表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第41局 日日杯1日目(2015年8月1日土曜)
440/686

428手目 合流する少年少女たち

挿絵(By みてみん)


《……挑発してきたでやんすね》

 御城ごじょうくんはタッチペンを使い、黙って5三角と打った。

 

【参考図】

挿絵(By みてみん)


《6四角は意味がない。同角成、同歩、5三角の打ちなおしだ》

《後手は4六歩と攻めるしかないでやんす。突破は一見ムリそうでやんすが》

《4六同歩、同飛、4七歩、4一飛……角成りは防げないか》

《成るならどっちでやんすか?》

《俺なら2六だ。玉頭戦に持ち込む方針と一貫させる》

《なーるほど》

 我孫子あびこくんは扇子せんすをパチパチし始めた。

 御城くんも黙ってタブレットをみている。

 阿南あなんくんが長考。

 三拍子そろって映像に動きがなくなった。

 私は飛瀬とびせさんに、

「ここは1局しか解説しないの?」

 とたずねた。

「このモニタは捨神すてがみくん専用チャンネルに近いですね……ほぼ固定……」

 あれ? 2局解説してた私たちって、じつはイレギュラーだった?

 私は会場を見渡す。

 他のモニタは……わりとコロコロ切り替わってる。

 2局どころか、3、4局を周期的に解説しているところもあった。

 フリースタイルなのか。安心した。

 ではでは、引き続き観戦を──

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 さすがに打った。

 以下、解説どおりに2六角成まで進んだ。

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 捨神くん、積極策。

《3五銀はマズいから3六歩だな》

《それでも5五銀〜4六歩の強攻っぽいでやんすね》

《そうだな……しかし突破できるか?》

 御城くんは半信半疑のようだった。

 私も突破はムリだと思うなあ。4筋は守りが厚いのよね。

 ひとまず局面は進む。

 3六歩、3三桂、3七桂、5五銀、7七銀右。

 先手は銀矢倉か。そのうち7五歩が入りそう。

 捨神くんは当然4六歩と攻めた。

 同歩、同銀、4八飛。


挿絵(By みてみん)


《4七角の強襲はありんすか?》

《いや、さすがにやりすぎだろう。4七角、同金、同銀成、1八飛で先手の駒得だ。3七成銀、同馬、4九飛成としたところで、4八飛のカウンターがある》

《御城兄さん、読みが冴えてるでやんすね。ずばり、捨神くんの次の一手は?》

《4七歩じゃないか……ん、そう指したな》

 我孫子くんも、相方がうまいわね。

 彼もK都代表だから、4七角が成立しないことくらいはわかってるはず。

 さっきの質問は、視聴者サービスだろう。

 4七歩以下、3八飛、1四歩、1六歩で一回見合いになった。

 捨神くんの手が止まる。

 飛瀬さんは心配そうに、

「どうですか……形勢は……?」

 と訊いてきた。

「まだ互角じゃない?」

「そうですか……後手はあまり手がないように見えるんですが……」

 それはそのとおりかな。

 攻めの継続手はないと思う。

 とはいえ、先手も動きにくいのよね。

 捨神くんの長考が3分を超えたあたりで、我孫子くんが扇子をパチリとやった。

《今のところ、2連勝キープは6人でやんすね》

 御城くんは対戦表を確認した。

吉良きら少名すくな、捨神、囃子原はやしばら嘉中ひろなか六連むつむらか……》

《吉良vs六連は連勝同士の対決でやんす。観てみるでやんすか?》

《さすがにバッティングしてるんじゃないか?》

 御城くんの音声が途切れた。

 おそらく、ヘッドセットのマイクを切って、スタッフに確認しているのだろう。

《……7番のモニタでやってるらしい》

《そうでやんしたか。失礼したでやんす》

 吉良くんの対局か──ちょっと観てみたいかも。

 私は飛瀬さんに、7番モニタはどこかとたずねた。

「捨神くん応援団をうらぎり子ちゃんですか……?」

 そういう言い方をしない。

「ちょっと確認するだけよ」

「ここが9番なので、ふたつ右のほうだと思います……」

 私は席を立った。

 ふたつ右へ移動する。


【先手:六連むつむらすばる(H島県) 後手:吉良きら義伸よしのぶ(K知県)】

挿絵(By みてみん)


 これは……居飛車力戦形か。

 画面が微妙に反射している。

 私は見る角度を変えようとした。

 椅子につまずいてしまった。

 先に座っていた少年ふたりとぶつかりそうになる。

「っと、ごめんなさい」

 少年のひとりがふりかえった。

「あ、こっちこそすみません……あれ?」

 私と少年は、おたがいにみつめあった。

桂太けいたじゃないッ!」

 従兄弟の裏見うらみ桂太けいただった。

香子きょうこ姉ちゃん、解説してたんじゃなかったの?」

「今は抜け番なのよ。っていうか、来るなら連絡してちょうだい」

「ごめんごめん、どうせ会場で会うからいいかな、と思って」

 桂太のとなりには、麦わら帽子にサンダルの少年が座っていた。

 こっちも見たことあるわね。解説室にいたような。

 とりあえずあいさつをする。

「こんにちは……桂太のお友だち?」

「あ、こんにちは、魚住うおずみっていいます。黒潮くろしお高校1年です」

 桂太はこの会話を聞いて、

「姉ちゃん、おなじH島の中学竜王知らないの? 顔狭すぎじゃない?」

 と言った。

 こらぁ、従兄弟でも容赦しないわよ。

 ヘッドロックをかます。

「いたたたた……暴力反対」

「ところでこれ、どういう流れなの?」

「俺が魚住と会った流れ? それとも対局の話?」

 私は対局だと答えた。

 桂太は「角換わりっぽい出だしからの角換わりしない力戦」と答えた。

 よくわからん。どこかに棋譜が出てないかしら──ないか。

 あると便利なんだけど。あとでスタッフのひとに言っておこう。

 職場改善。


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 この手をみて、解説の声が入った。

 難波なんばさんと内木うちきさんだった。

《過激やなあ。レモンちゃん、どない?》

《7二金と受けたいところですが、銀当たりなので6四銀とするしかありません。そこで8六角をみせられてからの、7二金でしょうか》

 本譜もその通りに進んだ。

 六連くんはいったん7六飛と撤退する。

 7五歩、同角、同銀、同飛、4二角、7六歩。


挿絵(By みてみん)


 私はこの手をみて、

「8六歩から畳み掛けられそうね。同歩、同角が王手だし」

 とつぶやいた。

 桂太は「姉ちゃん、とりあえず座ったら?」と椅子を勧めてくれた。

 私は最前列に座る。

 8六歩(正解)、同歩、同角、4八玉、7五歩で飛車が死んだ。

 六連くんは8六飛と切って、同飛、8七歩、8四飛、5三角と打ち込む。


挿絵(By みてみん)


《馬は確定やね》

《成る場所は先手に任せて、後手は4二銀の壁銀解消だと思います》

 吉良くんの手が伸びた。

 4二銀。内木さん、正解。

 発声も読みもちゃんとしていて、解説慣れしてるっぽい。

 私はどうしても「んー」とかが多くなっちゃうのよね。

《レモンちゃん、どっちに成る?》

《私なら1七角成です。陣形の傷をカバーします。難波さんはいかがですか?》

《せやねぇ……3五角成はダメなん?》

 難波さんの指摘を受けて、内木さんは「あッ」となった。

《失礼しました。1七には限定されていないですね》

《まあ浮いとると気持ち悪いし、1七が本線っちゅーことやね》


 パシリ

 

 六連くんも1七角成とした。

 この手を見た魚住くんは、

「おいらなら3五に成るね」

 とコメントした。桂太は理由をたずねた。

「1五歩〜1四歩って突けるから」

 なるほど、一理ある。先手玉は4八だから、1筋を攻めても反動は小さい。

 とりま、本譜は4四歩、3九玉、3三桂、2七歩。


挿絵(By みてみん)


「おいら、こういうガチガチなのは好きじゃないなあ」

 魚住くん、唐突なダメ出し。

 いっぽう桂太は、

「俺はこっちのほうが好き……香子姉ちゃんは?」

 とたずねてきた。

「そうね……私は……」

「俺みたいなタイプだよな」

 松平まつだいらにアッパーカーット!

「ぐすん……裏見うらみさん、いわれのない暴力はやめてください」

「なんでそんなに神出鬼没なのよ」

 松平はあごをなでつつ、

「裏見が抜け番だって聞いたから、飯食いに行ってた」

 と答えた。

「午前中から来てたの?」

「1局目から余さず観てるぜ、裏見の解説をな」

 私たちの会話を聞いた桂太は、

「あれ? 姉ちゃんたち、けっきょくつきあってるの?*」

 と訊いてきた。ほら、勘違いされるじゃないの。

「松平、こんどそういう発言したら、ひもでふんじばって廊下ろうかに捨てるからね」

「ね、姉ちゃん、紐で縛るとか、けっこう危ないプレイしてんね」

 なにを言ってるんですか。

 将棋の話をしなさい、将棋の話を。

「私は3五角成のほうが好みかな」

 松平は、なんの話だ、と訊いてきた。

 事情を説明する。

「なるほど……このレベルの大会だと、1七角成で固めたくはあるよな」

 そういう考えもあるか……っと、局面が進んでる。


挿絵(By みてみん)


 あれ? 3五に馬がいる?

 どうやら1四歩、3五馬と飛び出したらしい。

 魚住くんは、

「ほら、これなら最初から3五角成でよかったよ」

 と自説を推した。

 いやあ、どうかしら、後手に動いてもらったわけでしょ。

 手順の妙だと思うんだけど。

 4五歩、5八銀、7六歩、2八玉、7四飛、5六歩、4三金、6八馬。


挿絵(By みてみん)


《先手、慎重ですね……》

《もっとこうガッガッガッみたいなのでええのになあ》

 感覚的解説はNG。

 私のとなりにちゃっかり座った松平は、ひとこと。

「大一番だから、さすがにプレッシャーがあるのかもな」

「そう? 六連くんってクールキャラっぽくない?」

外面そとづらは冷めてても内面ないめんは熱いって可能性もないか?」

 なるほど、姫野ひめのさんのことを思い出す。

 

 パシリ

 

 1五歩が指された。

 攻守逆転かな、と思いきや、同歩、5二玉、8六馬で体勢が入れ替わった。

 

挿絵(By みてみん)


《7六の歩を取り切れば、先手陣は安泰ですね》

《レモンちゃんは先手持ち?》

《そうですね……わずかに先手がいいかな、と……》

 これには桂太が、

吉良きら先輩、今日の山場なんだからがんばってくれぇ」

 と応援した。

 魚住くんは笑って、

「昴くん、こうなるとカラいよ」

 と言い、六連くん持ちをほのめかした。

 応援したい選手がいるのは、いいことですね、はい。

 2四飛、7六馬、9四角。

 さすがに交換すると損だから、六連くんは7七馬と引いた。

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 あ、切った。

*2手目 香子ちゃんの、瀬戸内海一周計画

https://book1.adouzi.eu.org/n2363cp/4/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ