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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第20局 地球、ちょうだい(2015年6月1日月曜)
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194手目 両想いのおまじない

「日本人女性なんて、歯並びが悪くてガニ股でガリガリではありませんことッ! どうしてお付き合いしたいのか、理解に苦しみますわッ!」

「ふわぁ、そろそろ解散しようか」

「そうっスね。エリーちゃん、お会計は全部払わせてあげるっスから、感謝するっス」

 すみちゃんたちは席を立って、バイバイ。

 と思ったら、制服のすそを引っ張られたっス。

「待ってくださいましッ! 言い過ぎましたわッ!」

「分かったっスから、角ちゃんのプリティ制服を伸ばすのは止めて欲しいっス」

 これ、作ったばっかりなんっスよ。

 あきれて着席。コーヒーのお代わりを注文するっス。

 ここは、いつもの喫茶店。エリーちゃんが佐伯さえきくんとお付き合いするためには、どうすればいいか会議の……えーと、何回目だったっスかね。もう忘れたっス。

「ぐすん……さきほどの発言は、本心ではございません。信じてください」

「ほんとっスか? アジア人に対する偏見をビンビンに感じるっスよ」

「エリーちゃんじゃなかったら、焼き土下座させるところだったね」

 遊子ゆうこちゃん、なんでそんな怖いこと言うんっスか。

 激オコなんっスか。

「カンナちゃんも、なにか言うっス」

「え……私は日本人じゃないし……シャートフ星人だし……」

 漫才してる場合じゃないっスよ。まあ、今さら怒るのもバカバカしくなったっス。

 角ちゃんは、お店のソファーにもたれかかって、ぐったり。

「もう諦めるっスよ。世界の半分が男なんっスから、べつのひとを捜すっス」

「Hmm……Frauオオバにとって、恋愛とはその程度のものなのですね」

 むかッ。角ちゃんは、純情ピュアガールっスよ。

「そもそも、なんでそんなにヨシュアちゃんがいいんっスか?」

 角ちゃんの質問に、エリーちゃんは頬を染めて、

「たいへん紳士的な方だと思います」

 と答えたっス。これには、カンナちゃんも同意。

「そうだね……やっぱりジェントルマンがいいよ……捨神すてがみくんみたいに……」

「HerrサエキとHerrステガミは、タイプが違うように思うのですが……ともかく、浮ついた感じがありませんし、家庭を大切にしそうな男性に見えます」

「そんなの分かんないと思うっスけどねぇ。捨神くんが浮気したり、ヨシュアちゃんが暴力亭主だったりする可能性も、少しは考えるっス」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 なんでそんな顔をするんっスか。

角代すみよちゃん……言ってはいけないことを言ったね……?」

「あくまでも可能性の話をしただけっス」

「ダメ……そういうことを考えるだけでも大罪……ダメ、絶対……」

 そんなの宗教じゃないっスか。

「Herrサエキが暴力亭主に見えるとは、Frauオオバも男を見る目がありませんわね」

「角ちゃん、これでも男性ソムリエの自信があるっスよ」

「捨神くんが浮気するかもとか言ってる時点で、信頼性ゼロ……」

「Ich stimme dir zu」

 カンナちゃんが、エリーちゃんのがわについちゃったっス。

 恋は盲目っスねぇ。

 角ちゃん、遊子ちゃんに援軍を求めるっス。

「遊子ちゃんも、なんか言ってあげるっス」

 遊子ちゃんはストローでオレンジジュースを吸いながら、

「んー、なにを言えばいいのか、分からないと思うよ?」

 と答えたっス。やる気ないっスねぇ。

 なんだかこじれそうっスから、話題を変えるっス。

「ところで、飴玉お姉さんって知ってるっスか?」

 3人とも、知ってると答えたっス。意外と物知りっスね。

ひかるちゃんから聞いたと思うよ?」

「私も……光ちゃんから聞いた……」

「校内で、『あやしい女性から飴をもらわないように』という注意がありましたわ」

 いかにもお嬢様学校って感じっスね。

「実はっスね、角ちゃん、飴玉お姉さんに会っちゃったっス」

 これには、ほかの3人もびっくり。角ちゃん、鼻高々。

「どこでお会いしたのですかしら?」

「光ちゃんと一緒に、見知らぬ空き地で出会ったっス」

「どのような女性でしたの?」

「ロングの赤毛で、タバコをくわえてたっス。ちょっとガラが悪かったっスけど、言動はすごく優しかったっスよ。優太ゆうたくんとも、将棋を指してくれたっス」

 遊子ちゃんは首をひねって、

「将棋が指せるお姉さんなの? もしかして、駒桜こまざくら将棋界のOGとか?」

 とつぶやいたっス。

「ちがうと思うっス。めちゃくちゃ弱かったから、初心者だと思うっス」

 こうやって将棋の輪は広まっていくんっスねぇ。

「で、飴はもらったの……?」

 とカンナちゃん。

「ハッカ飴をもらったっス」

「ハッカってなに……?」

「食べるとスーッとするものっスよ」

 詳しいことは知らないっス。

 カンナちゃんは説明に納得しなかったのか、スマホをポチポチ。

「え……これって……ド……」

「ド、なんっスか?」

「ううん、なんでもない……用事を思い出したから、私は帰るね……」

 カンナちゃんは急に席を立つと、伝票を確認したっス。

 これから、捨神くんとデートっスかね。うらやましいっス。

 角ちゃんたちは、ガールズトークを続けるっスよ。

「飴玉お姉さんは、なぜ飴を配っているのでしょうか?」

「光ちゃんの話だと、ボランティアらしいっス」

「ボランティア? ……なんのボランティアですかしら?」

 そう言えば、詳しく聞いてなかったっスね。

 角ちゃん、よーく思い出してみるっス。

「……飴を舐めると、両想いになれるとか言ってたような気がするっス」

「Echt!?」

 めちゃくちゃ食いついてきたっス。

「両想いになれる飴なんて、ただの冗談っスよ」

「わたくしも、その空き地に連れて行ってくださいましッ!」

 エリーちゃん、暴走しちゃったっス。

「遊子ちゃん、どうするっスか?」

「ごめん、私もこのあと、用事があるんだよね」

「そうっスか……じゃあ、ここで解散にするっス」

 お会計を済ませてから、喫茶店のまえで遊子ちゃんとバイバイ。

 エリーちゃんは鼻息を荒くして、

「その空き地というのは、どこにありますの?」

 と、左右を見回したっス。ここにあるわけないっス。

「ちょっと落ち着くっス。とりあえず、駒桜公園に向かうっス」

 公園からの道のりしか、覚えてないんっスよね。

「Dann los!!」


 というわけで、角ちゃんたち、空き地にたどり着いたんっスが……だれもいないっス。雑草が生い茂っていて、女の子ふたりだと怖いっスね。五見いつみくんでも連れてくればよかったっス。ただ、エリーちゃんの恋愛事情っスからねぇ。部外者は――

「そこのお嬢さんたち、こんにちは」

 こ、この声はッ!

 角ちゃんがキョロキョロすると、ドラム缶のうしろから、真っ赤な髪がなびいたっス。

「あ、飴玉お姉さんっス」

「あれぇ、このまえの子だねぇ。また飴が食べたくなったのかな?」

 飴玉お姉さんは、やけにうれしそうっス。

「いくらでもあげるからねぇ……と、そっちは新顔さん?」

「Ja……あなたが、飴玉お姉さんですの?」

「そうだよぉ。世の中を気持ちよくするボランディアだよぉ」

「どこかで、お会いしませんでしたかしら?」

「いろんなひとに会ってるからねぇ」

 飴玉お姉さんはそう言って、篭のなかを漁ったっス。

 真っ青なハッカ飴をふたつ、角ちゃんたちにくれたっス。

「ひ、ひとつ質問しても、よろしいですかしら?」

「いいけど、プライバシーはNGだよ」

「この飴で両想いになれるというのは、ほんとうなのですか?」

 飴玉お姉さんは一瞬キョトンとして、それからニヤリとしたっス。

「あのカメラを持った女の子から聞いたんだね……ほんとだよ」

「おまじないかなにかですかしら?」

「……そうだよ。恋愛ブレスレットなんかと一緒」

 なんだ、ただのおまじないだったんっスね。

 あやしい薬でも入ってるのかと思ったっス。

「きみ、好きな男の子がいるのかなぁ?」

 飴玉お姉さんに質問されて、エリーちゃんは頬を染めたっス。

「初々しいねぇ。ふたり分あげるから、ペアで食べてね」

 飴玉お姉さんは、もうひとつ篭から取り出して、エリーちゃんにあげたっス。

「あ、角ちゃんも2個欲しいっス。優太くんにあげるっス」

「ユウタくんって、このまえ、将棋を指してくれた子かな?」

「そうっス」

「また指そうね、って伝えといて……はい、飴玉」

 飴玉お姉さん、じつはすごくいいひとなんじゃないっスかね。

 角ちゃん、感謝しちゃ〜う。

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