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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
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248手目 増え続けるヒント

 午後は、飛瀬とびせ→あたし→師匠→早乙女さおとめ西野辺にしのべ六連むつむら桐野きりのの順になった。

 飛瀬は、いきなり長考した。

「1番手はむずかしいね……」

 飛瀬はさっきイベントカードを引かれたから、立ち回りが難解なはずだ。

 あたしも「役場に押しかける」なんて提案をしたけど、宇宙人の家でも構わない。

 あるいは、猟師の小屋をのぞいてもいいんだ。桐野が極端に不利ってわけじゃなくて、飛瀬と六連のイベントも同じように進んでいる。あたしは、まだ安泰。

「家にいてもいなくてもイベントが起こるなら、出掛けたほうがいいかな……」

 飛瀬はそう言って、役場にコマをおいた。逡巡の結果、攻め。

「あたしも役場を攻めるぜ」

 たたみかけたほうがいい。泣きっ面には蜂をぶつける。

「ふえぇ……イジメ、ダメ、絶対ですぅ」

「アハッ、僕の番だね。西野辺さん……じゃない、ハッシュさんは、どうする予定?」

 師匠の質問に、丸亀まるがめの忠告が入った。

「行き先を決めているときは、相談禁止です」

「え? ダメなの?」

「今、みなさんは自宅にいるという設定です。相談する手段がありません」

「そっか……じゃあ、僕も役場に行くよ」

 師匠もカラいなぁ。普段はヘラヘラしてる美少年なのに、将棋指しは怖いねぇ。

「私も役場に行かせてもらうわ。リベンジね」

「あ、私も」

 早乙女、西野辺も続いた。将棋指しはみんなカラい。

 丸亀はメモ帳にチェックして、最後に六連にたずねた。

すばるくんは、どうする?」

「僕はイゾルデばあさんの家に行くよ」

 六連のやつ、やたらと足並みを乱しにくるな。

 なにかあるのか? もしかして、六連の秘密も役場にある?

「うにゅぅ、イジメには屈しないのですぅ。執務室のまえで待機しまぁす」

 全員が行動を決定した。

 丸亀は、ボールペンで速記しながら、

「役場に固まってしまいましたね。みなさん、単独行動にしますか?」

 と尋ねた。

 あたしたちは、単独行動とそうでないときの基準について質問した。

「同じ場所に行ったからと言って、イコール共闘というわけではありません。が、さすがに同じ部屋で単独行動はムリですね。六連くんと早乙女さんみたいに、執務室と待合室へ分かれる必要があります。もちろん、共闘でもまったく問題ありませんよ」

「単独行動はサイコロを人数分振れるのに、共闘だと一回なのって不公平じゃない?」

 西野辺がそう突っ込んだ。丸亀は、

「共闘は相談できますが、単独行動は相談できません。また、2人以上でおこなう作業についても、単独行動の場合はクリア条件を満たさなくなってしまいます」

 と答えた。

「2人以上でおこなう作業?」

「重い荷物を運ぶとか、そういうことですね。いろいろあります」

 西野辺は納得したらしく、それ以上質問しなかった。

「よろしいですか? では、木こりのフェリス、郵便屋のハッシュ、イゾルデばあさん、少年トマス、花屋のリリーは、役場のまえで鉢合わせになりました。それぞれ、単独行動するかどうか決めてください」

 初めに口をひらいたのは、飛瀬だ。

「5人もいるけど……どうする……?」

「午前は失敗してしまったので、窓口でリベンジさせていただけませんか?」

 早乙女の提案に対して、みんなOKした。

「役場の入り口近くに、だれかひとはいないの?」

 師匠の質問に、丸亀は「いる」と答えた。

「みなさんは、ひとりの老人を見かけました。馬車に荷物を積んでいます」

「アハッ、僕はそのひとに話しかけるよ。飛瀬さん……じゃない、イゾルデおばあさんたちは、中のほうを頼むね」

「あ、待って……丸亀くん、荷物を積んでるんだよね……?」

「はい」

「これって、さっきの『2人以上必要なイベント』じゃないかな……?」

 飛瀬、勘がいいな。丸亀はポーカーフェイスだが、合ってる気がするぞ。

「では、木こりのフェリスと共闘しますか?」

「うん……そうするね……」

「木こりのフェリスとイゾルデばあさんは、相談可能とします。残りのおふたりは?」

 あたしと西野辺は、顔を見合わせた。

「1437が暗号なら、私とリリーちゃんで相談しながらのほうがよくない?」

「いいですよ。あたしも乗ります」

「全員そろいましたね。それでは、飛瀬さんのサイコロが一番小さかったので、イゾルデばあさんと木こりのフェリスのターンからです。どうぞ」

 丸亀の合図を受けて、師匠は照れくさそうに笑った。

「こ、こんにちは、よろしくお願いします」

 お見合いかよ。

「よろしく……あそこのおじいさんに話しかけようか……」

「そうだね」

「会話を始めます。どうぞ、僕に話しかけてください」

 師匠と宇宙人はゆずり合って、師匠が話しかけることになった。

「アハッ、こんにちは。いい天気ですね」

「こんにちは。フェリスさんが町に出てるなんて、めずらしいな」

「アハハ、そんなことないですよ……なにをしてるんですか?」

「となり町まで運ぶ荷物を積んでるんだよ。郵便とか、そういうものをね」

「へぇ、大変ですね……ん? 郵便?」

 師匠は真顔になって、すこし考え込んだ。

「郵便物を運んでるんですか?」

「そうだよ」

「ということは、ハッシュさんの上司?」

「いやいや、わしとハッシュは担当がちがうんだ。わしは急ぎのものを運ぶ。ハッシュはそうでないものを運ぶ。わしは馬車を使うが、ハッシュは徒歩のときもある」

 師匠は、飛瀬のほうに顔をむけた。

「ハッシュさんには、仕事仲間がいたんだね。ゲームと関係があるのかな?」

「急ぎじゃない郵便っていうのが、気になる……郵便は全部急いでると思うけど……」

「え? そうかな? 日本でも、普通郵便と速達に分かれてるよ?」

「でも、徒歩で持っていくようなところに預ける……?」

 預ける可能性はあるんじゃないかね。時代的にみて。

 あたしたちよりライフスタイルはゆっくりしてるだろう。

「大事な情報かどうか分からないし、イベントも起きないね。どうしようか?」

「んー……手伝ってみる……?」

「なにを?」

「荷物運び……おじいさんだから、大変なんじゃないかな……」

 師匠は了解して、丸亀に手伝いを申し出た。

「イベントタイムです。サイコロを振ってください」

 おっ、マジかよ。それがフラグか。

「やったね。飛瀬さん……じゃない、イゾルデおばあさん。どっちが振る?」

「フェリスくんが振っていいよ……」

 師匠は、サイコロをころがした。

「やったッ! 30だよッ!」

「カードを配ります。木こりのフェリスとイゾルデばあさんのターンは以上で終了です。次は不破さんと西野辺さんのターンになります」

 よーし、いっちょやってやるか。あたしは袖まくりをした。

「リリーちゃん、どうする? 私と共闘だけど?」

「そんなの決まってますよ。村長の部屋に突撃しましょう」

「ま、それしかないか……村長の部屋に踏み込むね」

 西野辺はそう言って、コマを待合室から執務室へ移動させようとした。

「郵便屋のハッシュと花屋のリリーは、入り口のところで村長と鉢合わせになりました」

「えへへぇ、そこまでなのですぅ」

 げぇ、待ち伏せもありなのか。しくったな。

 桐野は、いつものあやしげな笑い方をした。

「勝手にうろうろする悪い子は、おしおきなのですぅ」

「なーにがオシオキだ。こっちは二人掛かりなんだぞ」

「ふ、ふえぇ……だれか助けに来てくださぁい」

「助けに来るわけないだろ。ほかの連中は出払って……」

「騒ぎを聞きつけた役場の職員が、すっとんで来ました。屈強そうな大男です」

 マジかよッ!

「おい、待て、お助けキャラがいるとか卑怯だぞ」

「村長が助けを呼んだのに、だれも来ないほうがおかしいと思いますが?」

 ぐッ、反論できない。

 困惑するあたしと西野辺をよそに、丸亀は桐野と会話を始めた。

「クリストファー村長、どうしました?」

「このふたりが、勝手に部屋へ入ろうとしているのですぅ。追い出してくださぁい」

「イベントタイムです。まず、桐野さんがサイコロを振ってください」

 おいおいおい、勝手に話が進んでるぞ。どうなってんだ。

「えへへぇ、よんじゅうにぃ」

「次に、西野辺さんと不破さんのどちらかが振ってください」

 あたしはサイコロを奪い取ってころがした。

「ぐッ……43……1大きい」

「村長の勝ちです。郵便屋のハッシュと花屋のリリーは、役場から追い出されました」

「お、追い出されたら、どうなるんだ?」

「ターン終了です。次は早乙女さんの番になります」

 あたしはドンとテーブルを叩いた。

「こっちはなにもしてないだろッ!」

「敵対キャラ同士で相手が勝てば、当然にターン終了です。桐野さんも今のでサイコロを使いましたから、村長も同じくターン終了になります。ご注意ください」

「どろぼうさんをやっつけたので、満足ですぅ」

「ちくしょー、そんなのありかよッ!」

 あたしが悶絶するよこで、早乙女は自分のターンをさっさと始めた。

「執務室のほうは任務失敗。こちらの責任は重大ね」

「どうしますか?」

「午前中とおなじでいいわ。時計の話をするわよ」

「まったく同一のイベントですか……会話をスキップしますか?」

「ええ」

「少年トマスは、時計について窓口の男性に質問しました。サイコロをどうぞ」

 早乙女はサイコロを振った。

「緑が0、赤が4、成功したわ」

「少年トマスにイベントカードを配ります。ラストは六連くんですね」

「僕の番か……とりあえず、リリーさんの家の間取りを見せてもらうよ」


挿絵(By みてみん)


 うお……なんかイヤな予感がする。

 あたしは、視線が花壇へ行かないように気をつけた。

「ずいぶんこざっぱりした家だね。店舗と住居部分、それに花壇か……表玄関の鍵は?」

「閉まっています」

「花壇の周りの柵は、飛び越えられそう?」

「サイコロを振ってください」

 失敗しろぉ。

「28、成功」

「猟師のロッジェは、人目につかず柵を飛び越えました。どうしますか?」

 六連はキャップ帽を親指で持ち上げて、しばらく見取り図を俯瞰した。

 花壇を掘りさげられたら、一発でアウトだろ、これ。

 いや、それとも当てずっぽうの推理はダメなのか? 証拠が必要?

 あたしは心臓がドキドキしてくる。

「……裏口の鍵は開いてる?」

「ロッジェは裏口の鍵を確認しました。掛かっていないようです」

「じゃあ、入らせてもらおうか。16歳の少女には悪いけど」

 あたしは内心でガッツポーズした。六連の青いコマが、花壇から遠ざかる。

「最初の部屋は物置き場です。売りものの花や腐葉土が置かれています」

「そこと居間は飛ばして、寝室に侵入するよ」

「無事、潜入することができました。どうしますか?」

「メモはない? 重要そうなことが書かれてる紙切れとか」

「ロッジェは机のうえを調べましたが、それらしきものは見当たりませんでした」

「日記は?」

「悪趣味だなぁ」

不破ふわさん、他人のプレイ中はお静かに……昴くん、サイコロを」

 六連はサイコロを振った。緑が1、赤が7。

 くっそ、成功率が高過ぎだろ。

「ロッジェは日記らしきものを見つけました。どうしますか?」

「まだイベントカードはもらえないの?」

「まだです。日記らしきものには、鍵がかかっているので」

「そういうことか……鍵を壊せない?」

 丸亀は、サイコロをうながした。

 六連の転がした結果は――54。

「肝心なところで失敗か。まいったね」

「ロッジェは、店舗のほうに人の気配を感じて、逃げ出しました……以上で、午後の捜査フェーズは終了です。夕方の情報共有フェーズに入ります。食堂に集合しました」

 あたしたちは、ランチのときと同様に、おたがいのカードを見せ合うことにした。

 と、そのまえに……あたしは六連を睨んだ。

「六連はさっき裏切ったから、ハブるぞ」

「僕を? GM、そういうことはできるのかな?」

「可能です。ムリヤリ参加する権利はありません」

 六連はかるく肩をすくめて、

「それなら、音楽でも聴いておくよ」

 と言い、耳にイヤホンを嵌めた。残りのメンバーは、相談を始める。

「まずは、僕と飛瀬さんからだね」


【H−2−1 一通の封筒】

 郵便袋から落ちた封筒を拾った。ハッシュ宛で、中身は空っぽだった。

 

「えぇ、それってドロボウじゃん」

 ハッシュ役の西野辺が文句を垂れた。

「アハッ、ごめんね。リアルで拾ったときはちゃんと届けるよ」

 師匠が形式的に謝って、次は早乙女の番だ。

「私が役場の窓口で入手したのは、これよ」


【C−5−2 役場の時計】

 役場の時計は、執務室にしか置かれていない。


 みんな沈黙する。

「私もうまく推理できないけど、やはり時計を調べてみる必要があるわ」

 早乙女の発言に、あたしはうなずいた。一点、丸亀に確認したいことができた。

「末尾の2っていうのは、なんだ?」

「イベントの進捗度です。数字がだんだんと増えていき、最後に☆マークのカードを誰かが引けば、その時点でゲーム終了。勝敗判定に移ります。番号通りに集める必要はありませんし、☆マークへ辿り着くヒントのようなものだと思ってください」

 丸亀は回答を終えて、あたしたちをぐるりと見回した。

「他に共有する情報はありますか? なければ、2日目の午前に……」

「ちょっと待って」

 西野辺がストップをかけた。

「なにか?」

「丸亀くんじゃなくて、素子もとこちゃんに質問があるんだけど」

「私に、ですか?」

「昴が見せなかったカードの番号は何番だった?」

 早乙女は髪を撫でて、それから、

「C−5−3でした」

 と答えた。

「ふえぇ……やっぱりお花が一番不利なのですぅ……」

「西野辺さん、今のお答えでよろしいですか?」

「あ、うん、いいよ。素子ちゃん、ありがとね」

 西野辺は、なんだか妙な雰囲気で、情報共有タイムを終わらせた。

「それでは、2日目の午前に入ります。サイコロを振ってください」

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