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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第二幕 灼熱大陸編
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新章77 失恋とこれから




NO.93失恋とこれから


 療養室でイチャつく真宗とセリカ。実際は、本人達からすれば大分深刻な話なのだが、側から見れば痴話喧嘩にしか見えない。

 そして、中を覗き込む比較的小さな頭が2つ。


「あたし達、何を見せられてるのかしらね」


 2つの頭の内、金色の方が呆れ気味にボソッと呟く。

 もう1人が応じることのないその呟きには、普段のような底抜けな明るさは感じられず、悲壮感を押し殺したような低く、重い声色だった。


 イナは真宗が好きだ。本人は隠せているつもりだが、ルナはおろか、セリカやリズ果ては真宗本人ですら、なんとなく察している程、バレバレなのだ。


 記憶もなく、ルナと2人で生きるのに必死だった時、手を差し伸べてくれたのは真宗ただひとりだった。

 その後も、自分やルナが生活していけるように、腐心してくれていたのもよくわかっている。


 そんなところに少しずつ惹かれていき、自分の気持ちを自覚した頃、セリカと真宗が出会った。否、出会ってしまった。そして初任務の際、訳もわからない内に2人は婚約者となってしまう。


 しかし、イナにとって一番辛かったのはそこではない。イナ自身がセリカのことを好きになってしまったことだ。

 真宗を奪っていった嫌な奴だと、そう恨ませてくれたなら、幾分か楽だっただろうが、そう思い込むにはセリカは優しすぎた。


 初任務の時も、馬車の中でガチガチに緊張していたイナを気にかけてくれていたし、その後もずっと優しく接してくれて、いつしか姉のように思っている自分がいる。


「ふぐっ……」


「……イナ?」


 齢十歳程度の少女に、そんな複雑な感情を整理し切れるはずもなく、込み上げた行き場のない感情は、涙となって溢れ落ちていく。


「何やってんだ? お前ら」


 そんなイナに不意に後ろから声がかけられる。


「ひゃあ!?」


「あ――」


 声に驚いたイナが、隣にいたルナへと抱きついてバランスを崩した2人が倒れ込む。

 不幸だったのは、倒れ込んだのが廊下側ではなく、扉の方だったことだろう。


 体重がかかった拍子に扉が押し開けられ、そのまま部屋の中へと滑り込んでいく。


「あはは……じゃ、邪魔するわよ」


♦︎♦︎♦︎


 ゴツンと言う鈍い音と共に、勢いよく扉が開く。

 嫌な予感がして、音のした方を見ると、案の定突っ伏している双子が1組。


 そして、セリカの方を振り返ってみると、真っ赤な顔をしたまま固まっていた。

 多分、俺も同じくらい赤くなってんだろうなぁ……


「あー、わりぃ。邪魔するつまりはなかったんだが、声かけたらびっくりさせちまったみたいだな」


 あぁ、それでこいつらは倒れてんのか。


「ってか、いつから覗いてたんだ。お前ら」


「……俺、お前のこと好きだわ……ぷっ」


「おいやめろぉぉぉぉお!!」


 もう2度と思い出したくもなかったってのに、黒歴史を蒸し返すんじゃねぇよ。全くこいつらは。


 ってか、一番見られたくないところ見られたじゃねぇか!

しかもイナとルナに見られたとか、恥ずかしすぎて変な汗かきそう……いや、もうかいてるな。背中びっしょりだったわ。


「……って、イナどうした?」


 ベッドからずり落ちて、ルナの肩を掴み、前後にガタガタと揺らしていると、隣でイナが涙目になっているのに気づいた。

 

「大丈夫か? 体調悪いなら――」

「そういうとこよぉ!!」


「どういうとこだよ!?」


 珍しく大人しかったイナは、開口一番にそう叫ぶとセリカの方へと走っていく。マジで意味がわかんねぇ。

 俺、なんかしたか? いや、心当たりはない……はずだ。


「ゼリガぁぁぁぁあ!!!」


「おっとと」


「あんなのより、私にしなさいよぉ!」


「あんなので悪かったな」


 この野郎。人が心配してるのに、あんなの呼ばわりかよ。

 まぁ、イナがこんななのは今に始まった話じゃないし、別にいいんだけどさ。


「うーん。どうしよっかな」


「いや、そこ悩むのかよ!!」


「だって、真宗くん酷いこと言ったし」


「うぐ……まだ引っ張るか」


 イナの頭を胸に抱えたままのセリカが、ジト目で狙撃してくるのが大分痛い。そろそろ許して欲しいけど、事実だし強く言えない。


「それに、気づかないふりされてるイナちゃんが可哀想だもん」


「は? なんの――」


 『なんのことだ』そう言おうとして、しかしその先は出てこない。理由は簡単、思い当たる節があったからだ。

 これで違ったら、ただの自意識過剰野郎だけど、今回に関しては多分間違いないだろう。


 ずっと、なんとなく察してはいたから。察していて、それでも俺は逃げていた。確信してしまえば、今までの関係が崩れてしまうから。

 はぁ、つくづく自分の最低さに嫌気がさすな。


「イナ?」


「何よ」


 相変わらず顔をこちらには向けずに、返してくるイナの声は、不満さを隠しもしない。

 まぁ、怒るのも当然だよな。けど、言わなきゃいけない。例え許してもらえなくても、このままの関係でいられなくなってしまったとしても。


 そうするだけの責任が、俺にはある。


「ありがとな。こんな俺を好きになってくれて。それと、ごめん。どこから覗いてたのかは知らないけど、俺はセリカのことが好きだ。だから、お前の気持ちには応えられない」


「知ってるわよ。そんなこと、見ていればわかるわ。けどあたし、セリカのことも大好きで……どうすればいいか、わかんなくて……ぐずっ」


 俺は一体、どれだけの人を傷つけてきたんだろうか。

 俺の弱さや、不甲斐なさが原因で、イナをどれだけ苦しめたんだろうか。


「ごめんな、イナ。俺ずっと怖かったんだ。楽しかったからさ、お前らと居るのが。壊したくなくて、ずっと見て見ぬ振りしてた」


「――」


「そのせいでお前がどんだけ辛い思いしたのかも知らずに、本当最低だよな」


「そんなこと、とっくに知ってるわよ」


 それはそれで、面と向かって言われると来るものがあるな。まぁ、これも事実だししょうがないんだけどさ。


「けど、許してあげるわ。真宗がヘタレで、どうしようもないなんて今さらだもの」


「そう言われると、なんも言い返せねぇのマジで悔しいな。おい」


「その代わり! ちゃんとセリカのことを幸せにしなさいよ!!」


 威勢よく叫ぶイナの声は震えていて、顔は見えていなくとも、大分無理をしているのが手に取るように伝わってくる。

 おい、大和真宗。イナがここまでしてくれたんだ。これ以上情けないところ見せるわけにはいかないだろ。


「おう。任せろ」


 細かい問答はいらない。そんなもの、イナを余計に追い詰めるだけだ。

 だから、チラッと横目で見上げるイナに向かって、満面の笑みでピースサインをかざす。できるだけ、いつもの調子で。


「真宗くん、ごめんね。ちょっと席外して欲しいんだけど、その……大丈夫?」


 若干ぐずり始めているイナを抱きしめたセリカは、そこまで言いかけて言葉を濁す。

 多分、俺がまだ療養中なのを気遣ってくれてるんだろう。別に気にしなくていいのに。俺だって忘れてたくらいだし。


「心配すんな。この程度かすり傷だっての」


「ふふっ、ありがとう」


 微笑むセリカに背を向けて立ち上がり、颯爽と立ち去る。

 途中、思いっきりすっ転んで2人が吹き出していたが気にしない。後で中庭にでも埋めておけばいいからな。


「お前ら、静かだと思ってたらここにいたのか」


 足を引き摺りながらドアの外に出ると、地面にあぐらをかいて座っているリズと、その頭の上で洗濯物のように掛かっているルナがいた。

 気を利かせて外に出ておくなんて高度な真似がルナにできるわけないから、多分リズが連れ出してくれたんだろう。

 

「けど、どうしてそうなった? ってか、どういう体勢だよ、それ」


「んなもん俺が聞きてぇよ」


 この短いやり取りの間にも、ルナはリズの側頭部にフィットし、芸術的な曲線を描いたままイビキをかいている。

 寝苦しいなんてレベルじゃねぇだろその体勢は。


「失礼しま――あら? なぜ皆さん外にいらしてるんです?」


「うひゃあ!」

 

 突然声かけられたせいで変な声出ちまったじゃんか! 一体誰だよ――


「って、ミルディさん!?」


 振り返ると毎度お馴染み受付のお姉さんこと、ミルディがいつにも増して気だるそうな顔で立っていた。

 こりゃ、またギルマスに呼び出し係を押し付けられた感じか。時間的にもうそろそろ定時だろう。気の毒に。


「久しぶりですね。お元気――」

「はい。お久しぶりです。早速本題ですが」


 めっちゃ食い気味だな……挨拶すらさせてもらえなかったぞ。いや、早く帰りたいのは分かるけど、流石に扱いが雑すぎない?


「東共奪還作戦のことで、ギルドマスターからお話があります」


………………………………………………………………

To be continued

どもども!お久しぶりの雅敏一世でございます!!

いやぁ、ちょーっぴり遅くなるだけのつもりだったんですけど、いつのまにかだらだらと…

さて、今回はちょっぴり甘酸っぱい回となっております。

次回からは急展開…に、なるかもしれないし、ならないかもしれません(笑)

というわけで乞うご期待!また会いましょ〜♪

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