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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第27局 2015年度駒桜市新人戦(2015年6月14日日曜)
285/686

273手目 2回戦 古谷〔清心〕vs五見〔駒北〕(2)

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………同玉、3四金、3三飛、3五歩、4四香?

 

挿絵(By みてみん)


 次の4五桂を防いだ手だ。

 3六歩が間に合えば、こっちが良くなる。それを阻止するために、先手は2四歩かな。

 そこで1八飛か2八飛と打ち込んで……2八飛の一択っぽい。2八飛と打っておけば、2五桂も防げて一石二鳥だ。となると、先手は2五桂以外の攻めに切り替えてくるはず。

 その切り替えが、いまいち分からない。後手は次に4七香成がある。飛車打ちの効果で同銀とできない。この順に入ったら、先手の負けだろう。

 とはいえ、このあたりも古谷ふるやくんなら当然読んでいるはずだった。

 僕は念入りにもう30秒ほど確認して、龍を拾いあげた。

「3二同玉」

 古谷くんは1分ほど読みなおして、3四金と打った。

 僕は3三飛とスライドする。

 以下、3五歩、4四香、2四歩、2八飛と進んだ。

「4四角」


挿絵(By みてみん)


「!?」

 か、角のほうを切ってきた。これはあんまり読んでいない。

 僕が読んでいたのは4四金、同歩、3四香の串刺しだった。

 角切りは、どういう狙いなんだろう。冷静になってみる。

 まず、同歩は絶対で、そのあとに香車を打つってことだよね。2九香は同馬でまったく意味がない。8筋方面を攻めるのも、全然痛くない。ということは、玉頭周辺……3四の地点には金がいるから打てない。だったら2三か。2三香、同銀、同歩成、同飛、同金、同玉の順かな。


挿絵(By みてみん)


 (※図は五見くんの脳内イメージです。)

 

 ちょっと単純な気もする。だけど、繋がっているようにも見える。

 あるいは、4三銀と先に打つのもありえそうだ。

 それに、取り方は今の順で良かったのかどうか。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 2三香、同銀、3三金、同桂、2三歩成、同飛成もあるか。


挿絵(By みてみん)


 (※図は五見いつみくんの脳内イメージです。)

 

 こっちのほうがマズいな。3三金のときに同玉と取れない。取ったら3一飛だ。

 6一金がウィークポイントになってしまっている。

 以下、3四銀、2八龍、2三飛、同龍、同銀成、同玉、2一飛か。

 王手金取りを防げないってオチっぽいなぁ。

 ただ、先手は銀を捨ててるし、駒得ってわけでもない。

 駒割りは……6一飛成の時点で僕の角得、金香の交換か。

 とはいえ、先手は銀香をどんどん拾える。駒得はすぐに解消されてしまう。

「……まいったな」

 僕はひとりごとをつぶやいた。古谷くんは顔をあげる。

「宿題でも出し忘れた?」

 いや、なんでそうなるの。なんかわざとっぽい発言。

 あんまり悪く取りたくないけど。

「ちょっと思うところがあってね」

 僕は返事にならない返事をかえして、ペットボトルの水を飲んだ。

 もういちど最初から考えてみる。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ダメだ。6一飛成くらいまでは確定している。

 あんまり時間を使うのも良くないな。

「同歩」

 2三香、同銀、3三金、同桂、2三歩成、同飛成、3四銀。

 パタパタと進んだ。

 2四龍、2三飛、同龍、同銀成、同玉、2一飛、2二歩。

「6一飛成、っと」

 古谷くんは飛車を裏返して、チェスクロを押した。

 

挿絵(By みてみん)


 僕は残り時間を確認する。

 先手が13分、後手が10分。ちょっとだけ差が詰まったかな。

「1八飛」

 とりあえず、飛車を打っておく。次に3七馬を狙おう。

 4八金打と受けてくれたら、時間稼ぎになる。

 古谷くんは、ここでも小考した。

「1一龍」

 ん、受けないのか……3七馬とされてから4八金打なのかな。

 若干損な気もするけど。

 いずれにせよ、他に手もないので3七馬と入る。

「2八歩」


挿絵(By みてみん)


 歩打ち? ……取って2九香っぽいな。

 応手はいろいろある。同飛成としないのも……いや、するのが本命か?

 2八同飛成、2九香、3八馬は2八香で王手だ。4九の金は拾えない。

 っていうかこれ、2九香の段階で王手龍なんだよな……2八飛成は論外ってこと?

 かと言って、1五馬とか2六馬とも引けない。やっぱり香車を打たれる。

 しかし、5五馬は3四金からたいへんなことになりそうだ。

 僕の考慮中に、古谷くんは手提げ袋から水筒をとりだした。蓋を開けると、紅茶の香りが漂う。どうもリラックスされている感じがした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 入玉するか? どうせ駒得だ。先手陣に入ってしまえば負けはない。

 古谷くん相手なら、そっちのほうが勝機があるかもしれなかった。

「同飛成」

 僕は歩を払った。古谷くんは紅茶をひとくち飲んで、かるくうなずいた。

「入玉路線かな?」

「まあね」

「とりあえず飛車をもらおうか」

 古谷くんは2九香と打った。

 以下、同龍、同銀、4七馬、5八金打(5六桂の防止)、2五馬と進んだ。


挿絵(By みてみん)


 ひとまず、入玉形っぽくはなったぞ。

 できれば2九馬と入りたかったんだけど、それは1二飛で困る。次に1三飛成とされたら入玉できなくなる。そこで2四角と受けると、2二飛成、1四玉、2一龍寄で、いきなり王手角取り。しかも2四龍のあとに馬取りになる。この連鎖を止めるには、桂馬の紐を馬につけておくのがいいと判断した。

「1二飛」

 うーん、そうだよね。どのみちそう打ってくるよね。

 僕はまた考え込む。単に2四角と打つかどうか。

「……5六桂」

 すこしひねる。

「なるほど、同歩は3五馬と王手しながら受けれるね。7九玉」

 僕は追加で10秒読みなおして、2四角と置いた。


挿絵(By みてみん)


 これで受かってないかな。

 7九玉と押し込んでいるのも、感触がいい。

 古谷くんの手も止まった。ちょっとやり過ぎだったんじゃないの。

「……ギリギリか。2二飛成」

 1四玉、2一龍寄、4五香。

 これで反撃の準備は整った。4七歩や4八歩と受けても意味はない。

「2三龍」

 古谷くんは、生角のお尻から王手してきた。

 僕は時間差がつかないように気をつける。ノータイムで1五玉だ。

「1六歩」


挿絵(By みてみん)


 古谷くんは、駒音を立てずに端歩を突いた。

 これは同玉しかない。うっかり同馬は2四龍で詰む。

「同玉」

「2四龍」

「!」

 しまった――思ったより狭い。

 2四同馬は同龍が詰めろになってしまう。

 むろん、取らなければ……取らなくて大丈夫か?

 4九香成、3八角、2七歩、4九角みたいな感じかもしれない。

 馬には桂馬の紐がついている。すぐに2五龍はないだろう。

 僕はチェスクロを確認した。のこりは2分。

「4九香成」

「決戦かな。3八角」

 2七歩、同角、2六玉、4九角、4八銀、2八香。

「2七歩」

「2五龍」


挿絵(By みてみん)


 僕はこの手にメガネをなおした――正直、かなり厳しい。

 即詰みはない。けど、入玉は不可能になってしまった。

 

 ピッ

 

 しかも時間がない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「同桂」

「2七香。どこに逃げる?」

 古谷くんは、問い詰めるようなまなざしで僕を見つめた。

 1筋はない。3六か3七だ。

 3六は2五龍が王手。3七は2八角が見えた。

 どっちだ? 3六から手順に逃げたほうがいいか?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3七玉ッ!」

 僕は角を打たせる順を選んだ。

「そっちか……」

 古谷くんの手が止まった。正解手だった?

 

 ピッ、

 

 古谷くんも1分将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 長考後の普通の手。すごくイヤな予感がする。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 僕は59秒ギリギリで3六玉と引いた。

 2五龍、4五玉、3四龍、5四玉、6六桂、6五玉。

 古谷くんの指し手は早かった。読みきっているかのようだ。

 8七銀、3七歩、4四龍、5四香、7七桂。

「……6四玉」

 古谷くんは、黙って4八龍と引いた。


挿絵(By みてみん)


 僕はタメ息をついた。

「7五銀までの詰めろだね……投了」

「ありがとうございました」

 おたがいに一礼して、対局は終わった。

 僕は内容をふりかえる。自分を落ち着かせる時間でもあった。

「100手目くらいから、もうダメだったね。そのまえでミスしたかな?」

「んー、五見くん、中盤から入玉模様だったよね。それってどうだったの」

「方針にダメ出しされるのか。キツイなぁ」

 僕のコメントに、古谷くんは笑ってみせた。

「いやいや、べつにダメ出ししてるわけじゃないよ。でもさ、2八歩に同馬と取れない時点で、後手は王様の位置が悪いと思うんだよね」

「たしかに、2八歩、同馬、3四金、1四玉、2二龍は必至だからね」

 さて、どのあたりについて訊いたものか。

 部室なら1時間くらいやってもいいけど、大会ではそうもいかない。

「最後、3七玉〜3六玉じゃなくて単に3六玉だった?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「あんまり変わらないと思う」

 古谷くんはそう言って、2五龍と引いた。

「例えば4六玉だと?」

「4七歩と打って、4五玉なら3六角、5五玉、5六歩として、銀桂を払うよ。このふたつを抜いたら、さすがに先手勝勢じゃない?」

「うーん、4八金の瞬間に5九飛と打っても、特に意味はないのか……」

 どうやら、3六玉のパターンは桂馬を抜かれてしまうようだ。

 こうなると勝ち目がない。まあ、このあたりは全体的に勝ち目がない。

「王様が2三の地点に露出した時点でダメだったかな」

「んー、こっちが指しやすいとは思ったけど、駒損だからね」

「じゃあ、2一龍寄のとき、攻めないで受けたほうがよかったかな。3五馬とか」

 僕は局面をもどした。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「2三龍だと?」

「1五玉、1六歩、2五玉、2六歩、1六玉、2四龍、同馬、同龍、1七金は?」

「それは詰むよ。4三角、3五歩合、同角成、同桂、同龍、2七玉、3八金まで」

 おっと、てきとうに言い過ぎた。反省。

「1七金に代えて2七金もダメ?」

「ダメだね。2七金、4三角、2五歩合、同角成、同桂、同龍、1七玉、1八歩、同金、同銀、同玉、1六龍、1七香合、3六角以下で詰む」

「もしかして、合駒が悪い? 2七香は?」

「2七香、4三角、2五歩合、同角成、同桂、同龍、1七玉……」

「そこで打ち歩詰めだ」

「詰ませようとしなければいいんじゃないかな。2七香に1八銀は?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 僕は嘆息した。

「ま、このかたちじゃ入玉はムリか」

「ちょっと難しいね」

 ほかの局面を検討しようとしたところで、箕辺会長のアナウンスが入った。

「終わったひとから、昼食中継に入ってください。再開は1時からです」

 あんまり付き合わせても悪い。僕は感想戦を切り上げる。

「それじゃ、ありがとうございました。次もがんばってね」

「善処するよ。ありがとうございました」

場所:2015年度 駒桜市高校新人戦 2回戦

先手:古谷 兎丸

後手:五見 誠

戦型:横歩取り


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲6八玉 △8二飛

▲3六歩 △2二銀 ▲3五飛 △4二玉 ▲3八銀 △2七歩

▲同 銀 △8八角成 ▲同 銀 △2八角 ▲3七角 △同角成

▲同 桂 △2八角 ▲3八銀 △1九角成 ▲8四歩 △同 飛

▲6六角 △2四飛 ▲2五歩 △2三飛 ▲3二飛成 △同 玉

▲3四金 △3三飛 ▲3五歩 △4四香 ▲2四歩 △2八飛

▲4四角 △同 歩 ▲2三香 △同 銀 ▲3三金 △同 桂

▲2三歩成 △同飛成 ▲3四銀 △2四龍 ▲2三飛 △同 龍

▲同銀成 △同 玉 ▲2一飛 △2二歩 ▲6一飛成 △1八飛

▲1一龍 △3七馬 ▲2八歩 △同飛成 ▲2九香 △同 龍

▲同 銀 △4七馬 ▲5八金打 △2五馬 ▲1二飛 △5六桂

▲7九玉 △2四角 ▲2二飛成 △1四玉 ▲2一龍寄 △4五香

▲2三龍 △1五玉 ▲1六歩 △同 玉 ▲2四龍 △4九香成

▲3八角 △2七歩 ▲同 角 △2六玉 ▲4九角 △4八銀

▲2八香 △2七歩 ▲2五龍 △同 桂 ▲2七香 △3七玉

▲2八角 △3六玉 ▲2五龍 △4五玉 ▲3四龍 △5四玉

▲6六桂 △6五玉 ▲8七銀 △3七歩 ▲4四龍 △5四香

▲7七桂 △6四玉 ▲4八龍


まで117手で古谷の勝ち

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