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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
212/686

200手目 1回戦 立花〔椿油〕vs裏見〔駒桜市立〕(2)

 私は30秒ほど考えて、3二金とした。

 2六銀、5二金、3五歩。


挿絵(By みてみん)


 早くも開戦。両隣は、まだ駒組み中なのに。

 これを同歩は、棒銀が成功してしまう。

「4四歩」

 これが手筋。3四歩、同銀、3五歩なら4三銀左だ。

 立花たちばなくんはこの順を選択せずに、3四歩、同銀、3七銀と立てなおした。

 私は4三金右として、態勢を整える。

 3六歩、3三金寄、7七銀、4二玉。


挿絵(By みてみん)


 先手が損してない? 主張がなにも通ってないでしょ。

 立花くんも失敗したと見たらしく、長考した。

「……4六銀」

 ほほぉ、まだ諦めませんか。次に3五銀が狙いね。

 どう対処しましょ……4五歩かしら。3五銀のお手伝いに見えるけど、3五銀、同銀、同歩、5五角、3七角、同角成、同桂、3六歩で桂馬を殺せる。

 立花くんが級位者なら、この変化に飛び込んでくるかもしれない。

「4五歩」

 私が見守るなか、立花くんは3筋に指を伸ばした。

 

 パシリ

 

 3五歩。銀ぶつけは回避した。

 私はさらなる優位を求めて、4三銀左、3七銀に3四歩と合わせていく。


挿絵(By みてみん)


 3五歩〜3四銀と出られれば、後手は万全。

 立花くんは盤面を見つめて、

「さすがは竜王戦優勝者、強いですね」

 とつぶやいた。お世辞を言っても、手は抜かないわよ。

 3六銀、3五歩、同銀、3四歩、2六銀。

 はい、銀の追い返しに成功。先手は相当な手損になった。

 私は6筋に指を伸ばして、駒音高く歩を進める。


 パシーン

 

挿絵(By みてみん)


 ド急所。先手の駒組みを制約する。

 5八金右、3一玉、9六歩、9四歩、3七桂、4四銀。

 ちょっと前に出過ぎだけど、ここは強気で押す。

 それに、3七桂と跳ねてくれたのは助かった。目標にしやすい。

「2四歩です」

 立花くん、再度攻勢。その意気や、よし。

「同歩」

「1五銀」

 私は持ち駒の角をつまむ。ターゲット・オン。

「6四角ッ!」


挿絵(By みてみん)


 感触はいい。あとは、立花くんのお手並み拝見ね。

 立花くんは額に手を当て、やや斜めに盤面をのぞき込んだ。

 目が死んでないわね。なにか、あるってこと?

「……4八金」

 それしかないわよね。私は3五銀と出て追撃。

 立花くんは2九飛と引いて、角筋を避けた。

 ここで3六銀……は2四銀と突っ込まれて困るか。

「1四歩」

 帰ってくださいな。

「2六銀」

「3六銀」

 立花くんは、滑らせるように2五歩と合わせた。


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ん? 自然に背筋が伸びる。口もとに、こぶしを添えた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 後手の攻めが止まってる? 2六銀の位置が、やけにいい。

 一直線なら、2五同歩、同銀……いや、同桂か。同桂、4三金寄だと?

 なにもないように見える。私はその路線で進めようとした。駒に指を触れる。

「……失礼しました」

 私は、2五同歩としかけてやめた。イヤな筋が浮かんだからだ。

 2五同歩、同桂、4三金寄、3七歩だと?


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子きょうこちゃんの脳内イメージです。)

 

 うッ……これはマズい。2五銀、同銀のあと、2筋を突破されてしまう。

 私は軌道修正を考えた。

 2五歩を取らない手はないから……同桂に2三金寄……でも、今度は4四角が……。

 後手優勢ではないようだ。私は、形勢判断が間違っていたことに気づく。

 無意識のうちにお茶を飲んでリフレッシュした。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ある程度、考えはまとまった。私は残り時間を確認する。

 私が15分、立花くんが14分。いい勝負ね。

「2五同歩」

 立花くんは1分読みなおして、同桂。私の長考に警戒したわね。

 2三金寄、4四角に、私は2二歩と受けた。

「3七銀」


挿絵(By みてみん)


 げッ、なにその手は……と見せかけて読み切りッ!

 同銀成、同金、同角成に、5三角成、4二銀、5四馬のつもりでしょッ!

 私は3七銀と成り込んだ。立花くんはノータイムで同金。

「同角成じゃなくて4三金よッ!」

 立花くんは、目を見開いた。この対応は読んでなかったっぽい。

 手が止まる。

「……2六角」

 私は3五銀と打った。入れ替わりに立花くんの手が伸びて、7五銀と打ち返す。

 2六銀、6四銀、3七銀不成。私の駒得。

「7一角ですッ!」


挿絵(By みてみん)


 これも鋭い。立花くん、ただの事務方じゃないわね。

 もしかすると市代表とか?

 5二飛と逃げた私に、2四歩、同金、3三桂成が襲いかかる。

 2四の金は見捨てるしかない。3三同金と支えるのは、5三銀成で崩壊してしまう。

「同桂」

 立花くんは、スーッと飛車を走った。


挿絵(By みてみん)


 これは……先手から6三金が見える。

 飛車を追い返すまえに、5三の地点を受けないといけない。

「4一桂」

 受かれ。

 6三金、同銀、同銀成、3二飛、5二銀、4二金打、4一銀成、同玉。

「5五桂ッ!」

「4四金打ッ!」


挿絵(By みてみん)


 4三桂成、同金引に、立花くんの手が止まった。

「て、手がない……」

 立花くんは2分ほど考えて、8二角成。駒の補充に向かった。

 時間を削れたのは大きい。それに――会心の一手を思いついた。

「2五桂打ッ!」


挿絵(By みてみん)


 立花くんはサッと背筋を伸ばし、くちびるを結んだ。

「飛車が死んだ……?」

 死んでないわよ。2三金と生け贄を差し出せば、だけど。

 もちろん、そんなことはできないから、立花くんは8一馬と入った。

「3五角ッ!」

 残り時間は、私が3分、立花くんは1分。


 ピッ

 

 立花くん、秒読みに突入。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「3六桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 くぅ、こんな反撃があるのか。2四角、同桂は桂が飛車に当たる。

 私は2六銀成として、桂馬の除去をいそぐ。

 2一金、1三銀、9一馬、3六成銀、3九香。

 成銀と角の串刺しだけど、これは疑問手。

「2四角」

 立花くんの3六香に対して、私は飛車を手にする。

「3八飛ッ!」


挿絵(By みてみん)


 後手優勢のはず。

 6八金の受けに5七角成と突っ込む。

 ここで私も1分将棋に。

 4九銀、6八馬、同銀、3六飛成、7三馬。

 馬に紐がついてなければ、7六龍で王手馬なんだけど……ムリか。

「8四香」

 私は59秒まで考えて、罠を張っておく。放置なら7六龍〜8七香成だ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4六歩」

 引っかからないか。

 でも、これには二の矢がある。

「4七龍」

 8三馬に6六桂と打つ。同歩は8七香成で終わるから、立花くんは8八玉。

 私は4九龍と拾って、8四馬に8六歩、6六歩、8七歩成、同玉、8九龍。


挿絵(By みてみん)


 足りる? 思ったよりも際どい。

 8八歩に8三歩で、私は馬をどかせようとした。

「5六角」

 げッ! 龍当たりッ!

 と、とりあえず8六歩と叩いて……って、二歩じゃないッ!

 私はパニックになる。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「は、8六銀ッ!」

 二歩だけは回避。

 同玉、8八龍、8七歩に8四歩で、5六角を無効化した。詰めろ。

 この段階で、立花くんのほうから闘気が消えた。あきらめムード?

 7五玉に8七龍と入る。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ

 

 8六歩。私は50秒まで読みなおして、8五角と打った。


挿絵(By みてみん)


 立花くんは、大きく息を吐く。

 同歩なら同龍、6四玉、7四金、5五玉、5四金で詰み。

 取らずに7三成銀なら、7四金、同成銀、7六龍、8四玉、7四龍以下の詰み。

「きれいな手ですね……投了します」

「ありがとうございました」

 勝った……私も深呼吸。お茶を飲んで、相手の言葉を待った。

 立花くんは、対局を振り返っているのか、しばらく身じろぎもしなかった。

「4二金打の対処を間違えましたか?」

 感想戦が始まり、私たちは局面をもどす。

 

【検討図】

挿絵(By みてみん)


「4一銀成〜5五桂で潰れてるかと思いましたが、全然そんなことなかったですね」

「4三銀成も同金で次の手がないから、6二角成でタメるんじゃない?」

「5二金、同成銀、4二金打、同成銀、同金、5一金ですか?」

 私は立花くんの読み筋を、脳内で再生する。

「……5一金が、なんでもないわね」

 私たちは、本譜の5五桂が最善だったということで、そこまで進めた。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 なんにも手がない。対局中は気づかなかったけど、この時点で後手優勢。

「序盤の手損が痛過ぎました。1六歩が入っていれば、1五歩、同歩をどこかで入れて、1五香から飛車のスライドを狙えたと思います。本譜は駒が足りません」

 ま、それだとこの局面にはならないんだけどね。

 数手得しながら負ける展開にならなくて、良かったわ。

 ホッとしていると、運営のひとが近くに来た。

「対局の終わったところから、昼休憩に入ってください。再開は1時半からです」

 おっと、もうそんな時間か。チェスクロで手数を確認すると、140手だった。

「チームの親睦もありますし、そろそろ引き上げましょうか」

「そうね。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

場所:2014年度 四市対抗オールスター戦 1回戦

先手:立花 寒九郎

後手:裏見 香子

戦型:角換わり


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀

▲4八銀 △6二銀 ▲3六歩 △6四歩 ▲3七銀 △6三銀

▲2五歩 △3三銀 ▲6八玉 △5四銀 ▲7八玉 △3二金

▲2六銀 △5二金 ▲3五歩 △4四歩 ▲3四歩 △同 銀

▲3七銀 △4三金右 ▲3六歩 △3三金寄 ▲7七銀 △4二玉

▲4六銀 △4五歩 ▲3五歩 △4三銀左 ▲3七銀 △3四歩

▲3六銀 △3五歩 ▲同 銀 △3四歩 ▲2六銀 △6五歩

▲5八金右 △3一玉 ▲9六歩 △9四歩 ▲3七桂 △4四銀

▲2四歩 △同 歩 ▲1五銀 △6四角 ▲4八金 △3五銀

▲2九飛 △1四歩 ▲2六銀 △3六銀 ▲2五歩 △同 歩

▲同 桂 △2三金寄 ▲4四角 △2二歩 ▲3七銀 △同銀成

▲同 金 △4三金 ▲2六角 △3五銀 ▲7五銀 △2六銀

▲6四銀 △3七銀不成▲7一角 △5二飛 ▲2四歩 △同 金

▲3三桂成 △同 桂 ▲2四飛 △4一桂 ▲6三金 △同 銀

▲同銀成 △3二飛 ▲5二銀 △4二金打 ▲4一銀成 △同 玉

▲5五桂 △4四金打 ▲4三桂成 △同金引 ▲8二角成 △2五桂打

▲8一馬 △3五角 ▲3六桂 △2六銀成 ▲2一金 △1三銀

▲9一馬 △3六成銀 ▲3九香 △2四角 ▲3六香 △3八飛

▲6八金 △5七角成 ▲4九銀 △6八馬 ▲同 銀 △3六飛成

▲7三馬 △8四香 ▲4六歩 △4七龍 ▲8三馬 △6六桂

▲8八玉 △4九龍 ▲8四馬 △8六歩 ▲6六歩 △8七歩成

▲同 玉 △8九龍 ▲8八歩 △8三歩 ▲5六角 △8六銀

▲同 玉 △8八龍 ▲8七歩 △8四歩 ▲7五玉 △8七龍

▲8六歩 △8五角


まで140手で裏見の勝ち

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