表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第33局 日日杯司会決定オーディション(2015年6月28日日曜)
347/686

335手目 第4課題:???

※ここからは内木うちきさん視点です。

 さて……昼食休憩も終わって、午後の部が始まった。

 気合を入れなおす。現状確認から。

 

 第1課題 3.4(平均6.0)

 第2課題 5.4(平均5.8)

 第3課題 5.2(平均4.8)


 私の合計は14点ジャスト、全体の平均合計は16.6点。

 第1課題の負債が、そのままのしかかってきている。

 これを跳ね返さないと――

《囃子原グループ本社の従業員食堂は、いかがだっただろうか。我が社は福利厚生を大切にしている。就職先に迷ったら、ぜひ応募して欲しい。中途採用も受け付けているぞ……それでは、第4課題に入ろう。第4課題は……》

「ちょい待ちッ!」

 とつぜんの大声に、会場全体がふりかえった。

《なんだね、難波なんばくん?》

 難波先輩は、もみ手をしながらたちあがった。

「うちからひとつ提案があるんやけど、ええ?」

《提案? なんだね、言ってみたまえ》

「ここまでは礼音れおんはんが一方的にお題を決めとったやろ。せやけど、司会には臨機応変な発想力も必要なんとちゃう? そこでや、第4課題はフリーにして、応募者にひとりづずつ決めてもらう、ちゅーのはどう?」

 フリーテーマ? ……好きな演目でいいってこと?

 囃子原先輩は、空いた手をくちもとにあてて、しばらく考え込んだ。

《ふむ……おもしろそうだ。しかし、応募者の諸君は、いかがかな?》

 数人が即座に賛成した。

 ここまでの点数が低いひとたちだ。

 将棋をからめたテーマにヤリにくさを感じているメンツだと思う。

《とくに反対のひとは? ……いないようだな。では、難波くんの提案を採用する。第4課題はフリーテーマだ。カラーボールを引き、順番を決める。早いほうからテーマの決定権を取得し、後続の者は同じテーマを選べない。持ち時間は第一走者が決める》

 バランスの取れたルールだ。

 順番が早いひとはテーマを練る時間がない。

 遅いひとは用意したテーマを取られるリスクがある。

 さすがはO山の帝王、囃子原はやしばら礼音れおん

《それともうひとつ、これもさきほど言おうとしていたのだが、第4課題終了の時点で平均未満の者は、足切りとする。心して励んでくれたまえ》

 しかも足切りタイム!?

 会場がざわついた。事前に聞かされていなかったからだ。

《そう驚くことはない。高級ランチも終えて、未練はないだろう。では、始めよう》

 私たちはカラーボールを引いていく。一喜一憂。

 1番だけはダメ。いくらなんでも演技を考える時間がなさすぎる。

「内木レモンさん、どうぞ」

 スタッフが箱をさしだした。私は念入りにかき混ぜる――えいッ!

 

 16

 

 ぐわッ! 1番最後ッ!? ……っと、顔に出さない。澄まし顔。

「内木レモンさん、16番ですね……次の方、夜ノよるの伊吹いぶきさん」

「は〜い」

 伊吹さんも、念入りに箱をかき混ぜた。

 細い腕をスポンと抜く。

 

 1

 

 あッ……伊吹さんも、やってしまった。第一走者だ。

「夜ノさん、1番……すぐに始まりますので、テーマを考えてください」

 伊吹さんはすごすごとボールをスタッフに渡した――ん? 今、ニヤリとしなかった?

 うつむいてたけど、顔が笑っていたような。

《よし、全員引き終えたな。それでは、夜ノ伊吹くん、テーマを申告したまえ》

 伊吹さんは急に胸を張って、両手でガッツポーズをした。

「伊吹ッ! この勝負もらいましたッ! 応募者全員と10秒将棋対決ですッ!」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………え?

《ハハハ、おもしろい。独裁か。スタッフは大盤と時計を用意したまえ》

 囃子原先輩の笑い声とは対照的に、会場からは抗議の声があがった。

「ちょっと待ってくださいッ! 私は5番ですッ! 5番目にやりますッ!」

「巻き込むのはルール違反ですよッ!」

《残念だが、僕は『早いほうからテーマの決定権を取得』するとしか言っていない。巻き込みは当然に可だ。カラーボールの順番にならびたまえ》


【第1試合】(先手:夜ノ伊吹 後手:米倉ちえ)


挿絵(By みてみん)


【第2試合】(先手:天城せいら 後手:夜ノ伊吹) ※先手の反則負け


挿絵(By みてみん)


【第3試合】(先手:夜ノ伊吹 後手:桜木花美) ※後手の反則負け


挿絵(By みてみん)


【第4試合】(先手:夜ノ伊吹 後手:久山理香)


挿絵(By みてみん)


「伊吹無双になってきましたねぇ! もっと骨のあるひとはいませんかぁ?」

 なにやってんのよ、この眼帯アイドルは。

 県代表にそのへんのシロウトが勝てるわけないでしょ。

 なんで、こんなあからさまな【私つえぇええええええええ!】を……あ、そうかッ!

 応募者はどんどんぎ倒されて、ついに私の番になった。

「ふぅ……これで14連勝、ウォーミングアップにもならなかったです」

 伊吹さんはすこしも疲れていなさそうだった。

 それもそのはず。半分くらいは相手の反則負けだった。

 私は壇上にあがり、小声で伊吹さんに話しかける。

「さすがは伊吹さん……かしこい選択でしたね」

「ええ、私も点数が全然足りてないですから。ここはトップ以外狙えません。そしてぇ、レモンちゃん、あなたはここで足切りで〜す。2.6ポイント足りてませんよね? それなのに、あなたの演技タイムは、もうなーい」

 私は大盤の駒をならべながら、フッと笑う。

「その2.6ポイントは、目の前に落ちています。お分かりになりませんか?」

 伊吹さんは真顔になった。

「落ちてる? ……囃子原くんからインチキ内定もらってる、とかいうオチですか?」

「いいえ……伊吹さん、あなたを倒せば私が第4課題のトップ、って意味ですよ」

 伊吹さんはギリギリと歯ぎしりをした。

「そういうことは県大会で優勝してからほざけぇ、ですッ! 勝負ッ!」


 カーン♪ Final Round 夜ノ伊吹(先手)vs内木レモン(後手)

 

「初手、7六歩からいきますッ! 居飛車ですかぁ? 振り飛車ですかぁ?」

 居飛車一択。

 8四歩、2六歩、3二金、2五歩、8五歩、7七角、3四歩、8八銀。

 舌戦ではジャブを決めてみたものの、相手は県代表だ。

 やすやすと勝たせてくれるはずがない。全力でいく。

「伊吹さんッ! 角換わりで勝負ッ! 7七角成ッ!」


挿絵(By みてみん)


「いいんですかねぇ、伊吹の得意戦法ですよ、それ。同銀」

 2二銀、4八銀、3三銀、3六歩。

 早繰り銀? とりあえず、伊吹さんは積極的なタイプだ。

 ここは殴り負けないようにする。

 6二銀、3七銀、6四歩、6八玉。


挿絵(By みてみん)


 7八金を保留するのか――新しい指し方にみえる。

 私は用心しつつ、6三銀と上がった。こっちはオーソドックスな腰掛け銀へ。

 7九玉、5四銀、4六銀。

 案の定、伊吹さんは早繰り銀だった。しかも、7八金の保留で1手加速させている。

「超速攻ですか……」

「レモンちゃん、居玉のまま殴り合うつもりですかぁ?」

 私は小考した。

 居玉は気持ち悪い。けど、4四歩を入れないと受けが効かない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 くッ、時間が。

「4四歩ッ!」

「開戦ッ! 3五歩ッ!」


挿絵(By みてみん)


 先攻された。

 これを同歩は同銀で加速する。

 4四歩を活かして受ける。

「4五歩です」

「逃げません。3四歩」

 それは読み切り。私は同銀と手をもどした。

 伊吹さんも3七銀と手をもどす。

 私は持ち駒の角を手にとった。


 パシリ


挿絵(By みてみん)


「ほほぉ」

 伊吹さんは、とおもしろそうにこの手をみつめた。

「なぁるほど、8筋が薄いから、角で牽制してきたわけですか」

「一回は受けてもらいます」

しゃくですが、さすがに受けるしかないですね」

 伊吹さんは7八金と上がった。

 このあいだに攻めを構築する。

 7四歩、5八金、6二金、6八金右、7三桂、3八飛。

 おたがいに間合いを詰めた。ここで私の手番。

「……」

「レモンちゃん、迷ってますね? 先攻できますよ?」

 そうだ。この局面、7五歩と突けば私から先攻できる。

 けど、それがいいのかどうか……反動も大きいし、先手は角を手持ちにしている。

「アイドルは度胸ですよぉ」

 くッ、気が散る。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


挿絵(By みてみん)


 勢い攻めてしまった。とはいえ、最善だと思う。

「そうこなくっちゃ。同歩です」

「6五桂。しばらく受けてもらいます」

 伊吹さんは眉を持ち上げて、小馬鹿にするような笑みをうかべた。

「だれが受けるって言いました? 2六銀です」


挿絵(By みてみん)


 !? ここで攻め?

 7七桂成、同桂は7六歩で先手が……悪くないのか。7四桂がある。

 飛車と金の位置が悪かった。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「4三銀左ッ!」

 私はあわてて銀を撤退した。

 3四歩って打たれても大丈夫? 読みきれなかった。

 一方、伊吹さんは余裕しゃくしゃくで、

「伊吹、また攻めまぁす。6六銀」

 と銀を繰り出してきた。これは銀を単に逃げたわけじゃない。

 次に6五銀と食いちぎって、むりやり7四桂の狙いだ。

 6五銀、同銀、7四桂、同銀、同歩だと、今度は7三銀の打ち込みが残る。

「さぁ、レモンちゃん、私たちの格のちがい、思い知らせてあげます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ