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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
121/686

109手目 5回戦 捨神〔天堂〕vs五見〔駒北〕

※ここからは五見いつみくん視点です。

「だったら、倒せばいいでしょう、倒せば」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 とは言ってみたものの……僕も、あんまり勝てる気がしないんだよね、これ。

「アハッ、よろしくね」

「お手柔らかにお願いします」

 捨神(すてがみ)先輩、えらく上機嫌だな。最近、なにかいいことあった?

 まさか、彼女ができたとか? ……いやいやいや。

「対局準備の整っていないところはありますか?」

 ありません。

「では、始めてください」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 僕がチェスクロを押して、対局開始。

「7六歩」

「3四歩」

「6八飛」


挿絵(By みてみん)


 完全に、いつものだな。

「6二銀で」

「ふぅん、飛車先を突かないんだ」

 いろいろ対策は考えてきた。先輩と当たるのは、初日の時点で確定してたから。

「とりあえず、4八玉ね」

 4二玉、3八玉、3二玉、2八玉、5四歩。

「1八香」


挿絵(By みてみん)


 うわぁ……格下相手に穴熊してくるのか……捨神先輩って、ほんと容赦ない。もうすこし夢や希望を持たせてくれても、いいと思うんだけど。まあ、これは想定内で、僕のほうも穴熊にするつもりだった。おたがいさまって感じかな。

「5三銀です」

 1九玉、8四歩、2八銀、8五歩、3九金、4四銀。

 先手の穴熊は、そんなに堅くならないはずだ。バランスが難しいし。

「ンー、7七角」

 角上がり? ……8八飛の準備か。

「3三角で」

「8八飛」


挿絵(By みてみん)


 ここで4二角が好便。6八銀、2二玉、5六歩、1二香。

 潜るまでに、結構手数がかかった。

 5七銀、1一玉、4六銀。銀のお見合い。

「2二銀」

「5八飛」

 牽制してきた。これは放置できないから……。

「仕方がないですか……8六歩」

 同歩、同角、8八飛と戻させて、8五歩、6六角、6四角、7七桂、8六歩、8五歩。


挿絵(By みてみん)


 これで、左辺は硬直させておこう。

 7四歩、5八金、5一金右と、おたがいに陣形整備。

「1六歩」

「1四歩」

「9六歩」

 こっちは……こっちは受けないでも、いいか。

「4二金上」

 捨神先輩は、ふぅんと一言。

「9筋は突き返さないんだね……4八金左」

 3一金、3八金寄、3二金寄。おたがいに3枚穴熊か。

 できれば、先手は2枚穴熊にさせたかったんだけど、そうもいかないってわけだ。

 ここで捨神先輩は、小考。どこまで深く読んでるのか、気になる。

「9五歩……かな」


挿絵(By みてみん)


 ん? これは、ちょっと気になるな。

 後手からは、7二飛〜7五歩が、明確に見えているんだけど。

 捨神先輩は、この筋でやってこいってわけだ。

 若干怖い……でも、そこに踏み込まないと、将棋じゃない。

「7二飛」

「そう来るよね。8四歩だよ」

 催促。7五歩、8三歩成、7四飛、8二との展開が1番候補かな。2番候補は、8二ととしないで、7三と、同飛、8六飛。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は五見(いつみ)くんの脳内イメージです。)

 

 ……こっちのほうが、1番候補か、よく考えると。8二と〜9一とは遅過ぎる。

 7六歩と伸ばして、8一飛成、7七歩成。ここで9一龍は、捨神先輩ならやらない。6七とが厳しいから。8四角と逃げたとき、7九飛成が龍取りになる。だから……狙って来そうなのは、僕の飛車と角の接近部分かな。よくある筋。例えば、7四歩、同飛、4四角と銀を入手して、同歩、6五銀みたいな。


挿絵(By みてみん)


 (※図は五見くんの脳内イメージです。)


 これがあるから、7三とに同桂とできないんだよね。飛車が死ぬ。捨神先輩の9六歩〜9五歩は、ここまで見通してたわけか。深謀遠慮だ。

 7三とに同飛としておけば、6五銀に飛車を逃げて、角銀交換。駒割りは元に戻る。

「7五歩」

「8三歩成」

 7四飛の逃げに、7三と、同飛、8六飛、7六歩。

 そこから8一飛成、7七歩成、7四歩、同飛、4四角、同歩まで、一気に進んだ。

「6五銀」

「7五飛と浮きます」

 6四銀、同歩。

「ん〜♪」

 捨神先輩は、鼻歌。

「なにか、いいことでもありましたか?」

「ん? まあね」

 なんかあやしいな……ほんとに彼女ができたとか?

「それに、将棋の調子が、凄くいいんだ」

「そうですか……僕としては、嬉しい情報じゃないですね」

「アハハ、そんなことはないよ」

 どこをどう解釈したら、そんなことがあるのか、理解に苦しむ。捨神先輩って、将棋は論理的なのに、しゃべってることが支離滅裂なんだよね。だれか通訳して欲しい。

「ま、盤上で実証しようか、5三角」


挿絵(By みてみん)


 一番それっぽい手がきた。

 これ単体じゃ意味はなくて、次に4三桂の狙いだ。3一桂成、同金、同角成、同銀、同龍は、穴熊が跡形もなくなって終了。かと言って4三同金は、3一角成、同銀、同龍で終了。というわけで、7一歩と打ちたいんだけど、これは4三桂と打たれてからでも間に合う。もちろんすぐに7一歩じゃなくて、4二金上、同角成、同金、3一桂成、7一歩ね。

「6七と」

 先に攻めの拠点を用意しておこう。

「4三桂」

「4二金上です」

「アハッ、それは一直線だけど、大丈夫かな? 同角成」

 同金、3一桂成、7一歩、2一成桂、同玉、9一龍。


挿絵(By みてみん)


 これは、かなりやれそうだ。

 とりあえず、7一歩をこじ開けて来ないように、龍筋は回避しておこう。

「3一銀打」

「慎重だね」

「あんまり自信家なタイプじゃないので」

「アハハ、そこは僕と同じだね。先に受けられちゃったけど、8二龍ね」

 ここで8一歩と打つ。同龍なら一手稼げる。

「9三龍」

「4三桂」

 全部受けて行く。ただ、ちょっとイヤな筋があるな。

「2六桂」


挿絵(By みてみん)


 やっぱり……これが面倒だ。銀が、もう一枚あればなあ。

「3三銀です」

「そのかたちで頑張るんだ……じゃあ……」

 捨神先輩は、1五歩と突いた。端が薄くなったのを狙われている。取れない。

 6六角、5三金、7九飛成、4二金、同銀引、6三龍、8四角打。


挿絵(By みてみん)


 攻めが厚くなった。隙があれば、一気に寄せられる。

 ここまでの残り時間は、僕が10分、捨神先輩が18分。

 読みの速度が違うから、差がつくのは仕方がない。ムリはしない方針で。

 ここで捨神先輩は1分投入して、3四桂と跳ねた。自陣の安全度を測った?

 となると、ここから僕が3九角成、同金、同角成、同銀、同龍の一気寄せをみたとき、後手玉が実は詰むんじゃないかって疑惑。詰むとしたら、2二香か。2二香、同銀、同桂成、同玉……詰まないんじゃないかな? 桂馬が足りないぞ。

 ということは……3九龍に2八角か。


挿絵(By みてみん)


 (※図は五見くんの脳内イメージです。)

 

 でもこれは6九龍と逃げて、勝ってないかな。6一龍と詰めろをかけてきても、5一金と弾けばなんでもないような……同龍、同銀は安泰だし……待てよ。5二龍と張り付くのが、詰めろになってるのか。2二金、同銀、同桂成、同玉、4二龍、1三玉(3二合駒は3一角から詰み)、2二角、2四玉、3三龍、2五玉、2六銀までか。

 先手玉に詰めろをかける暇がない。ただ、5二龍とされた瞬間に5一金と受けたら、詰まない気がするんだけど……なにか見落としてる?

 僕は、疑心暗鬼になる。捨神先輩が、負け一直線に飛び込むとは思えない。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、1七角か。


挿絵(By みてみん)


 (※図は五見くんの脳内イメージです。)

 

 これが怪しい……ここで6九龍は、5二龍、5一金、4四角、3三歩、同角成、同銀、2二香、同銀引、同桂成、同銀、3二金、1一玉、2二金……詰むッ!

 そうか、1七角〜4四金のコンボがあるから、この順に踏み込んできたのか。

 ってことは、僕は3九角成とできないじゃないかッ!

「……5一金」

 僕の指し手に対して、捨神先輩は、うれしそうな表情を浮かべた。

「アハッ、さすがは五見くん、ここで頓死はないよね」

「頓死寸前でしたよ」

「寸前でも、とどまればセーフさ……3六香」


挿絵(By みてみん)


 これまた厳しいのがきた。

 頓死を逃れても、3九角成とできないんじゃ、ジリ貧だ。

 僕は心を落ちつけて、3三歩と打った。

 4二桂成、同金、3三香成、同金、4一金。

 最後の4一金は、こっちに金銀がないことを見透かした手だ。すぐに詰むわけじゃないけど(現に3一金、1一玉でも詰まない)、じわりと寄られて負け。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ピッ

 

 くッ、時間がない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「3九角成ッ!」


挿絵(By みてみん)


 金を入手する。同銀、3二金打。

「粘るね……じゃあ、僕も受けるよ。7五歩」

 7五歩? 同角は? ……5一角か。

「2四香」

 穴熊の急所に賭ける。

 6一龍、5一桂、5三角。

「2七香成ッ!」

 捨神先輩は、ここで手が止まった。

「ギリギリの駆け引き……恋も将棋も、こうでなくっちゃね。5二龍」


挿絵(By みてみん)


 いい位置に滑り込まれた。詰めろだ。

「4二桂ッ!」

「同金」

 同銀、同角成、同金。

「1三桂」


挿絵(By みてみん)


「ッ!」

 同香は……2二銀、同玉、4二龍か。合駒をしても詰む。2二銀に1二玉と逃げても、4二龍が詰めろでノーチャンス。2二銀に3二玉は、4一銀、2二玉、4二龍、3二歩、同銀成、同金、3三金、1一玉、3二金で必至。捨神先輩の玉は詰まない。

 かと言って、1三桂に王様を逃げても無意味だ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「負けました」

「ありがとうございました」

 僕は大きく息をついて、眼鏡をなおした。

「……完敗でした」

「アハッ、そうでもないと思うよ」

「最後、4二角成に同金としないで、2二金打と粘ったほうが良かったですか?」

「あ、それはダメだよ、3一銀があるからね」


挿絵(By みてみん)


 これは……同金、同馬、同玉、4二銀、3二玉、3一金までか。取らなければ詰まないけど、2二銀成以下、そのまま寄せられてしまう。

「たしかに、受けになってませんね。失礼しました」

 中盤の分かれのほうを、重点的に考えようか。終盤は受けなしだと思う。

「飛車を成り合った時点で、僕が悪かったかもしれませんね」

「五見くんは、王様を引っ張り出されてるから、ちょっと大変かな」

 前のめりになり過ぎたかもしれない。

 格上相手に戦うって、難しいね。萎縮すると押し込まれるし。


 僕たちが感想戦をしていると、見慣れた改造制服が。

「五見くん、どうだったっスか?」

「負けました……大場(おおば)先輩のほうは?」

 大場先輩は、胸元で指を合わせて、くねくね。

(すみ)ちゃんも、負けちゃったっス……でも、他は勝ってるみたいっスよ」

 3−2でチーム勝ちか。じゃあ、よしとしよう。団体戦。

「感想戦は、もう終わったんですか?」

「今から藤花(ふじはな)市立(いちりつ)の対局を観に行くっス。裏見(うらみ)先輩のところが面白そうっス。虎向(こなた)くんとやってるっス」

 あ、そう言えば、女子はまだ優勝が決まってないのか。市立が先行してるけど、5回戦に市立が負けて藤女(ふじじょ)が勝てば、最低でプレーオフ、ヘタをすれば逆転だ。

 僕は、捨神先輩に向き直った。

「僕たちも、観戦に行きませんか?」

「アハッ、そうだね」

 一礼し合って、対局終了。


 なんだか、見所の少ない将棋を指しちゃったな……精進、精進。

場所:2015年度春季団体戦 5回戦

先手:捨神 九十九

後手:五見 誠

戦型:先手角交換型四間飛車穴熊vs後手居飛車穴熊


▲7六歩 △3四歩 ▲6八飛 △6二銀 ▲4八玉 △4二玉

▲3八玉 △3二玉 ▲2八玉 △5四歩 ▲1八香 △5三銀

▲1九玉 △8四歩 ▲2八銀 △8五歩 ▲3九金 △4四銀

▲7七角 △3三角 ▲8八飛 △4二角 ▲6八銀 △2二玉

▲5六歩 △1二香 ▲5七銀 △1一玉 ▲4六銀 △2二銀

▲5八飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 角 ▲8八飛 △8五歩

▲6六角 △6四角 ▲7七桂 △8六歩 ▲8五歩 △7四歩

▲5八金 △5一金右 ▲1六歩 △1四歩 ▲9六歩 △4二金右

▲4八金寄 △3一金 ▲3八金寄 △3二金寄 ▲9五歩 △7二飛

▲8四歩 △7五歩 ▲8三歩成 △7四飛 ▲7三と △同 飛

▲8六飛 △7六歩 ▲8一飛成 △7七歩成 ▲7四歩 △同 飛

▲4四角 △同 歩 ▲6五銀 △7五飛 ▲6四銀 △同 歩

▲5三角 △6七と ▲4三桂 △4二金上 ▲同角成 △同 金

▲3一桂成 △7一歩 ▲2一成桂 △同 玉 ▲9一龍 △3一銀打

▲8二龍 △8一歩 ▲9三龍 △4三桂 ▲2六桂 △3三銀

▲1五歩 △6六角 ▲5三金 △7九飛成 ▲4二金 △同銀引

▲6三龍 △8四角打 ▲3四桂 △5一金 ▲3六香 △3三歩

▲4二桂成 △同 金 ▲3三香成 △同 金 ▲4一金 △3九角成

▲同 銀 △3二金打 ▲7五歩 △2四香 ▲6一龍 △5一桂

▲5三角 △2七香成 ▲5二龍 △4二桂 ▲同 金 △同 銀

▲同角成 △同 金 ▲1三桂


ま123手で捨神の勝ち

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