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23.想像しなかった反応

 

 ◇◇◇



 きらびやかなシャンデリア。

 会場の端には音楽隊が控え、設置されているテーブルの上には色とりどりの料理が並べられている。


 正装に身を包んだ令息令嬢たちは入場を済ませると、対話や食事、音楽を楽しんでいた。


「アーサー様、皆様、落ち着いてくださいませっ」


 そんな中、唯一不穏な空気を纏っていたのは、ラプツェの周りを取り囲むようにして互いを睨みつけ合う、攻略対象たちだった。


「ラプツェとのファーストダンスを踊るのは私だ。邪魔をしないでもらおう」

「殿下、ラプツェ様の意見を聞いていないのに決めつけるのは良くないですよ。ちなみに、ファーストダンスの相手に僕も立候補します」

「抜け駆けはよせ。ラプツェとファーストダンスを踊るのは俺だ。ラプツェ、どうだろうか?」


 隠しキャラを除く五人の攻略対象たちが、ラプツェとファーストダンスを踊りたいが故に口論を繰り広げる。

 当人であるラプツェは困り眉をしているが、頬はどうも緩んでいた。


「そんな……っ、困りますわ……」


 頬に手を当てて恥じらうラプツェに、攻略対象たちはより彼女を求めた。


 そんな彼らを見ている周りの令息令嬢たちはというと、反応は様々だ。

 魅力あるラプツェならばあれだけ求められて当然だとする者、単にラプツェに羨望する者がほとんどで、楽しい雰囲気に水を刺さないでほしいと思う者も若干名いる。


 しかし、皆各自で楽しんだり、ラプツェたちを遠目から眺めたりするだけで、誰一人会場を乱すような声を上げるものはいなかった……はずだったのに。


「ね、ねぇ! あれって……!」


 会場の入口を指差し、それにいち早く気づいたのはラプツェの取り巻きの一人だった。

 彼女の甲高い声、それを聞いたラプツェとアーサーたちが話すのをやめ、彼女の指差す先を見たことで会場中の者たちが入口に視線をやった。


「……ねぇ、オーウェン、ものすごく視線を感じるんだけど……。もしかして、そんなに似合ってない?」

「ははっ、まさか」

「ご安心ください! ジェシカ様があまりに素敵だから、皆驚いているのですわ!」


 端から、メイ、ジェシカ、オーウェンの順に並び、三人が入場する。

 オーウェンとメイは先程と同じ正装を身に纏い、ジェシカは少し前に破られてしまったピンク色のドレスとは別の、アクアブルーのドレスを身に纏っていた。


(それにしても、未だに信じられない……。まさか、オーウェンがドレスや靴をもう一式用意してくれてただなんて)



 ──『ジェシカ、パーティーに参加できるよ』


 オーウェンのこの発言のすぐ後、控室にはオーウェンの従者と名乗る燕尾服を着た男が現れ、アクアブルーのドレスと、ジェシカが部屋に置いてきたのとは違う、新たなドレスに合う靴や髪飾りなどの装飾品、更に化粧道具一式を届けてくれた。

 ラプツェや攻略対象たちの嫌がらせの可能性を予期していたオーウェンが、念の為に準備させていたらしい。


 それからジェシカは、オーウェンが部屋の外で待機してくれる間に、メイに手を借りつつ支度を済ませた。

 素人目にも丁寧に作られた、キラキラと光る宝石のようなものが散りばめられたアクアブルーのドレス。それに合わせた靴と髪飾り。

 シャンデリアにも負けないくらいの輝きを放つネックレスやイヤリング。


 メイがドレスの着付けや化粧、髪を結うのを手伝ってくれたおかげで、パーティーが始まってからそれほど遅くならずに入場することができた。


 しかしジェシカは、皆から注がれる視線に戸惑いを隠せず、動揺を浮かべていた。


(さっきまで制服姿だった平民の私がドレス姿で登場したら、そりゃあ注目を浴びるだろうとは思っていたけれど、これは一体……)


 先程メイが言っていた通り、皆からの視線には好意的な驚きや羨望がほとんどだ。令息たちの中には、顔を赤らめたり口元を緩めている者もいる。隠しキャラとアーサー以外の攻略対象たちも然りだ。


(……確かに、ドレスはとっっっても素敵だし、オーウェンやメイも似合っていると言ってくれたけど、まさかこんな反応をされるとは)


『あれってジェシカ・アーダンだよな? 彼女、あんなに綺麗だったのか……』

『ちょっと、あのドレスって超一流デザイナーが仕立てたものじゃなくって!?』

『悔しいけれど、あのネックレスよく似合ってるじゃない……。って、待って? あれって、隣国でほんの少ししか採れない、超希少なブルーサファイアをあしらったものじゃあ……』


 ジェシカの美しさに対する評価や、ドレスや装飾品に対する反応。

 少なくとも、どれも自分を貶すようなものでなかったことには安堵したが、ジェシカは一つ引っかかっていた。


(このドレスやネックレスって、そんなに凄いものなの……?)


 平民であるジェシカが見ても、確かにオーウェンが用意してくれたものは良いもの、だと思った。

 しかし、まさか貴族令嬢である彼女たちがここまで騒ぐということは、相当な品なのだろうか。


(まあ、平民の私がそれを考えても仕方ないか。とりあえず汚さないように気を付けよう)


 ジェシカはそう結論を出すと、周りの視線を無視してオーウェンやメイとともに食事を取りにいった。

 大好きな二人とともに優雅な音楽を聴きながら、普段食べられないような食事をいただく。幸せだなぁと、ジェシカは頬を綻ばせた。



「……何よ、あれ。……どうして……っ」

「ど、どうした、ラプツェ」


 一方で。

 遠くにいるジェシカを睨みつけながら、普段なら考えられないほど低い声を出すラプツェに、アーサーは驚きながら問いかける。


「……いえ、なんでもありませんわ?」


 いつもと同じ可憐な声で、可憐な笑顔でそう告げるラプツェに、アーサーは「それなら良いんだ」と笑ってみせた。

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