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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第26局 日日杯への道/中国勢編(後編)(2015年6月13日土曜)
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259手目 Sumi-Chan is Goddess?

※ここからは大場おおばさん視点です。

 やっほぉ、みんなゲンキにしてるっスか?

 未来のスーパーデザイナー、すみちゃんっスよ。

 今日はY口県の優太ゆうたくんと一緒に、H島市に遊びにきたっス。

「大場お姉さん、そんなにいっぱい買って、大丈夫なんですか?」

 優太くん、角ちゃんが両手に持っている紙袋に、興味しんしんっス。

「これは、新しい制服を作るための材料っス」

「あ、うーん、そういう意味じゃなくて、おこづかい足りてます?」

「もちろんっス」

 優太くん、ひとの財布を心配してくれるなんて、優しいっスねぇ。

 名前に『優』の字が入ってるだけあるっス。

「大場お姉さん、お金持ちぃ」

「そうっスか? 趣味につぎ込んだほうが、人生楽しいっスよ」

「はい、そこ、未成年者売春で逮捕するわよ」

 なんっスか? 昼間から援交してるおじさんがいるんっスか?

 角ちゃんがキョロキョロすると、うしろに三白眼のお姉さんが立ってたっス。

 迷彩服を着てるっス。

「あ、出たっスね、ミリオタ」

「そういう挨拶はないでしょ……まあ、ミリオタだけど」

 金髪のお姉さんもついて来てるっスね。こっちはTシャツにジーンズでラフっス。

「HAHAHAHA、おひさしぶりデース」

長門ながとお姉さん、キングお姉さん、おはようございまーす!」

 優太くんは、うれしそうにぴょんぴょん跳ねたっス。

 リュックサックが揺れて、かわいいっスね。

「優太くん、危ないお姉さんについて行っちゃダメよ」

「Yes, she may be spy」

「危ないお姉さんじゃないから大丈夫でぇす」

 優太くんの言うとおりっス。

「危ないのは、昼間っから迷彩服着てる長門ちゃんのほうっスよ」

「これは戦闘服だから」

「んなことは分かってるっスよ。街中で戦闘服着る必要性を問うてるんっス」

 長門ちゃんは上目遣いで、

「やれやれ、今日はH島市でなにがあったのか、知らないのね」

 と嘆息したっス。ムカーッ!

「長門ちゃんたちのスケジュールなんか知らないっスよ」

「あら、からかったつもりなのに、ほんとに知らないのね。ちょっとびっくり」

「今日は、ニチニチ杯のミーティングがあったのデース」

「にちにちはい? ……ああ、夏休みにやる大会のことっスか」

 角ちゃん出られないから、あんまり興味湧かないっス。

「わざわざH島まで来てるんっスか。たいへんっスね」

「そうでもないわよ。観光できるし、交通費は出るし」

「ワタシはヒロシマよく来るから、not so excited」

 長門ちゃんはY口県の北のほうで、キングちゃんは東部なんっスよね。

 後者は米軍基地があるところっスから、ちょっと電車に乗ればH島っス。

「Y口からは、長門ちゃんとキングちゃんが出るんっスか?」

「ノーノー、ワタシは竜王戦しか優勝したことないので、出られマセーン」

「あれ? じゃあ長門ちゃんひとりっスか?」

「他のふたりは、べつのところで偵察中」

 むむむ、偵察とは怪しいっスね。スパイの匂いがプンプンするっスよ。

「さては、九十九つくもちゃんたちの行動を監視してるんっスね」

「女子は女子としか指さないから、捨神すてがみ先輩を監視してもしょうがないでしょう」

「しょうがアリマスヨ。写真に撮って売ればいいのデース」

「あら、それもそうね。キャッシー賢い」

「AHAHAHA、ダテに海兵隊してマセーン」

 なんなんっスか、このテンション。絡みにくいっス。

 角ちゃん萎縮しちゃう。ここは同郷の優太くんに任せるっス。

「ところで、長門お姉さんたち、いっしょに遊びませんか?」

「いいわよ。このへんで、ちょうど将棋イベントをしているらしいの」

 角ちゃん、呆れ。

「H島まで来て、将棋指すんっスか?」

「あら、いけないの? 優太くんは乗り気みたいだけど?」

「僕も将棋大会出ます! 大場お姉さんもいっしょに出ましょう!」

「角ちゃん遠慮するっス……」

「そう言わずに、私からもお願いするわ。ふたり追加なら2チーム作れるし」

「3人1組だから、このままだと1チームしか作れないのデース」

 もしかして、偵察に行ってるっていうのは、イベント会場の調査っスかね。

 他にふたりいるみたいで、なんだかそれっぽいっス。

「どこでやるんっスか?」

四越よつこしデパートの屋上」

 それなら、ついでに買い物ができるっスね。

 さっき見つからなかったパッチワーク用のキルティング50番を買うっス。

「了解したっス。参加費はかかるんっスか?」

「Y口の高校将棋連盟支部でもってあげるわ。将棋イベントなら簡単に出るもの」

 いよ、太っ腹! それじゃ角ちゃんたち、荷物を持ってレッツゴー!

 

  ○

   。

    .


 いやぁ、ただでさえ休日なのに、イベントがあるから大混雑っスね。

 屋上を借り切って、大将棋大会っス。

「Wow, so many children」

「やっぱり子供が多いわね。これは年齢ごとに部が分けられるんじゃないかしら」

「ルールも不明なんっスか?」

毛利もうり先輩たちが、さきに会場チェックを……あ、いたいた」

 長門ちゃんは、会場の奥のほう、遊具の近くにむかって手を振ったっス。

「毛利先輩、全員揃いました」

 声をかけられてふりむいたのは、眼鏡をかけた、黒髪ロングのお姉さん。

 ファッションセンスがクソださいっス。こげ茶のカーディガンにグレーのロングスカートとか、色合い的にも年齢的にも合ってないっスよ。角ちゃん目ざとい。

「長門、キング、待っていた。様子はどうだ?」

「ふたり追加で見つけました。2チーム出せます」

「そうかそうか、良かったな。で、ルールは?」

 毛利さんの質問に、長門ちゃんとキングちゃんは顔を見合わせたっス。

「あの……毛利先輩に確認をお願いしたと思うのですが……」

「うーむ、聞いてみたが、よく分からなかった」

 全然悪びれてる気配がないっス。

 長門ちゃんとキングちゃんは、ひそひそ声で、

「だからMs. Mouriに頼むのはダメだって言ったのデス。このひと天然なのデス」

もえ先輩がついてるから、大丈夫だと思ったのよ」

「萌ちゃん、どこ行ったのデスカ?」

 と相談して、あたりをキョロキョロし始めたっス。

「おーい、ボクならここにいるよ」

 ふりかえると、頭にバンダナを巻いた、かっこいいお兄さんが現れたっス。

 ラフなかっこうで、白の開襟シャツに紺の長ズボン、それにスニーカーっス。

 こういうのが、気を衒わなくていいっスよ。着こなせてるっス。

「ごめんごめん、毛利先輩の代わりに聞いて来たよ」

「Good Job!!」

「で、いかがでしたか?」

「15分30秒で千日手指し直しなし。持将棋は会場に来てる指導員の判定で24点法。これも指し直しはなし。スイス式で、チームは大人と子供の混合チームも多いから、棋力でクラス分けするだけ。うちは一番上に登録するしかないと思う。最後に残った各クラスのベスト3までが豪華景品、そのほかの参加チームには粗品が出る」

「Perfect、2チーム作れるけど、どうシマスカ?」

 質問に答えるまえに、かっこいいお兄さんは角ちゃんを見て、

「きみは?」

 とたずねてきたっス。

大場おおば角代すみよっス。やなぎ優太ゆうたくんのお友達っス」

 これが一番分かりやすいっスよね。

「H島のひと?」

「そうっス」

 かっこいいお兄さんは、ちょっと顔を曇らせたっス。

「日日杯があるから、他県のひとと指すのは、ちょっと……」

「それなら、H島のイベントに参加してること自体が矛盾してないっスか?」

 角ちゃんの反論に、かっこいいお兄さんも納得してくれたっス。

 やっぱり角ちゃん賢い。

「だね。ほかの高校生も参加してるだろうし、今さらな心配だ。で、どう分ける?」

「I just asked you about it」

「ボクに決定権なくない?」

「Well, Ms. Mouri, would you decide?」

 毛利さんは、ふむ、と言って、

「こういうとき松陰しょういんがいてくれたらいいのだが、今日はいないからな」

 と答えたっス。それ答えになってないっスよ。このひと、ほんとに天然っスね。

 なんだかぐだぐだになってきたせいで、かっこいいお兄さんは、

「もう割り切って、景品を狙いに行こう。Aチームが毛利先輩、ボク、亜季あきちゃんで、Bチームがキャッシー、優太くん、大場さんね。Aがガチ」

「Do you mean I'm poorer than Aki at Shogi?」

「ちょっと待って欲しいっス。このひと、ときどき英語でしゃべるから、なに言ってるのかよく分かんないっス。日本語チームに入れて欲しいっス」

 優太くんはキングちゃんとおなじ市だから、慣れてるみたいなんっスよね。

 角ちゃんにはキツいっス。

「英語はちゃんと勉強しないとだめデース。国際語デース」

「角ちゃんだって少しは知ってるっスよ。Sumi-Chan is goddess!!」

「Sumi-Chan is "a" goddessデース。冠詞忘れちゃダメ。内容も文法も間違いダヨ」

「細かいっスねぇ……ん? 内容がまちがってるって、どういうことっスか?」

「はいはい、ストップ、ストップ。チーム分けは、Aが毛利先輩、ボク、キャッシー、Bが亜季ちゃん、優太くん、大場さん。これで文句はないね?」

「Good choice」

「ないっス」

「Aのほうで指したかったけど、しょうがないわね」

「私も異論はない」

「みなさん、がんばりましょうッ!」

 全員で気合を入れて、いざ、出陣っス。

 すぐに抽選があって、対局相手も決まったっス。

 トーナメント表を確認。

「H島高校将棋連盟幹事会……って書いてあるっス」

「あぁ、これはいきなり敵と当たっちゃいましたか」

 長門ちゃんが嘆息するひまもなく、相手チームが現れたっス。

防長ぼうちょうBって書いてあるからまさかと思ったけど、Y口の長門じゃないッ!」

 先頭にいたポニテのお化けみたいな髪型の女の子が、そう叫んだっス。

 角ちゃん、うしろのほうにコソコソ。

「失礼ね。県代表を呼び捨てにする気?」

「あんたが来てるってことは、毛利先輩も来てるわね? 偵察?」

「偵察もなにも、日日杯のミーティングで顔合わせたでしょ。あなたたちこそ、ここで何してるの? 他の幹事は?」

 長門ちゃんの質問に、ポニテのお化けちゃんは歯ぎしりしたっス。

「みんな帰るかどこかに行っちゃったのよッ!」

 ポニテのお化けちゃんは、その場で地団駄を踏んだっス。

「おかげで、寄せ集めみたいなチームになっちゃったじゃないのッ!」

 すると、となりにいた根暗ちゃんが、

「よ、寄せ集めっていわないでよ……ッ!」

 とぼやいて、爪を噛んだっス。高校生にもなって、ばっちぃっスよ。

 同時に、レゲェみたいな髪型のお兄さんが、

「だーから言ったべ。将棋関係者が景品目当てにホイホイ来るって」

 と、頭をぽりぽり掻きながらしゃべったっス。

「くぅ、ほんとは素子もとこちゃんと茉白ましろちゃんを呼びたかったのに」

「それは逆に月代つきしろっちが要らなくなるべ」

「それを言っちゃあ、おしまいよ」

 漫才してる場合じゃないっス。みんな着席し始めたっス。

「と、とにかく、座って駒を並べましょ……ッ!」

「んだべ」

 角ちゃんたちも着席。3番席っス。

 相手は……レゲェのお兄さんっスね。

「こんちゃっス、角ちゃんっス。高校2年生っス」

三好みよし赤陵せきりょう高校の奥村おくむらだべ。俺っちも2年だから、よろしくだべ」

「奥村くん、ミュージシャンっスか?」

「これは地毛だべ」

 マジっスか。お手入れが大変そうっス。

「並べ終わったところから、振り駒をしてください」

 1番席がやるわけじゃないんっスね。

 おたがいにゆずりあって、角ちゃんが振ったっス。

「歩が1枚だから、角ちゃんが後手っス」

「チェスクロはこのままでいいべか?」

 角ちゃんは左利きだから、チェスクロハンデはいらないっス。

「準備の終わっていないところはありますか?」

「こっちのチェスクロ、電池がありませーん」

「歩が1枚ないんですけどぉ」

 100人近くいるから、だいぶ混乱してるっスね。

 5分ほどかかって、ようやく準備がととのったっス。

「みなさん、大丈夫ですね? ……それでは、始めてください」

「よろしくっス」

「よろしくだべ」

 角ちゃんがチェスクロを押して、対局開始っス。

「初手は無難に7六歩だべ」

 3四歩、2六歩、4四歩、4八銀。

 角ちゃんの6手目は、もちろんこれっスよ。

「3二飛っス!」

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