表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第22・1局 日日杯への道/四国勢編(2015年6月6日土曜)磯前好江
227/686

215手目 磯前好江、恋愛相談を釣り上げる

「3五歩ッ!」


挿絵(By みてみん)


 まずは、右の桂頭を攻める。

「2七角ぅ」

「7五歩」

 今度は左だよ。

「飛車が利いてるはずなんだけど、不穏だねぇ」

 魚が警戒してる。慎重に――

「……同歩ぅ」

 食いついた。3六歩、同角、同角、同飛、5四角、7六飛、3六歩。


挿絵(By みてみん)


「け、桂馬が死んじゃったッ」


 ピッ


 カツラギさん、ここで30秒将棋に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「な、7四歩ぅ!」

 それは駒損コース。

 3七歩成、7三歩成、4八と、同金、7三銀。

「まだ負けてませんよぉ。9五角ぅ」


挿絵(By みてみん)


 厳しそうに見えて、そうでもないかな。8四角、同銀、7一飛成が詰めろだから、一瞬ヒヤリとするだけで、飛成りに6一桂と打ってしまえば、先手は手がない。


 ピッ

 

 あたしも30秒将棋になった。

 攻める順を考えよう。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4五角」

 浮いてる金を狙う。5六桂なら、今度こそ先手は手がない。

「う、受け駒がないよぉ……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「は、8五桂打ぃッ!」


挿絵(By みてみん)


 へぇ、これは面白い手が飛んできた。単に8四角、同銀、7一飛成より厳しい。

「7四飛」

 飛車を逃げておく。同飛、同銀、7三桂成――これは詰めろだ。6二成桂、4二玉、4一金、同玉、5一飛、4二玉、5二成桂までだね。7八角成と突っ込むと、負け。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6一金」

 一回受ける。

「こ、ここで飛車打ちぃ……は駒が足りないよぉ……」


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 

 カツラギさんは、7四成桂として、駒を補充した。

 あたしは、今度こそ7八角成と突っ込む。

 

挿絵(By みてみん)


 詰めろ――カツラギさんは、4九玉と逃げた。

 あたしは、3六桂とさらに詰めろをかける。放置なら、2九飛、3九銀(3九歩や3九飛は4八桂成、同玉、2八龍が一間龍)、4八桂成、同玉に3七銀と捨てて、同玉、2七金、4八玉、3九飛成、同玉、3八金打まで。

 適当な受けは、ないと思う。あとは、あたしが頓死しないようにするだけ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6三成桂ぇ」


挿絵(By みてみん)


 狙いの頓死筋だね。同玉は6四飛、7二玉(5二玉は6一飛成、同玉、6二金)、6一飛成、8二玉、7三金、9二玉、8三銀まで。詰んでしまう。

「4二玉」

 これで詰まない。

「ふえぇ……3七銀」

 受けたね。あたしは最後に10秒だけ確認して、6九飛と打った。

「あッ……そっかぁ……」

 カツラギさんは、くちびるに指を当てて、困ったような表情。

 合駒が悪いんだよね。するなら飛車合だけど、同飛成を同玉と取れない。

「さ、3八玉でぇす」

「2七銀」


挿絵(By みてみん)


 これで詰み。同玉、2九飛成、2八歩合、同桂成、同銀、2六金、同玉、2八龍、2七合駒、2五銀、1五玉(3五玉は4五馬)、1四歩までだね。

「うぅん、詰んでるんだぁ……負けましたぁ」

「ありがとうございました」

 一礼して終了。私はチェスクロを止めた。

「どこが悪かったですかぁ?」

「途中で銀損したところからは、後手有利かな」

「3六歩と取り込まれたとき、5四飛、同飛、3六角でしたかぁ?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「8四飛だと?」

「7四歩、同飛、9六角とかぁ」

 これは、ありそう。3六角に逃げないで7六歩は、5四角、同歩、2一飛の対応が悩ましい。7七歩成、4一角のあと、速度争いになる。ただ、負けとも言えないかな。

「5四飛に同飛じゃなくて、同歩もあるよね?」

「3六角……うぅん、7六歩が受からない……」

 むりやり6七角と受ける手はありそうだけど、2九飛から香車を拾って行きたい。

「先手は、こっちのほうが良かったかもね。駒損してないし」

 中盤の仕掛けを検討していると、となりで投了の声が聞こえた。

「負けました」

「Danke schön」

 おっと、裏見うらみの負けか。

 どんな局面か覗き込む。その途端、部室のとびらがひらいた。

「遅くなって、もうしわけありません。買い出しに行っていました」

「じゃけん、みんなで食べましょうね〜」

 制服を着た女子高生がふたり、ビニール袋を持って入室した。

 ひとりは、黒髪ロングのマジメそうな子、もうひとりは、ショートの快活な子。

 クルシマさんと詰め将棋を解いていたミノベくんは、立ち上がって、

馬下こまさげ福留ふくどめ、サンキュ」

 とお礼を言った。どうやら、彼女たちも将棋部の部員みたいだ

赤井あかいは、どうした?」

「赤井さんは、鎌鼬かまいたち市に用事があるとかで、いません」

「そっか、それならしょうがないな……裏見先輩、おやつにしませんか?」

 腹が減っては釣りもできない、ってね。あたしたちは、おやつタイムに入った。


 その夜ーー

 

「狭くて、ごめんね」

「おかまいなく」

 あたしは、裏見の勉強部屋に、布団を敷いてもらった。予想とは違って、畳にカーペットが敷かれている。和室だった。築年数もかなりのもので、女子高生の部屋という感じがしない。ただ、裏見っぽくは、あるかな。裏見は、考え方が今時じゃないことがある。

 あたしたちはお風呂に入って、寝間着に着替えていた。パジャマパーティー、って言うのかな、これ。裏見はピンクのパジャマだけど、あたしはジャージなんだよね。

吉良きらくんと香宗我部こうそかべくんは、来てないの?」

「来てるけど、別行動だよ」

「それも、そうか……団体行動だと、たいへんだものね」

 ほかのメンバーは、どこで何をしてるんだろう。結局、続報は来なかった。

 便りがないのは、いい便り。事故は起きていないのだと思う。

「明日は、どうするの?」

魚住うおずみのところで、釣り」

「魚住くんって、県内の中学竜王戦で優勝したことのある子?」

「そうだよ。指したことある?」

 指したことはない、と裏見は答えた。ちょっと意外。

古谷ふるやくんとなにかあった、って聞いたことがあるくらいかしら」

「へぇ、そうなんだ」

 ケンカでも、したのかな。あたしは、そういうのに興味がないからパス。

「ところで、裏見は、どこの大学受けるの? 関西?」

 裏見は、ベッドのうえで腕組みをした。

「迷ってるんだけど、今のところ第一志望は、東京の都ノみやこのにしてる」

「ああ、有名な公立だね。判定は?」

 裏見は、A判定だと答えた。だけど、どこかしっくりこない模様。

「どうしたの? もしかして、ワンランク上げたいとか?」

「そうじゃないんだけど……」

 裏見は、しばらく言葉を濁してから、同級生が一緒の大学を狙ってる、と告げた。だからどうしたのか、よく分からない。あたしは、根掘り葉掘り訊いてみる。

松平まつだいらって言うんだけど……彼、私のこと好きなのよ」

「さてと、明日はなにが釣れるかな。おやすみ」

「ちょっとッ! 質問しといて、それはないでしょッ!」

 なにかと思えばノロケ話とか、やってられない。

「ようするに、ストーカーみたいでイヤなの?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

 ほら、まんざらでもないみたいな反応。モテ自慢。

「っていうか、ほんとに好かれてるの? 告白されたわけじゃ、ないんでしょ?」

「されたのよ」

「あ、そうなんだ。で、返事は?」

 裏見は、胸のまえで両手の人差し指をつんつんした。

「お、驚いて逃げちゃった……」

「なかなか辛辣だね」

「でも、あのときはしょうがなかったのよ。なんの前振りもなかったのに、いきなり告白してきたんだから。しかも、初詣の帰り道よ? 信じられる?」

 なんの前振りもなかった、というところが、信じられないかな。

「初詣ってことは、半年前だよね? そこから進展がないの?」

「半年じゃなくて、1年半前。1年生のときの初詣だったから」

 えぇ……いろいろおかしい。

らして、で飼ってるの?」

「ち、違うわよ。人聞きの悪いこと、言わないで。そりゃ、返事をしないのは悪いと思ってるけど、タイミングが最悪だったし、あの頃は松平のこと、よく知らなかったから……将棋に真剣に取り組んでるときは、かっこいいな、って思うこともあるわ。でも、金髪に染めてたりして、第一印象は良くなかったかな。まあ、私が金髪好きじゃないのを知ってから、色を抑えてるみたいだけど。あと、性格が子供っぽいのも気になるし……まあ、男なんて、みんな子供っぽいわよね。他の男子も、あか抜けないというか、小学生のまま進級してるというか……っと、松平の話だったわね。これがまた、すごい将棋バカなのよ。私のことが好きなんじゃなくて、私の将棋が好きなんじゃないの、ってくらい。趣味が一致してるのは、お互いにプラスだとしても、やっぱり私を見て欲しいでしょ? 磯前いそざきさんだって、好きな男子に、釣りのテクニックばかり褒められたら、困るだろうし……ともかく、なにが一番腹立たしいかって言うと、あれ以来、さっぱり告白の続きをして来ないことなのよ。絶対に2回目があると踏んで、いろいろシミュレートしてたのに、酷いと思わない? まるで、アレはなかったことに……みたいな態度。本気で私のこと好きなのかどうか、疑っちゃうわ。それでいて、一緒の大学に行きたいとか言い出すなんて……2回目の真摯な告白があるまでは、絶対に彼氏と認めないんだから。このまえも……」


 Zzz

場所:駒桜市立高校将棋部の部室

先手:葛城 ふたば

後手:磯前 好江

戦型:横歩取り8四飛型


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛

▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △2三銀 ▲4八銀 △5二玉

▲3六歩 △7二銀 ▲3七桂 △2四歩 ▲3五歩 △6二金

▲5六飛 △8八角成 ▲同 銀 △3三桂 ▲3八金 △5四角

▲3四歩 △同 銀 ▲3六歩 △2三銀 ▲7七桂 △7四歩

▲6六歩 △7三桂 ▲6五歩 △3五歩 ▲2七角 △7五歩

▲同 歩 △3六歩 ▲同 角 △同 角 ▲同 飛 △5四角

▲7六飛 △3六歩 ▲7四歩 △3七歩成 ▲7三歩成 △4八と

▲同 金 △7三銀 ▲9五角 △4五角 ▲8五桂打 △7四飛

▲同 飛 △同 銀 ▲7三桂成 △6一金 ▲7四成桂 △7八角成

▲4九玉 △3六桂 ▲6三成桂 △4二玉 ▲3七銀 △6九飛

▲3八玉 △2七銀


まで80手で磯前の勝ち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ