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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
221/686

209手目 3回戦 土居〔県立本榧〕vs捨神〔天堂〕(2)

 土居どいさんは、次の手にかなりの時間を使った。

 12分を切ったあたりで、ようやく盤面に手を伸ばす。

「6四銀」


挿絵(By みてみん)


 飛車を見捨てたね――最善かな。

 僕は5八角成、同金を入れてから、6四飛と取った。

 土居さんは7三歩、同銀直と形を崩したあとで、3三角成。

「7六銀」

 僕は急所に銀を打って、チェスクロを押した。

 馬ができたから、見た目ほど簡単じゃない。先手の候補手は、たくさんある。

 ここは読みどころと見て、僕も思案した。同銀、同歩は、桂馬に当たるからしてこないはず。かと言って、放置(例えば1一馬)は、2八飛、6八金右に6七銀成(!)、同金直、同飛成を同金とできなくて、先手の負け。

 というわけで、6筋を受けないといけないんだけど、同時に8七銀成以下の攻めも受けないといけないんだよね。例えば、2三馬は6七の地点の受けにはなってる。でも、2八飛、6八金右、8七銀成のとき、同玉と取るしかなくて、7六銀、8八玉(9八玉にも8七歩と打って、次に6八飛成を狙うよ)、8七歩、9八玉、2九飛成みたいな展開は、十分戦えるかな。2三の馬は、6七に利いてる以外、そっぽだからね。

 つまり、2八飛自体を防ぐか、あるいは、最後の2九飛成を防ぐ手――最有力なのは、5六角。


挿絵(By みてみん)


 (※図は捨神すてがみくんの脳内イメージです。)


 これなら、2八飛、6八金右に2九飛成とできなくて、いい勝負。

 ここで僕が何を指すかだけど……っと、土居さんが動いた。

「5六角」

 予想通り。続きを考えようか。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 だいたい、これでいいかな。

「8七銀成」

 とりあえず、交換しておく。

 同金、7六銀。

「あら、千日手? 7八銀」

「アハッ、千日手にはしないよ。5七歩」


挿絵(By みてみん)


 これ、痛打だよね?

 同金は5九飛で、適当な受けがない。5八金打と先手で受けたくなるけど、以下、8七銀成、同銀、8九金、9七玉、7九飛成が詰めろ。8五桂と詰めろ逃れをしたら、4四飛で再度詰めろを掛ける。同馬、同歩の瞬間が、また詰めろ。こっちはゼット。

 というわけで、5七同金は、ないね。僕のなかの候補手は、6八金か5九金。どちらにしても、2八飛と打ちたい。6八金、2八飛のとき、金が浮いてるのがポイント。さっきの交換は、これが目的。まずは、6八金から読もうか。6八金、2八飛、6九金打。ここで8七銀成、同銀、5八金が第一感。問題は、そこで3九銀があること。


挿絵(By みてみん)


 (※図は捨神くんの脳内イメージです。)


 飛車は逃げられない。でも、6九金、2八銀、6八金と取り合って十分。

 つまり、5七歩に6八金と逃げるのは、ムリ筋。5九金かな。ただ、さっきと同じような流れに……ならないね。土居さんが気づいたら、この路線かも。

 土居さんは残り5分まで考えて、

「これしかないわね」

 と言ってから、5九金と引いた。

「2八飛」

「いやね、ひとが指してから、すぐに指すなんて。4八金打よ」


挿絵(By みてみん)


 アハッ! 土居さん、なかなかやるねッ!

 この手がおそらく最善。一見、意味が分からないけど、8七銀成、同銀、5八金には3九銀。ここで4八金と取るのは、同銀、5八金、3九金、4八金、同金右、5八銀、3九金、5九銀不成、2八金、4八銀成、3一飛。成銀が4八の地点にいるから、後手の攻めが若干遅い。若干、ね。

「あら、捨神くん、なんだか嬉しそうね」

「将棋でいい手を見たときは、嬉しくなるよ」

 あと、飛瀬とびせさんとおしゃべりしたときとかね。

「じゃあ、僕も敬意を払って、最善手で迫るよ。8七銀成」

 同銀に7六金と打ちなおす。

 ここで先手には、2通りの対応があると思うんだよね。ひとつは、7八銀打として、もう一回千日手を狙う方針。でも、僕のほうは千日手にするつもりはないから、8七金、同銀に6八銀。以下、3九金、5九銀不成、2八金、4八銀成。ここで先手には、いろいろ手がある。3一飛とか4三馬とかね。いずれにせよ、7六金と打つタイミングが回ってくる。このとき、7八に打つ金駒かなごまがない。6八銀以下の攻めは《若干》遅いだけで、成立してるんだよ。

 もうひとつは、3九銀でいきなり飛車を殺す方針。8七金、同玉に7六銀と打って、7八玉、4八飛成、同銀に8七金が利くんじゃないかな。以下、6八玉、7七金、5七玉(馬で取ったら同銀成、同玉、6五桂)、6七金、4七玉(同角は同飛成で詰み)、6六金みたいな。


挿絵(By みてみん)


 (※図は捨神くんの脳内イメージです。)

 

 6五歩と打たれても、5六金、同玉、3八角、4七銀と窮屈にしてから、4四桂の王手が痛いんじゃないかな。5七玉と逃げたら、5四飛の王手で飛車を逃げられる。ただ……気になる順があるんだよね。6六金に同馬と取られて、同飛に5七金があるかも。これは攻めが続かない気がする。だとしたら、6六金じゃなくて、4四桂? 6五歩には同飛と取っておいて、同角、同銀……あ、これが詰めろか。5六角の一手詰み。OK。

 土居さんは、どっちを選ぶかな?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 なかなか指さないね。先手不利に気づいたかな?

「ふぅ……マズいわ……」

 あ、やっぱり不利だと思ってる。

 土居さんはペットボトルのジュースを飲んで、ひと息ついた。

「困ったときは、戦線拡大、ね。7六銀」


挿絵(By みてみん)


 え? 取るの? ……暴発かな。

「同歩」

「7五金」

 土居さんは、力強く飛車に当てた。

 なるほど、その手を見てたんだね……疑問手だよ。

「6八銀」

「それは読み切りよッ! 7八歩ッ!」

 7七歩成、同馬、同銀成、同歩に、僕は7四歩と打った。

 打たないと8三桂があるからね。

 土居さんは6四金と取って、鼻息を荒くする。

「同歩」

「2一飛ッ!」

 飛車の打ち場所は間違えなかったね。3一飛なら2二角〜7六桂だったよ。

「じゃあ、土居さん、こんな手はどうかな? 3七歩成」


挿絵(By みてみん)


 土居さんは大きく目を見開いて、眉毛をぴくぴくさせた。

「歩成り?」

 すぐに6一飛成としないところは、さすがだね。

 それは7一金とはじいて、龍を逃げたあとに4八とで勝てないから。

「同桂で、なにかあるのかしら……」

 じつはね……あるんだよッ! 3七同桂、5八歩成、同金直に5一歩さッ!

 これで、先手は手詰まり。後手から一方的に攻めることができる。

 30秒ほどして、土居さんは青くなった。

「ウソ……こんな手があるなんて……」

 土居さんは、中盤で時間を使い過ぎたね。もうすぐ1分将棋。

 

 ピッ ……ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「つ、詰めろをかければいいのよッ! 4五角ッ!」


挿絵(By みてみん)


 たしかに、詰めろだ。8一角成、同玉、6一飛成以下。

 すぐに7二角と受けてもいいけど……。

「8七歩」

 一本入れておこう。

 ちなみに、取ったら詰むよ。8七同玉、7五桂で、7八玉、4八飛成、同金、8七角、8八玉(6八玉は5八金、同金、同歩成、同玉、4七金、6八玉、6九金まで)に9八角成と捨てて、同香、8七金、7九玉、7八金打まで。難しいのは角捨てだけかな。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「きゅ、9八玉」

「アハッ、そうこなくっちゃね。7二角」

 同角成、同金、4五角。

 最後に、きちんと読みなおして……うん、大丈夫。

「4八と」


挿絵(By みてみん)


 詰めろだよ。僕のほうは、8一飛成、同玉、7二角成と突っ込まれても詰まない。ちなみに、4八飛成、同金、7九角も必至なんだけど、それは8一飛成、同玉、5一飛、7一桂、7二角成、同玉、5二飛成、6二金、6一銀、8三玉、7二銀打、8四玉、7六桂の進行がちょっと怖いから、選ばないよ。詰んでなさそうでも、慎重に。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「手がない……負けました」

「ありがとうございました」

 対局終了。感想戦。

「3七歩成なんて手があるとは、思わなかったわ。7八銀打だったかしら?」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「僕は、そっちを本命で読んでたかな。以下、8七金、同銀で銀を入手して、6八銀、3九金、5九銀不成、2八金、4八銀成。土居さんは、そこでなにを指すの?」

「そうねぇ……3一飛とか……7二金、3二飛成、7一金打みたいに、とりあえず駒を使わせたいわね。そのあとで、1一馬と入るわ」

「1一馬……7六金に6六香?」

「馬筋を残して、6五香は、どうかしら?」

「それもあるね……7六金、6五香……」

「5八歩成は、されるとちょっと怖いわね。6四香、同歩に5二飛と打ちたいけど、6八とと寄られた格好が、なんだか不気味だし。飛車を渡したら、詰めろになっちゃうかも」

「うーん、それって、8五桂と跳ねられて、僕が困ってない?」

「あら、そうね。馬が通って、これは私が優勢だわ」

「そもそも、3一飛に7二金と逃げないと思うんだ。7六金じゃない? 6一飛成なら、8七金、同玉、7六銀で、7八玉と右側に逃げるのは、8七金、7九玉、6七銀不成が詰めろだから、僕の勝ちだよね。9八玉と端に逃げるのは、8七金、8九玉、7七銀成、同馬、同金。次に7八角、7九玉、8七桂で詰みだから、先手は受けないといけないよ」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 土居さんは、うーんとうなった。

「7九金で受かってないかしら?」

「それは……7六桂が詰めろかな」

「え? 詰めろなの?」

「8八歩、9八玉、8七角、9七玉、9六角成、同玉、9五歩以下だよ」

「あらやだ、突き歩詰めなのね。ごめんなさい。さらに9八金と受けるわ」

 僕は30秒ほど考えて、8八歩と打った。

 同金右、同桂成、同金、同金、同玉に、7一金と整備する。

「1一龍は4四角で王手龍……速度で逆転しちゃった感じねぇ」

「明確に後手勝ちとは言えないけど、この進行なら大丈夫そうかな」

「こういう細い攻めが繋がると、イヤになっちゃうわ。穴熊の暴力よ」

 アハッ、僕は暴力的じゃないからね。

「じゃあ、2八金、4八銀成のとき、4三馬で……あら」

 土居さんは顔をあげて、僕のうしろに視線を向けた。

飛瀬とびせさん、いたのね。ちょっと聞いてちょうだい」

 土居さんは、対局の愚痴をこぼし始めた。

 井戸端会議みたいになっちゃったね。

「アハッ、そうだ。飛瀬さんも、検討に加わってもらえる?」

「うん……いいよ……」

 将棋ネタが、一番話しかけやすいね。これからも、こうやって距離を縮めていこう。

 ところで、チームは勝ってるのかな?

場所:2014年度 四市対抗オールスター戦 3回戦

先手:土居 郭子

後手:捨神 九十九

戦型:後手角交換型振り飛車


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4二飛 ▲2五歩 △6二玉

▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉 △3五歩 ▲4八銀 △3二飛

▲4六歩 △3四飛 ▲2二角成 △同 銀 ▲8八銀 △8二玉

▲9六歩 △9四歩 ▲4七銀 △7二銀 ▲1六歩 △3二金

▲6八金 △3三銀 ▲1五歩 △4四銀 ▲5八金上 △5五銀

▲2六飛 △3三桂 ▲7七銀 △7四歩 ▲5六歩 △6四銀

▲6六銀 △8四歩 ▲2八飛 △5四歩 ▲8八玉 △9二香

▲7八金 △9一玉 ▲6八金右 △7三銀引 ▲8六歩 △8二銀

▲7七銀 △7五歩 ▲6六角 △7六歩 ▲同 銀 △4二金

▲7七桂 △5三金 ▲8四角 △5五歩 ▲6六角 △5六歩

▲同 銀 △6四金 ▲5八飛 △7五歩 ▲8七銀 △3六歩

▲6五銀 △4七角 ▲6四銀 △5八角成 ▲同 金 △6四飛

▲7三歩 △同銀直 ▲3三角成 △7六銀 ▲5六角 △8七銀成

▲同 金 △7六銀 ▲7八銀 △5七歩 ▲5九金 △2八飛

▲4八金打 △8七銀成 ▲同 銀 △7六金 ▲同 銀 △同 歩

▲7五金 △6八銀 ▲7八歩 △7七歩成 ▲同 馬 △同銀成

▲同 歩 △7四歩 ▲6四金 △同 歩 ▲2一飛 △3七歩成

▲4五角 △8七歩 ▲9八玉 △7二角 ▲同角成 △同 金

▲4五角 △4八と


まで110手で捨神の勝ち

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