487手目 人間関係
※ここからは、米子くん視点です。男子第11局開始時点にもどります。
んー、光彦に負けたの、痛かったっすね。
気をとりなおしていこう。
さっそく次の対局席へ。
「石鉄くん、よろしく」
「あ、米子先輩、よろしくお願いします」
石鉄くん、制服ばっちり決まってる。
俺っちは私服。ロゴ入りの白いシャツに黒のズボン。
席についてひと息つく。
「振り駒、どっちがする?」
「米子先輩、どうぞ」
ゆずり返すのもめんどうだから、振る。
表が2枚出て、石鉄くんの先手。
となりのテーブルはなにか話してるけど、ここはだんまり。
石鉄くんとはあんまり接点ないんだよね。会話の糸口。
……………………
……………………
…………………
………………ムリして話さなくてもいっか。
すなおに開始を待つ。
《対局準備はよろしいでしょうか? ……では、始めてください》
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
7六歩、8四歩、2六歩、3二金、7八金、8五歩、7七角。
【先手:石鉄烈(E媛県) 後手:米子耕平(T取県)】
角換わりっぽくなった。でも俺っちは角換わりにはしない。
3四歩、8八銀、4四歩、2五歩、3三角、4八銀、4二銀。
このあたりはさくさく。
5六歩、4三銀、6八角、6二銀、6九玉、7四歩。
石鉄くんはこっちの作戦に気づいた。
「雁木ですか……」
そうっす。
石鉄くんは30秒ほど考えて、3六歩。
俺っちは5二金。
この雁木は用意してきた。今朝丸先輩との共同研究。
ただなあ、今朝丸先輩も4回戦で、雁木をぶつけちゃってるんだよね。
ちょっと読まれてる可能性ある。
5八金、5四歩、7七銀、7三桂、9六歩、4一玉、1六歩、1四歩。
問題は石鉄くんの対応。今朝丸先輩のときは3五歩からの急戦だったらしい。
おなじようにしてくるかな。
3七桂、6四歩、4六歩、9四歩、4七銀、8一飛、7九玉、6三銀。
全然ちがうかたちになった。
持久戦っぽい。そうなると俺っちも組み替えを考えないといけない。
2九飛、4二角、5九金、6五歩、5七角。
俺っちは1分考えて、6二金と崩した。
石鉄くんの手が止まった。
まあ狙いはバレバレだよね。右玉に変化する予定。
石鉄くんは6八金上。
こっちはすぐに5二玉と上がって、態度を明確にした。
「じらさないんですね」
あんまりそういうの好きじゃない。
手数が伸びるだけ。
8八玉、3三桂。
「9八香です」
マジっすか? からい。手数が爆伸びしそう。
っていうか動かないとジリ貧になりそう。
1分ほど考えて、攻めを決行。
6六歩、同歩、7五歩、同歩、同角、6七金直、5三角。
これが功を奏して、石鉄くんは穴熊をあきらめた。
7九玉、7四銀、6八玉、1二香、7九玉、7五歩、5八銀。
駒組み第2弾へ。
6四角、6八金引、6三金。
石鉄くん小考。
反撃してきそうかな。
「……2四歩」
してきたね。
本腰を入れて読む。
ほんとはもっと前に読んだほうがいいんだろうけど、俺っちはそこまで器用じゃない。
「……同歩」
同飛、2三歩、2九飛、6二玉、6七銀。
先手は変わった囲いになった。かたつむりの変化形。
俺っちは4五歩で戦線を拡大する。
石鉄くんは強く同桂と取ってきた。
同桂、同歩、3七角成。
馬を作れた。けど俺っちの陣形、薄い。
崩壊するときは一気に逝きそう。
石鉄くんもその筋を狙っているらしく、3五歩と畳み掛けてきた。
俺っちは4七馬で飛車に当てた。
4九飛、3八馬、6九飛。
「玉頭戦なら負けないっす。6四桂」
石鉄くんは5八金。飛車筋をムリヤリ通してきそう。
そのまえに圧迫しよう、
7六歩、8八銀、5六桂。
もうどんどん攻める。止まったら負け。
3四歩、4六歩、同角、4八桂成。
攻めが加速する。けどこれ以上の戦力投入ができない。
持ち駒は使い切っちゃった。
これが攻撃の臨界点ってやつか。
石鉄くんもここで長考。反撃の気配を感じる。
1分して6五歩が指された。
俺っち、ここで大いに迷う。
3五角を読んでいた。そこで7二玉と逃げる予定だった。
だけど6五歩──たしかにこれも厳しい。
俺っちはいったんコップに手をかけた。水を飲む。
こういうときはおちつく。バンドでもいっしょ。
大きく深呼吸して、背筋を伸ばした。
……………………
……………………
…………………
………………今3四銀と出たい。
(※図は米子くんの脳内イメージです。)
出れば3五角を封じられる。
でもそれを石鉄くんが見落としてるってある?
ふつうに考えたら、3筋は放棄してるっぽいんだよね。
つまり6四歩の突き出しを狙ってきてる。
だとしたら3四銀は緩手か……わからなくなってきた。
のこり時間を確認する。俺っちが8分、石鉄くんも8分。
俺っちは8分をちょうど切ったところで決断した。
「3四銀」
のちのち3五角出はあるかもしれない。先に封じておく。
石鉄くんも長考に入った。
「……6四歩」
5三金、6六桂、7五銀、7四歩。
くーッ、ふつうに厳しい。
だけど後手悪い気はしないっすよ。
いくら薄くても先手は戦力が足りない。
おたがいに火縄銃で撃つみたいな流れになってきた。
勝てば駿のサポートにもなるからね。ここは全力を尽くす。
「こっちのほうが弾は多いっす。6五桂ッ!」
石鉄くんは6三歩成。
あれ? 拠点捨て? 同金で……あ、もしかして7三歩成、同金、同角成?
角切ってきそう。
いや、でもそれが最後の弾でしょ。続かないはず。
俺っちの王様には平原が広がってる。
「同金ッ!」
7三歩成、同金。
石鉄くん、ここで深刻そうな表情。
切るかどうか迷ってるっぽい。
5:30……5:20……5:10……5:00
「切ります。7三角成」




