273手目 2回戦 古谷〔清心〕vs五見〔駒北〕(2)
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………………同玉、3四金、3三飛、3五歩、4四香?
次の4五桂を防いだ手だ。
3六歩が間に合えば、こっちが良くなる。それを阻止するために、先手は2四歩かな。
そこで1八飛か2八飛と打ち込んで……2八飛の一択っぽい。2八飛と打っておけば、2五桂も防げて一石二鳥だ。となると、先手は2五桂以外の攻めに切り替えてくるはず。
その切り替えが、いまいち分からない。後手は次に4七香成がある。飛車打ちの効果で同銀とできない。この順に入ったら、先手の負けだろう。
とはいえ、このあたりも古谷くんなら当然読んでいるはずだった。
僕は念入りにもう30秒ほど確認して、龍を拾いあげた。
「3二同玉」
古谷くんは1分ほど読みなおして、3四金と打った。
僕は3三飛とスライドする。
以下、3五歩、4四香、2四歩、2八飛と進んだ。
「4四角」
「!?」
か、角のほうを切ってきた。これはあんまり読んでいない。
僕が読んでいたのは4四金、同歩、3四香の串刺しだった。
角切りは、どういう狙いなんだろう。冷静になってみる。
まず、同歩は絶対で、そのあとに香車を打つってことだよね。2九香は同馬でまったく意味がない。8筋方面を攻めるのも、全然痛くない。ということは、玉頭周辺……3四の地点には金がいるから打てない。だったら2三か。2三香、同銀、同歩成、同飛、同金、同玉の順かな。
(※図は五見くんの脳内イメージです。)
ちょっと単純な気もする。だけど、繋がっているようにも見える。
あるいは、4三銀と先に打つのもありえそうだ。
それに、取り方は今の順で良かったのかどうか。
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2三香、同銀、3三金、同桂、2三歩成、同飛成もあるか。
(※図は五見くんの脳内イメージです。)
こっちのほうがマズいな。3三金のときに同玉と取れない。取ったら3一飛だ。
6一金がウィークポイントになってしまっている。
以下、3四銀、2八龍、2三飛、同龍、同銀成、同玉、2一飛か。
王手金取りを防げないってオチっぽいなぁ。
ただ、先手は銀を捨ててるし、駒得ってわけでもない。
駒割りは……6一飛成の時点で僕の角得、金香の交換か。
とはいえ、先手は銀香をどんどん拾える。駒得はすぐに解消されてしまう。
「……まいったな」
僕はひとりごとをつぶやいた。古谷くんは顔をあげる。
「宿題でも出し忘れた?」
いや、なんでそうなるの。なんかわざとっぽい発言。
あんまり悪く取りたくないけど。
「ちょっと思うところがあってね」
僕は返事にならない返事をかえして、ペットボトルの水を飲んだ。
もういちど最初から考えてみる。
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ダメだ。6一飛成くらいまでは確定している。
あんまり時間を使うのも良くないな。
「同歩」
2三香、同銀、3三金、同桂、2三歩成、同飛成、3四銀。
パタパタと進んだ。
2四龍、2三飛、同龍、同銀成、同玉、2一飛、2二歩。
「6一飛成、っと」
古谷くんは飛車を裏返して、チェスクロを押した。
僕は残り時間を確認する。
先手が13分、後手が10分。ちょっとだけ差が詰まったかな。
「1八飛」
とりあえず、飛車を打っておく。次に3七馬を狙おう。
4八金打と受けてくれたら、時間稼ぎになる。
古谷くんは、ここでも小考した。
「1一龍」
ん、受けないのか……3七馬とされてから4八金打なのかな。
若干損な気もするけど。
いずれにせよ、他に手もないので3七馬と入る。
「2八歩」
歩打ち? ……取って2九香っぽいな。
応手はいろいろある。同飛成としないのも……いや、するのが本命か?
2八同飛成、2九香、3八馬は2八香で王手だ。4九の金は拾えない。
っていうかこれ、2九香の段階で王手龍なんだよな……2八飛成は論外ってこと?
かと言って、1五馬とか2六馬とも引けない。やっぱり香車を打たれる。
しかし、5五馬は3四金からたいへんなことになりそうだ。
僕の考慮中に、古谷くんは手提げ袋から水筒をとりだした。蓋を開けると、紅茶の香りが漂う。どうもリラックスされている感じがした。
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入玉するか? どうせ駒得だ。先手陣に入ってしまえば負けはない。
古谷くん相手なら、そっちのほうが勝機があるかもしれなかった。
「同飛成」
僕は歩を払った。古谷くんは紅茶をひとくち飲んで、かるくうなずいた。
「入玉路線かな?」
「まあね」
「とりあえず飛車をもらおうか」
古谷くんは2九香と打った。
以下、同龍、同銀、4七馬、5八金打(5六桂の防止)、2五馬と進んだ。
ひとまず、入玉形っぽくはなったぞ。
できれば2九馬と入りたかったんだけど、それは1二飛で困る。次に1三飛成とされたら入玉できなくなる。そこで2四角と受けると、2二飛成、1四玉、2一龍寄で、いきなり王手角取り。しかも2四龍のあとに馬取りになる。この連鎖を止めるには、桂馬の紐を馬につけておくのがいいと判断した。
「1二飛」
うーん、そうだよね。どのみちそう打ってくるよね。
僕はまた考え込む。単に2四角と打つかどうか。
「……5六桂」
すこしひねる。
「なるほど、同歩は3五馬と王手しながら受けれるね。7九玉」
僕は追加で10秒読みなおして、2四角と置いた。
これで受かってないかな。
7九玉と押し込んでいるのも、感触がいい。
古谷くんの手も止まった。ちょっとやり過ぎだったんじゃないの。
「……ギリギリか。2二飛成」
1四玉、2一龍寄、4五香。
これで反撃の準備は整った。4七歩や4八歩と受けても意味はない。
「2三龍」
古谷くんは、生角のお尻から王手してきた。
僕は時間差がつかないように気をつける。ノータイムで1五玉だ。
「1六歩」
古谷くんは、駒音を立てずに端歩を突いた。
これは同玉しかない。うっかり同馬は2四龍で詰む。
「同玉」
「2四龍」
「!」
しまった――思ったより狭い。
2四同馬は同龍が詰めろになってしまう。
むろん、取らなければ……取らなくて大丈夫か?
4九香成、3八角、2七歩、4九角みたいな感じかもしれない。
馬には桂馬の紐がついている。すぐに2五龍はないだろう。
僕はチェスクロを確認した。のこりは2分。
「4九香成」
「決戦かな。3八角」
2七歩、同角、2六玉、4九角、4八銀、2八香。
「2七歩」
「2五龍」
僕はこの手にメガネをなおした――正直、かなり厳しい。
即詰みはない。けど、入玉は不可能になってしまった。
ピッ
しかも時間がない。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同桂」
「2七香。どこに逃げる?」
古谷くんは、問い詰めるようなまなざしで僕を見つめた。
1筋はない。3六か3七だ。
3六は2五龍が王手。3七は2八角が見えた。
どっちだ? 3六から手順に逃げたほうがいいか?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3七玉ッ!」
僕は角を打たせる順を選んだ。
「そっちか……」
古谷くんの手が止まった。正解手だった?
ピッ、
古谷くんも1分将棋に。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
パシリ
長考後の普通の手。すごくイヤな予感がする。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
僕は59秒ギリギリで3六玉と引いた。
2五龍、4五玉、3四龍、5四玉、6六桂、6五玉。
古谷くんの指し手は早かった。読みきっているかのようだ。
8七銀、3七歩、4四龍、5四香、7七桂。
「……6四玉」
古谷くんは、黙って4八龍と引いた。
僕はタメ息をついた。
「7五銀までの詰めろだね……投了」
「ありがとうございました」
おたがいに一礼して、対局は終わった。
僕は内容をふりかえる。自分を落ち着かせる時間でもあった。
「100手目くらいから、もうダメだったね。そのまえでミスしたかな?」
「んー、五見くん、中盤から入玉模様だったよね。それってどうだったの」
「方針にダメ出しされるのか。キツイなぁ」
僕のコメントに、古谷くんは笑ってみせた。
「いやいや、べつにダメ出ししてるわけじゃないよ。でもさ、2八歩に同馬と取れない時点で、後手は王様の位置が悪いと思うんだよね」
「たしかに、2八歩、同馬、3四金、1四玉、2二龍は必至だからね」
さて、どのあたりについて訊いたものか。
部室なら1時間くらいやってもいいけど、大会ではそうもいかない。
「最後、3七玉〜3六玉じゃなくて単に3六玉だった?」
【検討図】
「あんまり変わらないと思う」
古谷くんはそう言って、2五龍と引いた。
「例えば4六玉だと?」
「4七歩と打って、4五玉なら3六角、5五玉、5六歩として、銀桂を払うよ。このふたつを抜いたら、さすがに先手勝勢じゃない?」
「うーん、4八金の瞬間に5九飛と打っても、特に意味はないのか……」
どうやら、3六玉のパターンは桂馬を抜かれてしまうようだ。
こうなると勝ち目がない。まあ、このあたりは全体的に勝ち目がない。
「王様が2三の地点に露出した時点でダメだったかな」
「んー、こっちが指しやすいとは思ったけど、駒損だからね」
「じゃあ、2一龍寄のとき、攻めないで受けたほうがよかったかな。3五馬とか」
僕は局面をもどした。
【検討図】
「2三龍だと?」
「1五玉、1六歩、2五玉、2六歩、1六玉、2四龍、同馬、同龍、1七金は?」
「それは詰むよ。4三角、3五歩合、同角成、同桂、同龍、2七玉、3八金まで」
おっと、てきとうに言い過ぎた。反省。
「1七金に代えて2七金もダメ?」
「ダメだね。2七金、4三角、2五歩合、同角成、同桂、同龍、1七玉、1八歩、同金、同銀、同玉、1六龍、1七香合、3六角以下で詰む」
「もしかして、合駒が悪い? 2七香は?」
「2七香、4三角、2五歩合、同角成、同桂、同龍、1七玉……」
「そこで打ち歩詰めだ」
「詰ませようとしなければいいんじゃないかな。2七香に1八銀は?」
【検討図】
僕は嘆息した。
「ま、このかたちじゃ入玉はムリか」
「ちょっと難しいね」
ほかの局面を検討しようとしたところで、箕辺会長のアナウンスが入った。
「終わったひとから、昼食中継に入ってください。再開は1時からです」
あんまり付き合わせても悪い。僕は感想戦を切り上げる。
「それじゃ、ありがとうございました。次もがんばってね」
「善処するよ。ありがとうございました」
場所:2015年度 駒桜市高校新人戦 2回戦
先手:古谷 兎丸
後手:五見 誠
戦型:横歩取り
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲6八玉 △8二飛
▲3六歩 △2二銀 ▲3五飛 △4二玉 ▲3八銀 △2七歩
▲同 銀 △8八角成 ▲同 銀 △2八角 ▲3七角 △同角成
▲同 桂 △2八角 ▲3八銀 △1九角成 ▲8四歩 △同 飛
▲6六角 △2四飛 ▲2五歩 △2三飛 ▲3二飛成 △同 玉
▲3四金 △3三飛 ▲3五歩 △4四香 ▲2四歩 △2八飛
▲4四角 △同 歩 ▲2三香 △同 銀 ▲3三金 △同 桂
▲2三歩成 △同飛成 ▲3四銀 △2四龍 ▲2三飛 △同 龍
▲同銀成 △同 玉 ▲2一飛 △2二歩 ▲6一飛成 △1八飛
▲1一龍 △3七馬 ▲2八歩 △同飛成 ▲2九香 △同 龍
▲同 銀 △4七馬 ▲5八金打 △2五馬 ▲1二飛 △5六桂
▲7九玉 △2四角 ▲2二飛成 △1四玉 ▲2一龍寄 △4五香
▲2三龍 △1五玉 ▲1六歩 △同 玉 ▲2四龍 △4九香成
▲3八角 △2七歩 ▲同 角 △2六玉 ▲4九角 △4八銀
▲2八香 △2七歩 ▲2五龍 △同 桂 ▲2七香 △3七玉
▲2八角 △3六玉 ▲2五龍 △4五玉 ▲3四龍 △5四玉
▲6六桂 △6五玉 ▲8七銀 △3七歩 ▲4四龍 △5四香
▲7七桂 △6四玉 ▲4八龍
まで117手で古谷の勝ち




