表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第17局 怪盗キャット・アイ、駒桜に現れる(2015年5月25日月曜〜29日金曜)
177/686

165手目 呪怨

箕辺みのべくん?」

「……」

「箕辺くん?」

 俺は、重たいまぶたをあげた。声のするほうへ振り向く。

 いつものキャラクターフードをかぶった、遊子ゆうこが立っていた。

 心配そうな目で、こちらを見つめている。

「箕辺くん、どうしたの? 顔色が変だよ?」

「ああ……なんだか、頭がぼんやりする」

 1限目のあいだ、めまいがしていた。具合が悪い。

 遊子は、保健室へ行ったほうがいいんじゃないか、と言った。俺は最初断ったが、遊子がどうしてもと言うし、しゃべっているのすら億劫になってきた。椅子から腰をあげて、頭を押さえながら、教室の出口に向かう。

「大丈夫? ……一緒に行こうね」

「いや……ひとりで……だい……」

 遊子の手が肩に触れたとたん、俺は意識を失った。

 

  ○

   。

    .


佐伯さえき主将、大丈夫ですかッ!?」

 バタンとドアがひらいて、あわただしく人が飛び込んできた。

 新巻あらまきくんだった。

「主将、教会で倒れたって聞きましたけどッ!?」

 枕元で大声を出す新巻くんを、古谷ふるやくんが引き戻した。

虎向こなた、病人の耳もとで騒いじゃダメだよ」

「あッ……すみません」

 僕は、どうにか首を動かして、ふたりの顔を交互に見比べた。

 熱のせいか、輪郭がはっきりしない。

「ふたりとも、学校は?」

「もう終わりました」

 新巻くんのひとことで、僕は長いあいだ、眠り込んでいたことに気付いた。早朝のミサのとき、気分が悪くなったことだけは覚えている。重たい体を起こそうと、僕はベッドに肘をついた。でも、腕に力が入らない。

 いつの間にか着替えたパジャマが、汗でべっとりとしていた。

「ムリしないでください」

 古谷くんに諭されて、僕はベッドに倒れ込んだ。

 新巻くんは、飲み物を持ってきましょうか、と尋ねた。

 僕は、水を頼んだ。新巻くんは、備え付けの洗面台で水を汲むと、僕に差し出した。この段階で、ようやく喉の渇きをおぼえた。

「ふぅ……ありがとう」

「佐伯先輩、ひとつ答えていただきたいことがあるんですが……」

 僕は、今度の大会のことか、と聞き返した。古谷くんは、違う、と言った。

「じつは、市立いちりつの箕辺会長も、倒れたらしいんです」

「……ほんとう?」

「はい、症状が似ていたので、集団感染なんじゃないかな、と思って、ほかにも連絡をとりました。天堂てんどう捨神すてがみ先輩も、登校してないらしいです。不破ふわさんが心配してました」

 箕辺くん、捨神くん、僕……この面子は……。

「あのとき……移されたのかな……」

「なにか、心当たりがあるんですか?」

 僕は、猫山さんのアパートに、3人で立ち寄ったことを伝えようとした。

 けれど、それよりもすばやい闇が、僕の視界をおおった。

 

  ○

   。

    .


「師匠ッ! 生きてますかッ!」

 師匠が休むなんて、ただごとじゃないぞ。

 あたしはマンションのドアを開けて、部屋に飛び込んだ。

「師匠、まさか風呂場で転んで……あれ?」

 師匠は、ベッドのうえに寝ていた。そして、その枕もとには、自称宇宙人がいた。

 自称宇宙人はふりかえると、目に涙を浮かべていた。

「捨神くんが……死んじゃう……」

 あたしは、師匠のもとに駆け寄った。色白の肌が、真っ青になっている。

 息がとぎれとぎれで、どうみてもヤバい状態だった。

「びょ、病気か?」

「科学治療は、全部試したのに……」

 テーブルのうえには、変な薬や機材が大量におかれていた。

 あたしは飛瀬とびせの胸ぐらをつかんで、激しくどつく。

「てめぇ、めちゃくちゃなことしてんじゃねぇぞッ! 救急車を呼べッ!」

「地球の医学じゃ治らないよ……」

「アホかッ! こんなときまで宇宙人ごっこするなッ!」

 あたしはスマホを取り出すと、速攻で119に電話を入れた。

 

  ○

   。

    .


 お兄ちゃんが倒れたッ!?

 私は玄関で靴を脱ぎ捨てると、そのまま階段を駆け上がった。

 【たつきち】のプレートが吹っ飛ぶ勢いでドアを開ける。

「お兄ちゃんッ!? 大丈夫ッ!?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? 先客がいる?

 お兄ちゃんのベッドのそばに、ピ○チュウフードをかぶった女子高生の姿があった。

 制服からして、市立だと分かった。

 女子高生は、こちらに顔を向けて、かるく頭を下げた。

「こんにちは……同級生の来島くるしまです」

「あ、こんにちは」

 私は挨拶もそこそこに、お兄ちゃんのベッドへ駆け寄った。

「お、お兄ちゃん……ッ!」

 ものすごく顔色が悪い。額から汗が吹き出て、苦しそうに息をしている。

 ただの風邪には見えなかった。

 私はクルシマさんに、なにがあったのかを尋ねた。休み時間にいきなり倒れた、という返事だった。私はショックを受けた。

「そ、そんな……」

 お兄ちゃん、病気らしい病気なんて、したことがなかったのに。中学生のとき、ズブ濡れになって帰ってきて、風邪を引いたときくらいだ。

 私は泣きそうになりながら、お兄ちゃんの名前を呼んだ。でも、反応がない。

「倒れたとき、頭を打ったりは……」

 そう尋ねかけて、クルシマさんの横顔を見たとき、私は息を呑んだ。あまりにも切実な表情で、お兄ちゃんのことを見ている。その瞳は、優しい不安に満ちていた。

 私は、クルシマさんが、ただの同級生ではないことを悟った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ