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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
266/686

254手目 ワンちゃん大行進

 あたし→六連むつむら飛瀬とびせ西野辺にしのべ→師匠→桐野きりの早乙女さおとめ

 

 ちょっと偏ったな。あたしと六連が先頭になっちまった……ま、いっか。

「それでは、不破ふわさんから行き先を決めてください」

 丸亀まるがめの催促に、あたしはすこしばかり悩んだ。

「自室」

「六連くんは?」

 六連も悩んだ。最後のターンだから、念のためあたしの家に張り込むかどうか考えてるんだろう。視線もリリーの家の周辺をうろついていた。こればかりは誤摩化せない。将棋でも、見ている位置はだいたい分かるからな。

「……市場いちばで」

「了解です。飛瀬さんは?」

「リリーさんの家……」

「森は諦めたのか?」

「不破さん、お静かに」

「わりぃわりぃ」

 あたしは飴玉を舐めながら、椅子に深く座り込んだ。

「西野辺さんは?」

「花屋」

捨神すてがみくんは?」

「僕も飛瀬さんと西野辺さんに合わせるよ」

「!」

 どういうことだ? ……ヤケクソであたしの家に狙いをつけたか?

「桐野さん、どうぞ……と言いたいところですが、桐野さんに決定権はありませんね」

「ふえ? なんでですかぁ?」

「犬の群れを連れて森へ移動したので、ルートは限定されます」

 丸亀は、マップを指差した。森のほうから、大きめの道をなぞっていく。

「犬の群れが通行できそうなのは、この森の東側から、街中へ続くルートだけです」

「ふえぇ……」

 よっしゃ。ひとり脱落した。

「最後に、早乙女さん、どうぞ」

「そうね……教会でお祈りでもするわ」

 また変な発言だ。こいつ、勝ちを目指してないのか?

「では、不破さんから……と、そのまえに、リリーの家に踏み込むひとはいますか? いるなら、同時に処理しますよ?」

 飛瀬、西野辺、師匠が同時に手をあげた……勝った。

 あたしの部屋に死体はない。

「3人とも、共闘しますか?」

「共闘はしないよ。僕と飛瀬さんと西野辺さんは別行動」

 だろうな。共闘したらサイコロは一蓮托生。

 表口はドアを2回、裏口は柵とドアを1回ずつ突破しないといけない。

 3人でバラバラに振ったほうが得だ。

「今から3人は相談禁止です。飛瀬さんから、どうぞ」

「表玄関から行くね……」


 カラカラカラ

 

「49……ギリギリセーフ……」

「イゾルデばあさんは、表玄関の鍵を開けました。どうしますか?」

「もう一回……」


 カラカラカラ

 

「75……アウト……」

「イゾルデばあさんは、居住スペースに続く鍵を開けられませんでした。飛瀬さんのターンは終了です。西野辺さん、どうぞ」

「あたしも表玄関から行くね。えいッ!」


 カラカラカラ

 

「きゅ、92!?」

「郵便屋のハッシュは、表玄関の鍵を開けるまえに、近所のひとに呼び止められました。西野辺さんのターンは終了です。捨神くん、どうぞ」

 師匠は、大きくタメ息をついた。

「障害物は2回だから、期待値的にはそろそろなんだけど……」

「とりあえず、どちらから侵入しますか?」

「表玄関から行くよ。確率的にはどっちも4分の1だし。それッ」


 カラカラカラ

 

「33。もう一回」


 カラカラカラ


「38! 突破ッ!」

 くッ、さすがに全滅とはいかないか。

「木こりのフェリスは、リリーの寝室の前まで来ました。不破さん、どうしますか?」

「ん? あたしが先攻なのか?」

「サイコロ的に、不破さんが先です」

 あ、そうか、忘れてたぜ。パスしたわけじゃないんだな。

「べつに、師匠が入りたきゃ入ってもいいですよ」

「え? 部屋から出て来ないの?」

「どうぞ」

「えーと……じゃあ、ノック……は必要ないね。普通に入るよ」

「木こりのフェリスと花屋のリリーは、寝室で鉢合わせになりました。不破さん、どうしますか? ここで無行動なら、フェリスにターンが移ります」

 どうすっかな。ぶっちゃけ、この部屋にはなにもないし、どうでもいいんだが。

 あたしはちょっと考えるフリをしてから、

「なにもしない」

 と答えた。これには、師匠も不思議そうな顔をした。

「手待ちで、狙いを悟らせない方針なのかな……GM、僕の番だよね?」

「はい」

「暴力は禁止……うーん、困ったな。どうしよう」

 どうやら師匠は、リリーが反撃するパターンで考えていたようだ。

 こうなると、ますますあたしが有利になる。

「両親の死体をどうしたか、教えてもらえないかな?」

「ノーコメントで」

「だよね……というか、そもそも殺したの? どこかに監禁してない?」

「ノーコメントで」

 師匠は、家捜しすると言い出した。

「どこを捜しますか?」

「もちろん、この部屋で」

「サイコロを振ってください」


 カラカラカラ

 

「40! 成功ッ!」

「イベントカードをお渡しします」

 丸亀はメモ帳に走り書きをして、それを師匠に手渡した。

 うれしそうに受け取る師匠だったが、文面を読んで青くなった。

「えぇ? こ、この段階でこんなのもらっても、意味ないよ」

 多分、日記の血痕だろうな。六連が先に持って行ったやつだ。

「木こりのフェリス、花屋のリリーのターンは終了です。六連くんはどうしますか?」

「ダメだ。することがない。パス」

「では、桐野さんの番ですが、犬の行進中なので、自動的に早乙女さんに……」

「うにゅ? ちょっと待ってくださぁい」

 桐野はそう言って、じっとマップを眺めた。

「どうかしましたか?」

「この道、お花屋さんのまえを通ってるのですぅ」

 ん? ……げッ! マジだッ!

「あ、たしかに……しかし、行進中ですから、通過しかできないと思います」

「うにゅにゅ、ワンちゃんたちは見捨てられないのですぅ……あっ」

 桐野は、ポンと手を叩いた。

「いいこと思いつきましたぁ。ワンちゃんはお鼻が利くから、クンクンさせるのですぅ」

「なるほど、それなら犬を放置せずに捜査できますね」

 あたしは椅子から立ち上がった。

「おい、GM! さすがにそれはないだろッ! 警察犬じゃないんだぞッ!」

「あぁ、これは花屋に死体があるの、確定したっぽいねぇ」

 西野辺は黙ってろ。あたしはGMに詰め寄った。

「GM、犬は花屋のまえを通過させるだけだ。いいな?」

 丸亀は両ひじをテーブルに突いて、しばらく押し黙った。

「……いえ、これは桐野さんのほうに説得力があります」

「ペットの犬だろ」

「警察犬以外は死体を発見できない、ということはありません。バラバラ死体を飼い犬が見つけた事案もあります。むしろ、死臭を判別できないのはおかしくないですか?」

「うッ……それは……」

「桐野さん、どこを調べさせますか?」

「おうちにワンちゃんは迷惑なのでぇ、裏庭にしまぁす」

 そんなめちゃくちゃな推理で当てるなよッ!

「GM! 飛び出して制止するぞッ!」

「不破さんのターンは、捨神くんのターンと一緒に終了しています」

「えへへぇ、これを連携プレイと言うのですぅ。サイコロふりふりぃ」


 カラカラカラ


「18ぃ」

「村長は、犬に柵越えをさせました。どうしますか?」

「裏庭をここ掘れワンワンするのですぅ」

「では、もういちどサイコロをどうぞ」

 失敗しろぉ!


 カラカラカラ

 

「03ですぅ! ウルトラスーパーびっくりミラクルクリティカルなのですぅ!」

 うっそだろ……あたしは呆然とした。

「犬の一匹が、花壇の一ヶ所をやたらと掘り返し始めました。中を見ると……」

 終わった……あたしは椅子に崩れ落ちた。

「なにかを掘り返したような跡が見つかりました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ん?

 丸亀は、続きを言わなかった。

「ふえ? それから、どうなったんですかぁ?」

「どうもしません。これでクリストファー村長のターンは終了です」

 あたしたちは、ポカンと口を開けた。

 そのなかでただひとり、事態を察したやつがいた――六連だった。

「そうか……早乙女さん……」

「早乙女が、どうかしたのか?」

 六連はあたしの質問を無視して、早乙女のほうへ向きなおった。

「早乙女さん、あの夜、花壇を掘り返したね?」

「さあ、なんのことかしら」

「もう誤摩化さなくてもいいだろう。早乙女さんのターンしか残ってないんだ」

 早乙女は長い髪をかきあげて、そっと目を閉じた。

「そうね……私の手元には、未公開のカードが1枚あるわ」

 早乙女はそう言って、手持ちのカードから1枚を抜き出した。

 裏側をこちらに向けていて、なんのカードかは分からなかった。

「リリーさんの犯罪に関するカードだね」

 六連のコメントを聞いて、師匠の顔が明るくなった。

「早乙女さん、☆カードを見つけてたの? だったら、僕たちの勝ち……」

「もうしわけありませんが、少年トマスは、このカードを公開しません」

「え? どうして?」

「それは……いえ、先にゲームを終わらせましょう。GM、私はパスです」

 早乙女の宣言と同時に、丸亀はゲーム終了を告げた。

「ちょっと待てッ! 勝敗はどうなるんだッ!? 引き分けかッ!?」

 納得しないあたしに対して、丸亀は首を左右に振った。

「早乙女さん、カードの公開をお願いします」

 早乙女は、サッとカードをテーブルに投げた。

 ひらりと着地したそこには、次のような一文がみえた。

 

 

【スパイ少年クリス】

 あなたは、王都から派遣された密偵です。マスカット村の不穏な噂を聞きつけ、中央の役人を呼んだのも、あなたに他なりません。ところが、マスカット村の住人たちは、誰かをスケープゴートにして、逃げ仰せようとしているではありませんか。あなたの任務は、中央の役人が到着するまで、スケープゴートを作らせないことです。ご武運を。

 

【勝利条件】

 ゲーム終了時に、誰の☆カードも場に公開されていないこと。

 

 

「ふえぇ……お花と全然違うのですぅ」

「GM、少なくとも私は勝ちということで、いいですか?」

「はい」

 早乙女は自分の勝ちを確認してから、今度はあたしと六連のほうを見た。

「六連くんと不破さんは、勝利条件を満たしたのかしら?」

 いや……ん? 満たしたのか?

 あたしは六連に、もういちどカードを裏返させた。

 早乙女も、それを覗き込んだ。

「ふぅん、そういうことだったのね……六連くんも条件を満たしているように見えるわ」

「早乙女さんのおっしゃるとおりです。六連くんと不破さんも勝ちになります」

 マジか? 棚ボタだ。あたしは小躍りした。ところが、六連は、

「でも、役人が到着したら、僕と不破さんの悪事もバレるんだろう?」

 と疑問を呈した。

「六連、細かいことはいいだろ。3人仲良く勝利しようぜ」

「よくないよ。TCGでもTRPGでも、ルールは厳密にしなきゃ」

 なんか変なところでクソマジメなんだよな、こいつ。

 あたしがあきれていると、早乙女が助け舟を出してくれた。

「私の任務は、スケープゴートを出させないことよ。ロッジェとリリーが村から出て行っても、問題はないわ。リリーとロッジェは、花壇が掘り返されたあとに、村から逃げ出した。その直後に役人が到着して、残りの面子は逮捕……これでいいんじゃないかしら」

 あたしは、パチリと指を鳴らした。

「それでいいぜ。な、GM?」

「まあ、筋は通ってますね……というわけで、早乙女さん、六連くん、不破さんが勝ち、その他のメンバーは負けとなりました。お疲れさまです」

 ワンゲームを終えたあたしたちは、とりあえずリラックスした。

 そして、感想戦(?)に入った。

「不破さんと六連くんがつるんでるのは、なんとなく分かったけど、早乙女さんのほうは全然分からなかったんだよね。もっと警戒しておけば良かったよ」

 と師匠。これに対して、早乙女は、

「そうでしょうか。私や六連くんを無視して、だれかの☆カードを一直線に捜されたほうが、困ったと思います。そもそも、行動が固まり過ぎだったのではないかと……」

 と返した。そして、丸亀のほうに顔を向けた。

「丸亀先輩、こういうルールの場合は、仲間を作ったほうがいいのですか?」

「んー、そうですね……一概には言えないと思います。ただ、今回のプレイで気になったのは、みなさん、建物に固執し過ぎだったことでしょうか。ロッジェの小屋に始まって、村役場、花屋などがメインになっていましたが、他を捜しても良かったと思います」

 すると、西野辺がうなずきつつ、

「だねぇ、森にはヒントがごろごろしてたし、森を捜せばよかったかも」

 と答えた。たしかに、建物は鍵がかかってたから、入るのが面倒なんだよな。

「森を捜されたら、僕が不利だったかな」

 と再び師匠。

「そう言えば、師匠のキャラってなんだったんですか?」

「あ、気になる? ゲームも終わったし、全員オープンしない?」

 あたしたちは同意して、一斉にオープンした。

 六連と早乙女と自分のは分かってるから、ほかの面子を確認する。



【海賊フェリス】 ※捨神くんのキャラ

 あなたは、海賊業を営んでいた海の男です。仲間を殺して宝を独り占めしたあなたは、船を降りてマスカット村に逃げ込みました。宝を森のなかに隠したものの、役人がやって来ると聞いて、さあ大変。こうなったら斧を片手に、かわいそうな子羊を捜さなければなりません。心配しないでください。海で殺すのも陸で殺すのも、同じことなのですから。

 

【勝利条件】

 財宝が発見されず、かつ、スケープゴートが現れること。

 


【毒殺婦イゾルデ】 ※飛瀬さんのキャラ

 あなたは、夫と息子を毒殺した毒殺魔です。身内を亡くしたあなたを、村人たちは同情と憐憫の眼差しで迎えてくれます。あなたには、それがたまりません。こうなれば、次の獲物を探したくなるものですが……そう、あなたの家には、かわいい男の子、トマスくんがいます。慎重に。毒を飲ませる機会は、いくらでもあるのですから。

 

【勝利条件】

 夫と息子の毒殺が発覚せず、かつ、スケープゴートが現れること。



【運び屋ハッシュ】 ※西野辺さんのキャラ

 あなたは、禁制品を村から村へと運ぶ、運び屋です。麻薬も銃器も、なんでもござれ。郵便配達人に化けて、村から村へとひとっ飛び。同僚たちも、あなたのことをのんびりした配達夫としか思っていません。景気は上々。もっと大きな山に手を出してみたくなる、今日このごろです。

 

【勝利条件】

 禁制品の密売が発見されず、かつ、スケープゴートが現れること。

 

 

【偽村長クリストファー】 ※桐野さんのキャラ

 あなたは、双子の兄を殺して村長になりすました凶悪犯罪者です。けれど、ご安心を。マスカット村は平和な村。とくにすることなんて、ありません。仕事の引き継ぎを無事終えたあなたは、このさびれた村の名誉職として、今日もパイプを吹かしているのです。

 

【勝利条件】

 偽物であることが発覚せず、かつ、スケープゴートが現れること。 



 ふーん、こうなってたのか。

「カンナちゃんのキャラが毒殺っぽいのは、なんとなく分かってたんだけどねぇ」

 と西野辺。後出しは意味ないぞ。

 一方、飛瀬は桐野のカードを見ながら、

「村長は、全然予想してなかった……賄賂か横領だと思ってた……」

 とつぶやいた。

「えへへぇ、いわゆる双子のトリックなのですぅ」

「捨神くんのも、全然分からなかった……」

「僕のは、ほかのひととちょっと毛色が違うね。宝探しだし」

 森のなかを探しまわってたら、宝箱が見つかったのかね。洞窟が怪しかったか。

 そこまで考えて、あたしはふと思い出したことがあった。

「そういえば、飛瀬先輩、最後のほうでリリー関連のカードを引きましたよね?」

「ああ、あのカードね……見たい……?」

 あたしは、見たいと答えた。


【Lー1ー1】

 リリーは毎日、日記をつけているらしい。なにか大切なことが書いてあるのだろう。

 

 あ、ふーん、なるほど、ようやく理解した。

「正規ルートは、このカードを読んだあとに日記を見つけるわけですか」

「六連くんは、最初に何番のカードを引いたの……?」

「六連が引いたのは、2番でしたよ」

「終盤でこれ来てもな……っていう感じだった……」

 そう言えば、4番は結局見つからなかったな。あたしは、GMにそのことを尋ねた。

「リリーの4番のカードは、これです」


【Lー1ー4】

 市場の果物屋で働いている少年は、リリーのことが好きだ。

 

「このカードは、役場のまえで遊んでいる少年たちから入手できるものです」

 リリー関連で役場を怪しんでるやつは、いなかった。完全に盲点だった。

「3番の薬局から4番の役場は、思いつかなくないか?」

「その点で、みなさんにアドバイスしたいことがあります。ひとつ、TRPGはゲームですから、意外性をきちんと追求しています。初心者が怪しいと思ったところにこだわるのは悪手です。もうひとつ、TRPGは自分の勝利条件を満たすことが最優先です。仲良くプレイする必要はありません。今回のケースでも、村長の攻略が難しいと思ったら、べつのキャラにアタックしても良かったです。最後に、他キャラからの情報を過度に信用するのは、禁物です」

 時計に関する早乙女の虚報には、みんなやられたな。

 あれで大幅にターンを削られた。

坂下さかしたくんは、今回のゲームなら4、5日目あたりにクリアしてくると思います」

「そんなに早いの……?」

 宇宙人の質問に、丸亀は肩をすくめた。

「彼は、異常に勘がいいんですよ」

 丸亀がそう言い終えたところで、六連は腕時計を確認した。

「おっと、そろそろ時間だ」

「ん? なにかあるのか?」

「不破さんたちと違って、僕は家が遠いんだよ」

 そう言えば、六連だけH島東部出身だったな。忘れてた。

「それじゃ、また今度。遅くとも県大会で」

 六連はそう言って、店を出て行った。残されたあたしたちは、バラバラに会話をする。どんなゲームでもそうだが、終わったあとの独特の雰囲気ってあるよな。

 師匠は飛瀬とスケジュールの相談を始めたので、あたしは丸亀の肩を突ついた。

「なんですか?」

「将棋部が、その坂下ってやつと戦って、どれくらい勝ち目がある?」

 丸亀はイベントカードを集めて、トントンと揃えた。

「ほとんどゼロだと思いますね」

「ゼロぉ? さすがにそれはないだろ」

「TRPGを甘く見過ぎです。僕が六連くんに将棋を挑むのと、同レベルですよ」

「おまえ、何段だ?」

「駒の動かし方だけ知っています」

 ってことは……ゼロだな。初心者が県代表に勝てるわけがない。

「それにしても、不破さん、上級生にタメ口してて怒られないんですか?」

「べつにぃ……つーかさ、六連もおまえにタメ口じゃん。あたしと同じなんだけど?」

 こういう差別は、びしびし指摘して行くからなぁ。

 女だと思って甘くみるなよ。

 さすがに丸亀も反論に窮したのか、サイコロを片付けながら、

「いや、まあ、それはそうですが……六連くんは、あれでもマトモになりましたからね」

 と答えた。あたしは椅子にもたれかかって、うしろに重心を移した。

「ん? そうなのか?」

「中学のときの彼は、めちゃくちゃでしたよ。カードゲームで初対戦したあとに言われたのが、『なんでそんなに弱いの?』でしたからね」

 えぇ……さすがにあたしでも言わないぞ、それ。

「誰か注意したのか?」

「さあ、それは分かりませんが、ただ……」

「ただ?」

 丸亀は、ボードゲームの箱を閉じた。

「将棋を始めてから、すこしおとなしくなった気がしますね」

「あっはっは、将棋は教育にいいって証拠だな」

「ここに反証がいますけどね」

「なんだと……おおっとッ!?」

 あたしはバランスを崩して、うしろにひっくり返った。

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