正体がバレてからの学園生活③
目に前にいるオーウェンは、少し困ったように笑っている。
ジェシカは慌てながらも謝らなければ、と思い頭を下げたのだが、先に口を開いたのはオーウェンだった。
「ごめんね、ジェシカ。嫌な思いをさせて」
「え?」
聞き耳を立てていた自分ではなく、何故オーウェンが謝るのだろう。
顔を上げた際に乱れたジェシカの髪の毛を優しく直しながら、オーウェンはやや眉尻を下げる。
「俺が告白されているところから聞いてたでしょ?」
「う、うん。ごめんね。さっきの女の子がオーウェンの名前を叫んでる声が聞こえてこの場に来たんだけど、告白だと分かってからもズルズル居座っちゃって……」
「それは良いんだ。一瞬人の気配を感じた時にジェシカの姿が見えたから、いるのは分かってたし。それに、多分ジェシカは、さっきの子が何か騒ぎでも起こすんじゃないかと思ってこの場に留まってくれたんでしょ?」
「!」
まるで心を読まれているみたいだ。
ジェシカは素早く目を瞬かせながら、「ほぇ〜〜」と間抜けな声が漏れた。
「オーウェン、私のこと分かり過ぎじゃない……?」
「そりゃあ、愛する恋人のことだからね」
「〜〜っ、不意打ちやめてよ! って、そうじゃない! 何でさっきオーウェンが謝ったか、聞いていい?」
疑問をそのまま口にすれば、オーウェンは申し訳なさげにこう言った。
「だって、誰だって嫌じゃない? 自分の恋人が誰かに告白されてたら」
「それは……でも、仕方がないよ。オーウェンが人気になるのは分かるし、隣国の皇子が他国でそんな変な態度も取れないでしょう? だから、オーウェンは謝らなくて良いの! それにほら、前みたいにオーウェンに悪意の眼差しを向けられるよりは、人気があるのは嬉しいっていうか」
自らの汚い感情に蓋をして、できるだけオーウェンに負担をかけないように言葉を選んだ。
しかし、オーウェンは少しだけムッと口をすぼませ、ジェシカの亜麻色の髪の毛を掬った。
「……ジェシカは人間ができてるね。正直俺は、ジェシカが誰かに告白されてたら嫌だよ。嫉妬でおかしくなるかも」
「う、嘘でしょ!? オーウェンが!?」
「そりゃあ、なるよ。ジェシカはまだ知らないかもしれないけど、俺はこう見えて嫉妬深いし、心が狭いからね」
オーウェンはそう言って、掬ったサラリとしたジェシカの髪にそっと口付ける。
「……っ」
思いを伝え合ってからまだ一週間。
オーウェンのこういう甘酸っぱい言動や雰囲気、触れ合いには未だに慣れなかった。前世で恋人の『こ』の字もなかったのだから、致し方ないだろう。
(けど、思ったことを伝えないと、長く続かないって聞いたことがあるし)
何より、素直な気持ちを伝えたってオーウェンは幻滅なんてしない。その自信だけはあったジェシカは、顔を赤くしながらぽつぽつと話し始めた。
「正直、オーウェンが告白されてるのを聞いて、ちょっともやっとした。……多分、嫉妬」
「……え、本当に?」
「うん。あと、不謹慎かもしれないけど、はっきり断ってくれて嬉しかった。私との約束を守った上で、あんなふうに言ってくれたことも」
──『俺はね、友人を──自分が大切にしているものを傷付けるような人をどうやったって好きになれない』
ジェシカがどのことを言っているのか、オーウェンにはすぐに分かったのだろう。
オーウェンは少し恥ずかしそうに視線を余所にやった。
「あれくらい言わないと、諦めてくれないと思ったから」
「ふふ、うん」
「でも、一つ安心して。ジェシカのこととは別に、結構酷いことを言って断ったから、さっきの子がジェシカに敵意を抱いて手を出してくる可能性は低いと思う」
「えっ」
「ま、もし何か動きがあったら先に手は打つけどね」
どうやら、オーウェンはあの状況でそこまで考えていたらしい。
オーウェンの割にはかなりきつい返答をするなとは思っていたけれど、まさかそんな意図があったなんて……。
「オーウェン、格好良すぎる」
「!」
「好き! 大好き!」
自分から好意を告げることに関してはあまり抵抗がないジェシカは、堪らずオーウェンに抱き着いた。
「……っ」
しかし、オーウェンが喉をゴクリと鳴らした次の瞬間、彼はジェシカの肩を掴んで引き剥がすと、切羽詰まった表情を見せた。
「……あのねぇ、あんまりそういうことしてると、俺の自制が効かなくなるんだけど」
「えっ」




