうがいいかも。例えば次の手で3四歩、2六銀と下げさせて……なんか面白くないなあ。先手が一方的に言い分を通している。

 わたしはあれこれ考えた。反撃する? 9三桂で最短ルートを目指す順はある。でも先手が潰れるイメージはないんだよね、これ。

 そうこうしているうちに、夢子ちゃんは5八金と上がった。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………プレッシャーだけかけておこう。

「6五歩」

 6二飛も見せつつ、先手の駒組みを制限。

 夢子ちゃんは、

「そう来ますか……」

 と言ってから、5七角と上がった。

 1四歩、1六歩──見合いになってるね。

 これ以上は手待ちできなくなった。

 しかたがないから3四歩。いったん収める。

 2六銀に4二銀で、かたちを組み替えた。

 端攻めがちょっと気になるんだよね。1五歩とされたら取れないかも。9五歩から攻め合うか、あるいは6六歩、同歩を入れたい。

 もうひとつ気になるのは2四歩、同歩、同角のあとにどうするか。


挿絵(By みてみん)


 (※図は二階堂(妹)さんの脳内イメージです。)

 

 これもなあ。一方的に攻められるとマズいから、6六歩と反撃したい。

 いずれにせよ主導権は先手にある。わたしは出方を見ることに決めた。

 水を飲み飲み待つ。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 やっぱり攻めて来た。

 同歩、同角だと思うんだよね。そこで2三歩と無難に打つか、それともそれ以外の手を指すか。2三歩なら5七角、9三桂、1五歩、9五歩の攻め合いかな。以下、同歩、8五桂、1四歩、7七桂成の殴り合い。

 これでもいいけど、自信が持てないんだよね。1筋のプレッシャーがあるし、9筋を破るのもむずかしそう。30秒将棋ならこれでいいかな、という進行だ。

 かと言って2三歩以外も……うーん……いきなり9三桂と跳ねちゃう? どうせ1筋が崩壊するなら、先手必勝で2三歩を手抜くのもありか……いや、ない?

 わたしは3分ほど時間を使った。結論として、2三歩を省略して9三桂とすれば、9筋から先着できる、ということになった。

 よし、ここは腹をくくろうじゃないの。

「同歩」

 同角に9三桂。

 この手に夢子ちゃんは、

「ふむふむ、やはりそうしてきましたね。亜紀さんの性格分析をしたのでわかります」

 と言った。

 そ、そういうの怖いからやめて。盤上だけで戦って。

「5七角です」

 ふつうに撤退するのか。じゃあ予定通り先制攻撃。

 わたしは8五桂と即跳ねして、8八銀に9五歩と仕掛けた。


挿絵(By みてみん)


 さあ、あとは徹底的に攻めるだけ。

 夢子ちゃんの発言もブラフじゃなかったみたいで、すぐに対応してきた。

 同歩、9七歩、同桂、9五香、8五桂、9九香成。

 桂馬を犠牲にしつつ、9筋を突破。

 とはいえこっちも破れちゃってるから、9三桂成とされた。

 6二飛と逃げる。6五歩が効いてきた。

「8四角ですッ!」

「6六歩ッ!」

 さすがにこれは手抜けないでしょ。

 案の定、夢子ちゃんは7七銀と上がった。

 わたしは6七歩成、同金右を決めさせてから、2七歩で手裏剣を飛ばす。


挿絵(By みてみん)


 どやどや。飛車がどいたら8段目は一気に薄くなるよ。

 夢子ちゃんもこの手に小考。

 のこり時間はわたしが14分、夢子ちゃんが15分。ほぼ互角。

「……同飛です」

 スライドしなかったか。6八飛をちょっと期待してたんだけど。

 もちろんこれでもいい。6六歩で6筋に手をもどした。

「寄ってもいいですが……同銀です」

 6三香と打つ。串刺し。でもこの瞬間が怖い。

 夢子ちゃんもここは手抜けるとわかってるから、7三角成とした。

 6一飛、6五歩、同香、同銀、同銀。

「6四香です」


挿絵(By みてみん)


 ぐッ……止まったくさい?

 夢子ちゃんは前髪の奥から、サドっ気たっぷりの視線を送ってきた。

「すこーしムリ攻めでしたねぇ」

 夢子ちゃん、いきなりキャラが変わるのはダメだよ。怖い。

 わたしは7一飛と寄って逃げた。

 夢子ちゃんは今後の方針を立てるためか、ここで長考。

 うむむ、さすがにムリだったか。

 とはいえ敗勢ってわけでもないし、ここは粘る。

 うどんはコシが大事だけど、将棋は粘りがだいじ。

 レッツ逆転ッ!

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