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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第25局 将棋指したちのTRPG(2015年6月13日土曜)
258/686

246手目 はじめてのTRPG

No.1 猟師のロッジェ

〔年齢〕

 19歳

〔背景〕

 王都での衛兵生活に疲れて、マスカット村に引っ越して来た猟師。

〔住居〕

 ドゥンケラ森の近く

〔中のひと〕

 六連昴


No.2 木こりのフェリス

〔年齢〕

 42歳

〔背景〕

 人付き合いが悪く、めったに村に現れない木こり。

〔住居〕

 ドゥンケラ森の奥

〔中のひと〕

 捨神九十九


No.3 裁縫屋のイゾルデばあさん

〔年齢〕

 61歳

〔背景〕

 日がな一日、お裁縫に精を出す未亡人。

〔住居〕

 村の中心部にある一軒家。

〔中のひと〕

 飛瀬カンナ


No.4 郵便屋のハッシュ

〔年齢〕

 27歳

〔背景〕

 村から村へ、手紙や小包を届ける若き郵便屋さん。

〔住居〕

 公会堂の近くにある宿屋の2階。

〔中のひと〕

 西野辺茉白


No.5 クリストファー村長

〔年齢〕

 50歳

〔背景〕

 マスカット村で10年間村長を務めている、信頼の厚い紳士。

〔住居〕

 公会堂の近くにある一軒家。

〔中のひと〕

 桐野花


No.6 少年トマス

〔年齢〕

 13歳

〔背景〕

 行商で出掛けた両親により、イゾルデばあさんの家へ預けられた少年。

〔住居〕

 イゾルデばあさんの家に住み込み。

〔中のひと〕

 早乙女素子


No.7 花屋のリリー

〔年齢〕

 16歳

〔背景〕

 森で失踪した両親のあとを継ぎ、花屋を営む健気な少女。

〔住居〕

 村の中心部にある一軒家(花屋の店舗)

〔中のひと〕

 不破楓

 カードは、すべて表向きにくばられた。

 枚数は、人数分――7枚。

「このInvestigatorsというゲームは、【風聞】というフェーズから始まります」

「つまり、噂話ってことだな?」

 あたしの質問に、丸亀まるがめはうなずき返した。

「最初の風聞は、全員に公開されます。確認してください」

 あたしたちは、テーブルの中央におかれたカードに目をとおした。


【風聞C−5】

 クリストファー村長の執務室には、大きな柱時計がある。


【風聞F−3】

 木こりのフェリスは、川でよく釣りをしている。


【風聞H−2】

 郵便屋ハッシュは朝起きるのが早い。


【風聞I−4】

 イゾルデばあさんの家には、豪華なティーセットがある。

 

【風聞L−1】

 花屋のリリーは寒がりで、年中長袖を着ている。


【風聞R−1】

 猟師のロッジェの口髭は、似合っていないことで有名だ。


【風聞T−2】

 少年トマスは働き者で、あちこちの店に出入りしている。


「このアルファベットと数字は、なんだ?」

「シナリオの管理番号です。アルファベットがキャラクター。数字は、そのキャラに用意された複数のシナリオのうち、どのパターンかを示しています」

 なるほどね。シナリオが1通りだと、1回しか遊べないからな。

 しかし、こんなの風聞でもなんでもないだろ。

 あたしは自分のキャラクター、花屋のリリーのカードを見ながら、そう思った。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ん、待てよ――あたしはキャラクターカードを、もういちどチェックする。


【親殺しのリリー】

 あなたは、深刻なネグレクトと虐待を受けて育った、かわいそうな少女です。毎晩酒を飲んで暴れる父親と、家庭に対する不満を娘にぶつける母親。思春期を迎えたあなたは、この悪夢を終わらせるため、両親を殺して庭に埋めることにしました。神様も、きっとお赦しになられることでしょう。だって、今日も花壇は、あんなにキレイなのですから。

 

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あたしは無意識のうちに、スッと二の腕に手をまわした。

「どうしたの、かえでさん? 寒いのかしら?」

 早乙女さおとめが、めざとく突っ込んできた。

「ちょっとクーラーが効き過ぎだな、この店は」

「そうかしら。適温だと思うのだけど」

 うるさい。こいつ、分かってて言ってんじゃないだろうな。

 あたしは、カードの【虐待】という文字を盗み見ながら、そう思った。

 リリーが長袖なのは、両親につけられたキズを隠してるんじゃないのか?

 だとしたら、ほかのメンバーの噂も――

「さて、みなさんのカードには、勝利条件が書いてあるはずです。ご確認ください」

 あたしは、キャラクターカードの下に目を向けた。


【勝利条件】

 親殺しがバレないこと

 ※中央政府の役人が訪れたときは、無条件に判明するものとする。

 

 と書かれていた。案の定だ。

「ん? 待てよ。その上に『目敏さ5』とかいろいろあるけど、これはなんだ?」

 あたしの質問に対して、丸亀は、

「それはキャラクターの能力値です。今回は初プレイなので、使わずにプレイします」

 とだけ答えた。使わない能力があるのか。将棋の駒落ちみたいだな、まるで。

「これから一定の日数のあいだに、その勝利条件を満たしてもらいます」

「一定の日数? 何日やるの?」

 西野辺にしのべが代表して質問した。

「どうしましょうかね……このゲームは、午前と午後のターンがあるので、1日2ターン動けます。拡張キットを使えば、朝昼夜の3ターン制にできます。が、初心者のみなさんにはめんどうだと思いますから、やめておきましょう」

「で、具体的には何日?」

「1週間は、どうですか?」

「14ターンってことだね。それで決着がつくかな?」

「西野辺さんたちがイヤなら考え直しますが、これは練習ですからね」

 そうそう、ムリに決着をつける必要はない。

 西野辺も納得して、

「了解。この風聞を耳にした私たちは、どうすればいいの?」

 と、肝心なところをたずねた。

「さきほども説明したとおり、これから午前のターンになります。みなさんにはサイコロを振ってもらい、数字の大きいキャラから順番に、午前の行動を決めていただきます」

 丸亀は、緑と赤のサイコロを取り出した。

 ずいぶんと変わったかたちをしている。

「これは、十面サイコロです。0から9までの数字が書かれていて、緑が十の位、赤が一の位になります。例えば……」

 丸亀は、テーブルのうえでサイコロをころがした。

 緑が5、赤が4になった。

「これは54です。みなさんが出せる数字は、00から99までの100通りです」

 あたしたちは、順番にサイコロを振った。

 数字の大きさで、師匠→西野辺→桐野きりの六連むつむら→早乙女→飛瀬とびせ→あたしになった。

「アハッ、僕が88だから、トップバッターだね。なにをすればいいの?」

「それは捨神すてがみくんが決めることです……とはいえ、基本は捜査ですね」

「どうやって捜査するの?」

 丸亀は村の地図をゆびさして、

「この地図のなかを移動して、イベントを起こしてください」

 と答えた。師匠は迷った。

「噂話のなかに、あやしそうなのはないんだよね……じゃあ、近所でいいかな」

 師匠は、猟師のロッジェ――森のそばにある六連の家に緑のコマをおいた。

「次は西野辺さんです。どうぞ」

「んー、ピアノマンがすばるの家を捜索……これって便乗してもいいの?」

 丸亀は、OKだと伝えた。

「じゃあ、ひとりで行動するのも怖いし、便乗して六連の家に行くね」

 西野辺も、黄色いコマを森のそばに置いた。

「桐野さん、どうぞ」

「うにゅにゅ、お花は森のクマさんに会いたいですぅ。クマさんはいますかぁ?」

「く、クマはいないと思います」

「ふえぇ……だったら、トマスくんと遊びまぁす」

 桐野は、イゾルデばあさんの家に黒いコマをおいた。

 そういう趣旨のゲームじゃないと思うんだが。

「六連くん、どうぞ」

「捨神先輩と西野辺先輩が僕の家を訪問……じゃあ、留守にしますね」

 六連はそう言って、村の役場に青いコマをおいた。公会堂に併設されている。

 これには、西野辺がするどく反応した。

「え? そんなことできるの?」

「もちろんです。先発のキャラが後発のキャラを拘束することはできません」

 と丸亀。西野辺は、

「だったら、後攻のほうが有利じゃんか」

 と反論した。

「そうです。このゲームでは、数字の小さいほうが強いんです。ですから、小さい数字を出したプレイヤーが、後発を選択できるんですよ」

 西野辺は、もっと早く言って欲しかったなぁ、と愚痴った。

 先に教えてもらったところで、サイコロはコントロールできないと思うぞ。

「では、早乙女さん、どうぞ」

 早乙女は、もったいぶるように髪の毛を撫でた。

「まだゲームの全貌がみえていないから、最善手の判断がむずかしいわね。先攻のキャラの家には、だれもいないし……六連くんのアクションに乗ろうかしら」

 早乙女も、役場を選択した。白いコマをおく。

「ところで、村の役場には、なにがあるのかしら?」

「村の施設については、こちらのパンフレットに書かれています」

 丸亀は、パンフレットを手渡した。

「ぶぅ、それも先に渡して欲しかったなぁ」

 西野辺、また愚痴る。

「まあまあ、先に渡しても、目移りするだけだと思いましたので……では、飛瀬さん」

 飛瀬は茶色のコマを手にとらず、しばらく考えた。

「トマスくんが出かけたから、私も出かけると留守になっちゃうんだよね……」

「ふえぇ、お花はさみしいのですぅ」

「村長さんが来てくれるなら、待っていようかな……待機……」

 なるほど、そういう手もあるのか。

「それでは、最後に不破ふわさん、どうぞ」

 あたしもコマを動かさず、しばらくマップをながめた。

「……あんま考えても、しょうがねぇか、待機」

「え? 楓ちゃん、だれにも会わないの?」

 西野辺の質問に対して、あたしは「めんどくさい」とだけ答えた。

 もちろん、打算があってのことだ。このゲームは、スケープゴートをひとり用意すればいいだけの話。だったら、他のやつに任せたほうがいいし、あたしの場合は死体が見つからなければ、それだけで勝利だからな。

「全員、行動を決めましたね。それでは、捜査フェーズに移ってもらいます。これもさきほどと同じ順番ですが、同一地点を訪れたキャラには、同時に行動してもらいます。まずは、捨神ー西野辺ペアから」

 丸亀は、ふたりにプレイを求めた。

「プレイって、なにをすればいいの? 六連くんは、いないんだよね?」

 と師匠。もっともな疑問だ。

「そこがTRPGの醍醐味ですから、あまり指示はしたくないのですが……初回ですし、むずかしいのは分かります。付近を調べてみては、どうですか? 郵便屋のハッシュと相談してもいいですし、無視して会話をしなくてもかまいません」

「あ、うーん……じゃあ、西野辺さん、よろしく」

 師匠の挨拶に、丸亀は注意をいれた。

「郵便屋のハッシュです。ちなみに捨神くんは、木こりのフェリスですよ」

「え? それってちゃんと演じないとダメなの?」

「でないとTRPGになりません」

「そ、そっか、じゃあ、演じるね」

 師匠は、ちょっと恥ずかしそうに、

「こんにちは、僕は木こりのフェリスです。よろしく」

 と挨拶した。西野辺はあきれて、

「おなじ村人同士で自己紹介するの、おかしくない?」

 と突っ込みをいれた。

「あ、そうだね。じゃあ、さっそく調査しようか。えーと……猟師ロッジェの家を」

「このマップを見るかぎり、家っていうよりは小屋っぽくない?」

「そうだね。王都から引っ越してきて、まだ日が浅いのかな?」

「その可能性はあるかも。ロッジェは27歳だし」

 なんだか、それらしくなってきた。将棋指しのゲーム順応力は高い。

 あたしが感心していると、西野辺は、

「これってさ、鍵を壊して入れないの?」

 と提案した。大胆だなぁ。

 丸亀は首を横に振った。

「鍵の破壊を許可するルールもありますが、今回はナシでお願いします」

「うーん……だったら、することなくない? 私たち、来るだけ損だと思うけど?」

 ここで、師匠がポンと手をたたいた。

「そうだ、窓から覗き込めないかな?」

「あなたは小屋を調べました。窓は閉まっています。ガラス張りではありません」

「隙間も全然ないの? 鍵穴とかは?」

 丸亀は、ピンとゆびを立てた。

「調査イベントが起きました。サイコロを振ってください」

「振るとどうなるの?」

「一定の数以下が出たら、成功です。覗けそうな穴が見つかります」

「アハッ、西野辺さん、振る?」

「あんたに任せる」

 師匠はサイコロを手のひらで転がして、目標の数値を訊いた。

「このあたりも細かく設定できるのですが、一律50にしましょう」

「確率的には、2回に1回成功だね。えいッ!」

 サイコロはテーブルのうえを転がって、緑3、赤9になった。

「39だね。成功」

「木こりのフェリスと郵便屋のハッシュは、裏手の壁に隙間を見つけました。建てるときに、うっかり残してしまったのでしょう。どちらが覗きますか?」

「僕と西野辺さん……じゃないや、ハッシュさんで、なにか違いはあるの?」

「今回は能力値を使わないので、発見できるものについて変化はありません。但し、発見したものは、覗いたひとにだけ伝えます。相方に教えるかどうかは任意です」

 おっと、かなりのアドバンテージがないか、それ?

「僕がウソを教えると?」

「問題ありませんよ。だましあいも、TRPGの醍醐味です」

 師匠は、西野辺と相談した。その結果、

「スケープゴートは、ひとりでいいんでしょ? だったらウソ吐くメリットないし、フェリスが覗いていいよ」

 と、西野辺がゆずるかたちになった。

「了解。僕が覗くよ」

「木こりのフェリスは、猟師ロッジェの小屋を覗き込みました。隙間が狭く、全体は把握できませんでしたが、ひとつだけ気付いたことがありました」

 丸亀はそこまで言って、1枚のイベントカードを師匠に配った。

 師匠はそれをめくって、すぐに西野辺にも見せた。

 一番安全で信頼できる教え方だ。

「んー、なんだろうね、これ? ハッシュくんは分かる?」

「分かんない……ねぇ、GM、これってほかのメンバーに見せてもいいの?」

 西野辺の質問に、丸亀はOKだと答えた。

「午前と午後、午後と翌日の午前のあいだに、情報共有フェーズがあります。それまでは伏せておいてください。電話もメールもない時代ですからね。それと、イベントカードを手に入れた時点で、おふたりの捜査フェーズは終了です。次のひとに移ります。なお、相談は続けてもらっても結構です」

「相談したら、ほかのメンバーにバレるじゃん」

「筆談用のメモ帳があります。これを使ってください」

 師匠と西野辺は、渡されたメモ帳で筆談をはじめた。

「では、クリストファー村長のターンです。イゾルデおばあさんも同時です」

 桐野と飛瀬か……すごい組合わせだよな。

「おばぁさん、こんにちはぁ」

「こんにちは……」

「トマスくんと遊びに来たのですぅ」

「トマスなら、さっき出かけた……」

「ふえぇ、だったら、おばあさんとお茶するのですぅ」

 61歳の未亡人を口説く村長――なかなかヤバいシチュエーションだな。

「うち、お茶を飲む習慣がないんだよね……」

「ほんとですかぁ? 立派なティーセットがあるのですぅ」

 飛瀬は、アッとなって、

「ごめん……忘れてた……そういう設定だったね……」

 と言い、お茶を飲むことになった。設定大事だぞ。

「それじゃあ、お湯を沸かして……」

「ストップです」

 丸亀の声に、あたしたちはふりむいた。

「イベントタイムです。サイコロを振ってください」


【ゲームの1日の流れ】

風聞フェーズ(初日と特別な場合のみ)

午前の行動順の決定(サイコロの目の大きい方から)

捜査フェーズ(同上)

情報共有フェーズ(同上)

午後の行動順の決定

捜査フェーズ

情報共有フェーズ

以後、定められた日数を繰り返す

だれかが勝利条件を満たした時点で終了

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