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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第43局 日日杯3日目(2015年8月3日月曜)
499/686

487手目 人間関係

※ここからは、米子よなごくん視点です。男子第11局開始時点にもどります。

 んー、光彦みつひこに負けたの、痛かったっすね。

 気をとりなおしていこう。

 さっそく次の対局席へ。

石鉄いしづちくん、よろしく」

「あ、米子よなご先輩、よろしくお願いします」

 石鉄くん、制服ばっちり決まってる。

 俺っちは私服。ロゴ入りの白いシャツに黒のズボン。

 席についてひと息つく。

「振り駒、どっちがする?」

「米子先輩、どうぞ」

 ゆずり返すのもめんどうだから、振る。

 表が2枚出て、石鉄くんの先手。

 となりのテーブルはなにか話してるけど、ここはだんまり。

 石鉄くんとはあんまり接点ないんだよね。会話の糸口。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ムリして話さなくてもいっか。

 すなおに開始を待つ。

《対局準備はよろしいでしょうか? ……では、始めてください》

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 7六歩、8四歩、2六歩、3二金、7八金、8五歩、7七角。


【先手:石鉄いしづちれつ(E媛県) 後手:米子よなご耕平こうへい(T取県)】

挿絵(By みてみん)


 角換わりっぽくなった。でも俺っちは角換わりにはしない。

 3四歩、8八銀、4四歩、2五歩、3三角、4八銀、4二銀。

 このあたりはさくさく。

 5六歩、4三銀、6八角、6二銀、6九玉、7四歩。

 石鉄くんはこっちの作戦に気づいた。

雁木がんぎですか……」

 そうっす。

 石鉄くんは30秒ほど考えて、3六歩。

 俺っちは5二金。


挿絵(By みてみん)


 この雁木は用意してきた。今朝丸けさまる先輩との共同研究。

 ただなあ、今朝丸先輩も4回戦で、雁木をぶつけちゃってるんだよね。

 ちょっと読まれてる可能性ある。

 5八金、5四歩、7七銀、7三桂、9六歩、4一玉、1六歩、1四歩。

 問題は石鉄くんの対応。今朝丸先輩のときは3五歩からの急戦だったらしい。

 おなじようにしてくるかな。

 3七桂、6四歩、4六歩、9四歩、4七銀、8一飛、7九玉、6三銀。


挿絵(By みてみん)


 全然ちがうかたちになった。

 持久戦っぽい。そうなると俺っちも組み替えを考えないといけない。

 2九飛、4二角、5九金、6五歩、5七角。

 俺っちは1分考えて、6二金と崩した。

 石鉄くんの手が止まった。

 まあ狙いはバレバレだよね。右玉に変化する予定。

 石鉄くんは6八金上。

 こっちはすぐに5二玉と上がって、態度を明確にした。

「じらさないんですね」

 あんまりそういうの好きじゃない。

 手数が伸びるだけ。

 8八玉、3三桂。

「9八香です」


挿絵(By みてみん)


 マジっすか? からい。手数が爆伸びしそう。

 っていうか動かないとジリ貧になりそう。

 1分ほど考えて、攻めを決行。

 6六歩、同歩、7五歩、同歩、同角、6七金直、5三角。

 これが功を奏して、石鉄くんは穴熊をあきらめた。

 7九玉、7四銀、6八玉、1二香、7九玉、7五歩、5八銀。

 駒組み第2弾へ。

 6四角、6八金引、6三金。

 石鉄くん小考。

 反撃してきそうかな。

「……2四歩」


挿絵(By みてみん)


 してきたね。

 本腰を入れて読む。

 ほんとはもっと前に読んだほうがいいんだろうけど、俺っちはそこまで器用じゃない。

「……同歩」

 同飛、2三歩、2九飛、6二玉、6七銀。

 先手は変わった囲いになった。かたつむりの変化形。

 俺っちは4五歩で戦線を拡大する。

 石鉄くんは強く同桂と取ってきた。

 同桂、同歩、3七角成。


挿絵(By みてみん)


 馬を作れた。けど俺っちの陣形、薄い。

 崩壊するときは一気に逝きそう。

 石鉄くんもその筋を狙っているらしく、3五歩と畳み掛けてきた。

 俺っちは4七馬で飛車に当てた。

 4九飛、3八馬、6九飛。

「玉頭戦なら負けないっす。6四桂」

 石鉄くんは5八金。飛車筋をムリヤリ通してきそう。

 そのまえに圧迫しよう、

 7六歩、8八銀、5六桂。

 もうどんどん攻める。止まったら負け。

 3四歩、4六歩、同角、4八桂成。


挿絵(By みてみん)


 攻めが加速する。けどこれ以上の戦力投入ができない。

 持ち駒は使い切っちゃった。

 これが攻撃の臨界点ってやつか。

 石鉄くんもここで長考。反撃の気配を感じる。

 1分して6五歩が指された。

 俺っち、ここで大いに迷う。

 3五角を読んでいた。そこで7二玉と逃げる予定だった。

 だけど6五歩──たしかにこれも厳しい。

 俺っちはいったんコップに手をかけた。水を飲む。

 こういうときはおちつく。バンドでもいっしょ。

 大きく深呼吸して、背筋を伸ばした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………今3四銀と出たい。


挿絵(By みてみん)


 (※図は米子くんの脳内イメージです。)


 出れば3五角を封じられる。

 でもそれを石鉄くんが見落としてるってある?

 ふつうに考えたら、3筋は放棄してるっぽいんだよね。

 つまり6四歩の突き出しを狙ってきてる。

 だとしたら3四銀は緩手か……わからなくなってきた。

 のこり時間を確認する。俺っちが8分、石鉄くんも8分。

 俺っちは8分をちょうど切ったところで決断した。

「3四銀」

 のちのち3五角出はあるかもしれない。先に封じておく。

 石鉄くんも長考に入った。

「……6四歩」

 5三金、6六桂、7五銀、7四歩。


挿絵(By みてみん)


 くーッ、ふつうに厳しい。

 だけど後手悪い気はしないっすよ。

 いくら薄くても先手は戦力が足りない。

 おたがいに火縄銃で撃つみたいな流れになってきた。

 勝てば駿しゅんのサポートにもなるからね。ここは全力を尽くす。

「こっちのほうが弾は多いっす。6五桂ッ!」

 石鉄くんは6三歩成。

 あれ? 拠点捨て? 同金で……あ、もしかして7三歩成、同金、同角成?

 角切ってきそう。

 いや、でもそれが最後の弾でしょ。続かないはず。

 俺っちの王様には平原が広がってる。

「同金ッ!」

 7三歩成、同金。

 石鉄くん、ここで深刻そうな表情。

 切るかどうか迷ってるっぽい。


 5:30……5:20……5:10……5:00


「切ります。7三角成」

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