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28.魔法検定実技試験

 

 学科試験にかなりの手応えを感じたジェシカは、オーウェンやメイとともに昼食をとった後、実技試験の待機場所に来ていた。

 実技試験も学科試験と同じでいくつかの会場に分けられており、今回はメイのみ別会場だ。


「何で私だけ違うんですかぁぁ!?」と嘆きながら去っていったメイの姿を思い出すと、自然と頬が緩む。


 そんなジェシカの様子に、隣に座るオーウェンがふっと微笑んだ。


「ジェシカ、実技試験は余裕そうだね」

「そんなことないよ。緊張してる。ほら、皆に見られながらだしさ」

「確かにね」


 現在ジェシカたちがいる待機場所は、試験の会場内にある。

 つまり、ジェシカが試験を受ける際も、自分の動きを周りに見られるということ。


「皆っていうか、ほら、あの人たちがいるから、ちょっとは意識するというか」

「ああ、彼女たちね」


 ジェシカとオーウェンと同じ会場には、ラプツェとアーサー、その他二人の攻略対象の姿があった。

 相変わらず攻略対象たちがラプツェを猫可愛がりしながらも、時折こちらを気にしているのか、視線を向けてくる。少し鬱陶しい、というのが本音だ。

 それに、こちらを見るラプツェがあまりに美しい笑みを向けてくるのが、かなり不気味だ。


(けど、今はそんなこと考えてる場合じゃない。試験に集中しなくちゃ)


 試験の内容は、的あてによるコントロール力と魔法の強さの把握と、魔法技術に長けた魔法使いとの実際の戦闘。

 試験を受けている生徒たちは緊張で存分に力を発揮できていない者や、魔法使いとの差に落胆するものが多いが……。


(オーウェンたちとあんなに頑張ったんだもの。大丈夫、大丈夫)


 自分に言い聞かせるものの、ほんの僅かな不安は消えてくれない。

 ジェシカがほんの少し不安げな表情をすると、オーウェンは彼女に顔をぐいと近付けた。


「ジェシカ、さっきも言ったけど、絶対大丈夫だから」

「オーウェン……。うん、ありがとう」


 そして、オーウェンに少し離れてたところにいるラプツェたちを横目に、ニッと口角を上げた。


「ジェシカの努力は俺が一番知ってる。あの馬鹿どもに、ジェシカの凄さを見せつけてやろう」

「……! ふふ、うん! 見せ付けてくる!」


 ほんの僅かな不安さえ、オーウェンの言葉に掻き消される。


「──次、ジェシカ・アーダン!」

「はいっ!」


 教師に呼ばれ、ジェシカは試験会場の真ん中へと歩いていく。


「ジェシカ・アーダンです! よろしくお願いします!」


 自信を瞳に宿らせたジェシカは魔法を発動した。



 ◇◇◇



「なっ……試験の結果、一位はあのジェシカ・アーダンだと!? しかも満点!?」


 ジェシカたちの会場で全員が試験を終えてから少しして、実技試験の結果が張り出された。その壁の前で、驚愕をあらわにしたのは、王子であるアーサーだ。

 その周りにいる他の攻略対象たちも概ねアーサーと同じ反応だ。


 平民でありながら王立魔法学園に入学できたジェシカが、膨大な魔力量の持ち主であることは知っていたものの、ここまで優秀だとは思っていなかったからなのだろう。


「いくら素行に問題があっても、ここまで優秀では魔法省の各機関がジェシカ・アーダンを欲しがるかもしれませんね……。僕の父だって……」


 筆頭魔法使いである父を持つ彼がそう話すと、周りの攻略者たちも口々に続けた。


「国王である父も、この結果を知ればあの女のことを国の中枢にも関わるような重要な部署に入れたがるだろう」

「私の父、現宰相も同じように考えるかと……」


 ラプツェを虐めた人物であるジェシカのことなんて褒めたくない、認めたくないと、彼らの顔には書いてある。

 しかし、今国を動かしている自分たちの親世代が、最高の結果を出したジェシカを、求めないはずはなくて……。



「悔しがってる悔しがってる。……けど、これなら文句言えないでしょ。ね? オーウェン! やったね!」


 苦虫を噛み潰したような顔をする攻略対象たちを、ジェシカはオーウェンと共に少し離れたところから観察する。

 周りにも他の生徒はいないため、喋り放題だった。


「言えるはずはないよ。この実技試験で一位……しかも満点だなんて、まさに国の宝だからね。学科試験も問題ないと思うし、もしも国王陛下やその周りが、“ジェシカはラプツェを虐めている”という嘘を信じたとしても、それだけでジェシカを窓際の部署に追いやるなんて勿体ないことはしないと思うよ」

「はぁ〜良かった! これもオーウェンのおかげ! 改めて、本当にありがとう。あと、オーウェンもおめでとう」


 あまりの喜びからジェシカがオーウェンに軽く抱きつけば、漆黒の髪の毛から覗く耳が少しだけ赤いことに気付いた。


「……えっ、オーウェン照れてるの? 珍しいね? 可愛い……」

「……っ、可愛くないから。あと照れてもない。試験で汗かいたから顔洗ってくる。大人しく待ってて」

「ふふ。はーい」


 ジェシカは腕を解き、くしゃりと笑う。


(絶対に照れ隠しだ。オーウェンって可愛い)


 ジェシカはそんなことを思いながら、改めて試験が無事終わったことにホッと胸を撫で下ろした。


「ほんとに良かったぁ……」


 無事に実技試験で一位を取れたことで、就職の心配はほぼなくなった。学科試験の結果は後日発表だが、これも大きな問題はないだろう。


(今頃、メイがいる会場でも結果が出てるかな。後でメイにもこの結果を伝えて、お礼を言わなきゃ)


 ちなみに、この会場の実技試験の二位はオーウェンだ。魔力量はそれほど多くなくとも、彼は技術や戦略で他を圧倒していた。

 メイの結果はまだ分からないが、これまで三人であんなにも修行をしたのだ。おそらく、好成績を収めているだろう。


(ハァ〜〜。なんだか、肩の荷が下りたなぁ)


 それに、攻略対象たちの悔しがる顔も見られて満足だ。

 後は卒業するまでこの環境に耐えるだけ。


(ま、耐えるって言っても、ラプツェも攻略対象たちも、できるだけ会わないように避けるけどね。……というか、あれ?)


 攻略者たちといっしょにラプツェの姿が見当たらないことにジェシカは気が付いた。


 いつもはもちろん、さっきまで彼女は攻略対象たちにベッタリだというのに……。


「ジェシカ様、ごきげんよう」

「……!」


 ……と、思っていた矢先だった。

 突然視界の端から現れたラプツェに、ジェシカはギョッと目を見開いた。


「な、何でしょう?」

「少し話したいことがあるのですが、構いませんか?」

「は、はい?」

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